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喪失者 白鳥 恵子 Lv.1④

 ──即死は発動しなかった。


 避けようとしても追尾された。にも関わらず、胸を軽く押される程度でそもそも効果がなにもないことに驚いた様子だ。

 自分の胸元を眺めている執事長へとドロップキック。


 手応えは……あまりない。どうやら咄嗟に飛んで勢いを殺されたようだ。

 足を掴まれそうになるが、手元に戻ってきたスピアーを地面に突き刺し、軌道を変える。そのまま着地──は無理。


 ベチャリと不様に落下した。体力は減ってないけれど痛くて泣きそうだし、精神的ダメージは計り知れない。

 慌てて立ち上がることはしない。再びグングニルを使おうとして、気づく。


 魔力が半分以上持っていかれてる? ステータスを開いて状況確認。



────────────

 名前:白鳥 恵子

 状態:理性剥奪(2%)


 体力:68/68

 魔力:11/26


固有スキル

 グングニル・レプリカ(最大魔力の6割消費。必中。即死1%)

────────────



 急ぎなので変更点だけ確認する。

 この状態異常がなんなのかは後回し、ろくでもないってことがわかればそれでいい。

 魔力が6割消費される……つまり回復薬でもないと連続して撃てない。なんて使えないスキルだ。


「もう、終わりですかな?」


 執事長の挑発。コツコツと足音が近づいてくる。

 グングニルは使えない。なら、今あるスキルでコイツを殺す方法は?

 必死に思考を加速させながら立ち上がる。槍をクルリと回すと、まだやれると示すために構える。


「グングニル」


 槍を放り投げた。執事長は先程のスキルを警戒して槍を防ごうと、私から視線を外し、剣を構えた。

 足音をたてないように、それでも素早く背後へと回り込む。槍が重力に引かれて落ち、金属音をたてた瞬間に飛びかかる。ダメージを与えられないとしても、首を絞めたら気絶させられるんじゃないかな?


「甘い──ッ!」


 木刀を体に添えられた。

 こちらも見ずに、正面から受け止めるように添えられた木刀に押し返される。腕を伸ばすが、その首に手が届かない。

 普通に叩かれたら一発で即死するからって、ダメージを与えないように受け止められるとか。どれだか手加減されてるんだ、私……。


 右ストレート。木刀で流される。


 踏み込んで右フックへと移行。屈んで避けられゆったりとした動きで切り上げられる。


 半身になって回避。そのまま袈裟斬りをバックステップで回避。


 ……回避させられてるって感じだ。ギリギリで回避できてるんじゃない、わざと全てローブを掠めるように外してもらってる。速度も本来こんなに遅くないんだろう。

 まさか本当に試されてる?


「うわああああ!!!」


 半狂乱になったタックル。執事長は呆れたように剣を振りかぶり──空振った。

 フェイントだ。スライディングで彼の股下を通り抜けた私は、そのまま股間へとパンチをお見舞いする。ぐにゅりと気持ち悪い感触がした。


 お腹を押さえて膝をついた執事長の背中にヤクザキック。けれど倒すこともできず、反撃される。視認できないほどの剣速で振り抜かれた横払い。

 偶然にも上体が反れていたので当たらなかったが、目の前を木刀が通りすぎた。……風圧だけで鼻血が出たんだけど?


 さて。執事長は今、膝をついているおかげで頭の位置が低く、首を絞めてくださいと言わんばかりだった。しかも、油の切れたロボットのように、剣を振り抜いた姿勢で止まっている。


 適当に鼻血を拭うと、某潜入ゲームのように首に腕を巻きつけて、絞める。

 ポイントとしては、肘が喉仏のあたりにくるようにして、喉を左右から絞めること。背中を反らさず丸まり、自分の頭でグイグイと相手の首を前に押し出すこと。背中に手をついてあげて、押し込んであげることもコツだね──ッ!?


「ガアアァァッ!」


 ふわりと体が浮いたと思ったら天と地が逆転した。背負い投げのように投げられたのだと理解したときにはすでに遅く、背中から叩きつけられていた。そして、顔面へと拳が振り下ろされた。


 ガツン、ともバキン、とも聞き取れるような轟音。私の左耳スレスレを通った拳が、地面を砕いたようだ。

 執事長に睨まれて、腰が抜けてしまう。


「……小娘が」

「ひぅ……っ!」


 マジギレしてるらしい執事長が吐き捨てるように呟いた。

 そこらのドラゴンよりも怖いんですけど……?




 戦闘が終わって感じたのは、敗北感と虚無感だった。

 従魔のことをバカにされたのにダメージを与えることもできず、簡単に負けた。

 もし執事長が本気で殺しに来ていたら、私は瞬きすることもなく殺される……それほど実力の差がある。最後の一撃は、完全に有利な状況をひっくり返されてあと数センチでも拳の振り下ろす位置が違っていたら死んでいたのだし。


 バカだなぁ……わたし……。


 勝てない相手に無謀に挑む。引き際を見誤って攻撃を仕掛けて反撃される。

 前回の敗因から何も学んでない……。


「お疲れさま。意外に善戦してたね」


 お偉いさんが、私に手を差しのべている。その後ろでは、無表情の執事長さんと苦笑いを浮かべた隊長さんが控えている。

 その手を眺めて、悩む。

 私はどうしたらいいんだろう?


 執事長さんへの怒りは確かに残っている。何より神々への殺意は確かに根付いている。

 けれど、動いていいのか迷う。

 またクロノスやエルピスといった従魔たちを、仲間を失うんじゃないかと恐れている。私はきっとまた、判断を誤るから……。

 もう二回も死を経験して、それ以上の深い悲しみも知った。それでもまだ歩かないといけないの?


「ケーコさん、もしよければ。僕と一緒に来てくれないかな」

「……」


 お偉いさんの手を払う。構わないでほしい。私はもう生きていたくなければ、死にたくもないのだから。


「僕は第一王子だ、いつかは父上の王権を継ぎ、王様になる」


 そんなことは知ったことではない。彼は話し続ける。


「王になる道は、楽なことばかりではないと思う。だから、君に助けてもらいたいんだ」


「君の……ケーコさんの力を借りたい。僕が王になるために。なにより、君の悲しみを取っ払ってあげるために」


「僕が君に生き甲斐を与える。君がもう悲しまなくてもいいように」


 支えてやるから下僕となれ。要約するとそういうことだ。

 正直、私なんかの力を借りなくても、執事長と隊長さんがいれば。ダハク弟さんを始めとする私兵団のみんなもいるんだ、なんとかなるだろう。

 なんとかなる、はずだ……でも……。


 この悲しみを取っ払ってくれる。生き甲斐を与えてくれる。……それはとても魅力的な提案だ。お偉いさんを信じるならば。


「だから僕と共に来い、ケーコ・シラトリ!」

「  」


 この人を信じるか、信じないか。





 脳裏を過る光景があった。

 手を差し伸べる人(いつかのわたし)と、踞って歩くのをやめてしまった子。

 ああ、あの時のクロノスは、こんな気持ちだったのかな。

 なら、私は──



「私はあなたと一緒にいきません」



 ──誰の従魔ペットにもならない。

簡単に負けた(レベル50後半の相手をマジギレさせる程度)


ボクの書き納めはまだ先だ!今年中にあと1話更新します!


『神様のおねがい』で書籍化もしています、もやしいためさんに宣伝していただきました。

『神様のおねがい』→ http://ncode.syosetu.com/n5810by/

本当にありがとうございます。


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