表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/142

旅人 白鳥 恵子 Lv.17 大討伐⑧

気を抜くとすぐ油断するポンコツな頭で、必死に計算する。

相手の能力は全部跳ね上がっている。それにスキルも一気にレベルが上がり、武器まで装備しやがった。

相手の攻撃力は……装備を含めると私の防御力を突破できない、かな? つまりは装備がない、首とか顔を狙われたらまた命の危険だってこと……。

次に相手の防御力を考えてみると……三叉槍でも使わない限り突破することはできない、かな。


『刺突』が素手でも使えるか早めに検証しておくべきだった……もし使えるなら素手で倒せるかもしれないっていうのに!


あと怖いのは、スキルの武技の所……『目潰し』って名前からどんな効果かわかるし、ヤバイ臭いがプンプンするよ……。

『五段突き』はそのまま、5回連続パンチかな?



「さぁて……特訓の続きだよ……!」


私は防御をメインにした、日本のボクサーがよくするファイティングポーズで構えた。

一方のフィビオは、防御を捨てた構え。両腕を広げ、胸よりも少し下に構える。爪を立てるように、指が曲げられていて、角指と言うらしい指の第三間接付近から突き出た骨が、手の甲の方へと曲げられていた。

まるで片腕に指が10本生えているかのようなシルエットに、横寺さんの腕を思い出して、身震いする。……あの異形は、トラウマになっているらしい。


距離を詰め、左ストレート。回避もされないそれを急停止させ、さらに一歩詰める。懐に潜り込んでからのアッパー!

……空を見上げるようにして、軽く上体を反らして避けられる。顎先を掠めることもなく、完全に間合いを見切られてるみたい。これはさっきまでの気持ちで戦ってたら負けそうだね。でも、三叉槍を使うのも負けな気がする……ッ!


フィビオの振り払うような裏拳。適当に放たれたように見えるソレは、角指が爪のように迫る。

このまま当たると頬に引っ掻き傷が出来ちゃいそう。流石に乙女の顔に傷はダメだよ?

コートの裾を掴み、左腕ごと盾にして防御。ゴガァンッ! なんて、銃で撃たれたんじゃないかと思うほどの音がするけれど、お互いにノーダメージ。

ダメージ無いのに音や衝撃だけは凄まじいから、闘技場とか、そういう賭け事が盛り上がりそう。是非とも参加したい、賭ける側として。


上段回し蹴りを放つとフィビオが屈んで回避し、そのまま尻尾を使って足払いをしてくるが、その尻尾を踏むことで止める。

そのまま右ストレートのパンチをするけれど、尻尾を動かされバランスを崩す。倒れないように体勢を整えている間に、フィビオも距離をとった。

……やりづらい。


私はスキルレベルが低いせいもあってか、イメージ通りに身体が動かない。けれどやりづらいのはフィビオも同じなようで、進化後の体に慣れきっていないみたいだ。スピードはあるけれど、攻撃のタイミングや心構えなんかは、進化前の方がよっぽど上手かった。気がする。


四度目の攻防。

私はサイドステップで側面に回り込み、その脇腹にタックルを仕掛ける──が、それはフィビオの罠でもあったらしい。

私の攻撃は、やはりというか、予想通りというか。防御力を突破できず、トン……と、タイヤを殴ったような音だけを残した。


「カハ……ッ」


鳩尾に良い一撃を食らってしまい、息が漏れる。

咄嗟に受け身を取ることもできずにそこらの木に叩きつけられる、がまだ立てる。少し息苦しくなったけどね。


「グォォォ……ッ!」


低い唸り声を出したフィビオは、重心を低くし、攻撃の予備動作に入った。まるで、これからが本番だ、とでも言うかのように。

私も構えを変える。どうせ攻撃が当てられない、ダメージが入らないっていうなら、武技を使おう。私が持つ、体術唯一の武技を。


まず仕掛けたのは私。それから一瞬だけ遅れてフィビオが攻撃した。

両腕を前に突きだして、フィビオに抱きつくような体勢で首を狙いにいく。それに対して迎撃として、右の拳が飛んでくる。そのままだと顔面にもろに食らってしまうことだろう。

けど、ここまでは予定通りッ!


「ふっ」


小さく息を吐きながらの身体強化。跳び箱のイメージで、フィビオの腕に両手で触れる。そこで跳躍。

曲芸師のように、腕の上に逆立ちをする。慣性に任せてそのままフィビオの顔の方へと迫り、腕を首へと巻きつける。

──ゴキィッ。

と、おおよそ聞こえてはいけない、骨が折れる音を聞いた。


首から腕を離すと、フィビオは白目を剥いたまま気絶した。いや、もしかしたらこのまま死ぬかもしれないけど今は息をしている。

進化しても、やられ役なんだね、この子……。



フィビオの首を折ってから数分後。

私がまた弓の練習をしたり、休憩したりと有意義な時間を過ごしていたら、フィビオが気絶から復活したらしい。

立ち上がることなく、騎士のように片膝をついた姿勢で、私をじっと見つめている。

あ……もしかしてこれ。

『フィビオが仲間になりたそうにこちらを見ている!』

って奴じゃない? まさか勝てないから、死なないために配下に下ろうとか、そういう奴じゃない、よね……?


従魔は3体いて、私自身に1枠使うことを考えても残り6体分の余りがある。それなら別に惜しむことでもないし、従魔にしてもいいかもね。

というわけでギリシャ神話からまた名前を借りることにしよう!

フィビオと言ったらやっぱり体術だよね。

格闘の神……? そんなの居たっけ?

勝利の神の『ニケ』とか。あ、でもあれって確か女神だっけ? フィビオは雄っぽいから女神の名前を抜くと……ええと。

戦いの神はアレスなんだ、よ……ね……。


そこでふと、アレスのことを思い返していた。

半ば無理矢理に従魔にして、一緒に冒険していたアレスは、私が判断を間違えたから殺された。そして今回も──結果的に倒せたとはいえ──目の前で進化するのを黙ってみていた。あれも判断ミスだと思う。

……成長してない私が、また従魔を手に入れても、殺してしまうだけなんじゃないか?

『従魔は家族』だ。それはクロノスを『クロノス』と名付けてから、自分の心に決めた、言わば自分ルールだ。

……家族をまた死の危険に晒すのか。


ああ、ダメだ。……そもそもなんでフィビオを仲間にする前提で話を進めていたんだろう。


「……ごめんね、フィビオ。あなたを仲間には、できないの」


片膝をついたままのフィビオは、寂しそうに鳴いた。私がその頬を撫でてあげると、目を瞑り、されるがままで撫でられていた。

うん、やっぱり殺したくない……。


「私はもっと強くなる。だから私が強くなったら、また戦いましょう? その時にまた、あなたを倒して、従魔にする」

「……グォッ」


頬を撫でてやりながら、手のひらに回復魔法を宿らせる。時間にしたら一時間も経っていないだろうけれど、フィビオはもう私の家族になっていた。

こうしてヒールで傷を直してあげるのもしばらくお別れだと思うと、感慨深いものがある。まあ、傷を負った理由全てが私によるものだけど。


「……またね、フィビオ」

「グォォォォッッ!!」


これで最後だと言わんばかりに空へと咆哮し、フィビオは森の奥へと進んでいった。

うん、うん……悲しくてつい叫んじゃったのかもしれない。私もなんなら泣きたいくらいだ。

だって。


今の咆哮で魔物がこっちに来てるんだもんッ!?



フィビオのばかぁ! 今度あったらまた体術の特訓! 今度はみっちり1時間コースなんだからね!



バサリ、バサリと聞こえる翼の音は、とても大きい。

見上げると、体長およそ10メートルのドラゴンが、こちらを睨み付けていた。



フィビオのばかぁ……っ!

恵子ちゃんが可愛く見えてきた……疲れてるのかな。


フィビオ君は、いずれ生きていたら出るよ。いつ出るかなんて知らんけど。

さて、後残る伏線は……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ