第4話 異世界人
自身の甘さと現実
太陽が沈み始め、辺りが薄暗くなってきた頃に小屋を発見した。小屋の外壁には蔦が絡み、小窓は一部壊れ隙間が空いていた。そんな状態で人が棲んでいるのかは不明だが訪ねてみる事にした。
「すみません。誰かいませんか。・・・人がいそうな感じはしないな。開けても大丈夫かな」
中には誰かが居るような感じがしなかったので扉を開けて中を覗いてみることにした。見た目の古さとは違い扉は軋みもなく開くことができた。そして、覗いてみると室内は荒れていると言うよりも散らかっていた。テーブルには酒盛りをしたような形跡があり、所々に衣服と思われる布が落ちていた。
「うーん、誰か住んでるのか?それにしても・・・少し臭うな」
室内は酒の臭いと生臭い臭いが混じりあい悪臭が漂っていた。それでも夜に動き回るよりも悪臭を我慢して少しでも安全を確保する事を優先した。それから広くない室内を歩き回り食べれる物か飲める物を探した。その時、床の一部に気になる事がありそれを調べることにした。
「この黒くなってるのは・・・血痕?何に使われているんだこの小屋は」
何が行われているかわからない小屋で一夜を過ごすことに不安を感じながら食料探しを続行した。室内を隈無く探した結果、床下に保管庫の様な小さな部屋があった。そこには樽が数個あり木箱には数本瓶が入っていた。そして、奥の棚に保存が効くチーズや干し肉、ドライフルーツがあった。そこから瓶を1本と干し肉を数枚にドライフルーツを数個頂くことにした。本当ならチーズも欲しかったが切るものがなく諦め、上の部屋へと戻った。
「断りもなく持ってきたけど・・・後で事情を話せばいいか。では、いただきますか」
そうして持ってきたものを勢いよく食べ始めた。瓶の中身はワインで干し肉は少し獣臭かったが食べれない事はなかった。最後にドライフルーツだが干し葡萄の様な物と木苺みたいな物で少し酸味があったが気にせずに食べた。全て平らげると程よく腹が膨れ、ワインを飲んだせいか睡魔が襲ってきた。そして、そのままテーブルに伏せて寝てしまった。
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いつの間に寝てしまったのかもハッキリとせず、肌寒さい事で目が覚めた。しかし、寝起きのせいで音が聞こえても遠くからなのか近くからなのか判別できないが、笑い声が聞こえてきたような気がした。
「・・・がはは・・だな」
「か・・ですぜ」
「きょ・・・まし・・ね」
途切れ途切れに聞こえてくる笑い声と話し声。それが徐々に近くなってきているのがわかった。時雨はどうしたものかと考えながら一度、地下の保管庫へ身を隠し様子を見ようと移動した。ちょうど床の扉を閉めた所で小屋の入り口が開き3人くらいの足音と何かを引きずるような音が室内に入ったのがわかった。時雨はどんな人達がこの小屋に住んでいるか確認するために会話を聞こうと耳をすませた。
「頭、今日はついてましたね」
「おぉ、今日はついてたな。金目の物だけじゃなく女まで収穫できたからな。がははは」
「頭ぁ~オイラに先にやらせてくださいよ~」
「何言ってやがる。オメーは最後だ」
「そんな~いつもいつも最後に回ってくる女は壊れてて楽しくないんですよ~」
「ヤズ、そんなこと言ったってしょうがないだろ。大して仕事してないんだから。クックック」
「マイス~そんな言い方はないだろ~オイラだってちゃんとやったぜ~」
「がははは。オメー達まずは酒だ。この女はその後だ」
「・・・お願い。家に帰して・・・」
「オメーに帰る家なんてねーだろ。俺達が燃やしたからな。寝ちまってたからわからねぇか。がははは」
「えっ・・・うそ。お父さんやお母さんは?弟は?・・うそよ」
「嬢ちゃん~、頭の言ってる事は本当だぜ~。あの小さいガキはオイラが苦しまないように一思いに殺してやったぜ~」
「・・・うっ。うう・・・そんな」
「ヤズ、何を教えてるんだよ。これから楽しもうってときに。クックック」
「オイラ、口がすべっちまったかな~」
「おい、ヤズ。地下から酒を持って来い。女、オメーの家にあった上等な剣は俺様がもらってやったからな。がははは」
地下でそんな会話を聞いていた時雨は思わず舌打ちしてしまった。しかし、自分の身の安全を優先するのであれば他人に構わず、このまま身を隠していた方がいいはずなのに助けてあげたいと思ってしまっていた。そうすると地下の入り口がガチャガチャと開ける音が聞こえてきたので物陰に息を潜めた。すると先程の会話で聞いた通り一人の背の低い痩せ細った男が地下への階段を下りてきた。男は時雨に気付くこともなく奥の食料が保管されている棚へ進んで行き食料を漁っていた。それをチャンスと思い気取られないように背後に近づいた。その際に腰のベルトに抜き身の状態で差していたナイフを右手で抜き、声が出ないように男の口を左手で抑えナイフを喉元に当て一気に切り裂いた。人生初の人を殺めるという行為だったが、何の躊躇いもなく出来てしまった。
「やってしまったな・・・この世界に来てから精神的にも何かが変わったのか躊躇いもなかったな」
しかし、躊躇いもないと思っていたはずなのに手は微かに震えていた。そして、その震える手を握りしめながら上にいる敵を睨み付け、どう対処するべきかを考えるのであった。