旅人 白鳥 恵子 Lv.17 大混乱③
リザードマンの死体が消える。
残ったのはお金だけで、拾ったときに少し面白いことに気づいた。
リザードマン1体分のドロップは181ロト──1銀貨と8大銅貨と1銅貨──なんだけどこれを4体分、両手で握りつぶすようにして握る。
そして開くと……はい。724ロトで、7銀貨2大銅貨4銅貨にも早変わり。逆に大銅貨1枚だけを握って開くと、銅貨10枚にすることもできる。
地味に便利な機能だね、どういう原理かわからないけど。
カチッ。
お金をニギニギして、まったく警戒することなく、森のなかを歩いていた。足元から何かスイッチを踏んだような音が聞こえた。
すっっっっっっっごく嫌な予感がした。
それでも踏んでしまったスイッチをどうすることもできず、視界が光に包まれ──私はその場から消えた。
「うぅ……いたた……」
落下したときにぶつけたお尻をさする。ダメージは……うん、入ってないみたい。
にしても不思議だよね。魔物の攻撃は、確かに衝撃はくるものの痛くないのに、落下したときは衝撃は少ないけど痛いって。落下ダメージは別の処理で計算されてるのかな?
「ここは……洞窟、かな?」
回りを見渡して、呟く。どうやらここは洞窟の通路、その行き止まりの場所らしい。松明が等間隔で設置されているから視界には困らなさそうだけど。
立ち上がり、壁に軽くノックしてみる。ボロボロと砂粒が落ちる程度で、奥がくうどうなんてことはなさそうだ。無理矢理に脱出ってのは、不可能そうだね。
「なら、進むしかないよね」
三叉槍を取り出す。ついでにランスも取り出してしまおう。
双槍だ。帝くんの師匠さんと相手したとき以降、しないようにしていた双槍だけど、洞窟の中なら使えると思う。
「高さは……おおよそ2メートルちょい。広さは三メートルくらいかな」
満足に振り回すことができなさそう。それなら槍二本を突き出すことだけで無双できるんじゃないかな、なんて。
何が出てくるか、ここがどこなのかもわかってないのにそんなこと考えてるなんて、笑っちゃうね。
えっちらおっちら、槍を構えたまま進んでいると。地響きが聞こえてきた。
姿を現したのは、鬼。つまりオーガ。それがそこにいた。天井に頭ついてるけど……なんでこんなところに……?
『ァァァォォォォオオオオッッッ』
「うるさいよ」
威嚇するように咆哮したオーガの両のももにそれぞれ槍を突き刺し、即座に引き抜く。そして体勢を崩したオーガの頭へ踵落としをして、土下座してる様な格好にする。頭を踏みつけたまま、無防備な背中に刺突を、突き刺す。
「まったくもう。大声で敵が寄ってきちゃうでしょ」
もう返事しないオーガに叱りつける。刺突で二回、普通に刺すと五回くらい攻撃しないと死なないみたい。
意外と扱えたし、双槍の訓練になりそうだね。
はぁ~あ、帰ってお風呂入りたいな。それに眠くなってきたし。
一本道だからまだまだ歩いていく。そこで少しだけ広い場所に着いた。ダンジョンにある、小部屋みたいな感じ。
そこに、オーガが3体。
私が部屋に入った瞬間に、ほぼ同時にこちらを向く。そんなに音立てたって訳でもないのに。……まあ、それはいい。遅かれ早かれ気づかれただろうし。
魔力、足りるかな。
一斉にではなく、全員がタイミングをズラして攻撃してくる。その方が考えるのは楽なんだけど、避けるのは格段に難しくなる。
まず一体目の拳をひらりと回避する。そしてそのオーガの体を盾にするようにして2体目を攻撃させない。
3体目は簡単だ。正面からタックルするように駆け出し──直前で地面に触れるくらい姿勢を低くする。少しでも見失ってくれてたらいいな、と希望を抱きながら、足払い。
オーガは足を掬われ、それでも私を押し潰そうとしながら、転倒。オーガの頭を踏みつけて、両手で刺突を放ち、殺す。
2手目は、左右挟み込みで攻撃を仕掛けてきた。ただのパンチだから、別に同士討ちしても問題ないんだろうけれど、大胆だなぁ。
左右それぞれで、別の相手を迎撃。まずは右、三叉槍を突くのではなく、振り上げるようにして顎先を狙う。大きくのけ反ってかわされるものの、その腹にヤクザキック。
蹴った反動で空中へ。
体勢を整え、ランスを突き出す。問題なく空中でも『刺突』が発動し、オーガの肩を抉る。
「ぐっ…… ノーダメージ!」
側頭部へと強烈な薙ぎ払い。右腕を盾にしてそのまま吹き飛ばされる。ゴロゴロと床を転がりつつ、距離をとる。
脳がぐわんぐわん揺れる。それでも痛みはない。ダメージにはなり得ない。
左肩がないオーガが、鬼気迫る顔で肉薄する。鬼なのに鬼気迫るって……凶悪な顔がさらに凶悪になってる。
動きが単調になった2体へと、刺突を放つ。しかし穂先がめり込む感覚を覚えてから、失敗を悟った。私は当てるのを優先しすぎた。
気づいたら私のお腹へと大振りの拳がめり込み、宙に浮いた私へと、追い討ちとばかりに2発目の拳が飛んでくる。とても避けられない。そればかりか、その拳には赤いエフェクトが……エンハスキルがついているようだった。
「まあ、ノーダメージなんだけどさ」
すごく痛いし、怖いし、もしかしたら……なんて考えちゃったけど、それでもノーダメージだった。
防御特化の自分には感謝しかないね。
3体もいたオーガはすでに2体死に、残った1体も腹に穴が開き、満身創痍だ。
私はてくてくと歩いて近づく。殺されるとわかっているだろうに、無駄だとわかっているだろうに。オーガは最後の力で拳を突き出す。
その拳へと回し蹴り。拳の軌道が逸れ、オーガの懐ががら空きになる。もう刺突も必要ないだろう。三叉槍を首筋へ。ランスを顔面へ。それぞれ叩き込む。
「レベルアップには、ほど遠いかなぁ」
すこし疲れてしまった。もう魔力もない。
私はチョッキを脱いでポケットにしまうと、壁に寄りかかるようにして座り込んだ。
ふぅ……休憩きゅうけい……
なんとか戦闘以外をしたい(この小説の主旨とは)
次回更新は未定です。できるだけ17日に出したいですが




