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喪失者 白鳥 恵子 Lv.1⑥

書 き 納 め

お偉いさん改め、スミノフ君は約束通り沢山のものをくれた。

低級、中級の回復薬。体力10、魔力10を10本ずつ。体力50、魔力35を5本ずつ。

アイテムボックスの存在を知らなかったようで、大きめの背負い鞄も用意してくれた。なので低級回復薬を3本ずつ、中級回復薬は1本ずつ鞄にいれることにした。

残りはポケット行きだ。


道具箱アイテムボックスは空間魔法の最初のスキルなんだけど……なんで持ってるの?」

「神様に聞いてください」


おおよそ、ゲームだとアイテムボックスが存在するし、サンプル番号持ちに持たせてもいいだろう。ってことなんだろうけれど、上限がなければ確かに便利すぎる(チート)スキルだ。

……ん? 今、アイテムボックスが縮小されたような……。


まさかね。



お金は5000ロト。スミノフ君のポケットマネーらしい。

自腹で支援してくれるなんて……なんていい人なんだろうね。脅してこなければもっと最高だった。



そして食糧。干し肉が10ブロック。それからクッキーが小分けされた袋詰を5袋もらった。この皮袋も、再利用できそうだ。


「味は……無いよりはってくらいだけどね」

「十分です、ありがとうございます」

「こういう所は礼儀正しいんだけどなぁ……」


スミノフ君を睨むと、慌てたように次のものを渡してきた。


「これが、通信石。無くさないようにね」


渡されたのは、仄かに光る手のひらサイズの石板だ。スマートフォンみたいな感じがするが、当然画面はなく。そっと指でなぞると魔方陣が彫られていることに気づく。


────────────

【通信可能】残り3/5

スミノフ・トゥルーフ

ルドルフ・ヤーディア

────────────


魔力を通すと、ウィンドウが浮かび上がった。そこには2人の名前があり、その人たちに通信できることが示されている。

試しに、目の前のスミノフ君に通信してみる。


『聞こえてるかい?』

『聞こえてますよ。これで連絡も楽々ですね』


すぐに通信を切る。魔力は大事にしないといけない。

魔力の回復薬をポケットから取りだし……仕舞った。これじゃあ何のために鞄を用意したのかわかんないね、ちゃんと鞄から取り出す癖をつけないと。


「念話もできるなんて、前に通信を使ったことが?」

「はい、ありますよ。大切な魔道具でした」


今でもこの髪留めは宝物だ。命よりも大切な、私を形作るものだ。

それでも、欲を言うなら、あの土偶の想いも込められていた髪留めの方がよかった。


干し肉を3ブロックほど鞄に詰め、通信の石板も鞄に入れる。他は全てポケットの中に入れる。

さて、出発する用意もできた。目的地も決まっている。


「では、また」

「うん、強くなったら会いに来てよ。あと呼んだらすぐに来てくれると嬉しいね」

「その時までには、転移魔法でも覚えておきますね」


アイテムボックスが空間魔法だというなら、解析すれば使えるようになりそうなものだ。魔力に余裕ができたら研究しようと決めて、頭の片隅に追いやる。

それに通信の石板も、少し気になることがあるしね。


別荘を出ると、大通りを突き進む。残り時間は28分。森までの距離を考えると、微妙な時間だ。

それでも身分証は用意するべきだと思う、冒険者ギルドへと足を向ける。大通りの、酒場と一体化した大きな建物。

重いドアに体当たりするように体全体で押し開けると、むわりお酒の臭いが流れ出してくる。……臭いだけで酔ってしまいそうだ。


「冒険者になりたいんですけど」


入って左側が冒険者ギルド、右側が酒場となっている。酒臭さから逃げるように受付へと歩き、手の空いている受付嬢に声をかける。


「え、えっと……冒険者になるのは、少し早いんじゃないかな……? いま何歳かな?」

「19ですけど」


なぜか異様に驚かれる。私が少しイライラしたのに気づいたのか、受付嬢が慌てたようすで準備を始めた。

手を乗せるように、と差し出されたのは長方形の箱。手をのせると僅かに光った。


規約の説明は、一度聞いてるし覚えきれていないので「母が冒険者で注意点はしっかりと聞いてるので大丈夫です」と嘘をついてスルーさせた。

冒険者カードを作る間に説明するはずだったようで、手持ちぶさたにオロオロしていた。なので初心者用の依頼を先に頼んでしまうことにした。確か……『ゴブリン討伐』『スライム捕獲』『薬草採取』だったはず。


「……もしかして、ナチャーロにいました?」

「ええ、よくわかりましたね」

「スライム捕獲があるのはナチャーロだけなんですよ。ここでの初心者依頼は『ゴブリン討伐』『薬草採取』そして『ダンジョン1階層突破』です」


受付嬢が少し寂しそうな顔をしながら、作業をしていた。先程の長方形の魔道具を見ながら、何かを書き写しているようだけど……人のステータスを控えておくとか失礼じゃないのかな。

まあ、ナチャーロでも「適切な依頼を紹介するためです」なんて言われたっけ。懐かしいなぁ、あそこの受付嬢は……フェルさんだっけ?


「ダンジョンって近いところにあるんですか?」

「近いところというか……この建物内からいけますよ」


ダンジョンの入り口を塞ぐようにギルドを建てたということだろうか?

時間に余裕がない私には嬉しいことだ、だけどそんな近くに魔物が住んでるなんて怖くないんだろうか? 今こうしている床下に魔物が蔓延っているなんて……。

あ、そのための酒場かな? 溜まり場をすぐ近くに用意することで問題があったときには対応してもらえるように。

よくできてるなぁ。


「ダンジョンの1階層にゴブリンはでますか?」

「ゴブリンが出ることは出ますが……推奨レベルは5レベルからです


つまり今の私が行くと死んでしまうかもしれない、と。ならスミノフ君に紹介された森にいくことにしよう。


「ゴブリン討伐と薬草採取は受けます。先にそっちを終わらせてから、ダンジョンに行くことにします」

「わかりました、ではこちらがギルドカードになりま──えっ?」


受付嬢が真っ黒いカードを眺めて、私の顔をまじまじと見つめてから、また黒いカードに目線を移した。


「なに? 時間ないんだけど」

「レベル1……?」


ああ、レベル1は珍しいって話ね。というかあなたはさっきまで何を写してたの……?


「これからレベル上げるから問題ないわ。それじゃ」

「ま、待ってください!?」


受付嬢を無視してギルドを後にする。大通りに出ると人混みに紛れるようにして東門へ。

後ろから誰かに呼ばれた気がするけど、きっと気のせいだろう。残り時間はもう21分しかない。いい加減ヤバイから。



門番さんに「レベル上げしてきます!」とギルドカードを叩きつけたのが2分前。こんなに森が近いならもう少しギルドにいてもよかったかもしれないね。

鞄を背負い直す。肩紐の長さを調節し、飛んだり跳ねたりしても動かないように調節する。そしてポケットから槍を取り出すと、クルリ。手元で回し、構える。


私は『試練の森』に入っていった。


2分後に会いましょう!!!

良いお年を!

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