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旅人 白鳥 恵子 Lv.17 大討伐⑪

 結論から言うと、回復薬は一番効果の薄いものだと11本。少し質の良いものだと、3本……。


 チョッキに毒耐性があるとはいえ、保険で解毒剤を1本買った。200ロトで、どれくらいの効果があるのかはわからないけれど、解毒剤は1種類しかなかったから、きっとこの辺の毒はすべて直せると思う。

 そして魔力回復薬を買う。10魔力で100ロト。25魔力で300ロト。

 本来なら持ち物が多くなると動きづらくなるから高い方を買うのだろうけれど、私にはアイテムボックスがある。コスパを考えて10魔力の回復薬を7本買った。

 残りは275ロト。……うん、本当に金欠だ。晩御飯は宿で食べてるから問題ないのだけれど、お金がないってやっぱり不安だよ。



 必要なものの調達を終えて、森近くまで歩いてきた。途中で門番さんに声をかけることも忘れない。

 森少し手前では、遠目で見てもわかるほどに、大規模な戦闘が起きている。数えきれないほどの血溜まりができていた。

 ……死体は消えてなくなるからよかったものの、そうじゃなかったら酷いことになってそうだ。現に血は消えないので、赤くない地面を探す方が難しかったりする。


「リザードマンか、羽マンを探すなら浅いところだけでいいかな」


 森に入らずに、防衛線に加わるっていう手も、無くはないんだけど。どうやらパーティを組んで戦ったり、他の人と共闘すると経験値は山分けになるらしいんだよね。

 ハンターを倒した経験値はリザードマン1体分よりちょっと低い程度しか入っていなかった。必要経験値に比べると、リザードマンの経験値は少ないから、単独で倒せるなら単独で戦った方が効率がいい。


 戦闘していた部分を避けて森へと入る。

 さすがにリザードマンが押し寄せるところを突っ切る気にはならない。魔力が全快だったら、わからないけど。


「……ん、尾行されてる?」


 さっきからずっと、私の後ろをついてきている気配が3つ。そのうち1つは殺気が漏れていて、私が立ち止まると、ゆっくりと近づいてきた。

 殺気を隠しもしないソイツが、のそのそと歩き、姿を表した。

 スラリと長い刀を持ったそのリザードマンは、いつぞや逃げられた特殊個体。ソイツが羽マン2体を連れて、戻ってきた。

 前回逃げて、仲間を連れて帰ってきただけかと思ったけれど、そうではないみたいだ。抜き身のまま持ち歩いているその刀は、刀身が仄かに光り、明滅しながら、まるで意思があるかのように悪意を振り撒いていた。


「ただ逃げたってわけじゃ、なかったんだね」


 元々持っていたものか、ただ当てがあっただけなのか。それでもしっかりと自分を強化して、私を殺しに来た。確実性を上げるために、仲間を連れてまで。

 今回は…… いや、今回も、かな? 今回もまた、危険な場面だ。けれど、今回は逃げ道がなさそうだ。

 バサリと音を立てて飛び上がった羽マンは、それぞれ私の右後ろ、左後ろへと着地した。


「いいよ、殺してみなよ。返り討ちにしてあげる」

「ガァァァァァ!!!!」



 初動はほぼ同時だった。

 ほぼ同時に駆け出し、間合いを詰めるが、私の方が先手をとった。

 スキルもないただの突き。それを首を傾ける最小限の動作だけで避け、一閃。予想通りだ。

 居合いの姿勢から放たれた軌道は、しゃがんだ私の数ミリ上を通過したのがわかる。数本だけ、髪が斬られたことも。

 手元で三叉槍を回し、太刀打ちで顎を打ち据える。その固い防御力を貫通し、内部にまでダメージを与えたのはわかるけれど、浅すぎる。


「3対1、しかもダメージはほとんど通らない、ね」


 最悪な状況ではあるが、愚痴れるほどの余裕は残ってる。回復薬を使わないでも魔力が残っている現状で、できる限り相手を消耗させたいものだね。



 踏み込む瞬間、背後の2つの気配も動いたことを悟った。

 流石に3つの攻撃を避けるのは不可能に近い。それでも私の防御なら……。私が先に死ぬか、先に殺すか。

 結構、分の悪い賭けだね。


 私の打ち払いは、一歩下がられて当たることがなかったけれど、相手はリーチの差がある。

 振られた刃は、私の喉を狙っているようで。みんな喉好きだなぁ!? と考えつつも防御が一瞬間に合わない。

 背後から迫る2つの気配も同時に対処するなんて無理に決まってるでしょう!?


 ──その場にいた全員が硬直した。


 それでも私の復帰が早く、一瞬の間に合わないはずの防御を間に合わせたのは、その殺気を一度間近で叩きつけられたことがあったからだ。

 慌てて距離をとる。羽マンたちは空を見上げている。きっとそっちには横寺さんがいるんだろう。こいつらを倒したら、助けてくれたことをお礼言わなくっちゃね。


「……いてて」


 腕を見る。

 マントを掴んで盾にした筈なのに、斬られた。つまり私の防御力を軽く上回るほどの武器……? 前回も普通に攻撃されたっけ?


 呆然としている羽マンへと接近、攻撃を叩き込む──!

 一体の羽マンへと槍を突く。石突きで顔面を強く刺され、のけ反った羽マンへと膝蹴りをぶちこんで、もう一体へと槍を向ける。

 けれどもう一体の羽マンは、さっきほどの殺気の主を優先したようで、バサリと音を立てて飛び上がっていった。

 ありがとう、横寺さん。これだけでも十分助かった。


 私に向かって刀の切っ先が迫る。狙われてるのは、目かな。速いは速いけれど、こんなものに当たっていたら今までもこれからも生きてこれない。

 首を傾けるだけで避ける。それは数手前にやられた避け方とまったく同じだった。背後に感じる気配だけで動きを予想する。

 肉体強化のために魔力を使い、バク宙しながらリザードマンへと突きを放つ。狙いは目。これもやられた通りに狙った。

 左目を抉り取る。三叉の先、その一つに眼球が刺さったままになっている。引き抜いてみると、ブヨブヨとした気持ち悪い感覚とリザードマンの断末魔。

 よし、何かに使えるかもしれないし、使えないにしても記念にもらっておこう。眼球をポケットに入れると、キチンとアイテムとして認識されたみたいだけれど……後回し。


 リザードマンの突撃。刀を滅茶苦茶に振り回す。なまじ速いせいで、どれを避ければいいのか判断するのが難しい。

 それでもやるしかない。直感スキルを使いつつ、避けて距離を取る。今回は防戦一方にされてしまうが、左目が再生する様子はない。これは良いハンデだね。

 っと、羽マンがタイミングを見計らっているので、相手の踏み込みに合わせて大きく飛び退く。羽マンを気にするとリザードマンの刀に当たりかけるから、もっと余裕を持って戦わないと……!


 ああ、でも、余裕ならできたかもしれない。

 身体が軽い。敵の動きに慣れたのかどう避ければいいのかを理解できる。

 回避のスキルレベルが、上がった……?



 穂先がリザードマンを捉える回数が増えてきた。そして私が攻撃を当てる度、私の被弾回数が少なくなっていく。

 突いて、払って。蹴って、殴って。時には弓を取り出して速射することも、刺突で肉を抉ることもある。

 羽マンは疲れたのか、上空にいて攻撃をしないことが増えてきた。

 リザードマンは何かに取り憑かれたかのように刀を振るう。刀から吹き出す悪意が私を喰い千切ろうとするけれど、それさえもどう避ければいいのかが理解できる。

 むしろその悪意は私よりもリザードマンを蝕んでいるようだ。


 あと、一発……!

 感覚的にだけれど、あと一発でも決定打を打ち込めたら、きっとリザードマンを殺せる。

 淡々と機会を伺いながら回避を重ねていく。

 右に避け、左に避け。下がりながら羽マンの動きと共に、地形を把握していく。木の根が出ている場所を探し、誘導する。


「グゥゥッ!?」

「──引っ掛かった!」


 下がろうとしていた体勢から、無理矢理の前進。刺突スキルで安定化を計り、リザードマンの心臓を貫いた。

 カラン、と落ちた刀。流れ込む経験値の感覚に、倒したことを確信するけれど、まだ油断はできない。

 羽マンが残ってるからね。



 タイマンになった瞬間、被弾が増えた。

 あのリザードマンと連携しようとしてたせいで動きが鈍っていたのか、それとも安心から私が鈍ってきたのか。

 私が一発当てる間に、羽マンは私に三発ほど当てる……。


 高い防御力のお陰で、まだ立てるくらいには耐えれていた。でも、そろそろまずいかもしれない。

 少しの間、回避に専念して回復する。ポケットから残っていた体力回復薬を被る。そのままポンポンと魔力回復薬を取り出しては被っていく。

 胸に手を当てて身体へと癒しの魔法を行き渡らせる。


「……まだ、戦えるよね?」

「GYAAAAA!!」


 誰に聞いた訳じゃない自問。それに答えるように吼えたのは羽マン。

 私は口元に笑みを浮かべながら、三叉槍を構え直し、羽マンはランスを構えた。

 仕切り直しって訳だね。

次回更新は10月10日19時予定!

そろそろ何かしら大きなイベントを起こしたい!

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