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悪役令嬢、百合に目覚める  作者: クロロフィル
第二章ー悪役令嬢、Sランク討伐者になるー
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光の尋問

「これは……、一体あなたは何をするつもりですか」


 光の中で縛られたまま動けず、ただ精一杯の虚勢を張るエリアにヴィーナは、手の中の白い蔓を向ける。

 「っ」と息を飲み、今から何されるのかは分からないまま心だけを強く備える。

 光の蔓の戦端には大量の柔らかい毛。猫じゃらしのようだ。

 

「王国騎士団には拷問は効かないでしょう。でも、これは効果あるはず」


 八本の光の蔓が同時に、エリアの身に襲いかかった。

 左右の腿に、踝に、臍に、両腕に、背筋に、首筋に。

 這うように触れた。ーー瞬間、エリアの体が大きく跳ねた。


「ぁ、……!」


 何をされたのだろう。擽ったいというそれを遥かに超越した奇妙な感覚だ。思考が吹き飛び、頭が一瞬にして真っ白になった。


(な、に、これ……、なにを……)


 気を抜けば堕ちる。その予感があった。

 何としても正気を保たなければ。

 だが、光の蔓が僅かに蠢くたびにエリアの精神が蝕まれる。

 

「こ、の……こ、こんなことを……っ! しても、む、無駄です……よ……ふっ……、わ、私は何も……何も話すつもりは……ない」


 エリアは必死に抵抗し、ヴィーナを睨み付ける。

 だが、そう口に出しつつも心は徐々に擦り減っている。

 エリアには何かは分からないものの、これは当然魔法である。

 毛先に触れた者の触覚の感度を上げる魔法だ。

 

「くっ……ふぅ……」


 体を捩らせながらも健気に耐える。騎士であるが故に彼女は精神干渉への魔法の耐性が高く、このままでは望んだ情報を得られない。

 当然だ。機密の情報を扱う部隊の隊長が、精神干渉への耐性がないと万が一に捕虜になった時に容易く情報が外部に漏れる。

 でも、それは完全なものではなく、辛い訓練に訓練を重ねて、強靭な心身を得ることにより、自信という形で身に付くものだ。

 これだけ辛い訓練を乗り越えたのだから自分の心は何者にも負けないほどに強くなっているはずだ、と。その思いこそが精神干渉を退けるほどの力を発揮する。


 だが、逆を言えばその思いがなければ精神干渉を退けるほどの魔法耐性を持たない。なら、その思いを吹き飛ばすほどの刺激を与えればいい。拷問なり薬物投与なり、その為の方法は幾つかあるが、そのような手段を彼女は取らない。


「っ、はぁ……や、やめ……」


 僅か吐息に混じる嬌声。びくびくと体が震え、先程までの強気な態度が嘘のように目尻に涙を浮かべて、懇願するエリア。

 この辺でいいわね、とヴィーナは光の蔓を魔法陣の中に戻し、また別の魔法を起動、展開した。

 それは精神干渉の魔法。


「それでは聞かせてちょうだい。あなた達がここに来た理由をーー」


 びくんと光の蔓による刺激のせいで項垂れるエリアの体がいきなり大きく跳ねる。と、ヴィーナに精神を完全に掌握され、それを表すように目から光が失われて、ただ訥々と言葉を紡ぐだけの人形に成り果てた。


「ーータクラス連峰にて、"ドラゴン"の魔力(ブレス)の発生を確認、その後、存在の消失を確認した為、何があったのか、その原因を調査すべく参りました」

「ドラゴンの調査……、成程。私たちを追ってきたというわけではないのね」

「はい。お二人の件に関しては、今のところ動いているのはアーナイト様とその直轄の親衛隊だけで我々王国騎士団はドラゴンの追撃のみに総力を上げています」


 エリアは淡々と質問に答え続ける。


「ドラゴンの消滅が確認できた場合、あなた達騎士団はどうするの? 転生体を追いかけるの?」

「いいえ。ドラゴンの転生体を探索するのは魔法に長けた貴族に依頼することになるので、我々は通常業務に戻ります」

「……通常業務。その中に私達の追撃は含まれているのかしら?」


 その問いにエリアは「はい」と答えた。


「入っています。恐らく本格的な追撃が始まるでしょう。アーナイト様が、我々王国騎士団を動かす為に何度も国王の御前に足を運んでおりましたので」


 最悪だ、とヴィーナは思う。

 王国騎士団が本格的に動き出せば直ぐに彼女の居所を突き止め、スキをついて襲撃し、築き上げた平穏をぶち壊すだろう。

 

(まったく……、もう放っておいてほしいのに。そんなに私から全てを奪い取りたいのかしら、あの人達は)


 立場も、名も、居場所も、財も、貴族としての未来まで奪われた。だが、それでもユアを得て、新たな人生を歩くことを決めた矢先にまたそれを奪い取ろうと彼らは動き始めている。

 そのことが彼女にとっては、最悪だった。

 そして、それから幾つか情報を訊き出した後、


「まあいいわ。訊きたいことは訊けたことだし、そろそろ元に戻してあげる」


 ヴィーナはパチンと指を弾いて、エリアに施した精神干渉の魔法を解除すると、その目に光が戻り、それから「はっ……はっ……はぁ……」と徐々に呼吸が荒くなっていく。


「ヴィーナ・リリファル……、一つ訊かせてください」


 エリアは全てを悟り、諦めたのか虚ろに揺れる瞳でヴィーナをぼんやりと眺めながら訊く。


「今、あなたは私に何かを問える立場にないのだけど、でもそうね。いいわ。答えられる質問ならば答えてあげる」


 と、エリアは一瞬だけ考え、直ぐに質問を口に出す。


「……ユア様は無事ですか?」

「ユア?」


 ヴィーナは首を傾げる。そんなのは無事に決まっているが、それが訊きたいことなのか。直前に得た情報から察するに彼女たちの目的は"ドラゴン"のはず。その件について訊かなくてもいいのだろうか。


 そう思いつつも、ヴィーナは別に答えられない質問というわけでもない為エリアに答える。


「ええ、そうね。無事に決まっているでしょう。特に病気したわけでもないし、心身ともに健康よ」

 

 ヴィーナはユアの健康状態について言うが、それはエリアの考えてた答えとは違った。

 エリアたちにはユアが連れ去られたのだと情報が入っていた。つまり今の問いは、生命の有無についての確認だった。

 だけどヴィーナの場合は、ユアと一緒に逃げているという認識があったのでその問いに対し、健康状態で答えたのである。

 

 その認識の違いに疑問を抱いたのか、エリアは僅かに混乱を見せた。





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