表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二十一  作者: 直線T
1/2

1. 出会い

 そこは燃え盛る熱さの中だった。理由ははっきりとしないが視界はただの真っ暗闇。地面を這いずる手が確かな生を感じさせた。まだ生きている、まだ行けると。何故そうなったのか?何が目的なのかは分からないが、薄れいく意識の中で確かに何かを追っていた気がした。それは敵か?はたまた味方か?それは暗闇と熱さの中でうめき声しか出せない自分をヒントには突き止めようのない事柄だった。

 目を開けた。いや、正確には開けさせられた。目の前はボロ家の中、そしてそこには似つかぬ精密機械の類。自身の手を見つめた。鋼鉄に覆われた冷たい手。あの光景の燃え盛る熱さはすでに無かった。

 (あれは一体誰の記録なんだ)

 頭の中でメッセージが浮かび上がった。

 『ターゲット:吸血コウモリ 場所:逢魔学園付近』

 (またあの場所か)

 壁に掛けられた時計を見る。時刻は昼の十二時と少し。

 (あと三時間といったところか)

 目を閉じた。


 四時間目の授業が終わりを告げるチャイムがなった。男子生徒のいくらかは授業終了とともに急いで食堂へと向かって行った。歳の所為か国語の山下先生は生徒に舐められているところがある。もう六十になるおじいちゃん先生は若い頃にように素行の悪い生徒を怒鳴りつけたりはしない。終わりの挨拶を聞かずに出て行く生徒を微笑ましく見送っている始末だ。

 「いやー食堂のコロッケは美味いけど岡田たちみたいに急いで抜け出すのもなー」

 「なー、いくら山さんとは言えちょっとなー」

 奥にはまだヨボヨボと教室を抜け出せないでいる山下先生の姿が見えた。男子生徒は表情を伺ったが、どうやら聞こえてないと分かると一安心した。その後ろでは何やら急いでプリントを書いている男子生徒がいた。チラチラと山下先生の姿を確認しながら書き上げ、急いで山下先生の元へ走った。

 「っつ」

 急いだ時の反動で隣に座っていた女子生徒の机が揺れ、顎肘を突いていた手が外れた。

 「山下先生!すみません、先週のプリント出し忘れてて・・」

 「松井君、次からは気をつけるようにね」

 「はい、すみません」

 席に戻ってため息をつくと、隣から嫌な視線を感じた。それは隣に座る伊藤明からの視線だった。

 「えーっと・・何か?」

 「あなた」言いかけた言葉を仕舞った。「・・・はぁ、なんでもない」

 「あー・・そう?えと・・なんかごめん」松井は席を立って友人達の元へ向かった。

 明はクラスでも目立った美人で、入学当初は男子にそれなりの人気があった。本人の気取らない性格と、それでいてどこか上品な振る舞いに惚れた男子も多い。しかしながらある日を境に彼女は今のような近寄りがたい存在へとなってしまった。

 明はカバンから弁当箱を取り出した。相席の相手もおらず、ただ一人で弁当を食べていた。しかしそこに悲しみやつらさは無かった。もっと別のところに頭が働いていたからだ。

 「なぁ、昨日のニュース見た?」近くの男子生徒の会話が耳に入った。「吸血男が現れたって話」

 「え?何?変態の話?それともまた怪物?」

 「怪物の話。なんだよ変態の話って・・。なんか偶然殺人現場を見たって人の証言によると、カラカラに乾いた死体の横にでっかい翼を持った犯人が立ってたらしいぜ。だからネットじゃあ吸血男だの吸血コウモリだの言われてるらしいぜ」

 途中の弁当を仕舞い、明りはどこかへ去ってしまった。

 「食事中の話題じゃなかったかな・・」


 保健室のドアを開けると保健の先生が何やらパソコンで作業をしていた。若く美人で長く黒い髪をたなびかせる姿、気楽に接してくれることで男女問わず人気の先生だ。

 「田辺先生」

 「どうしたの?伊藤さん」

 「ああ、いえ・・今は普通にしてくださって結構です。吸血コウモリの事件、もう被害者は五人目です。それもすべてこの学校の生徒・・私もう限界です!」

 田辺はまぶたを指で押さえたままうつむいた。「気持ちは分かるわ、でも屈してはだめ。あいつらはあなたを精神的に追い詰めているの。ここで屈してしまっては被害者がこの学校の生徒どころでは済まなくなる!絶対にあいつらにカードキーを渡してはだめ。」

 先ほどまで強気だった明の表情はどんどん曇っていき、今にも涙を流しそうだった。田辺は立ち上がって明を抱きしめた。「大丈夫。それに例のヒーローも」

 「少し休んでいきなさい」

 明はベッドに横たわった。仕切りによって誰も自分を見れなくなった途端に涙が抑えられなくなった。それでも声だけは誰にも聞こえないように、濡れた枕を強く握り耐えた。僅かに後ろから声が聞こえる。

 「せんせー、サッカーしてたら擦りむいちゃってー」

 「あらーそんなの水で洗っておけばなんとかなるわよ」

 「簡便してくださいよー」

 「フフ、はいはい。今絆創膏用意するから」

 (先生は強いな・・)

 明は布団を深くかぶった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ