第4話:様々な思惑
『城内会議室にて』
「それでは定刻になりましたので、今から会議を開始します。今日の議題は勇者についてです。まずは勇者育成係のルーガ殿、報告をお願いします」
やっと始まったな。早く娘の顔が見たいのにサヴァトめ。欠席とは何事だ。
「はい!報告します。ユート様は異世界では一般市民だったらしく、剣の持ち方も出来ていませんでした。しかし、飲み込みが早く、今では並の兵士を倒すことが出来ます」
まぁいい、剣術とは素人だったとしたらそんなものか?
「更に今では、ある事をきっかけに、やる気が向上しております」
ん?あること?
「ルーガよ、ある事とはなんだ?」
「えっ、えーっと実は……訓練所で何故かサヴァト様に決闘を申し込みまして、その時に圧倒されまして…」
まったく、奴は何をやっておるのだ。
「そうですか。では次に、同じく勇者育成係のメルナ殿、お願いします」
むっ、魔法担当はメルナだったか。確か父親が嫁に出さないし養子もいらん。メルナだけで充分だ。とか言って娘は行き遅れ、自分は病死して娘に当主を継がせたあの親バカ伯爵の娘か。可哀想に行き遅れて。まったく、親バカな親を持つと大変だな!
「はい。まずユート様の魔力ですが、並の魔法使いよりは多いですけど、サヴァト様や宮廷魔道士のテルミー様より少ないです。そして属性ですが、火、水、風、土、聖、無が使えて、時空、闇属性は使えません」
サヴァトは全属性使えるのにか?やっぱりサヴァトは物凄い逸材だったのか。確かその属性の適正が無いと消費魔力が倍になって、得意な属性だと、消費魔力が半分近くになるんだったか?あれ?覚えてないな。
「魔法については、異世界に魔法や魔力はなく、カガクやデンキなるものが発展しているそうです。なので魔力の使い方を知らず、初級魔法も使えませんでした」
しょ、初級魔法も使えないだと!?我でも中級魔法位なら使えるのに。
「ですが今では、ある事をきっかけに、やる気が向上しております」
あること?またサヴァトではないだろうな。
「ユート様が中庭で訓練している時に、新しい属性を作ったと言ってるところにサヴァト様が偶然通りかかりまして」
また奴か、よく勇者と何か起こすな。
「ユート様が自慢したところ、サヴァト様が自分も使えると言って見せたら怒りまして、サヴァト様はそのまま通り過ぎたのですがユート様は暗い笑みを浮かべていて、その日は精神の不安定による魔法の暴走を危惧して、部屋に帰らせようとしました。なので、声を掛けたところ、何故かやる気が向上してました」
「うーむ、勇者の実力をさっさと上げるにはサヴァトが近くに居た方が良いのか?だが精神的に不安な面もあるな」
今はまだ良いが、もし心が折れたり城から脱走したら、各国から圧力を掛けられてしまう。そうなると外交として我が愛しの娘を嫁に出さなくてはならない。そんなことは絶対させないがな。
「では現状維持という事だな」
「「はっ!」」
「では次に勇者に王都の外で魔物を…」
はぁ、早く終わらないかな。
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『レインブル公爵(サヴァトの父親)視点』
まったく、サヴァトめ。変な事ばかりしよって。しかも会議に来ないとはどういうつもりだ!
折角王家と親族になろうとあいつを適当な理由をつけて幼い頃からシルヴィア様の近くに居させてるのに、全く噂の一つも無いじゃないか。跡取りをどうする。
むっ、メルナ殿は行き遅れていて血筋もしっかりしておるな。サヴァトが迫れば簡単に落ちるだろう。爵位は伯爵か。もう少し上が良かったが、姫様がダメだった時の保険はメルナ殿だな。
しかし、あの勇者。部下に聞くところ、シルヴィア姫に色目を使っているらしい。舐めた真似しよって。魔王討伐をしたらそのまま事故に見せかけて井戸のそこに埋めてやる。
もう一人の方はダメそうだし。
だがあいつが、次期宮廷魔道士とまで言われ、騎士団の中でも上位に入っているのだけがせめてもの救いだ。
あいつは単なる武官や文官になるには惜しい能力を持っているからな。それなのに今は文官で、しかもあいつの上司から『要領は良いですが、あの、その、た、たまにサボると言いますか、何も言わずに消えてしまって大変です』と言われたんだぞ!
しかも『い、隠蔽結界を張っているので探しようがありません』とかそんなに重要なことがあるのか!?
さらに部下から勝手に護衛も無しに街に行くのは止めさせてくださいって苦情もくる始末。城下町で何をしておるんだ。
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『どこか遠い場所にて ???視点』
「ふふふ、もうすぐ帰れます。待っていてくださいね?おねぇさま、おにぃさま」
「ジャンヌ様〜、馬車の準備が出来ました!」
「ふふ、わかりましたわ。今行きますからね」
サヴァト・レインブル:17歳
レインブル公爵家:嫡男
適正属性:火、水、風、土、聖、闇、時空、無
得意属性:水、時空、闇
苦手属性:無し
騎獣:クルル(次元竜)
赤髪青目のイケメン。幼少の頃からシルヴィア・スズキと仲が良く、よく遊んでいた。
壱にシルヴィア、弐にシルヴィア、参肆もシルヴィア、伍に姫様、というほどシルヴィアが大好きで、少しストーカー気味だが自室にシルヴィアの自画像を飾るほどではない。
サヴァト曰く、『そんな偽物のシルヴィより、本物の方が美しすぎて、偽物が近くにあると落ち着かない』らしい。
クルルについては、シルヴィアがクルルの卵を入手したが、姫様は前線で戦わないでと言われ、サヴァトがテイムした。