第8話 閉塞(へいそく)した心
時雨とリーシャは未だに森の中にいた。北へ向かい進んではいたが街道へ出ることもなく、街道が見てえ来ることもなかった。二人は無事に森を抜けることが出来るのだろうか。
黙々と森を北へ進む時雨とリーシャの姿があった。しかし、辺りはすでに薄暗くなり視界も悪い状態へとなっていた。時折、周囲から物音が聞こえてくることもあり気が抜けない状態でいた時雨は体力、気力ともに疲れていた。
「薄暗くなってきたし、この辺で野営でもしようか」
「・・・はい」
「さすがに疲れたよね?少しでも早く森を抜けるために急いで進んだからね」
「・・・大丈夫です」
「そう・・でも、俺が疲れたし・・・この辺で休もう」
「・・・はい」
「・・・はぁ・・あの辺りにしようか。少し開けた場所だし。警戒もしやすいかな」
そうして見付けた場所は倒木があり、そのおかけで少し開けた場所になっていた。倒木は人が手を掛けて倒したものではなく自然に出来たように感じた。もしや魔物が倒したのかとも考えたが、その様な痕跡がなかったので安心できた。
「・・・魔物が居たような痕跡がないな。ここに火を起こそう。その辺から燃えそうな枝を集めようか」
「・・・はい」
「さっきからどうしたの?何かあった?」
「・・・道は合っていたのでしょうか。もう、街道へ出てもいいと思うのですが・・・私の北の方角と言うのが間違いだったのではと・・・」
「・・・まぁ、途中まではあの盗賊らしき奴等が歩いたと思う所を辿ってきたけど・・・その形跡もなくなっちゃたしね」
「・・・ですが・・・」
「明日、もう少し進んでみよう。そうしたら街道へ出れるかもしれないし」
「・・・わかりました」
「とにかく、今は野営の準備をしよう!少しだけど食料も持ってきたし」
「・・・はい」
そうして燃えそうな枝を集め、野営の準備をするのだった。食料は二人では足りるのかはわからないくらい少なかった。そうなってしまったのも食料が備蓄してあった所でヤズと言う男を殺ったときに血で濡れてしまい食べれる状態の物が少量しか残っていなかったからであった。一枚の干し肉とドライフルーツを二人で別け合い食べた。ワインの瓶は食料が少ないこともあり二本持ってくることができた。
「ワイルドに野性動物でも捕って食べるか・・・?」
「ワイルド?そんな名前の動物がいるのですか?聞いたことがないのですが・・・」
「あっ・・・こっちの話だから」
「そうですか・・・」
「ところで、街に行ったら頼るところはあるの?」
「叔父と叔母が街には住んでいます。事情を話して住まわせてもらおうかと考えています」
「そうか。頼るところがあるなら良かったよ」
「シグレさんはどうするのですか?」
「俺は・・冒険者に登録かな?あとは宿住まいかな」
「そうなんですね」
「言いにくかったら話さなくてもいいんだけど・・・リーシャの家族は街には住んでいなかったの?」
「・・・はい。父が冒険者の時に買った家が町外れだったのでそこに住んでいました」
「そうだったんだね・・・でも、家は燃やしたとか奴等が言ってたけど誰かが気付いて助けにこなかったのかな?」
「・・・わかりません」
「確かにそこまではわからないか・・・」
「・・・はい」
「そっか・・・疲れたでしょ?寝ていいよ」
「・・・シグレさんは寝ないのですか?」
「俺は・・・徹夜は慣れてるし。大丈夫!気にしなくていいから」
「わかりました。休ませてもらいます」
「あっ、これ使っていいよ。あの小屋にあった毛皮だけど敷物として使えればと思って持ってきてたんだよ」
「・・・ありがとうございます」
「うん。じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
二人はぎこちない雰囲気のまま野営をするのだった。時雨としても本当は今すぐにでも横になって寝たかったのだが、リーシャに夜番させるのは心許なかった。しかし、時雨にとっても悪い話でもなかった。異世界に来てから自分一人ではない状況、今後の冒険者としての活動でこの様な事はないとは言えないからであった。
『さて、朝までどうやって時間を潰そうかな。こんなときに本でもあれば時間潰しにはなるのだろうけど・・・その前にこの世界の文字を読めるのだろうか?自動翻訳があるとはいえ・・・言葉だけだったら一から覚えなきゃならないのか?』
そんなことを思いながら一人、夜番をするのであった。しかし、何もしないのも眠くなるので使ってはいない剣の手入れをすることにした。手入れと言っても小屋から持ってきた布で拭くくらいしか出来ないのだがしないよりはいいと思い拭き始めた。黙々と手入れをしていると何処から遠吠えが聞こえてきた。
「きゃっ!!」
「・・・起きちゃったね。大丈夫、近くで聞こえた訳じゃないから」
「・・・そうなんですね」
「ちゃんと起きて見張ってるし、緊急の時は起こすから寝てていいよ」
「・・・はい。あの・・聞いてもいいですか?どうして私を助けてくれたんですか?」
「うーん、特に理由はないよ。目の前で危険な目にあってたら誰だって助けるでしょ?」
「・・・そうなんでしょうか」
「そうなんじゃないかな?」
「そういう人は滅多にいないと思います。自分の命が一番ですから・・・」
「・・・そう言うものなのかな。とにかく、今は寝た方がいいよ」
「・・・はい」
会話をしてもネガティブと言うか、多くを語ろうとしないリーシャに今何を言っても無駄だと思い時雨は会話を終わらせて眠らせることにした。遠くから魔物の遠吠えがあったくらいでそれ以降は特に何もなく夜が明けるのであった。