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二十一  作者: 直線T
2/2

1.

 ある日を境に逢魔学園は恐怖に陥れられ、そしてまたある日を境にそれは救われることになる。今から一年半前、伊東明は入学して半年の頃だった。なんでもないただの連続放火事件に尾ひれがつき始めた。トカゲの怪物が現れた。噂話はどんどん広がり、それが嘘だと分かっていても絶えることは無かった。しかしそこには嘘ではないと知る少女がいた。


 明はぼーっとノートに向かい合っていた。

 (これまでの事件を元に考えると・・綺麗に切り裂かれた痕を見るに武器は刃物が妥当ね。腕や足の切創が目立つけどこれは恐らく戦術的なもの。切れないのではなく相手の行動を制限させるためのもの。現に胴体を切られたパターンもある。つまり刃物の中でもナイフ程度のものではなく長刀と考えるのが妥当かな)

 明はノートに長刀を持った人を描いた。

 (噂話を鵜呑みにするわけではないけれど、一番証言として多いのは鉄の仮面。異形殺しは姿を見られても正体がばれない格好で現れ、異形を殺して去っていく。一体何者なの・・・)

 全身鋼鉄の鎧を纏った何者かが長刀を持っている。絵を見た先生はノートを取り上げた。

 「あっ」

 「真面目な伊藤さんが珍しいのねぇ」先生はニヤニヤとした。

 「いやっ・・これは・・その・・・すいません」

 「お、これ最近話題のヒーローか!」隣で絵を見た松井に伊藤は顔を赤くした。「逢魔学園を狙う悪の組織を滅ぼすべく現れた謎のヒーロー、サムライ鉄仮面!」ポーズを決め、長刀で敵をばっさばっさと斬り倒す松井を見て先生は呆れた。

 「あなた高校生にもなって・・・恥は無いの松井くん?」

 「先生、男はいつだって心はヒーローなんです。僕にも可愛い彼女が出来たらヒーローになれます!」

 「はい座りなさい」

 呆れる女子生徒たちと拍手で煽る男子生徒たちの中でどこか満足そうな表情の松井は着席した。

 「ありがとう、松井くん」

 「ん?いやなんのなんの。それより噂のヒーロー好きなのな」

 「・・そうね。いると良いわね」

 「いるさ。どこにだって正義のヒーローはいる」

 「うん」松井の言葉に下向いていた明の心が少し晴れた気がした。

 (サムライ鉄仮面かぁ・・)


 下校中も明は例のヒーローのことを考えていた。

 (人間の筋力では皮膚に傷一つ付けられないのは知っている。つまり謎のヒーローはその時点で一般人でないのは明らか。でも一年半で奴らに対抗できる兵器を政府が作り出せるはずがない。少なくともやつらの死体が発見されたのはここ数ヶ月以内の話、となれば対策に動き出した期間はもっと最近になる。いよいよ何もなの・・)

 帰路を歩いていると公園の付近で犬の鳴き声が聞こえた。何かを威嚇するように鳴き続けている。稲葉公園は一般的な公園に比べて大きく、木々の立ち並びによって中の様子は見えづらかった。特に気にせず明は公園の前を過ぎようとした。

 「ワンワンワンワンワ...」

 声が小さくなったのではなく、唐突に止まった。明は湧き出る不信感を抑えきることは出来なかった。このまま過ぎ去ればきっと安全だろう。しかし、いつかこのしわ寄せは自分に帰ってくる。

 (倒すことは出来なくても・・救うことは出来る)

 明は走って向かった。

 

 公園の奥深く、カップルの二人はベンチに座っていた。キスをしようと唇を近づけた時、犬の鳴き声が聞こえた。

 「あはは・・えっと・・」照れ笑いをする彼氏に彼女も照れ笑いで返した。なんだか急に恥ずかしくなって二人はもじもじとした。

 犬が鳴いている間は二人は気まずく何かを話そうという雰囲気ではなかった。

 「あっ・・そう、剛くん」

 「えなっ・・何だい?」

 「その、そろそろ剛くんのご両親に・・」彼女は恥ずかしそうに下を向きながら話した。

 「・・・うん、そうだね」彼女の手を強く握った。「そろそろ両親に紹介しなきゃね。僕らが愛し合ってるって伝えるよ!」

 「剛くん・・!」

 「そうと決まれば今日さっそく行こう!」

 初めはびっくりしてあたふたとしていたが、強く握る彼氏の手が少し震えていたのを感じてからは自然と笑顔になった。

 (勇気出してくれたんだ)

 二人が公園の出口へと歩いていると街灯の下で立つコート姿の男が見えた。何やら不気味な感じがしたが二人はこれからのことで頭がいっぱいで特に気にすることは無かった。しかしビリビリと何かが避ける音がした。振り返らざるを得ない。

 「フヒヒ」

 先ほどの男のコートが裂ける音だった。全身は黒く、大きな羽を持ったその姿はまさにコウモリ男だった。あまりの出来事に彼女は腰を抜かして地面に倒れた。

 「フー・・あぁ、前菜を食べておくとメインディッシュの香りがより芳醇に感じるな・・ああ、素晴らしい」

 カバンか何かだと思っていた男の足元のそれはカラカラになった犬の死体だった。

 「立つんだ・・立って!」剛は彼女の腕を掴み、無理やり起こして走り出した。

 二人は走り続けた。繋いだ手を握り締め、走り続けた。

 「はぁ・・はぁ・・振り切ったか?」

 背後を見るとそこには彼女の腕しか残っていなかった。辺りを見回しても姿がない。上空を見るとそこには空を飛ぶコウモリ男と足に掴まれた彼女の姿があった。彼女の腕からは綺麗な血が流れていた。

 (もう失血死は免れられない・・)

 「フー・・フー・・」剛はコウモリ男を見た。

 (彼女は死ぬ・・それはもう決まったことだ・・僕はどうする!)

 コウモリ男の背後でキラリと何かが光った。「キィエアアアアアアアアアアア」化け物の悲鳴とともにコウモリの足が切られているのが見えた。落ちてくる彼女を受け止め、剛は走った。

 安全な場所まで走り、ベンチに眠る彼女を横たわらせた。あれは最近の吸血事件の犯人なのだろうと直ぐに察した。彼女が吸われてしまう前に助かったことに安堵した。

 「ごめん・・助けられなくて・・・ごめん」

 冷たくなった頬に手を触れ、キスをした。

 「・・少し待っていてくれ」

 

 「貴様、何者だ!伊藤の仲間か」

 「イトウ?知ラナイナ」機械的ではあるが男の声だった。

 暗闇から現れた男は全身鋼鉄の鎧を纏っていた。フルフェイスメットのような仮面で覆われているため顔は見えない。

 コウモリ男の背後に何かの姿が見えた。

 (応援カ、マズイナ)

 コウモリ男は空中をすばやく移動しているために時間ばかりが過ぎていた。時間稼ぎの間に仲間を呼んだのだろう、そう思ったその時、背後の影はコウモリ男の背中に飛び掛った。

 「貴様!」

 飛び掛ったのは剛だった。「うおおおあああああ」剛は懇親の力で羽の間接を折り曲げた。

 「ガアアアア」

 落ちてくるコウモリ男の首と胴体を真っ二つに裂いた。

 「邪魔・・しちゃったかな・・」

 男は首を横に振った。

 「そうか・・良かった」

 男はそのまま闇の中へ消えていった。それからすぐに明がやってきた。

 「あの、これあなたが・・?」

 「いや、よく知らないんだ」

 「そう・・」

 剛はきっと黙っていることがあの人への礼なんだろと思った。

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