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08.冒険者ギルドへ 1

 スキルの可能性を模索し、この世界での戦い方にも方向性がでてきた。そんなところで次の方針はおのずと定まった。異世界転移のカラクリを知るために、まず行くべきなのは、ダンジョン。そして、そこへ到達するために、冒険者ギルド。その道中を楠男と、シルフィと、アリスの三人で行くことになった。

 そして、そのついでということもあって、楠男は個人的に昨日世話になったグスローのもとへ立ち寄ることにした。

「おっ――どろいたなー。まさか本当に奴隷ハーレムのマスターになってるとは……。ただの噂だと思ってたぞ」

「いやー。なんか流れでそんな感じになりました」

「今日はどうしたんだ? 困っていることがあったら、なんでも相談してみな」

「いや、今日はそういう用事じゃなくて、弁償代を持ってきたんです。昨日ここに来たら、既にいなかったんで……」

「あーん、なんだってぇ……」

 不機嫌そうに顔を歪めながら、ゆらりと楠男に近づく。不穏な空気を察して後ずさるが、逃げられない。

「あ、その――」

「だ、か、ら! いいつってんだろぉうがよぉ!」

「いて、いててて!」

 バコン!! と、頭を勢いよく叩かれる。

 今の時代。もしも日本だったならば、下手したら問題になってしまうような暴力行為だ。

「餓鬼が変な遠慮の仕方覚えてんじゃねぇよ! 俺がいらねぇって言ったらいらねぇんだ! ……それよりも、悪かったな。俺がちゃんと止めなかったせいで、色々大変だったんだろう?」

「ま、まあ、ぶっちゃけ、だいぶ苦労したんですけどね……。だけどそれは、俺がグスローさんの忠告を無視して無理やり行ったせいだし、それに、お金は謝罪だけじゃなくて、感謝のつもりなんです」

「あ?」

「俺、なんだかんだであの酒場へ行って、よかったって思ってるんですよ。あそこの店主は口と性格が悪いだけで、なんだかんだで結構面倒見のいい人みたいだし、結果的には大金を手に入れることもできました。俺がこの世界へ来て、一番のラッキーはきっと、一番最初にあなたに出会えたことだって思っています」

「ばっ――馬鹿野郎。なに急に神妙な顔になってんだ!」

 顔を紅潮させているようだったが、元々顔が赤いせいで恥ずかしがっているのが分かりづらかった。

 出会ったばかりで、しかも違う種族の楠男相手にここまで親切にしてくれる人はきっと珍しい。外人さんに道を訊かれても、正直、中一英語でさえ怪しい楠男はなにもできない。それどころか、内心、ちょっと面倒なって思ってしまう。だけど、グスローは本当によくしてくれている。これで終われば、いい話で完結できたのに、周りの連中が茶々を入れ始める。

「馬鹿はアンタだよ! グスロー! せっかくお金はもらえるっていうんならもらっておきゃいいんだよ! どうせあんたの店売れなさ過ぎて、明日には潰れちまうんだからね!」

「うっせぇぞ、クソババア!! 俺の店のもん売りまくって、てめぇの店の客全部とっちまうぞ!」

「なんだって! こっちはあんたの店を心配してやってんだ! ちぃとは感謝の言葉ぐらいよこしたらどうだい!」

「そうだ! そうだ! グスロー、調子乗ってんじゃねぇぞ! あんな可愛い奥さんお前にはもったいねぇんだよ! 俺だって狙ってたんだぞ!」

「誰かの物にならない、みんなのリーリーさんだったのに! てめぇみたいな強面な奴じゃ、リーリーさんが可愛そうだ!」

「そうだ! 俺だってあんな優しくて若い奥さん欲しいぞぉおおおお!!」

「全然関係ねぇ話になってんだろうがぁぁぁ! てぃうか、俺のリーリーの狙ってるやつらがまだいんのか!? あの時みたいにブッ飛ばしてやるから、そいつら全員俺の前に並びやがれぇ!!」

 仲良く喧嘩する流れになってしまったせいで、蚊帳の外だ。

(というか、グスローさん奥さんいたんだ……。これだけ世話好きで性格良くて、店を経営しているぐらいだからいても当然か……)

 混沌と化した市場。さっきから後ろに控えて気配を消していたシルフィが楠男へ声をかける。

「――そろそろ冒険者ギルドへ参りましょうか」

「えっ、でも」

「グスロー様達がああなると、なかなか終わりません」

 うおらぁっぁ、とか叫びながら、グスローは殴りかかっている。本気でやっているわけではなく、あくまでコミュニケーションの一環のようなノリだった。

(確かに、あの感じは終わりそうにないな……)

 キャサリンの命令で、付き添いにきたシルフィの言うとおりだ。


 ――シルフィを連れて行きなさい。

 ――えっ? でも――。

 ――冒険者ギルドへ行くんでしょ? ボディーガードの一人や二人必要よ。異世界人の護衛はどれだけ多くてもいいくらいよ。シルフィを連れて行きなさい。シルフィも新人だけど、その子は頼りになるし、ダンジョン探索の引率なら適任者よ。彼女のスキルなら、絶対にね……。

 ――なんだかよく分からないけど、だったら、キャサリンも一緒に来て来ればいいんじゃないのか? なんか、暇そうだし……。

 ――私はお酒を呑まなきゃいけないから、パス。


 というキャサリンと楠男の話によってシルフィは追随してきた。

「――確かにな」

 騒いでいるグスロー達を観ていると、確かにあの争いもどきはすぐには終わりそうにならないことが分かる。

「……どうして、笑っているんですか?」

「えっ、俺笑ってた?」

「笑っていました」

「笑ってたわね」

 シルフィとアリスが二人がかりで楠男を責め立てるように指摘する。

「なんで、こんな時ばかり同意見なんだか。別に、誤魔化すようなことでもないけどさ、なんだか、いいなって思っただけだよ」

「――いいな?」

「ファンタジー世界に生きているこの人達のこと、最初はゲームのCPUみたいにしか思えなかった。だけど、みんな、実は本物なんだよな。適当に生きていた俺なんかより、よっぽど本物だったんだ。それぞれの生活のために頑張っていて、それで笑っている。バカ騒ぎしている。生き生きしている。それが分かったんだよ。本当に、ここはいい街だよな」

「――そうですか。そう言われると、私も嬉しいです」

 楠男はこの世界の住人へ声を張り上げる。

「それじゃ、グスローさん、お金はここに置いておくから」

「あっ、馬鹿! それ、相場の三倍だろうが!! 逃げるなっ!!」

 感謝の気持ちも込めて金を大目に置くと逃げ出す。

「ちょ、ちょっと逃げるなんて聴いてないわよ」

「――いいじゃないですか。ちょっと駆け足ぐらいの方が、道中楽しいですよ」

 どうせあそこで話し合っても、お互いに譲らないだろう。だったら、楠男も我を通すために逃げ出してやるしかない。

 三人揃って、追いかけてくるグスローを見事に撒いた。


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