戦士 吉河 学 Lv.3
体に走るピリリとした違和感。
ゴブリンを全部倒した後だから良かったものの、もしまだ生き残りがいたら大きな隙になっていただろう。
……場合によってはレベルアップ寸前だから逃げる、ってことも頭に入れておいた方がいいかもしれない。
「ステータス」
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名前:吉河 学
年齢:17歳
性別:男
種族:人間
職業:戦士
レベル:3/99
『次のレベルまでの経験値230EXP』
体力:121/124
魔力:15/15
攻撃力:47
防御力:45
敏捷:31
精神力:18
幸運:16
所持金:244ロト
装備
右腕:ロングソード(攻15)
左腕:バックラー(防15)
身体:レーザーアーマー(防10)
装飾:木の腕輪(防5)
スキル
剣術2
盾術1
回避1
棒術1
投擲1
威圧1
威嚇1
アイテム
こん棒(攻10)
折れたこん棒(攻5)
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さて、今回で色々と分かることもあるはずだ。しっかり確認しておこう。
まず経験値。
ゴブリン半体分──つまり10EXP──がすでに入っているとして、4レベルになるために必要なのは240となる。
1.5倍ずつ増えるのだとしたら225なはずなんだ、つまり少しだけ多い……。
150+10=160×1.5=240
つまり次は250×1.5=375って予想になる、合っているのかはその時に確かめるとして今は放置。
しかし、現状ですでにゴブリン12体分か。
ほぼノーダメで倒せることを考えると余裕な気もするが……まあ、新種の魔物は経験値が多いのもいるだろうしそいつをメインに切り替えるのも良いかもな。
次は各種能力値。
体力が減っていることから、やはり最低でも1ダメージは食らうと言うことは確定で良いと思う。
所持金に関しても、俺の計算間違いや拾い忘れがなければピッタリなはずだ。
上昇値は、固定ではない。それは分かった。
前回、前々回のステータスを覚えている限りで地面に書いていく。
そして今回のステータスを見ながら上昇値を割り出す。
体力:100/100→17UP→7UP
魔力:10/10→1UP→4UP
攻撃力:30→9UP→8UP
防御力:30→5UP→10UP
敏捷:20→10UP→1UP
精神力:10→3UP→5UP
幸運:10→2UP→4UP
たしか、こうなはずだ。これでも一夜漬けの記憶力には自信がある。……それに最初のステータスは自分で決めたから間違えるはずも無いしな。
まず分かるのが、体力以外に10より大きく上がった項目がないこと。そしてすべての項目において1以上は必ず上がること。
……もしかしてこれ、1から20の中でランダムに上がるのか?しかしそうすると体力以外で12回も機会があって11以上を出せないのは──いや、運が悪いだけなのかもしれない。
まあ、それを言ってしまえば最大で上がるのが20という確証も無いんだけどな。
次のレベルになるまでまた放置しかない、か。
またステータス覚えておかないとな。
そして装備は特に変更もない、飛ばす。
スキルについて。
威嚇スキルが増え、他のスキルのレベルは上がっていない。
……威嚇、か。いつ威嚇したっけなぁ。
ゴブリンと戦ってる時か?それともレベルアップによるステータス値が一定を越えたから貰えたって可能性もあるな。
……くそ、一から十まで自分だけで検証して進むのがここまで大変だったとはな。
「ステータスについては、これくらいか」
あと確実にわかるのは。
異世界に来てから独り言が多くなった。
ああ、そうだ。
一つ気になったことがあるんだ、ちょうどいいし検証しておこう。
『キィィ……キィキィ……』
咄嗟に身を隠す。聞こえてきたのは聞いたことのない鳴き声だった。頭を検証モードから戦闘モードへと切り替える。
見えたのは、2等身の空を浮かぶ小悪魔だった。
黒というよりはグレーな体皮は、どこか光沢があるようにも見える。
小さな角が頭に2つ、口を閉じていても見える牙も2つ。そしていかにも悪魔です、といった尻尾が空中で蛇のようにくねる。
そいつはゴブリンの血溜まりの上空でくるりと回転すると、俺へと飛びかかってきた。
「位置はバレてるのかよッ!」
攻撃が通るかも分からない相手、格上か格下かもわからない。
どんな攻撃をしてくるのかもわからなければ、勝てるかどうかもわからない。
しかし、わからないことだらけなのはこの世界に来てからずっとなせいで、慣れてしまった。
俺が信じるのは自分の能力値と剣。
……今はそれだけで良い。
俺の振るう剣は、小悪魔にひらりと避けられてしまう。動き始めは目で追うのが遅れるスピード。
俺の頭に逃走の二文字が踊るが、まだはやいと小悪魔を睨み付ける。
小悪魔がよく聞き取れない音を発した。
いや、もしかしたら羽を擦り合わせたりして音を出したのかもしれないが、今はそんなことどうでもいい。
小悪魔の前に魔方陣が浮かび上がり、そこから大きめの火の玉が発射された。
「魔法か……ッ!」
この世界に来て初めて見る魔法、しかし関するだけの時間は与えられない。うなじがざわめき、俺は咄嗟に盾に腕を通している左腕で自分を庇った。
爆発。
盾は意味を成さず、左腕はひしゃげ、俺は火傷を負いながらふっとばされる。
視界が赤く染まる。腕に痛みを感じない。息が出来ないほどに苦しい。
──だが、死よりは生ぬるい。
目元から垂れる血を拭う。
口からも血が出ているみたいだ。もはや身体のどこから血が出ているのか分からないほどだった。
グレムリンはキィキィと笑いながら俺に近づいてくる。きっと次の攻撃は避けられないだろう。ならば逃げよう、経験値を手に入れるために完全な死を迎える必要はない。
「さて、どうやって……ッ、にげるっかねぇ……」
なんとか立ち上がるが、身体が軋み、そのまま倒れてしまいたかった。
頼るのは威圧、もしくは威嚇。……言葉の通りなら少しは怯ませられるはずだ。
そしてここは森の中。木が射線を遮ってくれるはずだ、と希望的観測をする。
「ウオオオオオオオオッッッッッ!!!!」
何がどうなれば成功なのかは分からない。しかし、小悪魔は怯んだ様子がないので失敗だと決めつける。
逃げられなければ俺は死ぬ、なんなら切りかかる前に逃げておけば良かった。
俺は後ずさる。
少しずつ距離をとってあと一歩で木に身を隠せると言うところまで来た。
ここまで下がってようやく小悪魔は俺が逃げようとしてることに気づいたらしい。また魔法を唱え始めた。
一度木に身を隠したら、全力で逃げる。
魔法は木に当たる、そしたら次の魔法を準備するまでに逃げ切れるはずだ。
──覚えてろ、悪魔が。レベル上がったら経験値なんて関係なく虐殺してやる。
足がもつれた。
転ばないようにとバランスを取ろうとして、身体に違和感を感じた。
見下ろして、ようやく理解する。
……理解させられる。
俺の胸の部分は、大きく穴が開けられていた。
小悪魔の撃った魔法は木を貫通し、鎧さえも貫通した。
口から血が出る。
そのまま倒れる。
小悪魔がキィキィと鳴きながら俺の上に降り立つ。
胸元の穴に手を突っ込まれる感覚と、それ以外に視覚も、聴覚も、嗅覚も、全ての感覚がこぼれ落ちていく。
死にたくないとも、死ぬのかとも思わなかった。
ただ、俺のことを覚えてくれる人は誰もいないんだろうなとぼんやりと考え、そこで思考が止まる。
……その青年はすでに息をしていなかった。
小悪魔に血肉を貪られながらも、静かに息を引き取った。
その後、その森を通りかかった魔物使いの少女が遺品を拾い集めギルドへ提出した。
「皮膚が赤黒いグレムリンの亜種と思われる魔物を目撃しました」
──そんな言葉と共に。
死因:推奨レベル10のグレムリンと遭遇してしてしまう。
基本的に悪いのはファンブル(大失敗)。
遭遇表でファンブル→グレムリンと遭遇
逃走処理でファンブル→魔物少女の救援ロール失敗→死亡
この世界何が鬼畜って推奨レベル5の魔物がいないこと。
時間制限が無ければゴブリンで7レベルか8レベルまで上げてパーティを組んで戦うのが定石ですね。
8月18日、改行追加。微修正。