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IF 従魔コルァ~童話と少しの感傷と~

むかーしむかし。あるところに、1人に少年がいました。

彼は人々に「勇気のあるもの」『勇者』と呼ばれていました。

勇者は困ってる人を放っておけなかったのです。転んでいる人がいれば手を差し伸べ、魔物が出れば剣を手に立ち向かいました。

人々は彼に感謝していました。彼も自分を育ててくれた村人達に感謝していました。

ある日、勇者は村人達にこう言われました。


「魔王が悪さをするせいで食べ物はなくなり、苦しめられています。勇者様、どうか助けてください」

「分かりました。私が必ず、魔王を懲らしめてみせましょう」


そうして勇者は魔王を倒すため、世界を平和にするために旅をすることにしました。


悪さをする人がいれば懲らしめ、改心させました。

怖い魔物が出れば倒し、たくさんの人を救いました。

つらそうな人がいれば必ず手を差し伸べ、一緒に解決しました。

そうして全ての人を助けながら旅を続けました。


そのまま魔王も改心させようと勇者は魔王城へと向かいました。

しかし、そんな勇者でも魔王を倒すことは出来なかったのです。

魔王はたくさんの魔法を操り、すごいバリアーに守られていたのです。

勇者は泣きました。逃げ出しました。

しかしその逃げた先で優しい妖精さんに出会ったのです。



「僕はシュティ!優しい君に悪い奴を倒せる剣をあげよう!」

「私はチュリィ!強いあなたに悪い奴から守る鎧をあげましょう!」


そうして勇者はキラキラと光る剣と、かちかちに硬い鎧を貰いました。

しかしその剣と鎧があっても魔王を倒すのは簡単なことではありませんでした。

長い時間戦い、ボロボロになりながら勇者はやっとのことで魔王を倒すことが出来たのでした。


魔王は勇者に聞きました。


「なぜその力で悪さをしない?」

「力はみんなを守るためにあるからだ!」


魔王を倒した勇者はみんなのヒーローになりました。

みんなが幸せになった世界で、お姫様と結婚した勇者は幸せに暮らしました。

めでたしめでたし。





「……みんな寝ちゃったね、コア?」

「そだなァ」


私は絵本を閉じた。私の膝を枕にしてお話を聞いていたクロノスはすやすやと、子供のような寝顔を見せている。……クロノスは見た目年齢が25歳くらいの美青年ではあるけれど、実年齢は3歳くらいでまだまだ甘えたがりなんだよね。

ほら、そっと頭を撫でてあげると嬉しそうに微笑む。


「こいつらを起こさないようにしないとなァ?」

「そうだね。たまには休憩も必要、でしょ」


コアは周囲を見回した。

私が背もたれにするのは大きな大きな木──樹魔人の『暗殺メイド』ラディ。

そして私の膝を枕に眠る『優しき暴君』クロノス。

クロノスの上に乗っかって眠る『知識の双子』リリとコン。

私の肩にはハムスター型の『大精霊』隆昭君。

隆昭君の眠る肩に頭を乗せて寄りかかるようにして眠っているのは『個人要塞』フォード。

私が空いていた右側の地面をぽんぽんと叩くとコルァは少しだけ頬を赤らめた。

……コアも結構初々しいよね。種族的な物か、すぐにR18へとぶっ飛んじゃう欠点はあるけどラブコメ的ななんでもない接触だとすぐ赤くなる。

コアはもう一度「しかたねぇな」と呟くと床に槍を置いて、私の隣に腰掛けた。

腕と腕の触れる距離。

若干の隙間を開けようとするコアの腕を抱き寄せる。軽く引っ張ると私のほうへと寄りかかってくるが、そのまま受け止める。

正直なところ、少し甘えたかった。もう誰も私の感傷を共有してくれる人はいないのだから。この世界で唯一、全てを見られたことのあるコアに、愛してる従魔に寄りかかりたかった。


「……どうした?」

「昔ね、この妖精さんの名前をした鍛冶屋さんがあったんだよ」

「今は、ねェのか?」

「一年前の魔物の大進行、その時に滅んじゃった」


コアは少しだけ考えるそぶりをした。その仕草は私が半年は前に捨てた動作で、その横顔は納得したはずの私の心を抉る。

成長限界となった私は、私をこの世界に攫ってきた神々と取引をした。


『サンプル番号を持つ他49人を全員殺せ』

『地球の日本にいる隆昭君を私の従魔に』


その契約は果たされた。見知った顔も、見知らぬ顔も、強者も、弱者も。

何も関係なく殺した。ただ同じ境遇だったから。神々に玩ばれる運命をしていたから。

途中で脱落した21人を除く28人を殺した私は、神人へと進化していた。そして、神々を殺した。

一時期は唯一神なんて浮かれたものだけれど、たくさんの犠牲があった。


世界中での指名手配。いくつもの都市、大陸の破壊。そして、完全記憶と全知全能。


私はもうどんな些細なことでも忘れることは出来ないし、思い出す必要もなく全てを理解している。

──それは、ひどくつまらないものだ。


私は武器を捨てた。敵の動きが全て分かると言うことはこれほどまでにつまらなかった。

未来が見えるということは期待する必要がなくなったということだ。

今では正直、後悔している。


「俺がいるだろ」

「ぷっ。なにそれ」


ぐしゃぐしゃ、っとコアが白くなってしまった私の髪を撫でる。ボサボサになることもなく、髪型は元に戻った。


「コアは、この話好き?」

「童話は嫌いだなァ」


あほくせぇ、と切り捨てたコアだけど、私は童話のように甘ったるい世界が好きだった。

みんながみんな愚かで、それなのに幸せに暮らしていて。綺麗な部分しか見せてくれないけれど、汚い部分しか見えない世界よりは、よっぽど好きだった。


「安心しろよ、俺がお前を倒してみせっからよォ」


コアはこの姿になった私を見て、酷く絶望した私の話を聞いてから。ずっとそう言っている。

私でもまだまだ世界を楽しめるんだと、教えてやると何度も立ち向かってきた。

動きが遅くて止まって見えるぜ!みたいなレベルじゃない。私以外の全てを止めることの出来る能力を前に、コアはけして折れようとしなかった。

だから、だろうか?

私を散々に玩んだ元ゴブリンを、恨んでいたはずのコアを従魔にしたのは。


「──ッ!?」

「ふふっ。隙あり~」


ちゅっ、と唇が触れ合った瞬間コアは顔を真っ赤にして固まった。

そして声にならない悲鳴を上げながら大きく飛びずさった。頬が緩んでいるのが分かる。


「な、何しやがる!?」

「ん~。キス?」

「そうじゃねェ!?」


しーっと口の前に指を1本だけ立てるとコアはピーマンを食べたときのような顔をした。そして槍を持つと走っていってしまう。


「逃げましたね」

「ラディ、起きてたの?」

「ええ、コアが寄りかかる気持ち悪い気配がしたので」


キスしてるところ見られちゃったーはずかしー。

もう一度、│木のラディに寄りかかり直しながら目を瞑る。

さらさらと2万枚の木の葉が擦れる音、すぅすぅというみんなの寝息、遠ざかっていくコアの足音、5体ほどの狼の群れの足音、ラディが鋭利な木の葉を投射する音。

聴覚情報だけでこれだけの量を逐次記憶していく。私が記憶した情報はそのまま世界の核へと送られる。私の脳と世界の核は共有化されているから、記憶容量が溢れることはない。

目を瞑ったところでもう、私は眠ることが出来ない。そうしたらこの世界が止まってしまうから。

死ぬことさえ出来ない。そうしたらこの世界が滅んでしまうから。


……ああ、ひまだなぁ。


「おやすみなさいませ、恵子さま」

「おやすみ、ラディ」

いつぞやの童話を添えて。


おかしいな、こんなラブコメするとは思わなかった。恵子ちゃんがビッチっぽくなっている。なぜだ。

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