旅人 白鳥 恵子 Lv.17 大討伐⑤
さて、今回から全ての段落で一マス開けることにします。その分、改行を控えていこうとは思いますけどね。
どちらの方が見やすいのでしょうか……
「なぜ、私が殺したと?」
確証を持っているような、それでいて誰を殺したのかわからないという言いかただったのが、気になった。
すっとぼけてすぐさま銃殺なんて嫌だ、正直に言うつもりではあるけれど、少しくらいは種明かししてほしいものだ。
「見えるんだよ、本人以外には」
「みえる……?」
「ステータスの隠し称号『同郷殺し』の文字が」
そこで、横寺さんが「どれほど成長したか確認したいからステータスを見せてほしい」なんて言った理由がわかった。
横寺さんの言っていた「板で確認した」という発言は、私のステータスを見たときに確認したとしたら……。
それに「私も確認した」という発言をしていた。心を読むだけじゃなく、ステータスまで覗き見れる可能性はある。そうじゃなくても鑑定すれば他人のステータスなんて覗き見れるものだし。
「私が殺したのは、赤石 帝くん、だったと思います」
「……サンプル番号23の紅石 帝、か。んむ、それでなぜ殺した?」
「自分の従魔を守るためです」
半分くらい嘘の混じっている言葉だ。
なぜ殺したのかと聞かれて美化しまくったらそういう風にも受け取れるのだろうけれど、アレスはあの時、従魔になってはいなかった。
だから殺した理由なんて「殺したかったから」になるとは思うのだけれど、私はそう言いたくなかった。今更ながら、私が「ただの快楽殺人者」と評されるのが、嫌になったんだと思う。
「わかった。サンプル番号23が死んだ、それがわかればもう用はない」
「……罪を償え、とか、言わないんですか」
「言ってほしいのか?」
私は俯いた。……言ってほしい、気もする。もし私が罰されて、それをこの人が許してくれたら、それを免罪符に楽になれるから。
けど、それは自己満足だとも、理解してしまってる。
ダメだ、ネガティブになってきた。
「一つだけ。言っておくことにしよう」
「……はい」
「私はサンプル番号1、河原木 月美。称号は『同郷殺し』だ。君が99レベルになったとき、仲間にする。その時に、また会おう」
彼女はそういうと、銃をホルスターにしまった。
そのまま、私のことなど忘れてしまったかのように、地図の上に配置された駒を動かし始めた。
「もう用はないよ、さっさとレベルを上げに行くんだ」
「はい。……では、また」
「ああ」
見向きもしない彼女に、深々とお辞儀をする。
気を使われてしまった。そして、彼女の心の闇の深さから逃げた。
『残り時間16時間42分19秒』
『現在のレベル17。次のレベルまで104219EXP』
仮設のテントから出て、空を見上げてみる。西へと太陽が沈んでいき、空にはまん丸の月が上っていく。……ここだけ見ると、地球と何も変わらないね。
ポケットから三叉槍を取り出す。
いつの間にか、手放したまま拉致られたと思っていたのに、横寺さんがポケットに突っ込んでいてくれたみたい。
ありがたいけど、他人のポケット《アイテムボックス》に干渉しないでほしい、怖いから。呪い装備でも突っ込まれた日には、何がなんでも殺さないと気がすまなくなってしまいそうだ。
「おい、嬢ちゃん」
武器を持って、戦うために奮起していたところで、誰かに話しかけられてしまった。流石に無視はできないし、振り向くと、どこかで見た男の人がいた。
「あなたは……えっと、武器屋の……」
「ダニエウだ。あの従魔はどうした?」
「アレスは、その、死にました」
それを聞くと、ダニエウさんはすごく微妙な顔をした。
友達の友達の友達が事故死したんです、って言われたら、たぶん私もあんな顔をする。
「……嬢ちゃんに頼まれてた、あの従魔の武器、渡しとこうと思ったんだが。いや、渡しておく」
強い口調で、半ば押し付けられるようにして渡されたのは、籠手だった。
迷彩柄をしたそれは、プラスチックのように軽く、陶器のような感触で、爪で弾くとリィンと小さく鳴った。地球じゃ考えられない素材でできてそう。こなみかん。
──鑑定。
『軍神の左腕(防御90+伝令+魔力の盾+狂乱+自動修復)耐久10/10
なに、これ……!?
強い。強すぎる……。効果の『狂乱』ってのが少し不穏だけど、魔力で修復する防御力の高い籠手って……。
重さや、装飾。他にも何かギミックがないものか、と探していると……気づいた。
あ、ダメだこれ使えない。
すごくね、すごーく強い装備なんだけど、きちんと最後まで鑑定すると使えないってことがわかる。
『軍神の左腕(防御90+伝令+魔力の盾+狂乱+自動修復)耐久10/10 ……アレス専用装備』
専用装備。つまり、この籠手はアレス以外使えない。
いや、ワンチャン使えるかもよ? って左手につけてみたら、指先にパチッと静電気みたいなのがはしって、驚いて腕を引き抜いた。
ポケットの肥やしにしておこう。
「鑑定したみたいだな。……やっぱり嬢ちゃんでも使えないか?」
「ダメみたいです。それにしても、専用装備なんて初めて見ましたよ」
「あ? 何言ってんだ嬢ちゃん。お前さんのその槍、ほとんど専用装備化してきてんぞ?」
お、おう?
慌てて三叉槍に鑑定してみるけど……いや、何も変わってないし、『恵子専用装備』なんてどこにも書いてない。
「ほとんど、って言っただろ? 7割くらい専用装備化してるから、いつか変化しきるだろうよ。……おっとすまん、他の冒険者に呼ばれてたんだった。じゃあな」
「……はい。また、お店で」
ダニエウさんがお金を請求してこないから、無理矢理6000ロト押しつけて納得させた。
「思った以上の出来になったし、従魔が生きてるうちに作ってやれなかった俺が悪い」とか言い出すからほぼ全財産押し付けてやった。ええ、やりましたとも。
お財布の中身あと950ロト!
……はぁ、金欠つら。リザードマン殺そ。
そうして私はえっちらおっちら森を目指して歩き出した。
「流石に50体の群れはいないね」
そんなにぽんぽん出てこられても困るけど。
目の前には羽マンとリザードマンが1体ずついる。私の方には気づいていないようだ。
「グゥゥ……ギャァァ……」
「ギャ、ギャア……グギャギャ」
小さく唸るようにして、何か会話をしてるみたいなんだけど、私の『魔物語2』じゃあ、聞き取ることができない。
何話してても良いよ、別に。死体になったら関係ないよね。そう割りきって、三叉槍を握り直す。
横寺さんに向けられた殺気を思い出して、戦意が削がれそうになるけれど、深呼吸で持ち直す。
この世界で武器を捨てるってことは、自殺するのと変わらない。
ああ、もう。戦う前にうだうだ考えるなんて、らしくない。私をこんなにした横寺さんには責任をとってもらうために経験値に──あ、いや。うん。デコピンで、許してあげよう。
「もう人は殺さない。──人は、ね?」
石を数個拾い、近くの木に登る。
木登りは小学校の頃以降したことがなかったけれど、意外と体が覚えてるものだね。ステータスも地球とは比べ物にならないほど成長してるから、音を立てずにスイスイ登れて楽しい。
そこそこに太い幹の上で、奇襲の準備をする。作戦は、リザードマンと羽マンを分断して、奇襲をかける。羽マンを先に倒して、リザードマンでスキルのレベル上げ&リザードマンを誘き寄せる餌にする。
一分の隙もない…… 完璧な作戦だね。
「ギャァッ!?」
「グゥギャァァ……」
私がいる方向とは真逆へ向かせるために、石を放る。
木の幹に当たり軽い音をたて、草むらに入った石はガサガサとうるさい音をたてた。
警戒する羽マンと、音の正体を確かめるために草むらへと向かうリザードマン。
まずは分断させることに成功。問題は羽マンを倒せるかどうかだけど──ッ!
木から飛び降り、その無防備な背中に『三段突き』を叩き込む。
羽の付け根に1発ずつ、右羽に1発…… 多少のダメージは与えられたっぽいけれど、穂先が滑ったのがわかった。だめだ、適当に狙ったんじゃ、相手の防御力が高くて時間がかかりそう。
「GYAAAAッッ!」
「うる、さい……っ!」
振り向き様に盾で殴り付けようとしてくる羽マン、だけどその攻撃で私にダメージは与えられないよ。
殺したいなら首でも刺してみなさい、こうやってね。
盾で殴られる瞬間に、石突きで羽マンの左肘を突く。ダメージにはならない弱さでも、間接の動きを阻害さえできればいい。
作り出した一瞬の間で、羽マンの懐へと踏み込み、喉を突く。そのまま背負い投げ──ッ!
三叉槍の耐久を生け贄にしようとしていたのに、思いの外頑丈だった。……いや、羽マンが軽いのかな? どちゃっと背中から地に落ちた羽マンの心臓目掛けて一突き。
「首と心臓を刺しても生きてるなんて……さすが異世界だね」
背後に気配を感じてしゃがむ。頭上を通過したのはリザードマンの持っていた刀だろうか?
その後は横っ飛びで2発目の攻撃を避け、3発目はリザードマンの手首を太刀打ちで叩いて逸らす。
あーあ……そんなことしてるあいだに羽マンが、ふらふらとしながらも、立ち上がっちゃった。でも両翼を刺してることと、付け根を抉ってるから、飛ぶことができないみたいだね。
サクッと止めさしちゃおうか。
三叉槍を突き出す。両目と眉間を突き刺し、経験値が手に入ったことを知覚すると、すぐさま私は槍をポケットに入れた。
そんな奇行にリザードマンは攻撃を躊躇った。
何でこんなことしたのかって? 理由はたったひとつ!
今回レベル上げするスキルは『体術』だよ!
今がレベル1なのでレベル3くらいまでは上げたいね。
感想やブックマーク、お待ちしております!
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