表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/142

ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.1⑫

「ただいま、ナズナ」

「……」

「おい、ナズナ?」


 転移はできなくなかったが、この先の2階層構築に向けて、少しでも多くのDPを持っておきたかった。

 その結果、牢屋エリアから住居エリアまでとぼとぼ歩いてきた俺を迎えたのは、ナズナの無言だった。


 住居エリアを出るときとまったく変わらぬ位置にいたナズナは、もはや抱き枕と化しているスライムをぎゅぅぅ、と強く抱きしめていた。

 そして、俯いていた。


「おーい、ナズナさーん?」

「……」

「──寝てる訳じゃねえのな。おーい。ナズナー?」


 近づいていき、顔を覗き込んでみると、ふぃと顔をそらされた。

 一瞬だが、ナズナの頬に涙が見えた気がして、無視されたことを怒るに怒れなかった。


 ナズナには、捕虜を拷問しているところを見てほしくなかった。

 だから

「牢屋に行ってくるが、できれば見ないでくれ……」

 なんてお願いをしたわけだが……一人ぼっちにされて寂しかったか、もしくは拷問シーンを見てしまったかな。

 命令するだけとは言え、一緒に笑っていた仲間が拷問してきたなんて、簡単には受け入れられないものだろう。


「俺のこと、軽蔑したか?」


 俺の心は、いまだに冷えていた。

 放っておけ、聞いてはいけないと思った瞬間には、口から言葉が漏れていた。

 ナズナは、泣き腫らした目で、俺の目を見た。


 ──怖い。


 彼女の目は、光を失っていた。怒りと悲しみと諦めと軽蔑と失望と、絶望で濁っていた。

 廃人ってのは、全員こんな感じの目をしているのかもしれない。


「………………ますたーの、おすきなように」

「あんなの好きでやった訳じゃない……なんて言っても、言い訳にしか聞こえないよな」

「……」


 ナズナはスライムを抱きしめていた腕に、更に力を込めた。

 スライムが潰れ、苦しそうな声を出した。


「──も、やだ……」


 小さく呟いたナズナの声。

 静かな部屋だからこそ、聞き取れたような小さな小さな、彼女の本音。


 そこで、とある可能性に思い当たった。

 ナズナにも、前世はあるんじゃないか?

 ナズナは神々より与えられたサポートキャラだが、もしかして俺と同じように地球出身……と、まではいかなくても前世の記憶があるんじゃないか?

 そうだ。少なくとも。少なくとも前世の死の記憶……神々によるカエルの解剖のような拷問の記憶があるんだとしたら?

 俺が男戦士にした拷問によって自身の死がフラッシュバックし、絶望している。


 思えば、ナズナはサポートキャラとして生まれたばかりなのに、死ぬことを異常に怖がっていたような気がする。

『私のために生きて』なんて重い発言をしたが、それは俺が死ぬとナズナも死ぬからであって、病んでいたんけでも、俺を愛していたわけでもないだろう。

 ほぼ初対面の男に、自分の身体を売ってまでも生にしがみついていた。『まだ死にたくない』なんて言っていた気さえする。


 ──俺は、ナズナを抱きしめた。


「ごめん。ごめんな、ナズナ。俺は──」

「触らないでッッ!!」


 ドン、と強く突き飛ばされた。

 ナズナが泣きながらも俺に愚痴を言うところまで想像していた俺は、予想外の行動に呆気にとられ、背中から地面に叩きつけられた。

 いってぇ……体力少し削れたぞ…………。


「やめて……もう、やめて…………なんで、なんでみんなそう(・・)なの……? もう酷いことしないであげてぇ……っ」

「…………ナズナ?」


 泣きじゃくる姿は、理不尽に遭遇した子供のようで。

 ある日、両親を事故で無くしたドラマの子役のようで。

 自分の命よりも大切なものを根こそぎ奪われた姿ようで。

 …………ナズナが小さくなって、消えてしまう幻覚さえ見えるほどだった。


「マスターも! ▽◇◆▲*△も! みんなも! みんなみんなみんな…………死んじゃえばいいんだ……っ」

「……あー、ナズナ。やっぱり、見てたのか?」

「見てないよッ! 見ないでほしいって、そう言うから見なかったけどッ! 女の人を捕まえたからって、そうやって──ッ」



 女の人を捕まえたから……?

 あ。わかった。

 もしかしてナズナって、俺がレイプしてきたと思ってんじゃね?



「ナズナ聞いてくれ!」

「やだ…………もうやだ……みんな死んじゃえ……もう、生きていたくない……ッ」

「聞けナズナァ!」


 耳を塞ぎ、胎児のようにうずくまってしまったナズナの手首を掴む。ナズナの方が力が強いとか一瞬パンツが見えたとかかんけえねえんだよ!

 俺が聞けって言ってんだから耳を塞ぐなってんだ!!




「実は俺、不能なんだ!!」



「俺のち○こが勃たないんだ」

「…………え?」

「聞いてくれ、落ち着いて聞いてくれ、ナズナ。俺って心臓がないせいで血液が動かないらしくて、体温が無いだけじゃなく、ち○こも反応しないんだッ」


 なんてアホくさく、恥ずかしい告白なんだろう。

 だが、効果はあったらしい。

 絶望で光を失っていたナズナの目は、きょとんとしたまま、きちんと俺の目を見た。そうして、死ぬほど白かった顔が、今度は死ぬほど赤くなっていくのを見て……俺も恥ずかしくなってきた。


「かん、ちがい……?」

「たぶん。俺は牢屋で男戦士を拷問してきたが、そういうグロいのを見せたくなくてさ」

「でも、女の人を3人も捕まえて……」

「言っただろ、俺は不能だから捕まえたところで触っても虚しいだけだぞ。それにこの世界にきてからナズナ以外の女の子の手も触ったことはないし」

「…………………………………………しにたい」


 先ほどとほぼ変わらない台詞。

 だが、いつも通りのナズナに戻ってくれたのがわかり、安心できる『しにたい』だった。





 頬が痛い。

 俺は何も悪いことをしてないのにナズナにビンタされて、頬がすごくヒリヒリして痛い。

 何気に体力が3割下回ってて怖いんだが?

 自分の主を7割殺ししている当人はまだ顔を赤くして、スライムを抱きしめたままだが、完全に誤解は解けた。



 捕虜が逃げないように、逃げようとした奴に拷問をするという宣言をしてきたこと。

 男戦士が逃げようとしていたので拷問をしてきたこと。

 ……ナズナには、俺が非人道的な拷問をしているところを、見てほしくはなかったこと。



 そう伝えると、ナズナは理解してくれた。

「日向君も人間だよ」

 なんて、気休めの慰めをしてくれたが、それが随分と心地よかった。

 俺も、俺を人間だと思ってる。


「日向君のえっち……」

「そのえっちができない体なんですが」

「ばか。あほどじ。へんたい」

「……俺を慰めるためにエッチなことをしてもいい、なんて言った人がなんで今更」

「あの時は忘れてたのっ!」

「何を?」

「────」


 ナズナは口をパクパクさせて、何かを言った。しかし空気が漏れるだけで、声がでないことに本人が一番驚いているようだった。

 何度か口をパクパクさせた後、少し残念そうな顔をして、ふるふると首を横に振った。



 今回でわかったことは、ナズナも前世の記憶があるということ。

 そして、性的なことがトラウマとなっていること。

 また、神々に前世のことを話せないようにされていること。



 ……神々に拷問されて解剖される前に、レイプされた、とか?

 神って最低だな。やっぱり殺すか。


「無理して言わなくていいよ。死にたくなるほど嫌な記憶なんだろ」

「…………………………ぅ」

「あーあー! ごめんごめん! 別のこと考えよう! しりとりとかしよう!?」


 ナズナが口元を抑えたのでトラウマスイッチを入れてしまったかと慌てる。

 ナズナはちらりと俺を見たあとに、楽しそうに笑った。ちらりと舌を見せていたずら成功の笑顔を浮かべた。


「ふふっ。ご迷惑をおかけしましたっ」

「いや、俺も紛らわしいことして悪かった」


 お互いにペコリと頭を下げて、今回のことは水に流す。

 ナズナについて、少し知りたいことは増えたが、調べる方法がないんだよな。






「──なんで今来るんだよッ!?」


 時はおもいっきり進む。

 残り時間4分3秒。レベル1としての限界を迎えつつあった今、侵入者を告げるアラートが鳴り響いた。


 食べる意味のない夕食をナズナと一緒に食べ、牢屋にいた4人へと夕食を運んだ。

 サンドイッチを一人3個と、少々ケチ臭いが、許してもらおう。レベル2になったら2階層を作るために多めのDPを確保しておきたかった。


 侵入者のアラートを聞いて、ナズナへと目を向けた 。

 ……ナズナは今、眠っていた。

 泣いて体力を使ったこともあってか、ぐっすりすやすやと寝息をたてているナズナを起こさないように、コアルームへと移動した。

『ぬりかべ』がそこで待機していた。まるで一人でもやれるよな? なんて問いかけてきているように。



 残り1秒とかのギリギリをせめると手違いで死亡、とか怖かったから、余裕をもって残り3分になったらレベルアップしておこうと考えていた。レベルアップのやり方も先ほど調べておいた。

 ダンジョンコアを『侵食』でptを注ぐだけ。そして俺を追従し続けるウィンドウには、ダンジョンコアに100ptが選択され、『決定』を押すだけとなっていた。

 押したら、そのままの勢いで2階層を作ろうと意気込んでいたところに思わぬハプニングだ。



 いっそ、今すぐレベルアップするか?

 ──いやダメだ! もしもレベルアップ時に気絶するようなことがあれば、詰む。



 敵の数、4人。武装は重装備1人、軽装1人。他2人はどっちともつかない防具をしていた。中装って言っていいのか?

 男2、女2のパーティだが、女2人の目が死んでいる。さっきのナズナといい勝負の、廃人の目だ。そして、首には首輪。……奴隷か?


「ダンジョン『防衛開始』!」


 新たに設定した特殊ワードを呟くと、20を越えるウィンドウがポップする。

『ぬりかべ』を覆うマットのような拡大されたマップへと目を向ける。そのマップには敵を現す赤いマーカー。味方を現す青いマーカーが表示されている。




 残り時間は3分59秒。つまり4分。

 レベルアップ時には敵を撃退しきった状態が好ましい。それに牢屋は満員だ。捕獲を考える必要はない。


「かかってこいクソども。レベル1最後のダンジョン防衛だオラァ!」

残り時間4分


所持ポイント

331pt

10462DP

0/100EXP


防衛戦力

日向(ダンジョンコア)

ナズナ(フェアリー)

ベス(スライム・レッド)

ハウル(ホブゴブリン)

オオバコ(ファンガス・ドラッグ)

ぬりかべ(デスク)

ペコちゃん(特殊罠・投石器)


スライム6体

ゴブリン28体

ファンガス5体

キラーバット4体


ゴブリンの死体9個

キラーバットの死体1個


捕虜……捕獲ポイント960DP/h

ダニィ(戦士)

シャーレイ(剣士)

シズク(魔法使い)

タバネ(罠師)



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

敵戦力


ローラー(狩人)

ガレア(戦闘商人)※ユニーククラス

カーヤ(奴隷・重装歩兵)

メイサ(奴隷・魔法剣士)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ