ダンジョンコア 魔宮 日向 lv.1⑩
レベル1なのに10話かかってる!!
そして初のまともな防衛だ!
『ここ、みたいだな』
『ギルドで教えてもらった場所と一致してる……マッピング開始するね』
『ああ、たの──』
『んなことよりさぁ! さっさと終わらせようぜ、出来立てなんだろ?』
『そうですわ。このような暗くて汚い場所、一秒でも居たくないですわ』
『……これも、依頼だから』
『だから仕方なく来たんですのよ。早く帰りたいですわ』
『待って、いまカンテラを灯すから……よし、行こうか。各自警戒は怠らないように』
住居エリアから椅子2つとぬりかべを持ってきて、ダンジョンコアの隣に座る。ナズナも俺の隣に座り、受付カウンターのお姉さんスタイルのオペレーター準備ができた。
「敵は五人、女三人とは姦しいな……」
「見たところ、前衛三人かな? 魔法使いも一人いるみたいっ」
彼らは入り口の通路を進み、森エリアへと足を踏み入れた。
洞窟の中に森が現れたことに混乱しているようなので、準備していたゴブリン2体──足りないだろうから追加で2体の合計4体──を送り込む。
「ナズナ、コウモリもしくは飛行系の魔物は召喚できるか? 150DP以内だ」
「えっとね……キラーバットってコウモリが50DP。コックってニワトリみたいなのが30DPだけかな……」
残りDPは199。キラーバットは3体、コックなら6体か。
それなら、キラーバット2体の召喚を頼み、召喚された魔物は針山エリアへと移動するように『命令』する。
ふむ、ナズナが召喚しても俺の命令に従うのか。よし、これでナズナだけの命令に従うようなら手間が増えたが安心だな。
『敵はゴブリン2体だな、いつも通り頼むぞ、二人とも』
『わってらぁ!』
『これだから……ええ、わかりましたわ』
やたらと仕切ってる男は剣を抜いたものの、前に出ることはなかった。だが後衛に並んでるわけでもない。中衛か?
大剣持ちの男戦士とレイピア使いの女剣士をツートップ。
イケメン司令塔を中衛。
杖持ち女魔法使いと女弓使いの二人を後衛。
近遠距離対応のバランス型のパーティか。敵にすると厄介な連中が初手で来たな……。
それに、『ギルドで教えてもらった』なんて弓使いが言ってたな。奴隷商の連中が伝えたのか……?
「日向君、キラーバット配置についたよっ」
「ありがとう。敵はバランス型だが、技量は低い。勝てない訳じゃないぞ……!」
「うん……っ」
今の基準は一息でゴブリン3体を瞬殺する男だが、それよりは低い。そういう意味での発言だが、絶望するよりは多少楽観視気味の方がいいってもんだろ。
ゴブリン2体を犠牲にして、敵の戦力を測る。こちらの援軍が到着までおよそ30秒、間に合うか……?
まずはレイピア使いの女剣士。だが、背中には両刃の剣も背負っているので、二刀流か……? 今はレイピアしか使わないようだ。舐めプは、痛い目を見るぜ。
彼女は回避を捨て一発被弾しながら、タックルするかのようにゴブリンに突撃し、一息で2度腹を突いた。俺でもギリギリ目で追える速度だ。
そしてもう一人の前衛。大剣持ちの男戦士だな。
攻撃は大振り、3回空振りをしたものの、その剣速は重さを感じさせないほどに速い。当たれば一溜まりもな──うん、ゴブリンが上下真っ二つだ。威力は高いが、命中率は高くないみたいだな。
返り血を浴びて鬱陶しげに死体蹴りをしている。本当に、勝てない訳じゃないぞ……!
『シャーレイが被弾した、シズクは回復──タバネ、左のゴブリンを足止め! ダニィはタバネの援護を!』
状況と動きから名前が判明した。
男戦士はダニィ。
女剣士がシャーレイ。
女魔法使いがシズク。
女弓使いがタバネだ。
これで名前がわからないのは司令塔だけだが、一々名前なんて覚えられないのでこれからも役職で呼ぶことにする。
男戦士──ダニィと呼ばれた男──がゴブリンを仕留めたのと同時に援軍に送ったゴブリンが到着し、左右一体ずつの挟撃を行った。
右にいたゴブリンは、盾を構えた司令塔が請け負う。左から攻めるゴブリンに向かって、弓使いが牽制射撃をし、戦士の到着を待っている。
被弾した剣士は脇腹を押さえながら、魔法使いの回復魔法(?)を受けている。
緑の光を手に纏わせながら傷口に手をかざすだけで回復とか卑怯じゃね? 瞬時に回復するわけでも、遠距離から回復ができないのが救いか。
「ナズナ、異変を見つけたらどんな小さいことでもいいから教えてくれ。一人じゃ追いきれない」
「うんっ わかったよ」
二人で同じ方向を向き、たくさん表示したウィンドウを眺める。
数値上のこちらの戦力。ミニマップ、敵全体、敵単体を人数分、そして各部屋を個数分。
14枚のウィンドウが浮かんでいるために、4つの目では見落としが多くなってしまう。
もう少し知性の高いメンツでもできれば、ブレインとして仕事を割り振れるんだが……割り切ろう。
『下がれタバネ……ちっ、使えねえ』
弓使いと戦士の方が決着のついたようだ。
踏み込もうとした足を狙い、距離を一定に保つことで時間を稼ぐ弓使いの狙い通りに、戦士が乱入してくる。小声で愚痴っているのは、こちらしか拾えなかったらしく、弓使いは安心したような顔をしていた。
数度の空振り、そしてゴブリンの降り下ろしが当たると同時に……再び真っ二つ。
ゴブリンなら、命がけで1回当てるのがやっとなようだ。
司令塔の方を見てみる。
盾を使い、堅実に守りながら、隙を見て攻撃する。見ていて地味な戦い方だが……とても倒しにくい。乱打に近いゴブリンの攻撃を全て受けきり、一度だけ反撃をしたものの、仕留めきれず再び防戦一方。
ガンゴンガンガンガンと盾を殴り続けるゴブリンは、横から飛来した火の玉によって炎上し、死んだ。
回復を終えた魔法使いが支援したらしい。
『みんな無事だな』
『守ってばっかりな奴がいなければもっと速かった』
『やめてダニィ、彼も真剣に戦ってるのよ?』
『いいんだ。……いいんだ、ダニィみたいな力は、僕にはないからね』
戦士が皮肉を言うと、弓使いが止めにはいる。
……あれ? この司令塔と弓使い、できてるんじゃね? 今のやり取りの後に、弓使いが司令塔に寄り添い、それを見た戦士と剣士が不機嫌になる。
……ほう。ほーーーーう?
まずはそのイケメン司令塔を倒そうか。司令塔であり、不和を押し止めているストッパーが消えれば……あとはなし崩し的になんとかなる気がするぞ。
だから男女パーティはやめとけって言ったろ?
『別れ道。正面か、右か……いつも通り多数決にしようか』
彼らは森エリアを数分にわたって探索し、他に魔物がいないこと、進む道が2つあることを確認し中央付近に陣取っていた。数分かけてくれたおかげでこちらも戦力の配置、命令が済んだわけだが。
……ミニマップの森エリアが灰色に染まっている。試しにゴブリンを1体転移させようとするものの、灰色の場所は選択できなかった。
攻略された場所は、一時的に領域外って扱いになるらしい。後ろからの挟撃ってのは、できそうにないか。いや、眷族に歩いて移動させればできる。これからも回り道は増やそう。
『正面3票。正面に進もう』
『仕方ないですわね、わかりましたわ』
『……わかった』
右を選んでいた女剣士と女魔法使いは結果を受け入れたようだ。魔法使いは何を考えているかわからないようなぼけーっとした能天気な面だが、剣士の方は若干イラついているのがわかる。
剣士は司令塔が好き。だが司令塔は弓使いが好き……ってところか?
そして男戦士は弓使いが好きだが弓使いは司令塔が好き。
三角関係が2つも……もはや四角関係だ。これでよくここまで持ってると感心してしまうほど、危ういバランスのパーティだな。
戦力的には最高レベルのバランスだろうに。
彼らは真っ直ぐに道を進み、針山エリアへと到達した。
『なんだ、ここ……』
『は。ただ道が狭いだけだろ、ビビりは下がってな』
『待ってくれダニィ。君は殿をお願いできないか、一番危ないから僕ではとてもできない役割だ』
『………………チッ』
司令塔は自分を卑下してまで、先頭を譲らなかった。確かに盾持ちが先頭で安全確認しながら進み、殿には固くそれでいて破壊力のある戦士を置くのは悪くない手だろう。
……だが、次手を誤ったな。遠距離攻撃ができる仲間と二人で安全確認するのは大事だが、その相手が弓使いなのはダメだろ。そこは魔法使いにするべきだったな。
『僕から離れすぎないように』
『ちゃんと守ってよ?』
『わかってるよ、タバネ』
道幅は歩道端の縁石よりも一回りほど太い道。それがおよそ20メートル続いている。左右を見れば針山があり、落ちれば命はないことを伺わせる。
そして、ダンジョン側としては確実に罠を仕掛けるポイントであることも、予想がつく。例えば、左右からの矢の発射であるとか、飛行系の魔物とか。
「ペコちゃん発車用意。キラーバットとハウルは出撃用意。……まだだ、まだ──」
「ファンガス部隊、ゴブリン部隊、森エリアへ移動終わったよっ」
「よし。始めるぞ」
ミニマップで配置についたことを確認。ぺこちゃんの狙いがハウルにならないように、突入タイミングは謝ってはいけない。相手に当たったことを確認してからでも遅くはないんだ。
司令塔は盾を構えたまま、ゆっくりとした足取りで細道を進む。その背後についてくる弓使いは、矢をつがえたまま周りをよく見回している。が、天井に張り付くキラーバットにまでは気づいていないようだ。
そのまま気づくなよ、という俺の願いが届いたのかはわからないが、彼らは気づかず、それでも周りに警戒しながら進む。
遂に。司令塔と弓使いは、半分ほどまで辿り着いた。
つまり、簡単に引き返すのは難しく、また簡単に進むのも難しい場所まで辿り着いた訳だ。
「ペコちゃん、撃てッ!」
俺の指示を聞いて、ナズナ印の特殊罠が牙を剥く。
風を切る音。発射された石はまっすぐに司令塔の股間へと飛ぶ。僅かだが、司令塔は反応を返す。持っていた盾で自分を守るように構えるが、遅かった。石はすでに盾の内側に入っていた。
『あ──グッ!?』
クリティカルヒット。俺の下腹部まで痛んできた。
「キラーバット出撃! 攪乱を優先しろ、当たるな、だが下がらせるな!」
「ハウル君出撃っ ファンガス部隊も出撃してっ」
俺とナズナの指示が飛ぶ。司令塔は盾を離すことはしなかったものの、股間を押さえながら──足を踏み外した。針山に刺さるグロい音まで拾ってしまったらしく、二人して顔を顰めた。
俺らがどう思おうとお構いなしな眷族たちは命令を遂行する。弓使いへ向けてキラーバットが左右から挟撃を狙う。
『ロイドが……ロイドが落ちたの! 助けて!』
『シャーレイ行け。てめえは邪魔だ』
『うるさいですわね、ゴミ。あなたの方が邪魔ですわ』
『んだと? てめえからぶっ殺すぞ』
『やってごらんなさいな。当てることすらできない口だけの男が』
同時にファンガス部隊が背後からの強襲をかける。
そして開幕5体で胞子を吹きかける。麻痺の胞子だ。だが、相手はこちらに目も向けず喧嘩を始めた。
「……おい、攪乱優先って言ったろ」
弓使いに向かわせたキラーバットの一匹が撃ち落とされた。いや、止まっていたわけでも、真っ直ぐ向かっていったわけでもない。不規則に飛び回っているのを弓使いは上手く当てたんだ。
そうわかっていても、つい口から出てしまったのもしかたあるまい。50DPが一瞬で消えたのだ。
……だが、撃ち落せたのはまぐれだったらしい。もう一体のキラーバットに当てることができずに数発の無駄撃ち。
道幅など関係なしにハウルは近づく。その距離およそ5歩。
人間では狭く感じても、体格の小柄なゴブリンでは十分な道幅なのか。するすると近づくハウルの姿は、弓使いからしたら恐怖でしかないだろう。
弓使いはキラーバット迎撃を諦め、ハウルへと弓を向けた──瞬間にキラーバットの攻撃。弓は彼女の手を離れて針山の隙間へと消える。
「……ハウル、捕獲しろ」
『ギャアアアアアッ!』
『ヒッ……』
ひきつるような声。ハウルは弓使いの髪を掴み上げると、彼女の足をこん棒で殴り付けた。
引き裂くような断末魔がダンジョンに響き──それに反応したのはもう誰もいなかった。
少しだけ時間は戻る。正確には弓使いがキラーバットを迎撃してるのと平行して見てた訳だが。
背後からの強襲をかけられた3人は即座に陣形を組もうとして、失敗していた。原因は男戦士と女剣士が喧嘩を始めたことだった。
唯一まともな女魔法使いだけがファンガスの迎撃にあたる。
火属性の魔法を右手に持っている杖から、風魔法を左手から同時に放つ。
どうやら杖を使わずにも魔法は使えるらしいが、出力が落ちるらしい。いや、逆かな? 杖を使うと出力が上がるらしい。
1体のファンガスを集中狙いしたこともあってか、同時に放たれた火の玉と風の刃を避けることはできず、ファンガスは死亡する。
が、魔法を詠唱するためには空気と胞子を吸い込むよなぁ?
女魔法使いはカクン、と片膝をついた。咄嗟に体を支えようとしたものの、地面についた腕もカクンと折れた。……右足だけではなく、左腕も満足に動かなくなったらしい。
それでも彼女は右腕だけで魔法を詠唱し、狙い、外した。
胞子をさらに吸い込んでしまったため、もう動かせる部分は無いようだ。魔法使いは倒れた。
「ゴブリン部隊はいかなくていい、下がれ」
「なんとか、なりそうだね……」
ミニマップ上で司令塔が死亡したことを確認。
落下してすぐは僅かに息があったようだが、ペコちゃんにより気絶させられたまま針山の割合ダメージで死んだらしい。すぐに仲間の助けがあれば生き残ることもあるらしい。安心できないな。
男戦士と女剣士は、誰も止めるものがいないせいで殺し合いを続けている。
こいつらは、状況がわかってんのか……?
『お──ラァッ!』
『大振り、それじゃ当てられないってわからないんですの?』
『ぐあっ てめえの攻撃は、軽いんだよ──ドラァ!』
『当たりま──ひゃぁ!?』
二人の喧嘩に参加することなく、ファンガスたちはずっと胞子を飛ばし続けていた。
口論しながら動き回って、刺して斬って……先に麻痺が出たのは女剣士だった。
大剣の攻撃を避けた瞬間に、転び、立てなくなった。そこでやっと体の違和感に気づいたようだった。
男戦士の顔がニヤリと歪む。
……止めるか? いや、でもこちらにも被害が出るぞ。
『おいおいおいおい、どうしたよお嬢様ぁ? 立てないんでちゅかぁ?』
『くっ……離れなさい、無礼者!』
『状況、わかってんのか?』
男戦士が大剣を構える。立てなくても立ち向かおうとした女剣士は、剣を持とうとして、掴み損ねてしまう。指先にも麻痺が出てるな。
それを見て、男戦士はニタリと顔を醜悪に染める。
『いいか、女ってのはなぁ。男に媚びて、弄ばれて、壊されるものなんだよァ』
『こ、来ないで……っ』
『あぁ? いつもの調子はどうしたよ、口答えしてみろやこのアマ──ぁ?』
男戦士も倒れた。一歩歩み寄ろうとして、踏ん張りが効かずに顔面から倒れた。
……状況わかってないのはお前も一緒だよ、バーカ。
「ゴブリンたちに『命令』。麻痺して倒れてる侵入者たちを牢屋に入れておけ」
さて、最後だ。
ボス部屋が写される。
そこにいたのはファンガス・ドラッグの『オオバコ』だ。彼(?)は胴体にあたる部分にスライムを纏っている。
精神汚染の進化を目指してたはずが、いつの間にか防具を目指すようになったらしい。
そして、壁際。口元にタオルを巻いて、忍者ごっこをしているような風貌のゴブリンが、両手にナイフを持って立っている。
なぜボス部屋を見ているかというと、弓使いがハウルから逃げ出し、上手くボス部屋へと入り込んだからだった。
髪掴まれて、足を殴り付けた後の状態で引きずっていたのに、まさか隠し持っていたナイフでハウルに切りかかり、逃げ出すとは思わなかった。
後衛がナイフを持ってることってのはよくある話だ。それに冒険者が諦めの悪いものだと思っていたのにあれで安心していた。それらを見落としていた俺の落ち度だな。
あとハウルは避けるためとはいえ、手を離すんじゃない……。
『……う、そ』
彼女はもう走れない。
足を殴られた際に、折れていたのだろうか。足を引きずり、最後には這うようにしてまで進んだ先にいたのは、このダンジョンのボス。
使っていた弓はなく、手持ちにはナイフが1本。
そりゃ、心も折れるよなぁ。
「オオバコ、麻痺させてやれ」
『きゅもぅぅぅ』
「鳴き声きもっ!?」
指示通りに麻痺胞子を出したオオバコの鳴き声の話はどうでもいい。そもそも鳴いたんだ、とかほんとどうでもいい。
彼女は助からないことを悟り、泣きながら倒れた。助けて、誰か助けて……と虚しい声も、次第に小さい呻き声になり、なくなった。
「ハウル、牢屋に入れておけ。今度は逃げられるなよ」
『……ギャアア』
ハウルも落ち込むということが、少し驚きだった。
被害。
ゴブリン4体。ファンガス1体。キラーバット1体。
戦果。
司令官討伐……540pt
男戦士、女剣士、女魔法使い、女弓使い……捕獲。
※備考
ゴブリンは足止めにしかならない。
ペコちゃんが最高戦力。
牢屋が満員になった。増築が必要かもしれない。
ぺこちゃんくそ強くね?
あ、でも彼女(?)は発射時にもっとも近くにいる男へと発射するため、それがハウルだろうと、日向だろうと殺すので運用がしづらいしセーフかな?




