喪失者 白鳥 恵子 Lv.5②
何時に更新とは言ってなかったから……!!
来た道を戻る。
道中で回復したかったけれど、どうも回復アイテムを使いきってしまったらしい。魔力回復薬はあるけれど回復魔法がない以上意味はないんだよね。
とりあえず街に帰ろう。少し横にでもなれば回復するかもしれない。
ええと、確か……。
槍を倒した方に進むって言って、左の方を指したんだよね? 最初の分かれ道を左に進み、その先の小部屋でも左に進んだ……はず。
分かれ道で右に二回ほど進んでも出れなければ、迷ったってことだから壁を壊してでも外に出よう。
通路を進むと、小部屋に出た。ここは最初に火を放った場所だっけ?
……うん、地面の一部が煤焦げてるし合ってるかな。ゲームによっては迷宮って入るたびに地形が変わったりするよねぇ、あれ現実であったらすごく怖いと思うんだ。
「こっちか」
小部屋から続く道は三本。
私が今さっき出てきた背後の道。左斜め後ろにある道。正面にある道。躊躇い無く正面へと歩を進める。
少し、やりすぎてしまったかな? ここまで敵がいない帰り道だと、不安になってしまう。
いや、でも今の体力と気力では、ありがたい……。
なんて考えて最後になるだろう分かれ道も右に曲がった先のこと。
向こうは出口らしく、うっすらと夕焼けが差し込んでいる。問題はその通路。
「……こんなの、なかったよね?」
ぽつんと佇む宝箱。
しかも入ってきた人へ向けたものではなく、出て行く人に向けたものらしい。開ける方向的にそうとしか思えない。
──もしかして、この迷宮の主の罠? もしくは『お前を見ているぞ』的な宣戦布告?
どちらにせよここは危険だ。逃げなきゃ、でも目の前にある宝箱を逃していいものか。
ただのスポーンの可能性だってある。そもそもこの世界にダンジョンマスターが存在するかはわからないし、ここが迷宮なんかじゃなくゴブリンの巣であることをわすれてはいけない。
……。
………………。
罠がないか、調べるくらい、いいよね……?
ほら、なんか、罠感知みたいなスキルあったはずだから、その真似事して罠があるってわかればスルー。なければ開けてさっさと帰ればいいんだよ!
ってことで『調べる』!
槍を取り出して宝箱をつついてみる。動き出したりとか、爆発したりとかー……
しなさそうだ。
なら開けたらダメなタイプかな? 宝箱の周りをよくよく見てみるけれど、透明な紐が繋がっていたりとかってこともない。
鍵穴に刃物とかーって思ってもこれ鍵穴さえついてない。
「魔力的に調べられたらいいんだけど……」
その技術はすでに失ってしまったものだ。やり方をキチンと理解するでもなく、ただスキルを発動させてきた私には再現することさえできない。
レシピもどんな材料を使ってるかもわからない料理を、食べもせず見ただけで再現するようなもの。って言えば、少しはわかるかな。
一瞬、オリジナル魔法を作ることを考えた。再現するのではなく、新たに作り出す方法を。
けれど今の私だと、たぶん無理だ。前回の経験上、おそらく魔法は4種類をベースにしている。
火、水、風、土……だったっけ?
その4つの適性は、先天的に持っていなければ、魔術スクロールとかで手にいれるしか無いと思う。
そしてその他にも特殊な適性があるんだと思う。ほら、ゲッシュさんとかいう情報屋は音魔法を使ってたし。
とりあえず今の私は魔法の適性を1つも持ってない。それなのに魔法を作るなんてことはできないと思う。
……前回で魔法が使えることは証明されてるんだし、あとはスキルレベルが1にでもなれば、『使えることを世界に保証』されたってことになるんじゃないかな?
そんなこんなでオープン ザ 宝箱!
開けたら爆発とかしないね。それになんかの仕掛けが作動したような音もしない。
本当にただの宝箱だったみたい。警戒して損した。
さて、中身は1巻きの巻物。
魔術適性の話をしたら本当にスクロールが出てくるとは思わなかった! いや、でも魔法スキルと決まった訳じゃないよね。うん、開封。
巻物を開けた瞬間、ちかっと一瞬の発光。びっくりしたけれど、目が痛くなるということもなく、特に何が起こったというわけではなさそうだ。
強いて言うなら、また何か嫌なスキルを与えられた感じが……
「ん? 巻物が消えてない……」
確かスクロールって使い捨てで、開くと消えてなくなるはずだけど……仕様変更でもあったのかな?
というかこの巻物の文字読める。えっと、なになに?
『地球よりお越しの探索者のみんなへ、神より業務連絡だよ』
たった一行読んだだけで、破り捨てたくなった。
というか色々とおかしい。まず地球よりお越しって、拉致られたんですけど? 今まで業務連絡とか一度もなかったし、そもそも接触してきた時って私が死んだときばっかりだったよね。
……はぁ、頭痛くなってきた。
『探索者50人を全員送り込み終わったよ。すでに27人死んでるけどまだ生きてる人は頑張ってね』
……探索者って、サンプル番号持ちのことだよね。地球よりお越しの、とか言ってるし。
まあまだ、モルモットって呼ばれるよりは受け入れやすいかな。異世界の探索者、ってのは物語のタイトルにありそうだし。
それよりも問題は人数だ。サンプル番号持ちは全部で50人、これは結構有益な情報だ。
言ってしまえば、彼らは私のテロ行為の仲間になりうるんだから。そして残りは私含めて23人。何人生き残るだろうか、何人仲間にできるだろうか。
……あのナチャーロで殺した3人が生きてれば。
なんて考えても無駄か。うん、続き読もう。
『手が空いたので少し遊びに行こうと思うんだ。強い魔物も弱い魔物も他の世界から連れてくからみんなで仲良くするように!』
この文章から読み取れることは、いつかはわからないけど近いうちに魔物を引き連れた神がこの世界にくるってこと。
どうせ仲良くなんてできないだろうし、戦闘になるだろう。もしかしたら神殺し早まるかもしれない。そこは準備をきちんとしておかないとね。
『PS.自爆機能実装しました』
……は?
オプション画面とかは存在しないので、ステータスを確かめてみたら──あった。
────────────
槍術3 体術1
回避3
投擲1
逃亡1
自爆20▽
────────────
おかしい。明らかに1つおかしいのが追加されてる……!
どうやら説明が折り畳まれているようなので、ひらけーと念じることで展開する。
────────────
自爆20
(周囲20キロに【レベル×2000】の防御貫通ダメージ+自身の肉体と魂に即死を与える)
────────────
これ、自爆って言っても、核爆弾抱えてるようなもんだよ…………。
「ぴ……っ!?」
ドカーンという…………いや、もっと酷い感じの爆音が聞こえてきた。空気がビリビリと振動するって、こういうことを言うんだね、初めて知った。というか変な声でた。
音の発生源は通路を抜けた外。
転生者。爆発音。自爆機能実装……
──まさかね?
とりあえず巻物をポケットに収納して外へと走る。範囲は20キロ、もしかしたらトゥルーフ王国──だったっけ?──も巻き込まれてるかもしれない。
大丈夫だろう。いやもしかしたら……。
走ったのはたった10秒程度だろうけれど、たくさんのことを考えた。音の大きさから、そこそこ近いところで爆発したことは予想できる。
けど、異世界に来て早々自爆するような奴なんて……たぶんタイミングが奇跡的なだけで、魔物が現れただけだったり?
ほら、クソな神が魔物連れて遊びに来るって言ってたし……!
「──嘘、でしょ……?」
空が赤い。真上に見える空から、地平線までずっと、赤い空が見える。
この周辺は森だったはず。なのに、見える範囲に木は2、3本しか存在しない。その残った木でさえも、燃え上がり、今にも倒れそうになっている。
他には、何もない。
私が立っている洞窟でさえも、爆発の被害にあったようで、入り口が崩れかけている。瓦礫でさえも爆発に巻き込まれ、粉々になっていたのは幸いした。
けれど、これじゃあ、トゥルーフ王国は無事ではすまないだろう。
「そう、だ……通信すれば……」
ポケットから取り出した通信の石板に、魔力を注ぎ込む。
通話相手を選べとばかりに、ウィンドウが表示される。
────────────
【通信可能】残り3/5
スミノフ・トゥルーフ(死亡)
ルドルフ・ヤーディア
────────────
呼吸を忘れた。
まだ幼く、それでも何かを抱え込んでいた少年が。私を助けてくれて、生きられるようにと援助してくれた彼が、死んだ……?
私は震える指先でルドルフさんの名前をタップする。プルルル……というどこか懐かしい電子音が響き……繋がった。
『……シラ、トリ殿』
「あの、ルドルフさん──」
『──また、貴女が何かしたのですか……?』
静かな声だった。顔を見なくても、怒っていることが理解できる声。
そして同時に、私が疑われていることに、少しがっかりした。
「……違います。私はゴブリン退治をしていて、被害には遇いませんでした」
『通信の声では嘘か真か、見抜くことはできません。……ですが、最後くらい信じることにします』
「……さいご?」
『ええ、私も近いうちに死ぬでしょう。なので、貴女に頼みたいことがあります』
ルドルフさんに疑われて、少し頭が冷えた。と、同時に嫌な予感をヒシヒシと感じ取っていた。
今すぐ逃げろと叫ぶ本能と、どこにも逃げ場は無いという現実。
……私が話を聞いていなくても関係ないのか、ルドルフさんは話を続ける。
『ルドルフ王子が、死にました。爆発に巻き込まれて……。私も巻き込まれましたが、なんとか体力は残っています。といっても、体力は残り30ほど、両足は折れ曲がり……っ、建物の倒壊に巻き込まれれば、私は……』
右手で石板を持ち、空いている左手で槍を取り出した。
……これじゃ、敵を倒せないことは知っている。でも、私の心が折れないようにするには、必要だ。
『王に、お伝えください……! 帝国は、必ず、攻めてくる……王子は死去したことを、お伝えくださ──』
グチャリと、肉が潰れる音を最後に、通信は途絶えた。
……ごめんね、ルドルフさん。伝言なんて頼まれても、無理だと思う。
「──やあ」
「……ッ」
目の前にいるのは、ライオンだった。
雷をたてがみのように纏った猫のような獣。目だけで私の身長ほどの大きさがある。牙なんて私何人分だろう?
グルル……と唸る声は、先程の爆発音に相当するレベルだ。空気が、震えている。
閉じてしまいそうな瞼を無理矢理開き、視線をライオンの上へと移す。
およそ身長50メートル代の人型が、ライオンに跨がっている。髪はなく、目も鼻も口も存在しない。凹凸の何一つ無いのっぺらぼうな顔を、私に向けた。
「ボクは神様、遊びに来たよ」
雷を纏うライオンに乗って、神が現れた。
神「自爆機能、遊びでつけたら大惨事」
作者「怒 濤 の 超 展 開」
ということで次回は『恵子VS神の乗り物』




