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悪役令嬢、百合に目覚める  作者: クロロフィル
第二章ー悪役令嬢、Sランク討伐者になるー
16/45

ユアとヴィーナの出会い

 その日の夜。昼間に反乱軍の話があったからかユア・ラファリスはまだ自分が幼い頃のことを思い出していた。



 ユアは一人ぼっちだった。

 心を許せる友達は一人も居らず、寄ってくるのは全員、ユアの立場が目当ての子たちだけ。

 両親は職務に忙しく、兄が二人いるけど、二人ともユアに構っていられる時間の余裕はほとんどなかった。

 仕方なく王城の使用人を遊び相手に選ぶが、主従の消せない関係性がある為、使用人の大半はとても余所余所しい態度で、それがユアの心を余計に寂しくさせることになった。


 ユアは一人が嫌だった。

 寂しかった。

 他の皆みたいに友達を作って一緒に遊びたかった。


「ねえねえ、どうしてわたしはひとりなの?」


 幼いユアは一人でお気に入りの熊のぬいぐるみ(名前は熊のクーちゃん)に話しかけて、一時的に寂しさを埋める。

 だが、その行為が周りに怖がられて、また彼女を孤立させる。

 悪循環である。


 そんな時だった。

 ユアが相変わらず寂しさを紛らわせる為に王城の庭園でぬいぐるみで遊んでいると、一人の女の子に話し掛けられた。


「何をしているんですの?」


 青みがかった黒髪につり上がった鋭い目付きの女の子。恐い、それが彼女に対する第一印象だった。


「く、くーちゃんと遊んで、ます」


 びくびくと少し怯えながら、ユアは熊のぬいぐるみを見せる。

 ツリ目の女の子は少し困ったように言う。


「そんなに怯えられるとショックですわ」

「ひっ、あ、あの、ご、ごめんなさ……」


 また女の子は困ったように肩を竦める。


「だから怯えないでくださいまし」


 ツリ目の女の子はユアに近寄り、すとんと目の前に腰を下ろし、半ば強奪する形で熊のぬいぐるみを手に取った。「あっ」というユアの声を女の子は聞かない。この時点でユアにとって、彼女への心象は最悪なものになっていた。


「ふーん、こんなので一人遊びしてますの。あなた、友達いないでしょう」

「うっ」


 図星を突かれて、ユアは俯く。


「そ、そんなことないもん」


 俯きつつユアは言う。


「ふーん、お姫様が嘘はいけないんですのよ。はい」

 

 ユアに熊のぬいぐるみを返し、女の子は勢いよく立ち上がる。ファサっと青みがかった黒髪が風に弾け、広がった。


「それでは私は妹が待っているので、そろそろ行きますわ」

「え、あ、うん」

「また今度来ますわ」

 

 ちょんとワンピースの裾を摘み、優雅に会釈するツリ目の女の子。その後、スカートを翻し、駆け出す。が、何かを思い出したかのように庭園の出口で止まり、ユアの方を振り返り、叫ぶ。


「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はヴィーナ・リリファルと申します! 気軽にヴィーナ様とお呼びくださいな!」


 それだけ言い、ツリ目の女の子はにこりと笑い、手を振った後また走り出した。


 何しに来たんだろ。と、ユアは首を傾げる。

 まるで嵐のような女の子だった。

 その場に残ったのは、いつもの馴染み深い静寂。だが、今日のそれはいつもより深く彼女の心に寂しさを齎した。


 それがユアとヴィーナの最初の出会いだった。






「こんにちわ、また来ましたわ」


 二度目に会ったのもまた同じ庭園だった。ユアが一人遊びに興じている時に、盛大な騒々しさと共にヴィーナがやってきた。


「相変わらず一人なんですのね。仕方ないから今日は私も一緒にお人形遊びをしてあげます」


 ふんすと胸を張り、取り出した人形にユアは思わず「ひっ」と短い悲鳴が上がる。


 当然だ。目の前のその人形は、大人でも夜見たらトイレに行けなくなりそうなほどに禍々しい姿をしていた。

 数本細い糸が髪のように頭部から垂れた二頭身の人形だ。その顔のはボタンと糸で表現されてはいるものの、片方のボタンが緩んでるせいか目が飛び出てるように見えて、口は何本も無駄に糸を通してるせいか縫われてるように見える。

 肩から胸にかけて僅かに綿が漏れ、服として白いワンピースらしきものを身に付けている。

 恐ろしい、というよりはおぞましい人形である。


「どうです? お兄様に作ってもらいました! 可愛いでしょう!」


 満面の笑顔でその人形を自慢げに見せびらかすヴィーナ。ただ、子供というのは素直なものだ。

 ユアは思わず率直な感想を述べていた。


「やだ、気持ち悪いよ」

「んなっ!?」


 ヴィーナは心底驚き、目を見開いた。そこでユアは「しまった」と思う。一緒に遊ぶためにわざわざ人形(不気味とはいえ)を用意してくれたのに、失礼なことを言ってしまった。

 そのことにユアは後悔した。が、


「ふふーん、まさかこれの良さが分からないとは、お姫様とはいえまだまだ子供ね」


 全く気にした様子はなかった。それどころか人形をさらに自慢げに見せてくる。やはり何度見ても不気味なだけの人形だ。

 その日は人形の可愛い恐い問答だけでお別れになった。

 まだ二回目ではあるけど、何となくヴィーナのことが分かってきたような気がする。





 三回目に出会ったヴィーナは、全くの別人のようだった。両親に連れてこられたパーティーで、いつものように一人で壁際に立っていたユアの元に彼女はやってきた。


「御機嫌よう、ユア様」

「え……」


 最初、誰かと思った。腹部の開かれた漆黒のドレスに身を包み、幼くして既にそこはかとない妖艶さを醸し出す女の子。長い髪はアップにして、色々な宝石に彩られている。だが、その宝石の輝きにも負けないくらいに彼女の存在感は異彩を放っていた。

 

「も、もしかしてヴィーナ様?」

「ええ」


 一瞬、信じられなかったためユアは訊く。が、にこりと微笑み答えるヴィーナ。そこにはいつもの不遜な態度の彼女はいない。立派な淑女としての彼女がいた。


「ユア様、それでは私はこれで失礼します。挨拶回りがありますので」


 ぺこりと優雅に会釈し、時間が止まったかのようにヴィーナは流麗に動く。目が離せない。引き込まれる。ユアはヴィーナの背が完全に人の中に紛れるまで見送った。





 次に会ったのはまた元通りのヴィーナだ。ただ、一つだけ違うことがある。


「今日は妹を連れてきましたわ」


 それはちょこんとヴィーナの背に隠れてユアの姿を伺う女の子の姿があること。

 オドオドとユアの姿を伺い、目が合ってはヴィーナの背に隠れる。小動物のような女の子だった。


「ほら、挨拶しなさいな」

 

 ヴィーナに背を押され、促された女の子は、一回深呼吸。上がり症なのだろう。ユアにはその気持ちが良くわかる。


「あ、あの、れーな・りりふぁるです! よ、よろしくおねが……」


 どんどん語気が弱くなり、最後にはほぼ聞き取れないほど声量が小さくなる。

 

「どうです、私の妹は可愛いでしょう」


 ヴィーナは胸を張り、レーナの頭を撫でた。「えへへ」とレーナは幸せそうに目を細める。


「たしかにかわいいですね。おんなじ姉妹だとは思えないくらいに」

「どういう意味ですかそれ」

「別になんでもないです」

「むぅ……」



 


 そして次も、その次も、さらにその次も。

 会うたびにヴィーナの新たな一面を知り、距離が縮まり、最初に苦手に思っていたにも関わらず、ヴィーナと完全に打ち解け、レーナとも仲良くなり、気付けばユアは一人で居ることが少なくなっていた。

 寂しさはもうない。



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