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旅人 白鳥 恵子 Lv.17 ????④

「滅槍グングニルッ!」


やはりというか、なんというか。

私が頼ったのはリスクの高すぎる即死スキルだった。


三叉槍を投げる。相手と同じように逆手に持ち変えて、身中目掛けて全力投擲。

最近使ってなかった技だけど、発動の仕方に間違いはない。……けれど、肝心の黒い靄は纏ってない。


守護者の……団長? は盾で防ぎ、三叉槍を弾き飛ばした。

カラン、と金属音が、団長の後ろから聞こえてくる。


「やっぱりハイリスクだね……」


すぐさまポケットからランスを取りだし、構える。


相手もそこそこの知性はあるようで、無闇に近づいてくるわけではない。けれど、私が逃げられるほどの距離を開いているわけでもない。

それに、ジリジリと間合いを詰められて、相手の適正距離に近づいているのが理解できた。


その僅かな隙に、よく相手を観察する。

突破口を探そう。

魔力はまだ5割ほど残っているから、勝ち目はあるかもしれない。



相手は人型。身長はおおよそ2メートルにもなろうかというほどの巨体。

ヘルムから覗く相貌は赤くギラついていて、それでいて生気がない。……アンデッド?


全身を包む鎧は、なんだっけあれ。鎖かたびら? とかいうやつに似ている気がした。


相手の得物は盾、それと槍。

盾は直径50センチくらい? 身長と比べてしまうと、小さすぎる丸盾は、常に私の攻撃を弾こうと位置の微調整を行っているのがわかる。


そして槍。

構え方が異様だが、それが考え込まれた故のものだと理解する。

逆手に持ち、まるで槍投げでもしようかという構えを、頭より高い位置でしている。

そして、槍の重心より少し後ろを持っているようで、穂先が下がり、私の目線の位置と並び、それが恐怖感を与える。


「首を刺されても耐えたけど、目はどうかな……?」


体力が耐えても、精神が耐えられる気がしないね。




相手の適正距離に入った。

相手が踏み込もうとする動きを、穂先の若干の跳ね上がりから読み取り、右手側へとサイドステップ。

盾持ち相手は、死角が増えるからそれを利用してやろう。


最優先目的は、三叉槍の回収だ。






動きづらい……!


死角に回り込もうとしても、槍で突かれそうになり回避行動をとると三叉槍に近づけない。

逆に防御力に任せようと突っ込むと、相手の槍が肩口を貫き、浅くはない傷を残した。お返しとばかりにランスを振るうものの、対したダメージを与えられた気はしない。


いっそ、三叉槍を捨てて逃げるか?

あれはコルァの遺品なのに、簡単に捨てていいの? でも、このままだと殺される。いや、殺される前に回収できるかもしれない。



でも。

だって──。



天秤に乗る物が大きすぎて、選びかねる。

迷えば迷うほど、そのどちらも落とす可能性が高くなっていくというのに。


「やっぱり、捨てられない……っ」


私の命も、コルァの遺品も。

誰に強要されたわけでもないけれど、ここまで使い続けてきた。愛着のわいた三叉槍を、簡単に手放すのは嫌。

体力も魔力も半分を切ったところだけれど、それでも死ぬほどじゃない。それなら、限界まで足掻いてやろうじゃないか。


もう随分と使ってなかった気のするスピアーを取り出して、双槍として構える。

今回は手数を増やした攻撃のためではなく、敵の攻撃を受け流すための双槍だ。それくらい扱えなくてどうする。




攻撃を捨てた。その代わり、回避行動に専念する。

一度目の突きを避ける。

目線の高さから、そのまま胸部へと突き出される槍は、追尾機能でも付いているのかと疑わしいほどの動きで私を追ってくる。ただの回避では避けきれない。


「流石は守護者、かな」


攻撃しないことで空いている両の槍で弾く。そのまま一歩踏み込むフェイント。

盾を掲げて守りに入った守護者は、一瞬でも目線が途切れた。前転のように跳んで、一気に三叉槍までの距離を詰める。


守護者は、その狙いに気づいた瞬間、目で追えないほどの速度で距離を詰めてくる。けれど目で追えないだけ《・・》だ。


私にはスキルがある。

『槍術』『体術』で相手の攻撃を予想する。私ならどう追いつめる? どの攻撃が一番確率が高い?

変な構えでも、動きは突きが主体なのは変わらなかった。なら、きっと今回も突きが来る。

『回避』スキルで的確な回避行動を導きだし、どこに槍を振るえばいいのかを考える。

最後に『直感』スキルでその行動が正しいのか判断する。『直感』はGOサインを出した。


手応えあり。目の前で火花が散る。


相手の構えた盾を蹴りつける。それはダメージになり得ないけれど、私に推進力を与えてくれた。

三叉槍まであと一歩。


私は腕を、体を伸ばす。ヘッドスライディングして、やっと指先が三叉槍に触れる。柄を掴む。

二槍流が三槍流になった瞬間だった。しかし、無慈悲にも、『槍術』『直感』が「無理だ」と「無理するな」と告げてくる。


わかってる。もうこのまま逃げるよ……。




「う……っ!?」


右手に痛み。

腕を引っ込めようにも、動かない。痛みの原因を突き止めようと、そちらを見ると右手を、ランスと三叉槍ごと踏みつけられていた。

振り上げられる槍。見上げる顔面へと迫る穂先。


「うあぁ……っ」


咄嗟に左腕を振るった。

奇跡的にもスピアーは敵の得物を捉え、軌道をそらし、私の背中に穂先が埋まる。

地球では、到底感じることのない痛み。ビリビリと痺れるような、熱湯でもかけられたかのように熱い痛み。ぐちゃりと、槍を捻じ込まれ、苦悶がもれる。


守護者は再度、槍を振り上げる。


満足に回避行動も行えない私は、子供がただを捏ねるようにバタバタと、暴れることしかできない。

防御力の問題か、他に目的があるのかはわからないけれど、守護者は一撃で止めを刺すことを辞めたようだった。穂先は左腕を中心に降り注ぐ。


「いたい……いたいっ」


左腕に穴が開く。背中の傷が増える。血が肌を伝い落ちる。

死が、近づく。

目が見えているのかわからない。この悲鳴は誰の声だろう。この鉄臭い臭いはなんだろう。

もう、何がなんだかわからない。


助けて。だれか、私を助けて。死にたくない、死にたくないの。

身体から力が抜けていく。大事ななにかがこぼれて無くなっていく。どんどんと体が重くなって、眠気が増してくる。

きっとこの眠気に負けたら、身を委ねたら。その瞬間に私は死ぬんだろう。

なら、抗う。その全てに。


「グングニルッ! グングニルッ! 滅槍グングニルッッ」


邪魔な足へとグングニルを叩きつける。槍がすっぽ抜けそうになるけれど、無理矢理掴み続ける。振るい続ける。

左腕がもげてしまいそうだ。それでもやめない。

即死が発動する気配はない。それでもやめない。

相手が嫌がる気配もない。それでもやめない。

魔力がすごい勢いで無くなっていく。それでも。


やめたら死んでしまう……。


数回目のグングニルの攻撃。何度も集中的に狙われては、流石にたまらないのか、一瞬だけ足の力が緩んだ。それを見逃すほど、バカじゃない。


「ど、けッ!」


足へとタックルのように体をぶつけ、よろけさせることに成功した。腕も、なんとか解放させられた。

よろよろと立ち上がる。ようやく、ようやく逃げる準備が整った。随分と背中が気持ち悪いことになってるけれど、今は無視しよう。




ランスとスピアーをポケットに仕舞う。そして三叉槍だけを構えて、手もとで、クルリ。火の粉が舞うと、自然と気持ちも落ち着く。

大丈夫、私はいつも通りだ。いつも通り、逃げ切れる。


守護者が迫る。食らえば死ぬ、避けれたら逃げられる。

これが最後の攻防になるだろうね。


私は足に力を入れ、踏み込む瞬間。

カクン。膝が落ちた。

片膝をついた姿勢で、予想外な幸運に驚く。私の頭上を、槍が通過した。

自分でも予想できない動きを、相手も予想できなかったみたいで、盛大に空振った。私は三叉槍を横に払う。

若干、体を浮かせた守護者に目もくれず、部屋の外へと逃げる。魔力の出し惜しみはしない、気絶したって構わない。全力の身体強化。


「──覚えてろ、必ず殺してやる」


守護者の間が、閉じていく。扉が、独りでに閉まっていく。

安全地帯についた瞬間に、転び、地面を這った私だけれど、守護者への殺意をぶつける。

もし他に出口があったとしても、お前を殺さない限りここからは出ない。

そう決めた、今決めた。


必ず。

必ず殺してやる……!

仕留め損ねた……ッ!?


ボス相手に即死技4連続とかやめて……超ヒヤヒヤしたから……

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