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悪役令嬢、百合に目覚める  作者: クロロフィル
第二章ー悪役令嬢、Sランク討伐者になるー
14/45

悪役令嬢、出かける準備をする

ブクマと評価、ご指摘ありがとうございます!

これからも何卒よろしくおねがいします



「あっ、ヴィーナ様。おはようございます」


 目を覚ました私に気が付いたのか、ぺたぺたとスリッパを弾ませながらユアが走ってくる。


「ええ、おはよう」


 私はユアを受け止める。と、その頭を撫でる。さらりと滑らかな銀髪に手が抜ける。お風呂に入ったばかりなのだろう。ふわりと微かに石鹸の香りが漂う。ユアの元々の甘い香りと混じり、とても良い匂いだ。


(これではまるで変態ね)


 そう苦笑し、私はユアから離れる。と、ユアは一歩、前に踏み込み、私の懐に入る。

 近い近い近い……。

 

「な、なに……?」


 思わず私は後退る。と、ユアは呟いた。


「ヴィーナ様。少し汗くさいです。このままお風呂に行きましょう」

「……はい?」

「ですから少し汗……」

「いやいや、分かりました。すみません。二度は言わないでください」


 私は慌ててユアの言葉を遮る。ユアの可愛い口から二回も「汗くさい」などと言われたらきっと立ち直れない。というか仕方ないでしょう。昨日ドラゴン襲撃があったせいでお風呂に入ることが出来なかったわけだし。


 とはいえユアの言うことも尤もで、私も同じことを考えてはいた。正直はやくお風呂に入りたい。髪も体もベタベタするし、寝覚めの気分は最悪だ。ただ、それを自分で思ってはいても誰かに言われるのはショックということ。それも自分が好いてる人ならば尚の事だ。

 

「あ、ご、ごめんなさい。でも、あの、私、ヴィーナ様の汗の匂い好きですよ」

 

 そんな風に何故か意味の分からない擁護の仕方をするユア。何ですか、その変態発言は……。

 すると、それに同意する様にシルフが「がうっ」と鳴いた。


「そうですか。それはありがとうございます。では、お風呂に入ってきます」

「あ、私もご一緒します! ヴィーナ様」

「がううう」

「分かりました。それでは一緒に入りましょう」

 

 そうして私は浴室に向かう。その途中、ユアが色々と入浴前の準備をしてくれていた。

 流石に随分と気が効くわね。

 私は今まで全て使用人に任せてたから基本的に家の事はおろか身の回りのことすら何も出来ない。そこら辺は無用なものとして私は教育を受けてはいないからだ。

 でも、平民として生きる以上はいつかは身に付けなければならないことではあるだろう。ただ、今はまだ無理だ。


 私は浴室に入ると、するりと服を脱ぎ、脱衣カゴに放り込む。全部、脱ぎ終えると私は浴場に入室。扉を開けた瞬間、ひんやりとした空気を受けた。


 少し冷えるわね。


 私は魔法を自分に施し、僅かに体温を上げる。これで随分とマシになったわ。


 そうして私は風呂椅子に腰を下ろし、蛇口を捻り髪を洗う。と、私の洗髪が終わったのを確かめたユアも浴室に入ってきた。


「ヴィーナ様、入ります」

「どうぞ」


 私はユアを招き入れる。シルフは私とユアの洗濯物で遊んでいた。


「うっ、ちょっと冷えますね」

「そうね。だから私は魔法で体温上げることにしたわ」

「それ大丈夫なんでしょうか」

「問題ないわ」


 私は蛇口を捻り、木桶に湯を張る。


「問題、あると思うけど……」

「まあそうね。確かに一歩間違えれば全身が火達磨になる事は間違いないし、あまり真似しない方がいいかもしれないわね」


 私はユアを自分の膝の上に座らせると、ゆっくり湯をかける。

 お湯がユアの肌を滑り落ち、一気に下まで流れた。水滴の一切を寄せ付けない、玉のように柔らかく弾力性のある肌だ。これが赤ちゃん肌というものか。


「ユア、大丈夫? 熱くない?」

「だ、大丈夫です」


 湯が肌を伝った後、それに連動するように寒気をユアは感じる。ぶるぶると震えるユアを私は抱き締める。と、「っ」とユアは息を呑む。緊張しているのだろうか。心臓の上に耳を当ててるわけでもないのにその心音が聞こえてくるようだ。


「ど、どうしました、ヴィーナ様」


 少し困惑するユアに、私は言う。


「ユア、ドラゴンのことについて幾つか分かったことがあるわ」

「!」


 ユアは驚き、私の方を向く。


「今まで寝ていたのにもう何か分かったのですか?」

「ええ、勿論全てが分かったというわけではないけど」


 そう言い、私は寝ている間に見ていた夢のことをユアに説明する。最初は怪訝な顔をしていた彼女だったけど、次第に思案顔になり、最後には理解に至ったようだ。このように幼い見た目をしてはいるがユアは聡明だ。流石と言える。


「ーー成程。ということは恐らくシルフさんはあの女に挑んだけど返り討ちにあい、そのせいでドラゴンが解放されたというところですかね」


 そのユアの推察に私は頷く。

 流れ的には大体がそんな感じだ。

 シルフは死の直前にドラゴンを解放したのだろう。恐らくシルフは学園で暴れさせる為に解放したのだろう。だが、何故かドラゴンは私達の方に現れた。それが少し疑問だが。


「……そうですか。ということは裏で糸を引いてるのはミナ・ユキシロということですね」

「どうでしょう。それは分かりませんね。そもそも情報が足りませんし」


 私はユアを抱えたまま木桶に再び湯を溜める。


「まあ、仮に情報と確信を得たとしても私には関係の無いことでしょう。今更、仕返しとかそういうのは考えてませんので」


 えー、とユアは言う。


「ヴィーナ様が仕返ししたいというのなら一緒に手伝うつもりだったけれど……、本当にいいのですか」

「勿論よ。それに今の彼女と敵対するというのは、つまるところラファリス国に宣戦布告するようなものですからね。そこまで無謀ではないわ。まあ、これからの場合によっては……分からないけれど」

「そうですか」


 ユアは立ち上がると私の背中に回る。


「ヴィーナ様、背中流します」

「ありがと」


 ぺたぺたと私の背に触れ、指で撫でるユア。


「ユア? くすぐったいわ」

「え、あ、ごめんなさい」


 ユアはゆっくり私の背中にお湯をかける。じわりと熱が広がっていく。温かい。それからユアは石鹸を泡立てて、その泡をスポンジに乗せ、私の背をゴシゴシと擦る。力加減が絶妙だ。強くもなく弱くもない。


「ヴィーナ様、どうですか?」

「気持ちいいわ。上手いわね」

「そうですか、よかったです。じゃあ前も」


 そう言いながら私のお腹に手を回してきた。でも、流石にそれは止める。


「ユア、前は大丈夫よ。自分で洗えるわ」

「……分かりました」


 少し不服そうだ。


「あ、そうだわ。ユアはシルフの体を洗ってくれる? あの子も結構汚れてるでしょう」

「シルフ?」

 

 ユアは怪訝な声を出す。ああ、そういえばあの小さなドラゴンに名前を付けたことをまだ言ってなかったわね。


「そのミニドラの名前よ」

「……ふーん。どうしてシルフさんの名前? はっ! もしかしてヴィーナ様」

「変な邪推はおやめなさい。そんなわけないでしょう」


 そもそもシルフと話したのはあの夢の中が始めてだったはず(私が覚えてないだけかもしれないけれど)。そんな子に対して何かを思うことはない。ただ、あのミニドラにシルフと名付けたのは、不思議とピッタリだと思ったからだ。


「あなたが嫌なら変えてもいいわよ」

「いえ、その……私もいいと思いますよ」


 ぱたぱたと小さな羽を動かしながらシルフが入ってきた。私たちが呼ぶことを予期するかのように。私の元まで来て、木桶に張った湯の中に飛び込んだ。


「元気いいわね。流石あのドラゴンの転生体」


 気持ち良さそうに木桶に浸かるシルフ。その様がまたとても愛らしい。


「それはそうと、この子には念の為に封印による制限を施してた方がいいわよね」

「あ、それならヴィーナ様が寝ている間に私がやっておきました」


 ユアはシルフに施した四つの制限を言う。

 一つ、人を襲わないこと。

 一つ、魔物を食べないこと。

 一つ、ブレスは使わないこと。

 一つ、私達から逃げないこと。

 それを破れば即座に拘束。別空間に送り込まれるようになっているという。


「そう。それだけ制限を施せば大丈夫ね」


 ユアはシルフの体を洗い始める。それに続き、私も前を洗う。

 それが終わると私はシルフを抱えて、浴槽の湯に浸る。

 ユアはやることを思い出したみたいで、湯船に入ることなく、浴室から出ていってしまった。

 そうして私はシルフを抱えたまま天井を眺め、そこに溜まった水滴の一つ一つをぼーっと数え、しばらく経つと私は浴室を出た。

 

 脱衣所に上がるとユアが用意してくれていた洗濯済みの服が綺麗に畳まれて置いてあった。私は一緒に用意されてたタオルを取る。が、面倒になってタオルを元の場所に戻し、魔法で全身の水滴を蒸発させた。それをシルフにも施した後、服を着て、私は脱衣所を出る。


 と、私はユアの元に行く。食事を作っているのだろう。香ばしい匂いが室内に満ち、私の空腹のお腹を刺激する。


「今日も美味しそうね」


 私がそう言うと、にこりとユアは「もう少しお待ちくださいね」と答える。

 私は自分の椅子に座り、読みかけの本を開く。本来ならば手伝うべきかもしれないけど、この街に来たばかりの頃に私はユアを手伝おうと動いて、買ってきたばかりの炊事道具の多くをダメにしてしまった。それ以来ユアは私が台所に入ることを許してくれない。


(私も炊事を覚えたいとは思っているのですが……ね)


 私は本のページを捲り、数十ページ進んだ頃には食卓に様々な彩りの料理が並べられていた。


「ヴィーナ様、出来ましたよ」


 私は栞を挟み、本を閉じる。


「本当、美味しそうね」

「それじゃーどうぞ」

「ええ、いただきます」


 私は料理に手を付け、あまりの美味しさにあっという間に完食してしまう。合間合間にユアに感想を求められるが、その度に正真正銘な気持ちを伝えると、嬉しそうに破顔。可愛い。



 そうして食べ終え歯磨きを終えると、私とユアは町長に呼び出しを受けてたことを思い出し、出かける準備を始めた。

 

 

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