どうか、わたしを。
初投稿です、緊張です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
ふと気がつくと、私の手は真っ赤に染まっていた。
ああ、またやってしまったんだなと動かない頭でぼうっと考える。
赤は、私の手だけではなく、あたり一面も染めていた。
赤は大嫌い。
いつも目を覚ませばその色が周りを覆い尽くしているから。
町を焼き尽くす炎、そして大きく広がる大量の、血の海。
昨日までこの町にはたくさんの色があったかもしれない。
昼には子ども達のはしゃぐ声や大声を出し物を売る商人の声で、夜にはあちこちから漂う晩御飯の匂いと大切な人を待つ家々の暖かな灯りで埋め尽くされていたかもしれない。
でもそれはもう、今となっては遠い昔の事だと思える。
家々の灯りは消え失せ、もはや瓦礫となって燃えている。人の声はまったく聞こえないどころか私以外誰もいやしない。
当たり前だ。
だって私が殺して、壊し尽くしたのだから。
これで何度目になるだろう、人を、町を殺すのは。
始めは決して忘れないように、自分のしたことの罪の重さを感じるように数えていた。
けど、途中で数えられなくなっていた。
これ以上数えると、私が私でいられなくなると、私が感じたから。
研究所は、精神が崩壊しては魔力実験の失敗だからと私を壊れないようにした。
記憶を覚えていては、私が壊れるだろうと。
だから、過去の記憶を封じ、記憶の海に沈めた。
今までやってきただろう町を殺した記憶、思い出、帰る場所、家族の、記憶。
うっすらと、私にも家族がいるんだろうと分かる。もちろん家族構成や顔なんてわからないし、名前一つだって思い出せない。
思い出そうとすれば頭が痛んで、脳が私を拒んでしまう。私の一部なのに、私を拒むなんて、おかしな話だ。
だから今の私にあるのは、『フユキ』という名前の記憶だけ。
フユキという、音だけ。
死んでしまった町を歩く。
ここは、この町はどこなんだろう。
ほとんどのモノは燃えていたり、灰や炭になっていてよく分からない。
ふと、燃えていないものを見つけた。
ソレは、もう息をしていない、人間だった。
顔は驚愕に固まっていた。
驚き、憎しみ、死という恐怖と絶望を顔に貼り付けて、死んでいた。
この人達は皆、当たり前に明日が来ると思って生きていた人。
朝の太陽に感謝して、汗水を流しながら働き、友人や家族と笑いあい、恋人に愛を語り、夜には月に見守られ明日を憂いながら幸せに眠る。中には人には話せない非道なことをしてしまった人もいただろう。
いや、もしかしたらこの町はそんな人達で溢れかえっていたのかもしれない。
朝の太陽を拝めず、死んでいった人達の死体で道は溢れ、子供たちは物を盗み、年端もいかない少女は自分を売り、明日を神を呪いながら眠りについたかもしれない。
もう、こんな町の有様では本当のところは分かりはしないけれど。
でも、だけど。
それでも、皆、生きていた。
まだ見ぬ明日に希望と絶望を抱きながら、生きていたのだ。
そんな生きている人たちを、私は殺した。
ごめんなさいごめんなさいと、どこからか小さな声が聞こえる。
ううん、違う、これは私の口が呟いているのだ。
ごめんなさいごめんなさい、謝ったって何一つ変わらないけれど、ごめんなさい。
明日にはこの町のことすら忘れてしまっているだろうけど、ごめんなさい。
こんな私が生きていてごめんなさい。
だけど自分では死ねないの。
まえにガラスでくびをきろうとしたけど、いしきをうしなう。どうやらじさつをしようとしたらいしきがかってにシャットダウンするようだ。この記憶を思い出すとあたまがぼうっとしてまとまらなくなる。勝手に途切れて、チャンネルも合わないなんて壊れたテレビのよう。
もう何度も繰り返してるからなのか、研究所も消しゴムを使うのを面倒に思ったからなのか、この記憶は覚えている。
だから、ごめんなさい。自分を止めることもできなくてごめんなさい。
そんなの、もう人間じゃなくてロボットみたいね。
ほんとうにごめんなさい。
ああ、そろそろ、時間だ。
遠くで人の声がする。
もしそれが私を回収にきた研究所の人間だったら、ここで意識は途切れる。眠りにつくと言った方が正しいかもしれない。
そしていつもと同じように、次に目がさめる時は、私が町を殺した後、また一つ町が死にゆく時だろう。
だけど、願わくば。
誰だっていい、研究所の人間でない人だったら誰だっていいから。
その人が、私を探してくれている人なら尚のこといい。
私をわざわざ探してくれる人なら、出現鬼没な私を執念深く追っている、それだけ私を殺したいほど憎んでいる人ってことだから。
だから、どうか、どうかお願いします。
神様、もしいるのなら、お願いです。
そんな人が私の前に現れますように。
それがラピスラズリのような青い瞳の持つ、あの人ならいいのに。
昔、一度だけ見たことがある。
会話した訳でもなく、ただ目と目が合っただけ。
でもその後なんだか頭から離れなくて、それは恋だと誰かに言われたんだっけ。
あの澄んだ青ならば、この醜い赤を消してくれるに違いない。
なんて、都合のいい話で夢のような話ね。
こんな私がそんな夢を抱いていいはずがないのに。
夢物語もここまで。
さて、そろそろみたい。
私はいつものように祈り、最後に呟きながら、目を閉じた。
どうか、わたしを、ころしてください、と。
この後の話はハッピーエンドだといいですよね!というか、私自体ハッピーエンド大好きなので、そうしたいところです。
また決まっていけば書きたいと思います。