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ダンジョンコア 魔宮 日向 Lv.1④

やっぱり相棒がいると会話が多くなるね。

恵子ちゃんは従魔に話しかけるか、独り言ばっかだったからなぁ……

ウッ心が

 結果から言って、ハウルはなんの後遺症なく戦力として復帰した。

 もしかしてゴブリンには麻薬が効きにくいのかもしれないな。いや、そもそもファンガス・ドラッグの効果が後遺症がないものだったのか?

 真相は闇の中だ。いつかは究明したいものだが。


「さて、ナズナ、何のスキル取るんだ?」

「うん。『戦略家』のスキルにしようかなって」


 すぐさま表示を求める。『戦略家』のスキルは3SPで取得できるようだった。名前で大体、どんなスキルかわかるだけあって、少し意外だった。


「別のやつでも良いんだぞ? ほら、『料理』とか『裁縫』とか」

「それここじゃできないよね? それに……マスターに必要でしょ?」


 だから他のを選んでほしいんだよ……。

 ナズナを信用していない。そのくせ利用だけはするなんて全くもって酷い奴だ。そして、俺はきっとそういう状況になったらナズナを利用しまくるだろう。返せるものなんて何もないし、多分返すこともない。

 だからできるだけナズナを利用できない状況に追い込んでやりたい。でも、有益なんだよなぁ……。


「マスターの優柔不断……スキル『戦略家』を取得!」

「あ、おい勝手に」


 言ったところで遅い。すでにナズナはスキルを手に入れていた。俺は止めようとしたけど……勝手に取られたなら仕方ない。今はそれを活かす方向で考えよう。


「……お前は、バカだな」

「も~! マスターのためなのに、酷い!」


 避けられるかな、なんて思いながら、ナズナの頭へと手を伸ばす。叩かれると思ったのだろうか、避けようとはしないものの、目をつぶって首をすくめてしまう。

 ……そっと、そのショートカットの金髪に指を通す。

 なでり、なでり。


「女の命に、気安く……」

「今できるお礼が、これくらいしか思いつかなかったんだよ」


 その言葉は、半分嘘だった。

 お礼の気持ちは確かにあるものの、その俺への献身的な生き方に、同情してしまった。


『助けてやりたい』

『自由に生きてほしい』


 なんて。……なんて傲慢な考えをしてるんだろうな、俺は。

 意図的ではなかったにしろ、巻き込んでるのは俺だというのに、ナズナに選択肢を与えてないのは俺だというのに。

 本当に、お前には同情するよ。


「触りすぎだよぅ」

「……もう少し」

「私のお礼じゃなくて、マスターへのご褒美になってる気がする!」


 ナズナへ優しくすることが自己満足だと、そう言われた気がして、無いはずの心臓が跳ねた。

 ……ナズナは、エスパーか? 心でも読めるのか?

 いや、あのアホ面は何も考えていない。深読みする必要はない発言だろう、たぶん。



 そうと決めつけて、俺はようやっとナズナに触るのをやめる。

 ……やめろって言うくせに、やめたら寂しそうな顔すんのかよ、ツンデレか? クーデレになってから出直してくれ、俺はクールビューティーが好みなんだ。


「あと1点で、何のスキル取るんだ?」

「ん? ん~…… とりあえず欲しいのはないから貯金かな~」

「そうか。今度はきちんと、自分のために選んでくれよ?」


 ナズナのじんわりとした体温が残る右手を、握っては開く。……もう少し、触っていたかったな。

 俺が顔を上げるとナズナは、いたずらっ子な笑みを浮かべていた。んんっと背伸びをしながら俺の頭へと手を伸ばす。


「マスターが、手のかからない子になったらね~」


 身長差のせいで、必死に伸ばして俺のおでこにぺちぺちできる程度。仕方なしに少し屈んで、撫でられてやると、ナズナは満足そうに微笑んだ。


 これは、利用してる分ナズナがしたいようにさせてやってるだけで、俺が撫でられたかったわけではない。

 言わば、ナズナへの借金を身体で返している感じなんだ。


「わわっ!?」

「おっと。あんまり無理するなって」


 背伸びし続けていたナズナは、遂にバランスを崩してしまうが、薄々予想していた俺は、腕を回して支えてやる。

 抱きしめるような形になってしまったが、ナズナの体温が心地いい。腕の中でぷるぷる震えているナズナの背中を撫でて落ち着かせてやる。


 顔を赤く茹で上がらせたナズナのビンタが、頬に炸裂した。

 理不尽。






 ビービー! と侵入者を告げるアラートが鳴り響いたのはナズナを抱きうけてビンタされてから、実に二時間後のことだった。


「俺はこのまま死ぬかと思った……!」

「暇だったねぇ……」


 ナズナは今、ベッドに腰掛けている。彼女の膝の上にはこの二時間突かれ続けたスライムが力なく佇んでいる。彼女はスライムをつつくと「ぷきゅぅ」という気の抜けた音がするのを発見してその子がお気に入りになったようだった。

 俺もスライムに触ったが、予想以上に生暖かくて気持ち悪かったのでもう触りたくない……


「名前でもつけたらどうだ?」


 という俺の提案に、首を振った彼女だが、スライムの名前を考えていたようだった。いつか聞き出すことに成功したらその名前を付けてあげようと思う。


「マスター、マップ出してよっ」

「あーはいはいはい」


 マップウィンドウを俺とナズナのみに見えるように表示。侵入者は、どうやら入り口から動いていないようだった。拡大表示を、別ウィンドウで表示。


「念じるだけってのは、便利だなぁ」


 侵入者を確認する。

 相手はたった一人。ボロボロになった布切れを纏い、黒いチョーカーを首にしている。本来は美しいはずのその赤髪は、土で汚れ、見る影もない。


『はぁ、はぁ……ここまで、くれば……!』


 ご丁寧に音声も拾ってくれるようだ。その声色で確信を持った。どうやら侵入者は女の子だ。

 奴隷のような、扇情的な格好をしている上に、ここまで慌てて走ってきたのか服がはだけてしまっている。胸に手を当てて息を整えている彼女だが、目に留まるのはそのナズナ以下の大きさのなだらかな胸部ではなく、両手に科せられた手錠だった。

 

 手錠。それに黒いチョーカーねぇ……。

 

「ナズナ、この世界って奴隷もいるのか?」

「う~ん、いるみたいだね。この子も、奴隷みたい」

「戦闘力は?」

「まちまちだよ? 戦闘用の強い奴隷もいるだろうけれど、この子はそうじゃなさそうかな」


 ナズナは相手のステータスを覗き見るスキルを持っていないと言っていた。今の発言も、どこまで信用できるかはわからない。……相手の強さがわからなくても、手を抜く必要はどこにもない。

 例え強くても、手錠がある今なら物量で……!


「ホブゴブリンを含むゴブリン総員に告ぐ。『侵入者を撃退せよ』! 続いてファンガス・ドラッグを除くファンガス総員に告ぐ。『ゴブリンを援護せよ』」


 今、十八体の魔物が殺到する。




 過剰戦力だった。

 向こうは武器を持ってないどころか、両手の使えない、たった一人の奴隷の女の子。

 こっちは召喚陣から自動召喚されて十二体になった棍棒持ちのゴブリンに、その進化形のホブゴブリン。そして胞子を飛ばして相手を麻痺させるファンガスを後衛に控えている。


『いや……いやぁぁぁ!?』


 冒険者の一人程度なら相手にできるだろうモンスターハウス、それを意図的に起こした。小部屋に眷族が二十体近くひしめく光景は、慣れないと気持ち悪くて見てられないレベルだった。

 しかも彼女の災難はそれだけではない。ここへ逃げ込んできたのは偶然ではなく、斥候として放ったゴブリンに追いかけられ、誘導され……やっと身を隠せると思った場所がここだったらしい。逃がさないといわんばかりに五体のゴブリンが入り口からやってきたことで、逃げ道がなくなった。

 眷族たちがひしめいて気持ち悪い。吐き気がこみ上げてくるが、歯を食いしばって耐える。


『いやぁ! 足がッ!? 動いて……お願いだから動いてっ!』


 出会い頭にファンガスたちは胞子を飛ばした。逃げ道もなく、肩で息をしていた少女はその胞子を吸い込み……すぐさまゴブリンに囲まれた。漂う死の気配から逃げようと後ずさり、転んだ。

 躓いたのかと思ったらそうではなかった。胞子によって、左足に痺れが出たらしい。左足を擦り、叩き、引き摺り、それでも少女は逃げようとした。


 助けようと思った。

 捕虜にしてしまえば殺す必要はないのだから。

 そうだ。そうだよ、捕虜にしよう。その方がptを多くもらえる。念願の女の子の奴隷だ! だから眷族たちに命令を──


『誰かッ! 誰か助けてっ 神様ッ! お願いだから誰k──』


 命令を取り消すよりも先に、ハウルが動いた。


 手に持つ棍棒を振り上げ、ただ振り下ろす。


 振り下ろされた棍棒が、逃げようと地面を這う少女の頭に、当たった。

 力強いその一撃が、彼女の頭部を凹ませていく。

 圧迫に耐えられなくなったのか、砕けた頭蓋の破片が傷つけたのか。彼女の頭部から血が飛び出し、その棍棒を、床を汚していく。



 ありえない。ありえるはずがない。



 何度も否定の言葉を口にする。理論的に考えろ、偶然だ、思い込んでいるだけだ、否定を繰り返す。

 だが、俺は確かに、その少女と目が合った。

 頭部を潰される最中の、あとコンマ数秒も生きられない状態の、最期を迎える少女は、俺を見つめてきたのだ。


「──ッッ」


 嘔吐する。そうしたら逃げられる気がしたから。

 嘔吐する。耐えようにも耐えられなかったから。

 気持ち悪さも罪悪感も倫理観も罪責感も正義感も全てを全て巻き込んで、食道を焼かれる感覚と共に全てを吐き出す。


「マ、マスター!?」


 ナズナに触れられる感覚。背中を擦られるのが邪魔だ。

 記憶に残る少女の最期の瞬間が消えない。

 地球で食べた物が、食道を遡り溢れる。それが俺と地球の、最後の繋がりである気がして、吐くのを止めたかった。止められなかった。

 嘔吐する。


 嘔吐する。


 嘔吐する──





 初の対人ダンジョン防衛は、問題なく成功した。


なんだこいつめっちゃ出目いいぞ? 恵子ちゃんの反動かな?


あ、今回短かったんで明日も更新します。

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