旅人 白鳥 恵子 Lv.17 大討伐⑦
キリが良かったので短いですが。
リザードマンが起きるまでの間に、私は弓術の練習をすることにした。もっと上げたいスキルはあるけれど、その大半が魔力を消費してしまうから。
気絶しているリザードマンは、自己再生のスキルで回復しているみたいだ。5まで削った体力がものの数分で30まで回復しているのだから驚きと同時に、そのスキルが欲しくなる。
「あったら、さらに回復薬の必要性が薄くなるね」
息を止めて狙いを定め、ふっ、と息を吐くと同時に矢を放つ。
『無音』の効果で音も立てずに飛んだ矢は、そのまま音も立てずに木に刺さった。狙いはそこそこって感じかな。
あと2射してから、近づいてみる。
狙っていた木には三叉槍を使って傷をつけ、簡易的な的を書いていた。穂先でただ突いただけの、小指の爪よりも小さいまん中と、半径15センチ大の円。
どうやらまん中には当たらなかったけれど、全部円の中に入っていたみたい。次狙う時に邪魔になるから、矢を引き抜いてまた先程の位置まで戻る。
抜いた矢を見てみると、木にぶつかった衝撃か、少し曲がってしまっていた。それも3本の内、2本も。
「魔力は使わないけど、矢が尽きちゃいそう」
ステータスから、ポケットの中身を確認すると、矢は残り49本。さっきの2本は『壊れた矢』としてカウントされていた。……焚き火の燃料として、一応持っておこう。
息を止めて狙う。息を吐きながら放つ。たったそれだけのことが難しい。
カツン、カツン、カツン……と、連続して放った3本は、木には当たったものの、円の中には入っていなかった。
才能のなさに嫌になりながら、戦闘中によくやっていた速射をしてみた。それも結構適当に。
「え、ど真ん中!?」
吸い込まれるように円の真芯に突き刺さった矢を見て、呆然とする…… いや、まぐれかもしれない。もう一度やってみよう。
先程と同じように。矢をつがえるけれど、弦を引いてはいない。ふぅ……と息を吐いた瞬間に弓を構え、狙い、放つ。
やっぱりまぐれ当たりだったのだろうか、矢は木に当たることもなくどこかへ飛んでいった。
2射目……ギリギリ木に当たったけれど、掠めるような形で、実戦ではダメージにもならないだろう。
3射目……思いの外コツが掴めたのか、的に当てることができた。少し右上だったので、気持ち左を狙って4射目。また的に当たった。横へのブレがほぼ調整できたから次は縦へのブレかな?
横はさっきと同じ感じで……縦は気持ち下……ここかな? カツン、と当たった矢は右下だった。
諦めずにもう一射。んー……んー……この辺?
カツン、と当たった矢は見事に中心を捉えていた。イエイッ。
ガッツポーズしていたら、リザードマンが意識を取り戻したのがわかった。私は木に刺さったままの矢を全て回収し……あ、結構使えなくなってる……。
弓も矢も、ポケットに仕舞うと、リザードマンに触れる。結構体力が回復したみたいだけど、一応回復魔法を使っておく。その方が遠慮なく殴れるし。
「ヒール」
塞がりきっていなかった傷口が塞がっていく。リザードマンは怪訝な顔をしながらも、立ち上がった。……全快ってわけでは、なさそう。
先手を譲ったわけではないけれど、リザードマンが突撃してきた。右のジャブを首を傾けて避ける。そのあとの回し蹴りを──違う本命は尻尾!?
上体を反らして避けようとしていたけれど、尻尾が当たってしまう距離だった。これが狙いならよく考えたものだけど、回避6を舐めないでほしい。そのまま背中から倒れるようにして避けきる。
バク転のようにして地面に手を付き、跳ねる。なんとか立ち上がり、再び突撃してくるリザードマンのパンチを避ける。
うーん、回避の練習じゃ、ないはずなんだけどなぁ。
私が肉薄し、拳を突き出す。リザードマンはそれを避けることなく──ん? リザードマンが動かなくなった。
嫌な気配を感じて、数歩下がって様子を見る。リザードマンは息絶えたというわけではなさそうで、時たま痙攣を起こしているようだった。
そして急に魔力が高まったのを感じた。ささっと倒してしまうべきか、それともこのまま様子を見るべきか。あれだけ痛めつけた後ならば、何をされても対処できる気がした。また油断した。
だから、私は黙ってリザードマンの進化を見ていた。
「グォォォォ!!!!!」
大きく痙攣したリザードマンが、空に向かって咆哮する。
びっくりした…… 咄嗟に耳を塞いだのに、頭がぐわんぐわんする……。
見た目からして変わっている。
まずわかりやすいのは体皮の色。羽マンやリザードマンが緑色だったのに対して、目の前のソイツは緑よりも濃く、青に近い色をしていた。
そしてソイツは羽がなく、むしろ足腰がガッシリしていた。あとは……拳、だろうか。ボクシンググローブのように一回り、二回り肥大化した拳は骨ばっているものの、そこまでのダメージは期待できそうにない。
……と、思ったらその拳から、牙を連想させる、尖った骨(?)が飛び出た。私ね、あれによく似たの知ってる。ハガレ○だ! なんたらの錬金術師だ!
「……か、鑑定」
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種族:ハイドデイロン
名前:フィビオ
体力:235/370
魔力:87/87
攻撃力:203
防御力:198
敏捷:170
精神力:156
幸運:69
装備
角指(攻撃80)
スキル
体術5
回避5
隠密3
自己再生4
五段突き1
目潰し1
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特に抵抗された様子もなく、ステータスを見ることができた。リザードマン、もといハイドデイロン(?)は私がステータスを見終わったのを確認してから、再び咆哮した。
あれ……もしかして、いじめすぎた……?
次回更新は予定通りの9月27日!
……さて、ここからどうしよう




