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ダンジョンコア 魔宮 日向 lv.1⑦

 予想通り、ふっくらとしたマシュマロ体型の奴隷商と思われる男がダンジョンを訪れた。

 続けて護衛と思われる、背が高い、飄々とした不気味な態度の男もダンジョンに入ってくる。


「ギャアギャア!」

「ギャア! ギャアア!!」


 侵入者2人の姿を認めたゴブリンたちが、指示通りに動く。

 2体が奥の通路へと逃げていき、残る3体が足止めのために棍棒を構え侵入者に襲いかかる。


『……本当にあいつはここに逃げたんだろうな?』

『痕跡を追った感じそっすね。けど、これじゃもう死んでるか、壊されてんじゃねえっすか?』

『それを確かめるために来たんだろ!』


 ゴブリン3体ににじり寄られてるのに構わずに話してるこいつらは、バカなのか? いや、ゴブリン3体程度ってほどの実力者なら、まずいぞ……。


『奥まで進むのはいいっすよ? ただ、ここがダンジョンなら守りきれる自信はねえっす──よっと』


「な、何が起きたッ!? ナズナ、見えたか?」

「み、見えなかった……」


 護衛の男の姿がブレた。

 俺と、ナズナの目では追いきれない速さで動き、ゴブリン3体の首をかっ切った……らしい。

 ゴブリンたちも、今切られたことに気づいたように、血を噴き出して倒れる。


「おいおい、ふざけんじゃねえ……」


 こんなやつにどうやって勝つんだよ……? いくらハウルだろうと、これには勝てないだろ……。


『そんな強さをしていても、守れないと?』

『監視にチェダー置いてきてんすよ、アイツがいれば楽勝でしょうけどねぇ。……お? そう古くない血痕ですよ、それも大量の』


 奴隷娘が死んだ場所の地面をなぞって、護衛がそう呟いた。この冒険者は、二人組で真価を発揮するタイプで個人としても相当な強さだ。

 痕跡を追ってきた、とも言っていたし盗賊寄りのビルドか?


『……よし、帰るぞ』

『へいへーい』


 ──ッ!?

 護衛が生返事に聞こえる声を出しながら右腕を振るった。どうやらナイフを投げたらしいが、通路へと逃がしたゴブリン2体の背中にナイフが突き刺さり、絶命させた。

 一瞬で、ゴブリンが5体も殺された……ッ!




「……帰ってくれたね」

「被害は甚大だが、撃退ポイントも莫大……くそ、素直に喜べねえ……」


 俺たちの精神的疲労なんかを省いて、数値上で計算しよう。

 収入は撃退なので全てDPのみ。だがptは余裕があるので気にしない。元々の数値は……300だったか、正確には覚えてない。

 今は──2352!? あの二人で2000前後とか、ありえねぇ……。


 そして出費はゴブリン5体で100DP。

 合計で1900前後のプラスだ。幸先は、良いと言っていいのかわからん。


「ナズナ、とりあえずは収入分で防衛戦力を強化する。ゴブリンの死体からもスケルトンは作れるか?」

「う、うん……できる、はず……」

「……自然進化の場合、どれくらい時間がかかるかはわかるか?」

「ごめんなさい、それはちょっとわからない……」


 ナズナは顔を青くしたまま、それでも俺の質問に答えてくれた。

 召喚した劵族が殺されたのは初めてだからな、ナズナにとってショックだったのかもしれない。

 ナズナに肩を貸し、ベッド端まで運ぶ。ぷにっとした感覚や、温かい体温を感じるが、今はさすがに興奮できない……。

 俺も、手が震えて治まらない。


「『オープン』……ふぅ。ゴブリンたちは、今から指定する部屋にゴブリンの死体を運んでくれ」


 ナズナにベッドを貸しているため、俺は椅子に座る。ダンジョンコアとこの私室の間には、扉がない。俺は自分の心臓を眺めて……気持ちを落ち着ける。


 俺はウィンドウを操作して、新しく部屋を作る。場所はT字を描くように一直線の通路から下へと掘った。

 大きさは……3×3でいいだろう。もちろん全て領域化しておく。これで65DP。ここは、死体安置所だな。正確にはスケルトンを生み出すために死体を置いておく場所だが……腐ったりしないかな? あとは悪臭とか酷そうだ。対処はしないとな。


 ん? いや、ならいっそのこと下の階を作ってそこをアンデッドエリアにするか。階層を挟めばまだ、匂いはマシになるだろうし、1階層落とす罠ってやってみたかったんだ。


「ハウルは侵入者が投げていたナイフを回収して持ってきてくれ」

『ギャアギャア』

「うるせぇ」


 なんで通信機越しでも騒ぐんだアイツは。

 ……だがまあ、ハウルと恒例になりつつある掛け合いをすると少し息抜きになる。ほら、俺とハウルのやり取りを見たナズナが、ようやく正気を取り戻したみたいだ。


「……大丈夫か?」

「う、うん。マス……日向君は、すごいね」


 マスターと言いかけて、わざわざ言い直してくれるナズナは、やっぱり俺の言うことを聞こうとしてるんだな。

 俺がそう呼んでほしいなんて言ったから、ナズナはそう呼んでいる。……何気ない言葉が地雷になりそうで、怖いな。


「俺がどうすごいのか讃えるのは後にしよう。ナズナにアドバイスを貰いたい、2階層を作るべきか、1階層のみで防衛を固めるべきか」

「え、ええ!? 私……?」

「決めてくれって言ってるわけじゃないし、責任を押しつけようって訳でもない。そうだな……メリットとデメリットを挙げてくれないか? 俺一人だと、どうしても見落としている部分があると思う」


 2階層を作ると、落とし穴の先は2階層とかできるんだよな。落ちたらモンスターハウスとか、竹槍ぎっしりとか。そもそも落下ダメージで倒せりゃ万々歳。

 だが、どうしてもコストがかかる。その分1階層の防衛も薄くなり、2階層に落ちたくせに生き延びられたらダンジョンコアへのショートカットになる。


 後者の1階層だけで防衛を固めるってのは、即死トラップが仕掛けにくくなること。ダンジョンが短く、攻略されやすいこと。

 俺がもし冒険者なら、宝も少なく魔物も雑魚いくせに即死トラップ増し増しとか近寄らないね。触らぬ神に……ってやつ。どうせ魔物が溢れてきても近くに村や街が無ければ害はない。


 即死トラップはできるだけ秘匿する。だから2階層だけに配置し、2階層を見つける、もしくは立ち入る者は残らず殺す。

 そういう方針にする。


「……えっとね。2階層を作る場合だよね? このDPの量だと問題ないんじゃないかな? それにダンジョンが大きくなるのはいいことだよね。でも戦力を分けるわけだから手薄になっちゃいそう」

「手薄に……ふむ、そうだな。1階層だけの場合は?」

「部屋を増やしてないから、ダンジョンが小さいこと……かな? 部屋ごとの戦力は強くなるとは思うけど、ちょっと限界があるかな? それに私の特殊罠も使いづらそうだし……」

「特殊罠?」


 いかにも聞いてますよ、って雰囲気の相づちを打ちながら話を聞き流していたら重要な話まで聞き逃しかけていた。

 戦略家と言ってもスキルレベル1だと俺と変わらんか……って思ってたらこれだ。会話も要所要所をしっかり伝える戦略とか会得してくれねえかな。


 ……あ、いや、ごめんいまのなし。ナズナとの会話がすごくつまらなくなりそうだ。


「私の固有スキル、2つあったでしょ? 覚えてる?」

「異世界知識と特殊罠だっけ」

「そうだよっ この2つは世界で私しか持っていないスキルなんだよ」


 ナズナが胸を張るが、その膨らんでいるともなだらかともいいづらいお胸様に目を引かれることもない。

 というか服が悪い感じもあるよな。いや可愛いよ? ナズナの美少女さを引き立てるようなドレスなのはいいんだけど、なにぶん胸部への防御が固い。


 ナズナが胸元パックリ開いたドレス着てても……うっ、やめよう寒気がした。


「特殊罠、少し見せてくれるか?」

「いいけど……ここだと少し狭いかも」

「どんな罠なのか説明してくれ、爆発とかなら入り口に設置して実験する」


 ナズナは少し緊張したような顔をした。初めて使うスキルだからか、緊張しているのか?


「え、えっとね……今作れるのは、投石機だけ……」

「投石か……たしかにそりゃここじゃ試しにくいかもな。場所を変えよう。立てるか?」

「うんっ うん、大丈夫っ」


 スキルウィンドウを開いて特殊罠スキルを検索するが、引っ掛からない。というよりも『存在しない』と返ってきた。

 確かにナズナ専用スキルかもな。さすがレア度レジェンド。


 同時に2階層の構想を作る。ミニマップを見ながら、どんな形にするかを悩んでみるが……うーん、投石機を作れるなら5×15とかの縦長フィールドにしてみるのはどうろう。

 左右を針山、一人がやっと通れるほどの細い橋とかで落ちたら刺さる。コウモリのような飛行型の魔物がいるためゆっくり進むこともできない。

 そして橋を渡り終えそうってところで投石機が作動。左右に避けようとすると針山、そうでなければ普通にダメージ。

 いいんじゃないか? これ。

 投石開始と同時に1階層から眷族を送り込んで殲滅もいいな。



「ここなら問題ないんじゃないか? オオバコにも避けてもらったし」

「う、うん。やってみるね……っ」


 今現在守護者の間として利用している、ファンガス・ドラッグのオオバコがいるボス部屋へと赴いた。

 ……あれ? もしかして俺、住居とダンジョンコア以外の部屋に来るの初めてじゃね?


 ダンジョンコアになってから3時間……残り時間は21時間を切った。

 3時間くらい部屋にこもるのは、よくあることだよな? 引きこもりではないよな? セーフ! 自分的にセーフ!


「特殊罠『起動』……ん、とこれ! 『選択』っ。そして『設置』っ」


 ナズナが前ならえのような格好をした。ふむ、『起動』と言うとウィンドウを展開するようだ、俺には見えないけれど。

 ナズナは目線だけで項目を選び、『選択』と唱えた。

 そして最終確認画面と思われるところで『設置』と了承すると魔力を消費して罠を展開するらしい。


 今目の前に出現したのは簡易的なカタパルトだった。

 俺のイメージ的に、投擲する石はぱちんこみたいなスリングショットで持ち上げて、重りの位置エネルギーをつかって飛ばすものだと思ってた。

 が、これはシーソーみたいなかんじだな。土台と板と、石を安定させるための凹みしかなくて……どうやって飛ばすんだろう?


「ナズナ、体調に問題はないか?」

「う、うん……少し魔力を持っていかれたけど、問題ないよっ」

「キツくなったら遠慮なく言ってくれよ、体調不良を隠して俺を守れなくなったら、共倒れだぞ」

「……だ、だいじょうぶっ」


 少しズルい言い方になったが、ナズナが大丈夫と言ったなら俺はそれを信じるしかない。

 まあ、ナズナが戦わないといけないような事態にはならないだろう。ここにはオオバコがいるだけじゃなく、ダンジョンの最奥だ。奇襲をかけようにも侵入アラートを通り抜けたりはできないだろ。


「わかったよ、ナズナ。投石機を動かしてみてくれるか?」

「うんっ。えーっと、ぺこちゃんお願い!」


 ナズナがそう言った瞬間、どこからともなく現れた石が凹み──スリング?──の上に乗っかり、射出された。

 ななめ45°に放物線を描いて飛んだ石は──




「ギャアアアアア!?」

「ぎゃあああああ!?」


 ──急に軌道を変え、ちょうどボス部屋に入ってきたハウルの股間にクリティカルヒットした。

 その惨たらしい光景を見ていられず悲鳴をあげてしまった。というか待って、俺も下腹部が痛くなってきた……。


 急所に直撃したハウルは、手に持っていた投げナイフを放り出し、股間を抑えながら……泡吹いて気絶しやがった……。

 な、南無三。


「いま、何が起きた……?」

「えっとね……ぺこちゃんがネームドモンスターになって、スキル『男性特攻』を手に入れた……みたい」


 ぺこちゃん?

 ネームドモンスター?

『男性特攻』?


 よし、よくわからないが一つずつ聞いていこう。

 下腹部さすさす……痛いの痛いの、神様に飛んでけー! ついでにハウルの痛みも神様に飛んでけー!!


「ぺこちゃんって誰?」

「この投石機の名前。かわいいでしょ?」


 お前のセンスがわからん。というか無機物に名前をつけるな。


「何がネームドモンスターになったって?」

「この投石機! 名前はぺこちゃんっ」


 無機物……というか罠が魔物モンスター

 いったいどういう判定なんだ……というか最後の質問は効かなくてももうわかる気がするんだが……まあ一応。


「……スキルの『男性特攻』って、なに?」

「…………投げた石が女性には絶対に当たらないけれど、男性に当たる場合……その、絶対に……こ、こか……ち、ちん……急所! 急所に当たるんだって!」


 結論。

 ナズナは男性の敵を産み出せるようになったらしい。

 その投石機はぺこちゃんって女らしい名前は似合わないぞ、股間粉砕ちゃんとかに改名しろ!

 ……もしかして、ナズナは魔力の続く限り股間粉砕ちゃんを量産できるのか?


 やべえ。


 こいつはやべえ。


 ナズナは男の股間を粉砕し、もぎ取る女……そう、あの伝説のちんもぎさんだったのだ……!

ちんもぎさんって誰よ?って話は次回。




というかこいつらほんと運いいな……


/*奴隷商が現れる確率25%*/

/*(D100)→21、成功*/

/*奴隷商が撤退する確率15%*/

/*(D100)→9、成功*/


撤退の判定は気力ゲージを意欲やら戦闘回数より計算して大体で出してます。

本格的な防衛が始まる前に計算式はきちんと出したいところです。

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