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旅人 白鳥 恵子 Lv.13 ⑦

──爆発した。




足元に散らばっていた粒には火薬が詰まっていたんだと思う。それが放られた赤い石──火の魔石かな?とりあえず魔石と仮定──によって起爆した。


魔力を巡らせる。


それは回避のためじゃない、脳と眼球へと魔力を集める。……思考速度の上昇、動体視力の上昇、体感時間の遅延。

考えるまでもない、私を中心に火薬の粒は散っているみたいなので回避はどうやっても不可能だろう。最悪爆発から逃げた先がまた爆発、さらに逃げた先で爆発……悲惨なことになりかねない。

ほぼ一斉に起爆したように見えたけれど、体感時間を引き伸ばしてみると誘爆してそこからさらに誘爆して、と繰り返していることが分かる。

避けられそうもないなら、散々に頼りまくっている乙女の柔肌が焼けないことに期待しよう。

ああ、でも地球にいたときには日焼けしやすかったんだよね、すぐに赤くなるしひりひりして痛いし。異世界に来て変わってるかな……?


ああ、思考が逸れた。

魔石を投げた女は回避行動を取っている。私から距離を開けるだけで回避できるもんね。逃がさないけど。


右足、特に足首や爪先に魔力を集める。目的は防御力上昇と被害軽減。

足元の地面ごと、まだ起爆してない火薬の粒を蹴飛ばす。こんなことをしたところで私へのダメージは変わらないけれど、ミーシャにも爆発の威力が当たる……かもしれない。

蹴ってすぐに身を丸めるようにして防御。頭なんかの急所を防ぎ、スカーレットカラーの『堕天使コート』で全身を覆う。

紅いんだし炎耐性くらいあってよッ!?



爆音



耳鳴りがする。というか耳鳴り以外にはたった一つの音しか聞こえない。


──ファンファーレだ。


「……やっぱり、貴女の敗因は油断と傲慢ですよ」


返答は返ってこない。そりゃそうだ、死んだのだから。

ミーシャは自分の仕掛けた爆弾で死んだ。そして私は無傷で生き残り、レベルアップまでした。

ありがとうミーシャ、今度から誰かを殺すときは復讐されないように皆殺しにするよ。あはは。

……なんてね。


「ステータス」




────────────

名前:白鳥 恵子

年齢:19歳

性別:女

種族:人間

職業:旅人

冒険者ランク:E

レベル:16/99

経験値:64972/88647


体力:161/317(242/476)

魔力:157/183(236/275)

攻撃力:136(204)

防御力:195頑丈(205)流浪(308)

敏捷:143(215)

精神力:147(221)

幸運:69(104)

所持金:4135ロト


装備

右腕:三叉槍(攻80+火)

身体:ローブ(防10)

   堕天使コート(防40)

   蠍殻のチョッキ(防55+毒耐性)

   鉄のグリーブ(防御40)


スキル

槍術5

弓術2

投擲2

回避5

 >見切り

看破2

魔物語2

直感2

結界術1

──レベル1は省略──


武技

刺突3

三段突き1

滅槍グングニル3

首折2

同時発射1


固有スキル

流浪▽

歪な器

アレスの護り▽


従魔

クロノス(悪魔竜)

アレス……死亡

エルピス(???の卵)


称号

頑丈▽

────────────




……流石、レベル差9だったね。一気に3レベルも上がってしまった。『流浪』みたいな強スキルが無いと到底できないことだけどさ。

にしても……流浪発動時には防御力が300越えちゃったね。二の腕を摘まんでみるといまだにぷにぷにしてるのがホントに腹立たしい。

あと変化点としては『結界術』と……あれ?槍術って変わってる?前から5だったっけ?


「……結界」


目の前に半透明の薄い膜のようなものが発生した。大きさとしては私の手のひらよりも少し大きいくらいの曲面だ。

そして結界を維持し続けてる間は魔力を消費しているみたいだ。つまり魔力の盾を作り出すスキル?

回避があるから要らないと思うけど、まあ、一応時間を見て育てておこうかな。残り時間は16時間あるわけだし。


ミーシャの死体が光の粒となって、消えた。そこに残っているのはナイフ3つと着物、その下に着けていただろう下着類、そして一枚のスクロール。


『マシェット(攻75)…耐久7/10』

『フィレナイフ(攻65)…耐久6/9』

『改造着物(防40)…耐久11/12』

『ビキニアーマー(防60)…耐久5/6』

『ククリナイフ(攻45)…耐久6/9』

『鑑定のスクロール』



鑑定のスクロールは迷わず使う。巻物状のそれを広げると何か文字が書いてあるけど理解する前に光の粒になって消えた。……今度開けるときは体感速度引き伸ばして見よう、と無駄な決意をしながら他のアイテムをポケットへと突っ込む。


な、なんかね……甘い匂いがするし、たくさんの獣臭が近づいてくるんだよね……。もしかして、大討伐、始まった……?


「アイテム散らばってるっ!?」


大きな布にくるんで置いておいたアイテムたちは、爆風に煽られてそこらじゅうに散らかっていた。

余裕もないのでポケットへと仕舞っていく。

あー……水筒に穴空いちゃってるし、カンテラは割れてる……。カンテラ用の油に引火しなくて本当に良かった。

って、なんか燃えてる!?


……結果だけまとめると。

沢山の武器類の耐久が減少。

『水筒』『カンテラ』『黒マント』『下着』×2、『小さな布』が壊れるか焼けて使えなくなった。

あと、甘い匂いの正体判明。


『魔物寄せのお香』


これが壊れたせいみたい。

そのせいで近くにいた魔物が一斉に近づいてきてるんだと思う。体力回復薬を頭から浴びるようにして被る。

傷口がグジュグジュと気持ち悪い音をたてながら塞がる。流れた血が補充されてるかは知らないけど、体力がある限り死なないでしょ、と決めつけて三叉槍を構える。

これもミーシャの作戦の内だとしたら、なんという強敵って驚くところなんだけど、自爆した結果私ノーダメージだしなぁ……。



『GAAA!!!』

「……リザードマン」


その数およそ10体。ハイエナを思わせる狩人のような、恐怖から逃げる無様な人間のような、そんな彼らが私へと迫る。


「刺突」


おそらく一番早い敵に向けて刺突を放つ。これが時間差の連携だったら結構やばい状況だけど、最悪逃げられるようにだけはしよう。


「GYAA!?」

「ん……?」


私が攻撃を仕掛けたからか、リザードマン3体が飛びかかってきたのを避けて、避けて、最後は掴んで止める。

手のひらに刃が当たるけど全く痛くないし、切れることもない。

いや、もう分かりきってたことだからそれは良いんだけど、6体のリザードマンが私に見向きもせずに走り抜けていった。

その方向は……『ナチャーロ』かな?

とりあえず目の前の4体を殺してさっさと戻ろうかな。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『ナチャーロ防衛軍』



コツコツ、と靴音を響かせて青年が歩く。

柔らかい微笑を携え、慌ただしく回復薬や弓矢といった消耗品を運び回る冒険者たちに声をかけている。

男にはもったいない綺麗な紅い髪がさらさらと風に流れ、火の粉が舞うような、幻想的な光景を作り出す。

灰色のコート纏い、服装はよくわからないが、その腰には三振りの剣が吊り下げられている。その全てが、業物だ。

コツコツ、カツカツと歩を進め、一つのテントの前へとたどり着いた彼は、中へと呼び掛けようとして、止まった。


「入りたまえ、拓郎君」


先に中から呼び掛けられてしまったからだ。

口元だけで小さく笑うと、入り口の幕を上げ、中へと入った。


「サンプル番号5、横山 拓郎。遅れてすいませんでした」

「気にするな、大討伐はこれから始まるのだから」


椅子に深く腰掛け、ワイングラスをクルクルと回したその女性は、ゴクリと一口で飲み干した。


「下戸なんですから、カッコつけなくてもいいじゃないですか月美さん──おっと」


パァン、と響いた銃声。

目にも止まらぬ早さで抜き撃ちされた銃弾は、拓郎に摘ままれるようにして止められた。


「なんでいい気分を壊すんだ」

「貴女の強がってる口調が似合わないからですよ」

「……ふん、弱虫のヘタレが偉くなったものだな」

「ええ、貴女の右腕ですから」


いまだに銃口を突きつけられているのに拓郎はニコニコとした余裕の笑みを崩さない。なぜならその銃は本来コレクション用だと言うことを知っているからだ。


「その辺にしたらどうだい、あんちゃん。特に銃はいけねぇってぇなぁ」

「ああ、居たんですか郷田さん」


さきほどまでは居なかったのにいつからそこにいたのか……月美と呼ばれた女性の隣に立っているのは四十後半の男性だ。ジーパンにTシャツという、戦闘には全く向いていない格好でここにいた。

月美はおじさんと呼ぶに相応しい彼を睨むと、どっかりと椅子に座り直した。

ペコリと頭を下げる拓郎を一瞥して、彼女は本題に入った。


「今回の大討伐は、おそらく竜種だ」

「……竜?それは、ドラゴンだけじゃないと?」

「リザードマンが一番多いだろうな、その次がリザードフライ、狩竜と多いはずだ」


拓郎は月美が机に広げた簡易地図を、その上に置かれている赤と青の駒を見て、安堵の息を漏らした。無駄な緊張をしていた、と言わんばかりの顔をしている。


「ボクたちが来る必要ありました、これ?明らかに過剰防衛でしょう」

「そうだろうな。だが、この地を奪われるわけにはいかない、それは分かるだろう?」

「なんたって始まりの地、なんて言われてっからぁなぁ」


不意に、月美と呼ばれた女性が目を閉じた。

数瞬。それこそ、1秒にも満たない時間だったが、拓郎と郷田は雰囲気が変わったのを感じ取った。

それぞれが、それぞれの方法で気持ちを切り替える。


「──始まったな」

「状況は?」


短く聞き返す拓郎に見向きもせず、月美は赤の駒の配置を変えていく。赤のポーンがその数16。ルーク、ナイト、ビショップがそれぞれ2つずつ配置された。

そして最奥に配置されるキング。月美はテントから一歩も動くことなく敵の配置、総合戦力、味方の配置などを看破してのけた。


「リザードマン106、リザードフライ32が8分隊に別れて進行中。全方位から等間隔……おそらくボスはレベル60~70内のドラゴンだろうな」

「偵察はいるかい?『女帝』さんよ」

「いらんだろう『コードエラー』。『奇剣』も待機だ」

「ほいさっさ」「……了解です」


拓郎は小さく、敵に回さなくて良かった……と呟いた。



サンプル番号1、河原木 月美。26歳。二つ名は『女帝』。

最近の悩みは未成年に間違われることと、下戸を弄られること。

索敵特化の狙撃手。有効射程キリングレンジは脅威の半径10キロ。


サンプル番号2、郷田 とおる。48歳。二つ名は『コードエラー』。略称は『CE』、本人はこっちで呼ばれたいみたいだけどみんな何故か『コードエラー』と呼ぶからボクもそうしてる。

最近の悩みは加齢臭と抜け毛。あとはジェネレーションギャップを感じること。

隠密特化の即死攻撃持ち。見た目や装備の弱さからは想像もつかない初見殺し。



そしてボク、サンプル番号5、横山 拓郎。20歳。二つ名は『奇形剣士』。みんなは略して『奇剣』なんて呼ぶけど。

最近の悩みは双葉に会えなくて性欲の処理に困ることかな。どうも風俗なんかには行く気にならなくて……話を戻そう。

ボクは敏捷特化のアタッカー。三本の腕で搦め手を多用する。



こんなボクら、レベル99の生存者たちで一つのパーティを作り上げた。

それが『ノンマルトからの使者』。名付けたのは郷田さん、由来は知らない。

メンバーとしてはあと2人いるんだけど、そっちもそっちで個性的な人たちだから見てて飽きないパーティだよ。


「月美さん」


ボクは小さく手を上げた。欠伸をしていた郷田さんまでもがボクを睨む。


「許可する」

「ありがと。ならボスは倒してくるよ」


何も言わずに理解されるこの感じが、最初こそ恐ろしかったけれど今では慣れてしまった。むしろ会話が短くて楽だ。

ボクはコートのポケットに手を突っ込みコインを取り出す。郷田さんに見せるが……ふるふると、首を横に振られてしまった。珍しいな。


「おっちゃんもう歳だわ」

「整骨院でも紹介しましょうか?一凪ぎで肉塊に変われるって噂ですよ」

「ははは若造が」


郷田さんは今回の大討伐、本気で参加するつもりがないらしい。

まあ、彼は最近子供ができたらしいからな、奥さんに心配かけたくないんだろう。

……地球にいた奥さんや、息子さんのことは忘れてしまったんだろうか?いや、きっと覚えているが新たな人生を歩んでいるだけなんだろう。


「……ボクもまだまだ子供ってことか」


入ってきたときと同じように、ペコリと頭を下げるとテントを出る。そして仮設ギルドとなっている一際大きいテントへと向かう。

まずは味方に敵の戦力や配置を教えてから、遊撃にでも行こう。少しでも名声が高まればサンプル番号持ちの地球人が接触してくる。……そうしたら、ボクたちの悲願が達成される。

現時点でレベル99は5人だったか。サンプル番号は38まで来たというのに……いや、まだまだこれからだよね。深呼吸、深呼吸……。


『ピピピ……ピピピ……』


頭に響く電子音。

一瞬スマホが鳴ってると思ってしまうがここは異世界。これは通信の受信音だ。通話主は……月美さん?

はぁ、次は何を見透かされたんだろうか……。


『別に何も見透かしているつもりはないんだが?』

「見透かしてるじゃないですか。緊急ですか?」


苦笑いしつつ答えるが、月美さんは基本的に声が強張っているので、その声で内容を判断するってことができないんだ。だから素直に聞く、大事なことだよね。


『ひとつだけ、忠告しておく。いや、心配はないと思うが……』

「はい?」


『“私の同族”には気をつけろ』


不吉な言葉を呟いてくれたのだった。

聞き返す前に通信が切れてしまう。……ボクは、森へと足を向けた。

まさかこんなことになるなんて。。。

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