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ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.1⑨

 

 気づいたら寝ていた。


 俺が寝れることは、気絶できる時点で大体わかってたが、実際にやってみないとわからないことも多いものだ。予想や推察はずれているものだから。


 顔が熱くならないことから血液がないのか、動かないのかはわからないが、性的なこともできない可能性は高いが……それも、決まったわけではない。

 たとえ、今ナズナに抱きしめられて顔面がお胸様に埋まっている現状でさえ、息子は何一つ反応を返さないが、まだまだ可能性はあるのだ。


「ぅ…………ぐすっ……」

「ナズナ?」


 頭上から聞こえてきた、啜り泣くような声。

 確認しようとナズナを引き剥がそうとするも、強く抱きしめられてしまっては顔を動かすこともできなくなってしまう。


「ebjtvlj──ibsvup……っ」


 ナズナの呟き。……寝言、だろうか?

 今まで問題なく会話できていたのに、急に日本語以外で話された気分だ。何一つとして聞き取れる単語がない。


 ピピピ、と電子音。

 侵入者のアラートじゃないな……となると、機械音声さんか……?


『答えはイエス。正解です。バベルの法則を一部変更しましたので、報告です』

『それはありがたいが、先に一つ質問させてくれ。今のナズナの発言が聞き取れなかったのは、お前らの仕業か?』


 ただ話しかけてきたタイミングが良かったのか、それとも意図的なものか。

 後者なら、今後も妨害される可能性がある。それに、ナズナの信用を一段階落とすことになる……。


『……おそらく、世界をアップデートした際に翻訳に支障が出たのでしょう』

『意図的ではないんだな。誓えるか?』

『答えはイエス。我々の上司である神々に、誓えます』


 機械音声さんは、神々の部下?

 いや、神々に作られた概念とか、システムの一種だろうか。……少なくとも──いや、いい。今はいい。タイミングが良かっただけか、なら良いんだ……。


『話を戻してよろしいですか?』

『アップデート、って言ってたな。何を変えたんだ?』


 目の前にウィンドウが表示される。

 ……ナズナのおっぱいしか見えない。


『変更点1。召喚陣による魔物の生成スピードです。ゴブリンとスライムのみ変更はありませんが、その他の魔物は全て一日二体ほどのペースになります』

『それは……やめてほしいんだが……』


 ゴブリンとスライムだけで撃退できる敵のレベルなんて、駆け出しもいいところだろう。

 最悪、駆け出しさえも倒すことができないじゃないか。


『もしもドラゴンを召喚できるようになり、一時間に1体ペースで産み出せてしまったら……それはチートと呼べるのではないですか?』


 一日に24体ドラゴンを産み出すダンジョンは……脅威としては最高レベルだろう。

 いや、だからってなぁ……?


『ほどほどの難易度に留めるつもりです。続いて変更点2。魔物の進化先が絞られました。詳しくいうのなら、人型に近くなる進化先は全てなくなり、進化すればするほど異形へと至ります』

『それも……やめてほしいんだが……』


 ハウルが進化していったら、身長も同じくらいになったり、イケメンになったりとか。魔物娘を量産してハーレム作ることとか……色々と夢を見ていたんだが……?

 それに擬人化がなくなり異形化していくようになるなら、街中にスパイとして放つこともできないじゃないか……。


『ダンジョンマスターを誤認させないためです。ダンジョンマスターを殺しておけば、ダンジョンコアを残しても無害だろうという生き残りの可能性を潰します』


 そんなこと考えたこともなかった。

 確かにダンジョンを作って、魔物を産み出す俺は悪として処刑される未来が見える。それを肩代わりしてもらう……?

 いや、無理だろ。できるとしても誤解してもらえそうなのがナズナだけ──


『……続いて、くれ』

『最後になります。変更点3。眷族のステータスに進化率を追加しました』

『それはありがたいが、それしかありがたくねぇな』


 ちょっと便利になった変わりに、物凄く生存する可能性を絞られたんだが……?


 試しにボス部屋に置いてきたスライムかゴブリンのステータスを見たいんだが……ナズナに抱きしめられていては見えない。

 めっちゃふにふにしてんだが! なにこのマシュマロ!?


『……後は私個人からの助言です』

『おっと、それはありがたい。聞かせてくれ』

『1つ。スキルは早めにとることを推奨します。スキルには熟練度があるため、少しでも早く鍛え始めることを推奨します』


 確かに。俺のSPは使ってなかったな。

 熟練度……つまりスキルレベルのことか? 使えば使うほどレベルアップするから、侵入者を待つまでの間に練習しとけってことか。

 なるほど?


『2つ。あなたは心臓がないことを嘆いているようですので、50レベルになったときに疑似心臓をプレゼントすると神々が言いました。それがあれば、現在停止中のあなたの血液も動きだし、生前と変わらない状態に戻ります』

『……50レベルか、遠いな』


 だが、良い目標だ。疑似ってのが納得いかねえが、今より断然マシだ。50レベルになれば、この冷たい体にも、動かない息子にもおさらばできる!


『そして3つ。……サポートキャラが起きましたよ。それでは』


 ──ブツッ。

 と急に通話が切れる。


 ……サポートキャラが、起きた?

 サポートキャラってことは、ナズナだよな? 今俺の頭を胸に抱き寄せているナズナが、起きた……?


 少し頭を動かし、むにむにとしたおっぱいの感触を感じながらも視覚を取り戻すことができた。変わりに鼻がちょうど谷間の位置にあり、嗅覚が殺された。


 ナズナは、確かに目を開けていた。そしてトマトよりも顔を赤く染め、涙目で俺を睨んでいた。

 あ、俺、死んだな……。

 俺は目を瞑って、頬に訪れる衝撃に備える。


「ま、ますたぁ……お願いが、あります……っ」


 ……が、予想とは異なり、ナズナは暴力に訴えることはなかった。

 泣きそうな声で、抱きしめていた俺を優しく解放して、言葉を紡ぐ。


「お手洗い、を、作ってくれませんか……?」


 あ、ただのトイレですか。しかしここにはきちんとトイレがあるんだなぁ。

 個室になっているわけでもなければ、ただ穴が掘ってある感じのぼっとん便所だが。……あれ? これってただ簡易的な仕切りがあって、その向こうに穴が開いているだけなのでは?


「お願いします……っ、あれでするのは、恥ずかしすぎます……っ!」


 女の子には流石にキツいものか。

 簡易的な仕切りは足元のところがボロボロで、下手すれば向こう側が見えてしまうし、いつ倒れるかもわからない。

 そうでなくても、寝室の端っこで用を足すのは生理的に嫌か。うん、わかる。


『開始』からの住居エリアに個室トイレを設置。100DPだが、必要経費だろう。

 むしろなぜ住居に風呂がないんだ、まともなトイレもないし 。


「作ったよ。行っておいで」

「うん……っ」


 ナズナは顔を赤くしたままできたてのトイレへと向かった。

 意外なことに地球にあるような、洋式トイレを設置することができた。ウォシュレットまでは無理だったけれど、十分だろう。

 問題はナズナが使い方を理解してるかだが……おっと水音がしてきた気がするのでコアルームへと移動しよう。


「寝てたのは……大体4時間前後か」


 残り時間は17時間と10分。

 侵入者はきていないらしい。あとは……ゴブリンが4体自動召喚されて森エリアへと移動しているくらいか。


 他に、ナズナが来る前に確認しておきたかったのはボス部屋に配置したスライムとゴブリンの進化率だな。

 ダンジョンマスター権限でステータスの閲覧、っと。



────────────

 種族:スライム

 進化率:(精神汚染)4%


 体力:10/10

 魔力:1/1

 攻撃力:10

 防御力:10

 敏捷:5

 精神力:5

 幸運:5


 スキル

 魔法耐性2

────────────


────────────

 種族:ゴブリン

 進化率:(ダガー)2%


 体力:30/30

 魔力:5/5

 攻撃力:15

 防御力:20

 敏捷:15

 精神力:20

 幸運:1


 スキル

 棒術2

 回避1

────────────



 何に進化するのか表示されてるのもありがたいな。これでどんな種類になるのか大体でも予想が……予想……できるか、これ?

 精神汚染ってオオバコの胞子だよな? なんてもんアイツ出してんだ。そして何で適応しようとしてるんだこのスライムは。いや確かにそれ目的で配置したけどさ……。


 そしてゴブリンもだよ。なんだよダガーって。武器の名前じゃん。お前はダガーに進化するのか? 武器になるのか?


 異形化するってそういう……?


「日向君……」

「ん? あ、ナズナ、おはよう」

「お、おはよっ」


 まるでさきほどのベッドでの一件がなかったかのようなやりとり。だけど、別に蒸し返すことでもないだろう。第一、添い寝を希望したのは俺なのだし。

 ──嫌だなあ、こういうの──


「ごめんなさい。大切なptを……」

「いいんだ。いつかは必要になるものだったし、ダンジョンの改築は大体終わってる」


 くぅ~……


 俺はミニマップを表示しようとして、お腹のなる音で手を止めた。俺は食欲があるわけじゃないし、腹も鳴らない。

 なら──?


「ぅぅ……」


 ナズナが、自分のお腹を押さえて顔を赤くしていた。犯人はナズナだったようだ。


「そうだな。まずは飯にしようか。100DPくらいで食べ物を召喚することはできるか?」

「はい……できます……」

「それじゃあ二人分頼む」


 しおらしくなってしまったナズナの頭を一撫でしてから住居エリアへと戻る。

 ふむ。ここで飯を食うにしては、少々机が狭いかな。椅子も1つしかないからね。椅子を召喚、30DP。

 もう少し大きい机の召喚は……できないか。トイレはできたのに机はできないのか。


 なら──そうだな、机を進化させるとかどうだ? 投石器とかいう無機物を名前付きの魔物にするくらいだし、できるだろ?



 あ、できた。300DP吸われたけど。

 ステータスオープン。



────────────

 名前:未設定

 種族:デスク


 体力:200/200

 魔力:0/0

 攻撃力:50

 防御力:100

 敏捷:0

 精神力:0

 幸運:0


 固有スキル

 清潔(自身を常に清潔に保つ)

────────────



 ……盾役か? いや、壊れにくいし綺麗な机になったのか。最悪ダンジョンコアを守る盾にしよう。

 名前の未設定だが……机の魔物は流石に思い当たらない。唸れ俺のセンス……ッ!


 机……盾役……壁?

『ぬりかべ』とかどうだろう? どうだろうって聞いても誰も答えてはくれないんだが。


 今日からこの机はぬりかべだ。よろしくな。



「日向君、朝ごはんセットっていうのでもいいかな? 食べ物は単体かセットで選べるらしくて、中身は変わらないけどセットだと少し安くなるみたい」

「朝、昼、夜があるのか?」

「うんう、朝ごはんセットだけみたい……あ、でもサンドイッチとかあるよっ」


 よくわからんラインアップだが、今は気にしないでおこう。

 ナズナに頼んで朝ごはんセット10pt──なんで単品はDPなのにセットはptなんだよ!?──を2つ頼む。


 出てきたのは目玉焼き(醤油)と麦ご飯、豆腐ではない何かの味噌汁、そして紫がかった葉っぱのおひたし。


「……いただきます」

「いただきますっ」


 ……俺、醤油よりソース派なんだがなぁ。食えるだけマシって言われたら返しようがないから別にいいんだけどさ。

 付属品の割りばしを使って食べ進めていくが……ナズナ箸の使い方上手いな。下手すると持ち方に関しては俺より上手いぞ。


「んっ? どうしたの、日向君」

「あ、いや……美味いか?」

「うんっ ごめんね、私のために……」


 今日のナズナは謝ってばかりだな。

 寝る前はずいぶんと独占欲に溢れた発言をしていたものだけどな。


「ナズナは一人でご飯食べるのも、一人で寝るのも寂しいんだろ?」

「え……っ!?」


 ほらまた顔が赤くなった。

 お互いが強がって、その場を乗りきるためだけに思ってもないことを言って、後々恥ずかしくなって。

 バカみたいだな、俺ら。もう少し素直になれればいいのにさ。


「正直、助かったよ。今までずっと家族でご飯食ってたからさ、一人で食べるのは嫌だったんだ」

「……うん。私もね、ずっと──」


 ピピピ、と電子音。また機械音声さんかと思ったが、そうではないらしい。

 ミニマップを確認すると、どうやら斥候に出していたゴブリンたちが帰還したようだった。

 なので斥候隊へと『命令』する。


「ボス部屋に集まって待っていてくれ、すぐ行く」


 そのままウィンドウを閉じる。

 今はナズナとご飯食べてるんだ。侵入者じゃないだけマシだったが、タイミングは考えてほしいものだ。


「むぅ……ご飯中にお仕事は禁止っ!」

「侵入者かどうか確認しただけだよ。わるいわるい」


 手を合わせて謝ると、ナズナもすぐに理解してくれた。

 に、しても。ご飯中はテレビ禁止! みたいな怒られ方するのも久しぶりだったな。


「ね、日向君。これからは私がご飯を作ろうと思うの」

「メイドさん染みてきたが……ナズナの手料理か、楽しみだな」

「だからねっ、キッチンとか、いつかは欲しいなって……」

「あーすまん。今はDPがないから、本当にいつになるかわからんが、必ず」


「いつの間にダンジョン改築なんてしてたの?」

「ナズナが寝てから、少しな」

「うっ…… 寝顔、とか、見てないよね……?」

「寝る前は背中合わせ、起きたら抱きしめられてて見るに見れなかったよ」

「そうっ。そうだよ! なんで朝は日向君を抱きしめてたのっ!?」

「……いや、こっちが聞きたい。起きたらああなってて、離れようにもナズナが離してくれなかった」

「うぅぅ……私のばかぁ……っ」


「こんな机って前はなかったよね? 高かったんじゃないのっ?」

「元々あった机を進化させたらこうなったんだよ。名前は『ぬりかべ』にした」

「……え、っと。日向君、なんで家具を進化させてるのかなぁ……」

「ナズナが投石器をネームドモンスターにしてたし、無機物でもいけるんじゃね? って思って」

「木は有機物だよ……」

「マジで!? うわ、恥ずかし」


 そんな会話をして賑やかに夕食を終えた。

 夕食なのに食べたのが朝食セットとはこれいかに。




「無事に帰ってこれたようでよかったよ。何かあったか?」

「ギャアアギャア! ギャア!」

「ギャアアア?」

「ギャア! ギャア! ギャア!」


 ゴブリンたちは口々に鳴き声をあげる。しかし、俺はあいにくとゴブリン語を習得していない。

 ナズナの方を見るも、苦笑いで首を振った。


「何もなかったのなら鳴きやんでくれ」


 と言うと1匹を除いてピタリと鳴くのをやめた。

 ……こいつら、やっぱり俺の言葉は理解できてるんだな。ダンジョンマスターとして、命令が通じなければ忌みはないからなぁ。


「お前は何を見つけたんだ?」

「ギャア」


 そのゴブリンは、俺の前まで歩いてくると、何かを床において下がった。知性高いな、こいつ。

 これは……折れた矢?


「ありがとう。これはお前が大切に持っていてくれ。お前らはダンジョンの中で休んでいてくれ」

「ギャア! ギャア!」


 5時間くらいの探索で、見つかったのが折れた矢1本だけ……。

 あれ、この世界で生き延びることできるのか? 不安になってきたぞ?

 そしてさりげなく進化要因として折れた矢を持たせておいたが……何に進化するのかさっぱりわからんな。

 弓使いのゴブリンならいいが、矢になりました! とか言われた日には俺は諦めるぞ。



 再び5体のゴブリンを選出し、斥候隊としてダンジョンの外へと放つ。

 今度はきちんと2時間したら何もなくても戻ってこい、と制限時間を設けた。


 何か、何か見つけてきてくれ……!




 なんて、俺の予想は裏切られ、手ぶらの斥候隊を迎えること2回。


 残り時間、11時間14分。

 侵入者だ

ダイスの結果とはいえ(侵入者がくるのは10時間後)話すすまねぇぇぇぇぇぇ


というか予備として残しておくはずのDPを『机を進化させる』とか意味不明なことで使いきるとかこいつバカかぁぁぁぁぁぁ


次回は冒険者5人パーティと戦います!

生き残れるか本気で不安!

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