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旅人 白鳥 恵子 Lv.13 ⑥

「ウチの弟子、紅石 帝。知らへん?」


その質問への返答に、詰まった。詰まってしまった。

知ってるも何も私が殺した。そして彼女は私のことを人殺しと言った。……気づいてなかっただけで見られていた?

それにその喋り方。……地球での訛りに、似てる。

私自身、キツい方言もない環境で育てられたので訛りはないと思うけれど、それ故に他の方言についても疎い。


「……貴女のサンプル番号は?」

「なんや、帝くんにも聞かれたなぁ。何かの暗号なん?」


どういうこと?もしかして地球人じゃないの?いや、それはどっちでも良いか。問題は──


「知っとるやろ?帝のこと」

「知りません」

「帝のナイフ持ってるやろ?あれなぁ、オーダーメイドで刻印してもろてるんよ」

「持ってません」


格上……戦わないのが一番なんだけど、どうも逃がしてくれそうにない。でもナイフはポケットの四次元空間の中だし、証拠不十分に持ってけるんじゃないかな。

こういうのをバチが当たったって言うんだろうなぁ。


「……どうしても誤魔化すって言うんか?」


──斬撃。


横っ飛びで地面を転がると、元いた場所が斬撃でズタズタに引き裂かれていた。

私の後ろにあった岩が割れたことから、その威力が測り知れる。岩をも砕く攻撃を乙女の柔肌は受け止められるのか、微妙だね。


「避けれるんか。意外とすごいんやなぁ」

「あらぬ疑いで貴女も人殺しになるつもりですか?」

「死体は消えて残らない。もしもあんたが帝のナイフ持ってたら人殺しを倒しただけやて」

「異常者が」

「そのままお返しするわ」



奴が低い姿勢で疾走してくる。致し方ないとはいえ、格上との戦いになってしまった。こんな人と戦うよりはオーガと戦ってる方がまだマシってレベルなのに!

しかもこっちが持ってるのは弓、槍に持ち変えてる間に切り殺されそうだ。

──第一射。


「精度悪すぎるで」


飛来する矢を左手で持ったナイフで切り飛ばし、右手で持ったナイフで斬撃を放った。

回避!──いや速すぎて無理、防御ッ!


「……こんなもんですか?」

「あんたさん、かったいなぁ……攻撃強化(エンハ)してるんやで?」


1メートルほど引きずられて、地面には私の両足分の道が抉れた。それに1トントラック同士でもぶつかったのかというほどの轟音が耳をつんざいた。

──私は無傷だ。


「弓兵って訳じゃ、ないんやろな?」

「……」


確信を持っているような問い。こんな弓なんかで帝くんを倒せたとは私も思わない。

別にバレても良いかな、とポケットに弓を仕舞うと三叉槍とランスを取り出す。手数が多い敵なら、攻撃が無力化出来る相手なら、こちらもノーガードで手数を増やしていこうと思う。


「『双剣士』ミーシャ・アカイシ」


重心を落とし、隙なく両の剣を構えたミーシャを名乗る女。


「……『双槍士』白鳥 恵子」


私も名乗る。旅人って名乗ってもいいけれど、双剣VS双槍の方が、賭けとして楽しくない?

もちろん双槍が勝つに私の命を賭けるよ。


「鑑定」

「──鑑定」


逡巡の遅れ。格上相手に油断も許されないというのに最初っからこれだ。先が思いやられる。




────────────

名前:ミーシャ

年齢:23歳

性別:女

種族:ヒューマン

職業:双剣士

レベル:21/50


体力:361/361

魔力:261/261

攻撃力:135

防御力:110

敏捷:136

精神力:135


スキル4個

武技3個

固有スキル1個

────────────



相手の防御を突破してステータスを盗み見る。けれど私のステータスも見られたのだと理解した。

状況は予想以上に悪くない。






──時間にして、およそ30秒もなかっただろう応酬。手数としたら100を越えていたかもしれない。


「はぁ、はぁ……ふぅ……」

「こればっかりは相性の差やなぁ。無理して双槍にしなきゃ良かったんちゃう?」


私が攻撃しようとするたび、懐へと詰められ首や関節、顔面といった装備の薄いところを集中的に狙われた。

装備分の防御力がないと、微々たる量のダメージが入るみたいだ。新発見だね、固い敵なら装甲がないところを狙えばいいみたい。首とか。

見た目は無傷に見える私だけれど、グリーブやチョッキの下を血が伝う嫌な感触があり、側頭部を蹴られたことで視界が歪んでは真っ直ぐに立てなくなってしまっていた。


……脳震盪でも、起こしたかな?でもあれって立てなくなるって聞いたことがあるんだけど?


そんな答えの知らない自問自答をしながら、目の前の敵を睨む。

戦闘中にも関わらず、狙いが甘いだの覚悟が足りないだのと……うだうだと説教垂れてくれちゃって。

しかも今だって殺そうと思えば出来るはずなのに、まるで訓練でもしているかのように立ち向かうまで待っている。


「貴女の敗因は油断と傲慢になりますよ」

「……減らず口やなぁ」


切り札は常に3つある。

一つ目は流浪。けれどこれはアイテムを全部捨てて、装備品も一つ外さないといけない。つまり発動まで時間がかかるんだ。

二つ目は『滅槍グングニル』。これはデメリットが大きすぎる。武器の投射、多大な魔力消費、そして即死発動確率が低い。

レベルや防御力、攻撃力に関係ない即死ってデメリットに見合う効果はあると思うけどさ。

そして最後の三つ目は、『歪な器』だ。何が起こるか分からないという恐怖はあるものの、必要になったら使うと決めていた。

……今って、必要な時なのかなぁ。


「まだ諦めてないんやなぁ?」

「こんなところで死ぬわけにはいかないので」



右手に持つ三叉槍を腰だめに構え、右足を引く。まるで力を溜めているような姿勢に見えているだろう。

今回の教訓は「無理して双槍をやらない」ということだ。だから1本くらい投てきしてみようと思う。


「次で決めるで。……帝くんの仇や」

「──ふッ!」


右手を前へと動かす瞬間に、槍を手放す。そしてポケットに指先だけ入れ、そこに引っ掻けるようにして掴んだものを投擲!


「目眩ましのつもりなんか?」


私の投げたローブ(・・・)が空気を受け、私の前に壁として広がった。カラン、とすぐ後ろに三叉槍が落ちるのを感じるが無視して本命のランスで『刺突』ッ!


刺突をするときにわざとすっぽ抜けさせると、不思議なことに刺突の威力を持った投射が可能になる。これは成功率の高い賭けだったけど成功したようだ。問題はローブごと避けられないか。

刺突までの一連の動作をした後も動きを止めない。

更にポケットから取り出したのは買ったばかりの大きな布。それをざっと広げ、ポケットにあるアイテムを全て取り出す。

ごちゃごちゃバキッぐっちゃぐちゃ。

焦りすぎだし整理整頓なんて出来てないけれど、流浪の発動準備ができた。……何か壊れる音したまた気のせいだよね。うん、気のせい気のせい。


「これで、準備完了っと」


髪留めを外し、荷物の上へと置く。布を丸めては戦闘の邪魔にならないように木の根あたりに置く。

三叉槍を拾い、構え直す。装備はローブ、コート、チョッキ、グリーブの4つ。だが、ポケットに1つアイテムを仕舞い直したせいで流浪はまだ発動していない。


「ローブ切り裂いてごめんなぁ。あと、ランス返そか?」

「別にいいですよ。待っていてくれてありがとうございました」

「こんな時にするってことは理由があるんやろ?」

「ええ、貴女を殺すためには身軽にならなきゃ無理ですからね」


買ったばかりのローブを切り裂いたことを怒りたくもあるし、脇にランスが刺さったはずなのに無傷なことが信じられなかったりするけれどこの際どうでもいい。

彼女はやっぱり油断している。それに、私の攻撃を全て見切って、受け止めて、一切の勝ち目が無いのだと見せつけてから殺そうとしている節があった。……傲慢だ。だからそこに漬け込んだ。

荷物を全て取り出すなんて意味不明な行動をすれば、真意を探って攻撃してこないんじゃないかという賭けに、勝った。


「……お礼と言ってはなんですが、あげますよ。拾えたらですけどね」


敵に向かって走る。

走りながらポケットから取り出したのは帝くんの『ククリナイフ』……それを顔面狙いで投擲。

流浪の発動した感覚と同時に、走るスピードが上がる。投擲したナイフに追い付くほどの急スピード。ナイフを投げてから流浪が発動し、敏捷が上がったのだから出来た芸当だけど、敵からすると予想外の加速だろう。


「──ぐっ」


避けることを考えたのだろうが、結局は左手の武器を逆手に持ち変えてククリナイフを掴んだ敵は、大きな隙を見せていた。

流浪で上昇したステータスを活かして、ダッシュの勢いを活かして、太刀打ちを剣道の胴打ちのように叩き込む。

……若干手応えが薄かったけれど、『く』の字に曲がりながら体の浮いた敵へと追撃。二発目は首筋から肩付近を、ぶっ叩き、地面へとめり込まさせる。

剣ならばさっきの一撃でまっぷたつなんだろうけれど、三叉槍は切ることが出来ないから叩いて弱らせないとね?


「……刺突」


地面を数センチほど陥没させてめり込んでいたその女の首へと刺突を叩き込む。……肉を抉る嫌な感覚と、呻き声。

さすが異世界だね、首を貫いても生きてるなんて。


「──これが、切り札ちゅーことやな?」

「すごいですね、よくナイフを手放さないで耐えましたね」


私としては殺す気で撃ち込んだのだけど。


「なんでそないなパワーアップ出来るんかなぁ……それウチにも使えんかなぁ」

「無理ですよ。貴女はここで死ぬので」

「さよか。……なら、遺言でも言っとこか」


その女──ミーシャ──は儚い笑みを浮かべ、私に攻撃を躊躇わさせた後、獣を思わせる獰猛な笑みに変えた。


「──死ぬのはあんたやで」

「ッ!?」


彼女がしたのは、隠し持っていた石を地面へと放っただけだった。

そこで気づいた。……足元に、木の実にも似た黒い粒が数十、数百という量で転がっていた。

何か分からないけれど、マズイ状況ということが理解できた。そして、初動さえ許されず、足元の黒い粒は、一つ残らず──爆発した。


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