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旅人 白鳥 恵子 Lv.16 大討伐②

遅くなりましたああああ!!!!

「は……? えっ、ちょっ!? 逃げるの!?」


 羽マンとリザードマン2体が飛びかかってきたと同時の奇行。

追いかけようにも羽マンを突破しないといけない。

って、居合いリザードマン足はやっ!?


 逃がさない方法を思考する。

武器の投擲……は無理だと思う。当たらないだろうし相手のほうが速い。なら、弓も変わらなそうだ。

ならせめて殺気でも飛ばして……殺気を……?

殺気って! どう出すの!?


「こらぁ! 逃げるなーッ!?」


 叫んでみるけど振り返ることすらせずに逃げやがった。

次会ったら絶対経験値にしてやる。

そう決意しながら羽マンの突き出してきたランスの横っ腹を叩くようにして攻撃をいなす。

まだ若干の余裕はあるかな?


 相手のタイミングを見計らってリザードマンAの方へと三段突き。

首、心臓、腹──三連撃を叩き込むと、柄を掴まれる。そのまま絶命したみたいだから、死に際の足掻きなんだろうけど、槍が抜けない。

リザードマンBの攻撃を背中に受けながら、抜こうと試みるも、抜けない……ッ!

死体を足で蹴りながら引き抜こうとする、けど……ああ、もう! 抜けてってお願いだからッ!


 リザードマンが再び切りかかってくるけれど、死体の刺さったままの三叉槍をぶん回すことで距離を取らせる。

……ああ、やっと死体が消えた。無駄に焦らせるなんて悪いリザードマンだ。


 羽マンの突撃。

そのランスを腹に受けるけれど、痛みはない。精々数センチ体が浮くくらいだ。

むしろ問題は何かに気づいたようにキョロキョロ周りを見回したあと逃げ出そうとしているリザードマンがいることだ。

……逃がすと思う?

足に魔力を込め、急加速。そのまま三段突きを叩き込んで絶命させる。

槍を掴まれる前に死体を蹴って突き飛ばす。


何かが近づく気配を感じて振り向くと羽マンが赤いエフェクトを纏った槍を突き出す所だった。

多分、『刺突エンハンス』だと思う。当たると流石にダメージになるかもしれないと思い、また足に魔力を込めて回避。

避けた先にいるリザードマンへ三段突きを叩き込む。

あー……魔力がゴリゴリ減ってくぅ……吐き気してきた。


 でもその甲斐あって、残るリザードマンはあと一体。

三段突きで楽々と倒す。


 ふぅ。

これでようやく、羽マンとの一騎討ちができるね。意外と時間もかかっちゃった。

私の魔力が心もとないけど、気絶する前には逃げる予定だから大丈夫。


「さて、殺してみてよ」

「GYAA……ッ!」


 回避を捨て、羽マンへと刺突を叩き込む。

私の肌を滑る硬質なランスの感触。

一方、私の手に伝わるのは肉を抉る、もう慣れてしまった気持ち悪い感触だ。


 私の攻撃は相手に当たればダメージを与え、相手の攻撃はすべて私にダメージを与えることができない。

それがわかってしまうと、酷く、戦いが色褪せて思えた。


 戦いとは一種の賭け事だと思う。


 三叉槍をクルリと手元で回し、タイミングを外した突き。

羽マンはその突きを飛び上がって避ける。私も追って地を蹴った。

全力で跳んだことでおおよそ3メートルは飛び上がっている。浮遊感と少しどころじゃない滞空時間。

重力に引かれ、地面に落ちるその前に羽マンと2手ずつの攻防を交わす。


 私の突きが羽マンの肩を抉り、羽マンの突きに腹を押される。

落ちる前に、と振り下ろしを叩き込むが、バサリと羽ばたかれ間合いから外れた。

着地の衝撃で数センチ程度、足が埋まる。

地面へぶつかって、受け身をとらなくてもダメージがないのか。

勝つか負けるか。命を賭けるはずの博打が、成立していない。


「逃げられなければ私の勝ちだね」


 敗北条件を引き上げる。

そうしてでも、いまだに公平な賭博は成立しない。


「GAAA!!」

「捨て身タックル。相手は無傷、ってね」


 羽マンの急降下。

それは槍を構えた物ではなく、左肘を前に突き出した体勢だった。意図もわかりやすい、やっぱり相手は魔物か。


 スッ、と左手を突き出す。

羽マンのエルボーを真正面から受け止め──フェイントッ!?


 私に来るはずの衝撃がまったくといっていいほど存在しない。

強いて言うならば、手のひらに軽く触れる程度なもの。

所詮魔物だ、と心の中で見下していたから見たままタックルしてくると思い込んでしまった。

羽マンは私の手に触れる瞬間に、自分の体で隠していたランスを突きだした。予想もしなかったその動きを、見てからでは回避不可能だ。

そこまで引き伸ばされた体感時間で理解した。……理解した気分になっていた。

最後までどうせダメージにならないし、なんてお気楽な考えをしていた。


 羽マンの狙いは。


 私の喉。


「──────ッッ!?」


 声がでない。息が漏れる。

いや、それよりも。思考を根こそぎ削りきり、ただ叫びをあげようとさせる激痛。息ができない。息ができない。激痛。血が溢れ気管へ流れ込む。呼吸が止まる。気持ち悪い。いたい。死にたくない。死が近い。嫌だ。嫌だ死にたくない。近づく死から逃れようと暴れる。

手には肉を抉る感触。

その、気持ち悪い感触が私に少しばかりの理性を、感情を取り戻させた。


 ステータスッ!


 息が漏れる。

言葉にならなかったけれど数値が表示された。

こひゅーこひゅー、と死にかけの病人のような弱々しい息を漏らしながら、目の前に現れた数値を読み取る。



体力:105/317

魔力:100/183



 ──生きてるッ!


 涙が滲む視界で、羽マンの位置を把握。思いきり蹴り飛ばしてランスを引き抜かせる。

ぽっかりと空いた首の穴に手を当て、回復魔法を注ぎ込む。

体に巡る魔力の流れを手のひらに集める。足や目に魔力を集める感覚でいい、焦ることなんてまったくない……。


「応急措置だけど、ないよりはマシかな……」

「GYAA!!」


 私が首の手当てをしている間に、羽マンも体力回復をしていたようだ。

進行形で私が抉った肩や腹の肉が蠢き、塞がろうとしているけれど……そのスピードは遅い。

自然治癒と考えると尋常じゃない速さなんだけれどね?

ああ、まだ呼吸がしづらい……。


「GAAA!!」

「──っ」


 三叉槍でランスを打ち払い、一歩詰めようとしたときに、膝から力が抜けた。

もう体に限界が来てるらしい。でもそれは敵も同じようで隙だらけな私を攻撃できずに距離をとった。


 打ち合い、離れる。


 事前に決めていたのかというほどに単純な作業を、私たちは繰り返す。

追撃することはなく、呼吸を整えたらまた一度だけの攻撃に命を賭ける。

死んでいないのなら、一瞬で届かない距離で僅かばかりの体力を回復させる。


 足がほとんど言うことを聞かない。無理な回避を繰り返したからだろう。それでもまだ避ける。

左腕なんて動かすこともできない。今さっき敵の盾で殴られて脱臼したらしい。脱臼を治す体力すらない。


 何度目かの空振りをした。

ついに私の右腕だけで振るった槍が、羽マンの側頭部を叩き、弾き飛ばした。

勝ちを確信したほどの全力の一撃。

しかし、羽マンはふらふらと立ち上がった。

立ち上がりやがった。


「殺して死なないなら、死ぬまで殺す……!」

「GYA……ッ!」


 頭のどこか冷静な部分で、他に敵が来ないことを不自然に思っていた。

そして、チリッとうなじの辺りがざわめいたのを、意図的に無視した。


 お互いに槍を構える。

私は三叉槍を、羽マンはランスを構える。

お互いに狙いは首。

それは先ほどから何度かの打ち合いで理解している。

……それでも狙いは変えなかった。真正面から戦うべきだと言われている気がした。


 一閃。

お互いの得物が火花を散らしてぶつかった。

右肩が痛む。筋でも痛めたかもしれない。私は武器を構え直した、羽マンは武器を取りこぼしてしまっていた。


「刺突……ッ!」


 肉を抉る感覚。私の放った刺突は、羽マンの首を突き刺した。


「GA、AA……」


 羽マンは私へと手を伸ばし、そのまま右腕を掴んだ。

……しかし、それも一瞬で、すぐに力尽きて腕が落ちた。もう立ち上がることもない、だろう。

私は三叉槍を引き抜いて、油断なく構える。


『テレテレテテテテン』


 ファンファーレを聞きながら、やっばりかと諦める。

安堵と諦念と無念さと。

武器は離すことなく、近くの木に寄りかかる。

体力も底を尽きていたからか、そのまま座り込んでしまう。


「嗚呼、死にたくないなぁ……」


 私は目を閉じる。もう動くことはできなさそうだ。

──最後に見たのは、羽マン3体を先頭にしたリザードマン50体ほどの群れだった。


『残り時間14時間32分24秒19……』


『現在のレベル17。次のレベルまで104219EXP』

『残り時間16時間59分59秒』

あ、あれ?おかしいな。色々とおかしいな。

羽マンにこんな消耗するはずじゃなかったし、最後のリザードマンの群れとか想定外だぞ?



あ、書き方を少し変えてみました。

行頭全てを1文字開けるのではなく、1行開けた後の行頭のみにしてみましたが……読みやすさはどっちがいいんですかね?

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