旅人 白鳥 恵子 Lv.17 ????②
「はぁ、はぁ……死ぬかと、思った……」
通路を走っておよそ1分。底上げされた脚力で1分走ってるから、大体1キロは離れた、はず。
しかも通路は分かれ道が多くて、追手がきても、その数は大分減ってるはず。『直感』スキルがなければ行き止まりに当たってたんだろうね……
さすがに疲れた、通路の壁に寄りかかるかたちで、休憩。
ポケットから魔力回復薬をすべて……8本取り出す。あんな集団リンチの最中に飲めるほどの余裕はなかった。いや、1本くらいなら飲めたのかもしれないけど、質より量を選んだのが裏目に出た。
効率を求めすぎるのも良くないね。
「『回復魔法』! ──ステータス」
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体力:134/336
魔力:83/199
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思ったよりも持ち直したみたいだ。体力が100回復して、魔力は40の回復かな。それだけあれば、たぶんなんとかなる。
にしても、ここってどこなんだろう? エルピスも宿に置きっぱなしだし、クロノスにも会いたいし、そんなに離れてなければいいんだけど。
少し、寝たいなぁ…… けど、見張りもいないで寝るのは怖いかなぁ。
「よいしょ…… すこしでも、前に進もう、かな」
ランスをしまい、三叉槍を杖代わりにする。石突きを地面に突き立てるようにしながら、入ってきたのとは別の通路へと足を向け、えっちらおっちら歩き出す。
また50体くらいに囲まれたらさすがに死んじゃうから、警戒しつつ、進もう。
眠気はなくなってきたけど、今度はお腹すいてきた……。
時間にしておよそ数分、小部屋が見えてきた。見えてきたっていうのも、なんか小部屋の前にとおせんぼうするかのように、魔物がいるから入れていない。
「鑑定」
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種族:モルウルフ
体力:350/350
魔力:80/80
攻撃力:180
防御力:200
敏捷:170
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モルウルフ……モグラ狼?
確かに前足が鋭さよりも土を掘ることに特化しているようにも思うし、目は見える必要がないのか小さく後退している。
全身の毛も、短く邪魔にならないようになり、肌の色も茶色がかっている。
狼が、モグラになろうとしてる進化の途中。そんな魔物だろう。
こいつなら、なんとか勝てそうだ。そう思いながら、槍を構える。
初手の攻防。モルウルフは私の槍を咥えようとしてきたので、突くのを諦め、手元でクルリと回してみせる。加えるのを諦めたウルフが突進しようと頭を下げ、懐へと肉薄し──フェイント!?──真上を見上げるようにして顎を上げる。首筋から顎先にかけて、ウルフの爪がなぞる。
浮いたその身体を突く。……固いなぁ、ダメージ20入ったのかも微妙なところだね。
そこからはお互いに攻めきれない攻防が続く。
刺突を放つ私は、そのスキルの性質上、魔力の動きもあるし、赤い螺旋エフェクトも発生する。それに突く速度が上がるってわけじゃない。
相手は相手で攻撃が大振りに、そして私の急所を狙うようになってきた。
魔物全員が、私が固いって知ると急所狙いをするようになるね。そしてそんなことされると羽マンに首を刺されたこと思い出して震えちゃうね。
振り下ろされる前足。ウルフの顔面を蹴って気を逸らす。マントを巻き込んで振り下ろされた前足を無視して刺突を放つ。
毛ごと表皮を抉り取る。──?
追撃のために穂先でウルフの体を掬い上げる。てこの原理も強化された筋力も利用して浮かせる。
が、空中で体を捻って軌道が僅かに変わる。突きが掠る程度にしか当たらない。
着地と同時に駆けるウルフはジグザグと、壁を蹴り三次元的な動きも混ぜつつ、私に迫る。その不規則な動きを捉えられず攻撃を躊躇う。
が、どうしても攻撃の瞬間は無防備になるものだよね。恐怖を抑えて耐える。
──今ッ!
「刺突!」
「ガァウ!!」
リーチの差。前足一本分と私の腕プラス槍。私の攻撃は届いて、相手の攻撃は当たらない。
再び穂先が肉を抉り、深々と肉を抉り飛ばす。毛のついた肉片が飛び散り、骨まで達した傷から、血が溢れている。
「……美味しそう」
なんて言った? いま自分はなんてことを言った?
美味しそう。……おいしそう?
生きてる狼の、傷跡から見える肉を、食べ物として考えた?
距離を開けるためにウルフを蹴り飛ばす。通路で戦うのも厳しくなってきた、小部屋へ誘導するためにも──!?
飛んだウルフの体は、小部屋に入る瞬間、半透明な壁が唐突に生まれてそれにぶつかった。あるはずのない壁に叩きつけられたウルフが悲鳴を上げた。
どういう現象かはわからないけれど、小部屋での戦闘は無理ならここで仕留めるだけ!
駆ける。
私が走り始めたとき、まだウルフが宙にいた。そのまま地面に落ちるが、溜まったダメージのせいですぐさま立て直すことができなかったようだ。
「せいっ! とどめの、刺突!」
ウルフを掬い上げる。ウルフの体重は私が持ち上げれると、すでに知っている。傷を負って判断力の鈍ったウルフ、それも動けない空中。外すはずもない。
ただ、問題は……
「嗚呼……もったいない……」
無意識に私が発したその言葉。目の前で肉が消えてなくなるのが酷く悲しい。この飢えにまだ耐えなければいけないのかと、落胆してしまった。
正直、寝れないよりも食糧がないことの方が問題かもしれない。……あ、いや、食糧あった。干し肉が3つだけだけど。
試しに1つ取り出してみる。大きくて少し分厚くなったビーフジャーキー、かな?
フェルさんが変なもの渡すわけもないし、何より我慢できないし、食べちゃおう。
干し肉を噛み千切りながら、謎の壁の発生した場所に近づいてみる。
「んぐ……何も発生しない?」
手を伸ばし、ゆっくりと近づけてみた結果、何も起きなかった。
そのまま素通りした私は、少し転びそうになりながらも小部屋の中に入り、室内を確認する。
どうやらここには先へ進むための通路がないみたい。通路はないけれど、真正面の壁には青く大きな扉が壁に存在する。その扉には何かの文様や、文字みたいなものが掘ってあるんだけれど、ここからだとよく見えない。
他には……中央部に綺麗に光るクリスタルが浮いてるくらいで、特に変なところはない、かな? それにクリスタルもしばらく警戒してみても動く気配はないし、近づいても何も起きない。
槍を右手に持ったまま、そっと左手で触れてみる。
「何もなさ過ぎて、逆にわからないんだけど」
ツンツンと突いてみても何も反応なし。何かわかんないし、鑑定してみようかな。
「鑑定」
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『魔払いの結晶』
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魔払い……?
あのウルフが半透明な、結界術を使ったときのような、壁にぶつかったことを考えると……
もしかして、ここって安全地帯?
修行編(強制)はっじまっるよー!




