表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/142

ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.1⑪

 失った戦力の補充から行う。

 と、言っても。ゴブリンは毎時間産まれるので、ファンガスとキラーバットだけだ。その他のDPは違うことに活用させてもらおう。


 400ptをDPに変換する。残り341ptだがレベルアップ意外にもご飯とかで何かと必要になるのがわかったので余裕をもって確保しておく。

 まずはキラーバットを3体召喚。ファンガスも1体召喚。残り319DP。


 失った分はこれでいいだろうが、この先は足りなくなると思う。だからファンガス召喚陣を30DPで起動。キラーバット召喚陣を50DPで起動する。どちらも12時間で1体召喚される。

 これは日付が変更時点でDPを徴収され、その瞬間から召喚される。

 毎日徴収は痛いが、毎回殺されて減っていくことを考えると仕方ないかもしれない。毎日110DP徴収されるって、きついな……


「ゴブリン総員でダンジョンにある死体を放置所へ運んでくれ」


 針山に落ちた司令塔は穴ぼこだし、死体にも割合ダメージは入るようでスケルトンとして復活は無理だと思う。なのでその装備ごと『返還』する。

 ……そういえば侵入されたエリアが灰色になっていたが、今では戻ってるな。侵入者を倒したからか?

 あー……燃やされたファンガスの死体も無理そうだな。『返還』しておこう。

 他には……お、弓使いの弓が針山にまだ落ちてるな。再利用したいが弦が切れてしまってる。『返還』っと。


 司令塔の防具一式を『返還』できたのが大きい。203DPは嬉しい誤算だ。

 ゴブリン4体と運よく針山に落ちなかったキラーバット1体の死体が放置所へと投げ捨てられる。

 ステータスを見ようにも生きてない物には存在しないらしい。いつ進化するのはわからないな……。


 他の捕まえた4人の装備は、防具を含めて没収だな。ゴブリンにつけるにしてはオーバースペックだし、そのゴブリンを倒して奪われるのが怖いから住居エリアの隅にでも投げておこう。

 いざってときは俺らが着て戦えばいいんだし。





「……んだ、ここ?」


 ダニィと呼ばれていた男戦士が目を覚ました。

 彼はまだぼんやりとする頭で、必死に状況を確認しようとして……彼を囲うように鉄の柵が立てられていることに気づいた。

 そこは、まるで牢屋だった。

 いや、まさに牢屋だった。


 鉄の柵2枚越しにシャーレイも捕まっているのが見えた。見るとタバネとシズクも牢屋に入れられているのが見える。

 シャーレイ、彼女の両手両足には枷がはめられていて厚い金属でできたそれからは鎖が壁へと繋がっているのが見えた。

 ……まさか、と思ったダニィが自身の右腕を上げると、ジャラジャラとやかましい金属音と共に鉄の枷が視界に写った。


「……ダニィ、起きた?」

「──シズクか。何がどうなってやがる」

「……わからない。私も、起きたばかり」

「俺より早く起きたんなら少しくらいわかんだろッ」

「うるさいですわよ、ゴミ。大体、あなたのせいで捕まったんじゃないですの」

「アァ!?」


 ダニィは混乱からか、荒々しい言葉遣いになってしまう。普段嗜めるロイド──日向がイケメン司令塔と呼んでいた彼──がここにはいないことが原因というのもあったのかもしれない。

 目の前にいたシャーレイ──女剣士と呼ばれていた彼女──は、今の現状を恥じている様子だが、つい自分のことを棚に上げてダニィを貶してしまう。彼女自身、それがよくないことだと薄々理解していた、けれど、やらないわけにはいかない。


「もっぺん言ってみろ非力女ァ! てめえが俺の指示に従ってればよかったんだクソ!」

「……ダニィ、うるさい」

「てめえもだよシズク! ……だいたい、おまえ。ロイドはどうした。こうならねえように盾でちまちま守ってたんじゃねえのかよ!?」

「……ロイドは、死んだ。……そのせいでタバネも」

「アァ?」


 ダニィは、とてもシャーレイの言っていることが理解できなかった。

 口ではボロクソに言うものの、彼はロイドのことを認めていた。自分みたいにただ殴るのではなく、戦況によって立ち回りをガラリと変えられる彼を羨ましく思ったことは一度ではない。

 常に周囲に気を配り、やれることを全てやりきるあいつが……ロイドが、死んだ……?


 ダニィは、話題に上がったタバネの姿を探す。

 いつもひっついた糞みたいにロイドの背中につきまとっていた彼女が、ここまで静かなのも意外だった。ロイドの次に自分へと声をかけてくれる人物だったが……そんな彼女もここに捕まっているというのが、自分の目で見ても信じられなかった。

 ましてや──


「ロイド……たすけてよ……ロイド……ろいどぉ……ばかぁ……」

「……おい、死んだってのはマジなのか」


 踞り、さめざめと泣いているタバネの姿を見て、ようやく事態の深刻さを理解した彼は、今更ながらに慌てふためく。慌て、手枷が立つことさえ許さない現状を知り、顔を青くする。

 混乱から、恐怖へと。


 大体どうして他の二人はこんなに落ち着いている?

 物理的に動けないとはいえ、シャーレイがただ黙っているのも異様だ。

 おかしい。何か……いや、全てがおかしい。


「よ、初めまして」


 そこに穏やかな男の声が聞こえてきた。

 全員の……タバネを除く3人の視線が彼へと向かう。


 黒髪の単髪。いささかパッとしない、それでも優しいのだとわかる雰囲気。常にグルグルと思考と諦念を浮かべている不思議な青年がそこにはいた。

 彼は、2体のゴブリンを連れている。

 体格や見た目こそ普通のゴブリンだが、口元にタオルを巻き、両手には値打ちものだろうナイフを2本持っている。そのゴブリンの目にも狂気の色が浮かんでいる。


 もう一体はホブ・ゴブリンと呼ばれる種族だ。

 ゴブリンより強く、駆け出し冒険者には少々キツく。こいつを倒せたら中級者の仲間入りと言われる魔物だった。


「……だれ?」

「どちら様ですの?」


 ダニィだけは声を出さず、困惑の色を強くした。なぜシャーレイとシズクは暴れることも、自暴自棄になることもせず、物静かに質問などしているのか、と。


 その答えはシズクとしてはダンジョン内で殺し合いを始めて捕まった仲間へと失望からくる諦めに近い感情であり。

 シャーレイとしては内心を圧し殺して上品に努めようとしている結果なのだが。

 ダニィは困惑の色をさらに強めていく。


「誰って言われるとちょっと困るんだが……ここのダンジョンを守ってる人だな」

「守ってるだと!? 出しやがれ、さもなくば殺すぞ……ッ!」

「戦士さん、おまえは一番元気がいい。だから少し落ち着いてもらおうと思ってさ」

「アァ? 何言ってんだてめえ、殺すぞ?」


 黒髪の青年……日向がとことこと歩き出し、ダニィの牢屋の前までくる。日向が念じるだけで、手枷足枷についていた鎖が巻き取られ、さらに短くなっていく。

 遂にダニィは壁に張り付けにされる。

 どれだけ暴れようと、彼自慢の腕力を振るおうと、壁に吸い込まれた鎖が戻ることはなかった。


「えっと。ダニィ、だっけ? こっちとしては死なれるのも逃げられるのも困るんだ」

「……今ならまだぶっ殺すだけで許してやるぞ、離せ」

「お前は逃げようとした。そのため、罰を与える」

「は?」


 ダニィの牢屋を開けると、ナイフを持ったゴブリンを入れさせる。そして日向は、試し切りしていいぞ、と呟いた。



 ぶしゃり。



 ダニィの肌を引き裂くナイフ。吹き出した血は剥き出しの地面と目の前のゴブリンを汚す。


「あああああああ!!!! が、あああああ!!!」

「──おえっ」


 口元を抑えて、今にも吐きそうな顔色をした日向は、それでもダニィから目をそらさない。

 ゴブリンは二度、三度とナイフを振るうが、ダニィの防御力故か致命傷には至らない。……それが逆に、彼を苦しめているのだが。


「ふー……。さて! 捕虜の諸君。こちらとしては君たちに危害を加えるつもりはない。ないが、こちらに不利益のある行動をしようとした場合は別だ。俺の主観によって脱走と判断し罰を与える。……こんな風に」

「あ、が……かはっ……ぃぎ、ぁ……」


 突き刺し、抉り、切り裂き、削ぎ落とし。

 腹部への殴打、喉への柄での突き、傷口から内蔵を引き出し、指などの部位欠損。

 ダニィの傷は、数十にも至り、洒落にならない量の血肉が床に溢れていた。日向の素人目から見ても、出欠多量でそう遠くないうちに死ぬことが予想された。


「さて、スライムに『命令』する。ダニィを止血するんだ」

「……ぷ」


 泡の弾けるような小さな鳴き声。

 日向の手によって放たれたスライムは、ダニィの表面を覆い、傷口に粘液を捩じ込んでいるようだった。

 けれど、スライムの粘液によって血液はもう流れ出さなくなっている。


 日向は、これで進化すればいいが……なんてことを考えておぞましさを黙殺する。


「ご飯はきちんと出すから安心してくれ」

「……いつ、出れるの」

「そうだな。少なくとも5日くらいはここにいてもらうことにはなる」


 シズクはこんな状況でも無表情を変えることなく質問をしていた。

 シャーレイはダニィへの虐殺を見て、顔を青くしているというのに。


「……目的は」

「捕虜を捕まえておくこと」

「……嘘」

「嘘じゃない。逃げようとしない限り、こちらからは何もしない。それは男であっても、女であっても」


 シズクは、それ以降黙ってしまう。

 タバネは相変わらず、今は亡きロイドへと言葉を投げかけている。

 しかし、シャーレイは


「私たちを今すぐここから出しなさい! ダンジョンに荷担するなど言語道断ッ! 処刑される未来しかあなたには無いんですのよッ」

「……ハウル。そういえば聞いたことがなかったけどさ、人間の雌とか欲しい?」


 ハウルはギャアギャア叫びながらこん棒を『一回だけ』振り上げる。それは事前に決めていた、肯定を意味する行為だった。

 それを見てから日向はシャーレイへと顔を向ける。彼女の恐怖の顔を見てから、再びハウルへと向き直る。


「そっか。だけど弓使いに逃げられた件もあるから今はまだダメだ。今度活躍したら必ずあげるから、我慢してな」

「ギャアアア!」

「うるせえ」


 日向は牢屋から立ち去ろうと歩を進める。

 ハウルも、ナイフ持ちのゴブリンも彼を追うことはしない。見張りを『命令』されているため、床に座り、じぃと捕虜たちを見つめた。





「──ぅ、おぇぇ……」


 詐欺られた気分だった。

 いや、新しく取った、たった1つのスキルに頼りすぎただけかもしれない。


『凍心』


 それが俺が1しかないSPで取ったスキルだった。


「ぅ……く、う、あぁ……っ」


 いっそ感情なんてなかったら。そう何度思ったことか。

 そうしたら怖くなることもない。

 人にイラつくこともない。

 相手を傷つけても気に病むこともない。

 ナズナに罪悪感を感じる必要もない。


 だから心を凍らせるスキルをとった。いらない感情を捨てるため。

 だが、俺の望んでいた効果ではなかった。


 起動すると感情の振れ幅を抑え、心を凍らせる。しかし、一定時間後、その凍らせた分の感情が戻ってくる。

 ……つまりは、恐怖を後回しにするスキルでしかなかったんだ。

 俺は恐怖を無くし、拷問する罪悪感と忌避感を無くしてほしかったのに!


 牢屋へ向かっている間の恐怖の感情が溶けきった。涙が溢れ、震えるだけの体を押さえ込むのには成功した。

 次は、男戦士を拷問した気持ち悪さがフィードバックするはずだ……。


「ナズナは、言いつけ守ってくれたかn──ぅ、ぷ」


 独り言を言い終わるのも待ってくれず、吐き気が押し寄せる。口元を抑えるが、抑えきれない。

 食道を込み上げるおぞましさと、焼ける痛みを知覚し、膝をついた。せめて服にかからないように、と前屈みになって腹を抑える。


「はは、は……はは……ぅ、ぼうぇっ」


 目の前に現れる吐瀉物を、つい見てしまう。

 それは、原型を留めた食べ物だった。ナズナと数時間前に食べた朝ごはんのセット。

 それが、噛み砕かれただけで、何一つ消化されることなく吐き出された。どこも溶けることがなく、ただ俺の胃に入っていただけ。

 床に落ちたおにぎりを踏みつけた方が崩れた形をしているんじゃないかって思えるほど、原型を留めている。


 ナズナがなんと励まそうと。

 俺がどう思い込もうと。

 ……状況は、明らかに俺が死んでいることを示していた。

 俺はすでに人間ではなくなったことを突きつけられていた。


「食べる意味、ねぇじゃん……ぼぇぇ……」



 二度、三度に分けて食べたものを全て吐き出す。

 胃液さえも出なくなっても吐き気は止まらないが、出すものがないので強制的に打ち止めとなったらしい。

 吐瀉物は『表示』からの『返還』できれいに消す。ptにもDPにもならないが、手間をかけることなく掃除ができるのだけは便利だ。特に今みたいに具合が悪いときは。


「……こいつらみたいにならないためにも、頑張らないとな」


 牢屋のすぐ隣の部屋は死体を投げ捨てておくための部屋だった。

 ようやく周りを認識できるほどの余裕が出てきたが……ゴブリンの死体が山積みになっているのを見ると、吐き気がぶり返す。

 本当ならば、ここには奴隷娘の死体とイケメン司令塔の死体も積んであるはずだった。なんだかんだで『返還』していたから今はないのが、良かったのか悪かったのか。


 ……俺が生きるためには、たくさんの眷族を殺すことになる。たくさんの人間を殺すことになる。

 俺とナズナのたった2人を生かすためだけに何百、何千という命を奪うことになる。


「……俺に、そんな価値はないんだけどさ」


 俺に価値がなくても、ナズナには価値がある。

 彼女は巻き込まれただけで、このダンジョンから解放されるべき存在だから。

 俺みたいに何ができる訳でもないくせに口では何とでも言えて、何度も終わったことをくよくよと悩むクズじゃない。


 ナズナのため。ナズナを生かすためって理由をつけて、それを免罪符にして捕虜を拷問にかけて、罪悪感で吐いて。

 ……どんだけバカなんだろうなぁ。


「……『開始』」


 自分を馬鹿にすればするほど、心は冷え、思考がまとまっていく。

 ウィンドウを開き、DPを確認する。

 捕虜を捕まえて、牢屋に入れてからまだ30分程度。それなのに480DPも収入を得ていた。

 最初に機械音声さんに聞いた捕獲ポイントって奴だったはずだが、めちゃくちゃ美味い。毎分獲得できるはずだったから……4人で30分だと、一人当たり4DPを毎分落としているわけだ。


 拷問をかけて、ハウルと一芝居うってまで逃がさないようにした理由がこの高効率。

 あの捕虜たちには俺の顔が知られたわけだし、ダンジョンマスターが存在することを知られたからには生かして帰す気はない。だからできればずっと捕虜として捕まえておいて、使い捨ての燃料になってもらうつもりだ。

 5日くらいと嘘を吐いたのは、それくらいは大人しくしてもらわないと対処しきれないからだ。


「……どんな魔法があるかわからないから、ここもローテーションでゴブリンに見張りをさせないとな」


 もはや侵入者を全員捕獲したいレベルだが、いくら武器を奪ったとはいえ、捕虜の反逆とか鎮圧できなくなりそうで怖い。

 それに捕虜にするには牢屋に繋がないといけないが、牢屋の位置も考えないといけない。

 出口に近ければ侵入者がすぐに助け出せるが、奥にしたら寝首を掻かれたりする可能性まである。

 ちょうど中間くらいの位置に配置したものの……移動がめんどくさい。


「何かしら褒美を与えられたらいいんだけどな」


 捕虜を逃がさないために、ただ力で抑え込むのは限界がある。向こうはただでさえストレスを抱えて、一人すでに壊れかけだというのに。

 鞭だけでなく飴も与えたいが、要求されたものの中で渡せそうなのがないからなぁ。

 ……扱い方に差をつける、とか? いや、それだと虐げた奴が脱走するか。


 今のまま逃げなければ何もしない、逃げようとすれば拷問するという方針でいくか。


 そしたら次に考えるのはダンジョンの防衛戦力だな。

 針山とペコちゃんだけで防衛したようなものだしな、もっと友好的な戦力を確保しないといけない。

 ゴブリンは足止めになるかも怪しいから、雑用係と認識しておこう。スライムは……特殊進化に賭けるか。


「とりあえずは帰るか」




 牢屋にいる電池がなくなるまでおよそ5日。

 冒険者ギルドあたりから追加の侵入者が送り込まれてくるのも、時間の問題だった

捕虜を捕まえた

逃げられたくないな

逃げようとしたら罰を与えよう

拷問するの心がいたいな

いい機会だし感情を消すスキル取ろう

これでゲーム的な思考を淡々とこなせるぞ!



という感じの流れでした

この子いつも吐いてんな……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ