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喪失者 白鳥 恵子 Lv.4

 少し呆けてしまったが、顔面に迫るこん棒が、私を現実へと引き戻した。上体を大きく反らして、回避。

 そのまま追撃しようかとも考えたけれど、ゴブリン相手なんだから、少し練習相手になってもらおう。バックステップで距離をとる。

 ……ん、なんか、予想よりも大きく離れてしまった。レベルアップの影響だろうか。


「ステータス!」



────────────

 名前:白鳥 恵子

 年齢:19歳

 性別:女

 種族:人間

 職業:旅人

 レベル:4/99

 冒険者ランク:G

 状態:理性剥奪(5%)


 体力:84/111

 魔力:25/41

 攻撃力:26

 防御力:64

 敏捷:22

 精神力:26

 幸運:20

 所持金:1722ロト


装備

 右腕:スピアー(攻20)

 左腕:

 身体:ローブ(防10)

 バックパック

 装飾:ただの髪止め(幸1)


スキル

 槍術2

 体術1

 回避3


武技

 刺突1


固有スキル

 襲撃者(人間への奇襲時、初撃のみステータス2倍)

────────────



 確認項目は大きく3つ! ゴブリンがこん棒を振り回しながら迫る。


 スキルには刺突が増えただけ! ステータスは全体的に+5くらいあがってる!

 槍でこん棒を受け止め、ゴブリンの手首を掴む。そのまま力を込めると乾いた音が響き、こん棒が地面へと落ちた。


 理性剥奪は……上がってる。こまめに確認してた訳じゃないけれど、レベルアップ時にだけ1上がってるのを確認してる。

 これはもう確定でいいだろう。

 ゴブリンへ足払い。悲鳴が上がるが、無視して再び距離を開ける。


 最後! ポケットへと槍を仕舞うと──入った!

 また1つ入れれる種類が拡張されたらしい。今で14種類……もしかして、1レベルで1つ拡張されるのかな?

 3レベで13種類。4レベで14種類。

 ってことは……10+レベル分? うん、とりあえずはそうだと仮定しておこう。


 ポケットから槍を取り出すと、クルリ。穂先をゴブリンへと向ける。

 ゴブリンはゴブリンで、立ち上がり、左手でこん棒を構えた。さっき右手首は砕いたから、構え方に少し違和感がある。


 ゴブリンの振るう軌跡は、遅く、それでも十分丁寧に弧を描いた。けれど、その攻撃に当たってやる必要はない。

 威力がどれだけ上がったかの検証だ。石突きでゴブリンの腹を殴る。


「グギャア!?」

「死なないっ、と」


 手首を折った分と、槍で殴り飛ばした分。それでもゴブリンは死なないみたいだ。ならもう一発。


 次は石突きの方で突いてみる。そうするとバツン!

 野球のストライクになったような大きな音をたてて、ゴブリンの腹部に穴が開く。

 臓物と血が溢れ出るのを、見ないように視線をそらす。ゴブリンは絶命したようだ。


「……ふぅ。ふぅぅぅ……しんこ、きゅぅ……」


 赤く染まりかけている視界を、瞼で覆い隠す。胸に手を当てて深呼吸を繰り返すけれど、鼓動は鎮まるよりもさらに激しくなっているのがわかる。


 戦いたい。もっと血が見たい。

 骨を折りたい。肉を引き裂きたい。刺したい。砕きたい。斬りたい。潰したい。落ち着け!


 これから街に行こうとしてるってのに、こんな殺意を抱えていたら……何をしてしまうか予想は難しくない。


「大丈夫かい、お嬢ちゃん……?」


 声がかけられる。驚いてそちらを見ると、遠目に見えていた門番さんだった。急に動かなくなったから急いで駆けつけてかれたのだろうか。


 ……あ、驚いた拍子に殺意が消えてなくなった。


「大丈夫、です。少し疲れたみたいです……」

「肩でも貸そうか?」

「いえ……もう少し休めば大丈夫です」


 改めて深呼吸をする。

 視界も良好、赤く染まる部分は一ミリもない。


 そして鼓動も。ドクンドクンとうるさかった音は静まり、胸の奥に意識を巡らして、やっと感じ取れる微弱なトクントクンとした鼓動。

 思考にも虐殺への偏りは存在しない。至って普通、正常だ。


 ……はやく、この状態異常を治したい。治さなくても、制御できるようになりたい。


「あ、もう大丈夫かな? これ、ドロップアイテム。君、運がいいんだね」


 門番さんは、そこらに落ちていたお金と、アイテムを渡してくれた。大きな銅貨と小さな銅貨が数枚ずつ。それから折れて使い物にならなくなったこん棒と、ゴブリンが腰に巻いていた布切れ……。


 なにこれ、ゴブリンたちはゴミを残して消えていったの……?


「え、えっと……これって使い道あるんですか……?」

「…………まあ、売ればお金にはなるかな。魔物が死んでも残るくらいには魔力が宿ってる物だからね」

「魔力が……?」


 じぃ……とこん棒と布切れを見てみるけれど、全くもって魔力といったものは感じられない。

 自分の中の魔力でさえ、動かすことが困難なのに、他の人や物の魔力なんて感じ取れないってことかな。


「知っている人も少ないんだけどね」


 彼はそう前置きをしてから話し出した。

 ……あ、布切れとこん棒は門番さんにあげた。私にはゴミにしか見えなかったし、特に布切れに触りたくなかったから。


「そもそも魔物というのは2種類に分けられる。親から産まれた奴と、魔力から作られた奴だ」

「作られた……?」

「うん、召喚術なんかもそうなんだけれどね、濃い魔力溜まりとかダンジョンでは、魔物が自然発生するんだ」


 ゴブリンを殺しまくっても絶滅しない理由はそれか……。

 そして普通の生き物みたいに、親から産まれる魔物もいるらしい。ほら、クロノスにもお爺ちゃん? がいたし、家庭や家系を持ってる魔物もいるみたい。


「時間が経つと、魔物の持つ武器とか、着てた服とか。そういった物にも魔力が宿るんだよ。強い魔物からドロップするアイテムの中には、魔道具になるほど魔力のこもったものも存在する」


 コルァの持っていた紅い三叉槍も、強い魔力が込められていたからドロップしたアイテムだ。

 なるほど、強い魔物ほどドロップしやすかったりするのかな。


「ゴブリンだと、人間を捕まえて子供を生ませる場合が多い。……君は、そうならないようにね」

「はい、心配してくれてありがとうございます」

「これも仕事だからね。それじゃあ、また何か困ったことがあったら声をかけてくれ」


 そう言って彼と門のところで別れた。ギルドカードを見せることなく通れたのは今日何回も顔を合わせたからか、魔物についてご教授いただいたからか……。


 まあいいか。とりあえずはギルドへ向かおう。




 ギルドへと入る。

 ドアを開けると、相変わらずむわりと酒臭さが漂っている。まだ昼間なのに……。


 入って左が冒険者ギルド。右が酒場となっている。

 私はギルドへと向かうが……なんか、やけに酒場に人だかりができてる。何かイベントでもやってるんだろうか、後で立ち寄ってみるのもありかもしれない。


「すみません、依頼の清算にきました」

「あ……っ、えっと。ケーコさん?」


 一番最初に受付をしてもらった人のところに並ぶことおおよそ1分……二人程度並んでいて、しかも片方が受付嬢をナンパしていたけれどそれでも1分程度しかかからないってすごい回転率だね。


 ちなみに、ナンパ男は隣に忍び寄ってきた屈強なマッチョマンに尻撫でられて、慌てて逃げていった。残念そうに落ち込んでいるマッチョマンと目が合うけれど、特に何を話すでもなく、道を譲られた。


「はい、そうですけど。……そういえば、あなたの名前は?」

「あ、はい。私はポーラです、よろしくお願いしますね」


 ポーラさんにギルドカードと薬草を5束渡す。

 すると彼女は、それをトレーの上に置いて、カウンターの下で何か作業を始めた。カウンターの影になっていて、何をしているのかはわからない。


「……すごい、ですね。この短時間でゴブリンを、こんなに……それにレベルも──」


 私はカウンターをコンコンと叩きながら、ポーラさんを睨み付ける。

 彼女は、余計なことを言おうとしていたことに気づいたらしく、口を押さえながらこくこくと頷いた。


 まあ、誰が聞いてるって訳じゃないだろうけれど、個人情報は広めないでほしいね。特に、称号の乗ってるステータス情報はトップシークレットだ。


「はい、終わりましたよ。こちら、報酬の200ロトになります」

「ダンジョンの件、受注したいんですけど」

「はい、それに関しては達成したときに報告してくださるだけで結構ですよ。一階層を突破したらまた来てくださいね。……あ! そうだ、ケーコさん!」


 ポーラさんが身を乗り出すようにして大きな声を出した。少し視線が集まったので、私が落ち着いて、とジェスチャーする。

 彼女は顔を赤くしながらもペタンと椅子に座り直した。


「ケーコさんに珍しいお客さんが来てるんですよ」

「……私に? 客?」


 スミノフ君、だろうか?

 いや、彼ならまずは『通信』で連絡を取ってくるだろう。いや、ポケットの中だと通信ができない可能性は、無くはないけれど、それでもギルドを通すだろうか?


 あの執事長が直接会いに来たり、あとは忍者みたいな人が見張ってたりしそうなものだ。


「誰ですか?」

「はい、彼は──」


 カウンターがコンコンと音をたてた。

 ……いつの間にか、隣に露出面積の多い褐色男性が立っていて、朗らかな笑みをポーラさんへと向けていた。


「ポーラ嬢よぅ、勝手に人の情報売らないでくれますかねぇ?」

「あ……すみません、ゲッシュさん。ケーコさん、こちらが″その″珍しいお客さんですよ」


 おおよそ距離は1歩分。そこまでの接近に、私だけじゃなくポーラさんも気づいていないようすだった。

 私と話しながら、とはいえ、正面から近づくのに気づかれない……隠密スキル持ちかな?


 そして彼の見た目は、さらに特徴的だ。

 褐色の大男。ざっと2メートルはあるだろう、見上げ続けてると首を痛めてしまいそうだ。

 黒いズボンを履いているものの、上半身はミニタオルみたいな布切れを首にかけているだけで、ほぼ裸だ。


 ……えっ? 変態? なんでみんなこの人に服を着せようとしないの?



「さて、紹介に預かったゲッシュって者だ。職業は、情報屋だ」

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