第3話 旅立ち
異世界の食料と街の手がかり
洞窟から出た時雨は驚いた。
木が鬱蒼としているのは変わらないのだが、昨夜見た感じとは違い日の光が差し込むことで森が幻想的に見えた。地面には百合の様な花が咲き、その周りを淡い光の玉が漂っていた。
「なんだ、この光景は。昨夜とは雰囲気が大違いだな」
その光景に少し感動しながら花の近くへと歩いていった。すると光の玉が近づく時雨に気づいたのかその場から離れていった。急いで鑑定を使い光の玉が何なのか調べてみることにした。
[森の妖精]
種族:妖精族
性別:不明
年齢:不明
※滅多に見ることがない。好物は花の蜜
鑑定してみると妖精であることがわかった。それとわかったのは鑑定は物だけではなく生き物にも使えるということであった。
「妖精・・・さすが異世界!でも、妖精とか簡単に見つかるものではないんだな。この場所だからいたんだろうな。そうだ、ついでにあの花も鑑定してみるか」
[マドナリリー]
レア度:C
※回復薬の材料になる
妖精が集まっていた花は回復薬の材料になるものだった。少しでも傷を癒したかった時雨にとっては必要な物であった。
「おっ!回復薬の材料になるのか。そのまま使っても少しは効果があるかな?」
効果はあるかはわからないが試してみることにした。材料になると言うことで花弁を1枚取り、手のひらで握ったりして柔らかくしてから傷口に当ててみた。すると少しだが傷口が塞がった様に見えた。
「効果は少しだけど、傷口から血が滲まないだけいいか。しかし、ここは群生地なのか?たくさんあるな」
人が入り込まない場所なのか、日の光が差し込む所にはマドナリリーが一面に咲いていた。
これだけあるのだから摘んで行きたいところだが、残念なことにポケットには倒したゴブリンの牙が入っていて余裕はなかった。鞄や道具袋などの入れ物があれば摘むことは出来たが、そんな物はないために諦めるしかなかった。一瞬、ゴブリンの牙を捨てようかとも考えたが、この先の事を思うと捨てることが出来なかった。時雨は残念に思いながら先へと進むことにした。
「ここが森の奥なのか、それとも人が近づかない様な辺境の森なのか・・・しかし、どっちに行ったらいいんだ」
指標になる物もなく、このまま進んで街がある方へ行けるかもわからなかった。しかし、いつまでも同じところにいるわけにもいかず洞窟を背に真っ直ぐと進んで行くことに決めた。
「とにかく、ここから真っ直ぐと進んでみるか。いずれ森を抜けられるだろう・・・」
言葉に出してみるも不安な気持ちが無くなるわけではなかった。そんな気持ちのまま森から出るために薄暗い森を進んでいくのだった。
======================
歩き始めてどのくらい時間がたっただろうか。
薄暗かった森が徐々に明るくなってきて、木には林檎に似た果実が実っていたり、地の草花には種類も増えてきていた。マドナリリーの花も至るところに咲いていた。他にも紫色の蒲公英に似た花も咲いていた。
「あの果実はなんだろ?林檎に見えなくもないけど食えるのか?それに紫の蒲公英って・・・鑑定してみるか」
[アプロの実]
レア度:C
※一般的に流通されている
[アカミタン]
レア度:C
※様々な解毒薬の材料になる
「見た目が林檎だからもしかしてとは思ったけど、食えるんだな」
食べれることがわかったので木に実っている果実を取って食べることにしたが、少し木に登らなければなかった。木登りは小学生くらいにやった程度なので登れるかは不安だったが、何事もなくスルスルと木に登っていくのだった。果実が実っている所までたどり着いた時雨はその一つを取って食べた。
「・・・甘いな。見た目は林檎なのに味は蜜柑なんだな」
そんな事を言いながらも一気に食べてしまい二つ目を取って食べ始めた。それから追加で二つ取り食べたが味に変化もなかったので正直、飽きてきていた。
「あぁーやっと食べれる物を見つけたけど果実だけだと飽きるな・・・」
そう愚痴をこぼしていると下の方から唸り声が聞こえてきた。何かと思い下を見てみると茶色と白色の2頭の狼らしき動物がこちらに向かって唸っていた。そのうちの1頭が木に前足をかけ今にも登って来そうな感じでいた。
「うわ、いつの間に来たんだ。久しぶりの食べ物に集中しすぎたな。それにしても色違いで一緒にいるのは番なのか?」
[フォレスト ウルフ]
種族:魔狼
性別:♂(白毛) ♀(茶毛)
「フー・・・フー・・・」
「グルルル」
白毛の1頭が息を切らしながらついに登ってきた。足場の悪い木の上で襲われては困るので果実を取って投げた。1投目は当たったが退かせることはできなかった。なので2投目はしっかりと狙いを定め投げた。投げた果実は見事に狼の鼻先に当たり落ちていった。
「ガフッ・・・」
「ヒット!投擲とか上手いんじゃないか!果実は武器じゃないけどさ」
そんな自画自賛していると相当痛かったのか逃げるように2頭は去っていった。その姿を見送ってから木を降り、辺りを警戒しながら森を抜けるために先に進むことにした。そして、一般的に流通されている果実があった事で街は近いのではないかと期待する時雨であった。