喪失者 白鳥 恵子 Lv.2②
※※以下の文章を第2話の『前書き』に追加しました※※
補則
この小説ではキャラクターの行動方針以外を全てダイスで決めております。
攻撃、回避、逃走、スキルの発動……などなど。
自分と相手のステータスから比を計算し、その値を成功値とします。100面ダイスを振り、成功値以下が出れば成功。成功値より大きければ失敗となります。
また、
1を『スーパークリティカル』、『超大成功』、『絶対成功』、『考えられる上で最大級の成功』。
2~5を『クリティカル』、『大成功』としております。
逆に、
96~99を『ファンブル』、『大失敗』。
100を『スーパーファンブル』、『超大失敗』、『絶対失敗』、『考えられる上で最大級の失敗』として処理しております。
前書き、後書き、活動報告などで『クリティカル』『ファンブル』の単語が頻出すると思うので補則説明をさせていただきました。
また、キャラクターの行動方針だけはダイスで決めない理由ですが、
そこまで運任せにしてしまうと『小説として成り立たない』、『人として考えられない行動ばかりする』という結果となってしまいます。
短編小説ならばそれも面白いのでしょう。
しかし、私が書きたいのは読者が面白いと思う作品ではなく、探索者たちが足掻く生き様です。そのために致し方ないことだと考えております、ご了承ください。
街中は武器を携帯している人たちが多いので、槍を仕舞うことなく東門へと戻る。
道中、けっこうな数の視線を感じたけれど、誰も話しかけてこないあたり問題はないのだろう。きっとあれだ、この虫アミが見たことないもので珍しかったんだ。
「虫アミってのは買えたのかい、お嬢ちゃん?」
「はい、作ってもらえました。これから虫取りしてきます」
ギルドカードを渡すと、門番さんは犯罪歴がないかの確認をして返してくれた。
……もしかして万引きしてきたんじゃないかって疑われた?
「たくさん捕まるといいね」
「そうですねぇ」
なーんか、この門番さんに子供扱いされてる気がする。まあ、40代後半のおっさんからしたら私なんて、娘と同じくらいの年齢だし、子供なんだろう。
……それに虫取りアミなんか持ってるからなぁ。
いや、これは大いなる実験なんだ。虫なんかの全ての生き物を倒しても経験値になるなら、きっとなんやかんやで将来的に私を助けてくれるはずだ。
やばい、いま正気に戻ったらめっちゃ恥ずかしい……!
門番さんから逃げるように森の奥へと進んでいく。
虫を捕まえる前に、なんでアイテムボックスに入れれなくなったのか試したい。条件とか、上限とか。
ポケットの中身を確認してみよう。
────────────
回復薬(体10)×7
回復薬(魔10)×7
回復薬(体50)
回復薬(魔35)×4
干し肉×7
レーション×5
通信の石板
戦士の秘薬
歯ブラシ
小さいタオル×2
大きいタオル×2
火打ち石
────────────
にーしーろー……えっと、12個か。複数個の奴も別として考えると39個。
……中途半端だし、数が上限じゃないみたい。
火打ち石を取り出してみる。問題なく取り出せた。もう一度仕舞うと問題なく仕舞えた。
アイテムボックスの凍結、とかいう最悪の事態でもなさそうだ。
それじゃあ……体積で容量が決まってるとか?
回復薬(体10)を1本だけ取り出してみる。
そして背負い鞄からコンパスを取り出すと、入れてみる──が、ダメ、入らない。回復薬よりも明らかに小さいコンパスで入らない……?
でも回復薬をポケットに戻すと、スルリと入る。
回復薬(体50)を1本だけ取り出してみる。そしてコンパスを入れてみると……入った!
回復薬はどちらも大きさ的に違いはない。効果を判別してるわけはないだろう。魔力で判別してるって可能性はあるけれど、コンパスは魔道具なんかではない。
……ってことは、やっぱり種類数?
種類数12個までのアイテムボックス。
なんでそんな中途半端なんだろう……直感スキルでもあれば閃いたのかな。
まあ、いいか。これからはアイテムボックスの中身にも気を使っていこう。
シュッ、シュッと虫アミを振ってみる。けれど虫が捕まっていたりはしない。地球よりも虫が少ないみたいだし、適当に振っても捕まることはないか……。
よし、森を歩いて色々と探してみよう。
虫アミをアミを立てるようにしながら引きずって歩く。虫が入らないかな~と歩くこと3分ほど。アミの中には千切れた草がたくさんはいっているけれど、それでも10匹近い虫が入っていた。
バッタとか、ミミズとか、カメムシとか……あ、てんとう虫もいる!
触りたくなかったので草ごと壺の中に入れて蓋を閉めておく。1匹で1EXPだとしよう。そしたらあと50匹ほど捕まえたら一気にレベルアップできる、かもしれない。
もう少し捕まえよう。
『残り時間1時間29分53秒』
虫アミを引きずって歩いていると、目の前にスライムが2匹うねうねしているのを見つけた。
倒す……? どうにも『理性剥奪』があるので戦うのが怖くなってしまう。いや、でも戦わないと死ぬんだし、戦っちゃうか。
魔物を倒せば進行度が進むって検証もできるのだし。
虫アミを地面に置く。そのさい、中に入っているかもしれない虫が逃げないようにアミを枠で押さえておくのも忘れない。
そして槍を、くるり。手元で回して、構える。
飛び掛ってくるスライムを太刀打ちで地面へと叩きつける。べちゃりと潰れる音がしたようだけど、まだ生きている。
もう片方のスライムが飛びかかろうとしていくけれど、私が攻撃するほうが僅かに早い。
突き。ドーナッツ型のスライムが出来上がるが、すぐさま踏み潰してとどめ。そして初撃与えたスライムへと対象を切り替える。くるりと槍を回して石突きを向け、止めの突き。
戦闘時間およそ5秒。ドロップ品なし、14ロト、10EXP獲得っと。
……やめよう、ゲーム的に淡々とこなしてると心が病んでしまいそうだ。
槍を左手に移し、右手には虫アミを装備する。再び虫取り──どちらかというと地引き網だろうか──を再開する。
虫を捕まえては壷に捕獲し、地引き網を再開する。
そのルーチンをしていると、どうしてもゴブリンに見つかってしまう。網を引き摺るせいでガサガサという音を、ずっと出してるからなぁ……。
こればっかりは仕方ないと諦めて、網の中に捕まっている虫を壷に移し変える。そして虫網と背負い鞄を木陰に隠す。
ゴブリンが後ろに迫ってきているのを感じ、振り向き様に横凪ぎをお見舞いした。
……ゴブリンの足が予想よりも遅く、静かだったせいか足音が大きく聞こえていた。それを言い訳にするつもりはまったくないが、空振りをした。これはゴブリンを威嚇するためだったんだよ。
「ハァッ!」
いつでも突きができるように構え、こちらから距離を潰した。一気に加速し、顔面狙いの突き。
ゴブリンは持っていたこん棒で受け止めた。が、そのあとのローキックまでは受け止めきれなかったようだ。
ゴロゴロと転がるゴブリンから、ターゲットを変える。戦線復帰される前に倒す!
身中へと突きを放つ。が、それは相手が下がったことで致命傷にならない。一歩踏み出す、柄を長く持ち直し……足払い。
ステーンと転んだゴブリンの腹を踏みつけ、逃げられないように固定すると、サクッサクッと止めを刺す。
背中をバシバシと叩かれるが……痛みはない。けれど、「その子を苛めないで~」と言っているような攻撃は、ウザい。
裏拳を相手の顔面に叩き込む。のけ反ったところに槍を振り下ろし、地面へと叩きつける。
大の字に寝そべったら後は先ほどと同じだ。逃げられないように踏みつけ、突く。
「ふぅ……ゴブリン2体なら、なんとかなる……」
ゴブリンリーダーがいなければ余裕だ。流石に、ゴブリン10体くらいが一気に押し寄せてきたら多勢に無勢だけれど。
荷物を回収すると、また虫取りを再開する。なんだかんだ、1時間半も時間を残して、レベルアップまで残り10EXPだ。
壺の中にいる虫は10匹を越えてるし、ここら辺で倒しちゃおうかな?
壺を開けようとして……問題が発生した。
魔界かくやというほどの、虫の巣窟とかした壷を開けたくない。あと、この槍で虫を潰すのはちょっと、嫌だ。
何か潰せる武器……捨ててもいい武器……と探していると、ゴブリンの持っていたこん棒に思い当たった。
魔方陣も書けて、虫も潰せる。便利すぎる武器だ、問題は先程の奴らがドロップしなかったせいで手持ちにないってことだけど。
「無いなら作ればいいんだよ」
今の私には時間がある。
手頃な太さの枝を見つけ、同じところを何度か突き、折りやすいように削っていく。
よいしょ。と力を込めてもミシミシいうだけで折れないので、もう少し攻撃することにした。ノコギリとかあれば、楽なんだけどなぁ……仕方ないか。
四苦八苦しながら枝を折ることに成功した。そうしたら丸太のようにするために、邪魔な葉や枝分かれした部分を折っていく。
それも出来上がったら持ち手部分を作るために、一部を細めるように削っていく。ろくろを回す機械とかあれば、刃を当てるだけで良いから楽なんだけどなぁ。
現代日本がいかに恵まれていたかを再認識しながら、私はこん棒製作に励んでいた。
虫たちが、壺の中で捕食し合っているとも知らずに……
地引き網じゃなくて、どちらかというとえびこぎ網ですかね……
まあ、アミを引きずって草むらをかっさらってるんだなって思ってくれればいいです




