旅人 白鳥 恵子 Lv.13 ③
そろそろ20万字なんですよね。
次回あたりに閑話でも挟もうかなぁ……
結論から言うと、ナチャーロは従魔連れ込みOKで。私の泊まる宿も従魔連れ込みOKだった。
あの後、卵を抱き抱えたままナチャーロまで歩き、門番さんに「従魔です。卵です」と有無を言わせずに承認させ、宿についてからも「絶対に暴れさせない、暴れたら殺すから大丈夫」と押しきった。
2人用の部屋へと変えてもらい、卵を抱き抱えたまま寝た。荷物を置いてなくて助かった。部屋移動が楽チンだった。
それで、卵を抱いてて分かったんだけど。どうやらこの卵は空気中から極々微量な魔力を吸い取って生きているようなんだよね。だから寝る前に余ってた分の魔力を卵へと全て注ぎ込み、私色に染めてから寝た。最悪その場で割れててもおかしくなかったけど、耐えきったから本来だったらすごい長い時間かけて孵化するのか、それとも魔力次第で良いものになるのか。
……お楽しみってやつだね。
時間的には5時間ほど、寝ていたみたいだ。それでも残り時間は7時間半はある。
魔力は半分ほど、回復している。……1時間で1割の回復量かな?
「おはよ、アレス」
「……おはよう、ケーコ」
まずは昨日の処理からしていこう。
私もアレスも、体力は全快。魔力はアレスが全快、私がぴったり半分まで回復……うーん、回復薬はいらないかな。戦闘でキツいと感じたら飲めばいいし。
とりあえずアイテムが多くなっちゃったからいらない装備は売っちゃおうかな。
……っと、その前に。
「アレス、この2つのスクロールあげる」
「……いいのか?」
「うん、アレスが強くなれば私も楽できるからね」
アレスはのそのそとした動きで『回避』と『下級魔術(風)』のスキルを伸ばす。確認してみると……うん、きちんと回避4と下級魔術(風)4に上がってるね。これで敵の攻撃を避けやすくなったはず。それに魔術も上がったしそっち方面にも鍛えないとね。
……誰か師匠的な存在がほしい。
とりあえず今日の予定だ。
なんとか&なんとかって鍛冶師さんのところに防具を取りに行って、ついでにいらない武器を売って、アレス用の装備を買う。
そしたらギルドへ行ってクエストクリアの報酬を貰う。
そしたら次のクエストを選ぶか、最悪次の街を求めて旅立ってもいい。
……他にやることあったかな?無い気がするし、思いついたらその時やればいいや。
記憶を頼りに街中をふーらふら。道中でお金を確認すると6103ロト……おおよそ6000円。これじゃあ簡易的な防具しか買えないだろうけれど、無いよりはマシだよね。
なにより上裸のアレスを街中連れ歩くのは人目が……。
『シュティ&チェリィ』
看板にそう書いてあった。確かここだ。入店。
「……んぁ?ああ、嬢ちゃんか」
「恵子です。ボディアーマー、出来てますか?」
「ああ、出来てるが……その後ろの魔物とその卵は?」
「従魔です。卵です」
「……今品物を持ってくる」
私は抱えている卵を抱き直す。
……実はこの卵、生物扱いされるらしくポケットに収容できなかった。そして宿に置いていこうとしたんだけど、部屋に置いたままドアを閉めたところで私の目の前に転移してきた。
その時点でなんか諦めた。
多分人目を集めてたのって半裸のアレス以外にこの卵のせいもあったよね……ははは……。
「よし、これだ。胸当ては外してから着けてくれよ」
「……はい、分かりました」
黒い鎧を受けとる。
ノースリーブな前面と後面を肩パットの辺りと脇腹の辺り、計4箇所で繋ぐその黒い防具を受けとる。
着るにしても一旦脱がないといけないよねこれ……?胸当ても外せって言われたけどローブあるからここで……いや、でもなんか恥ずかしい……!
ポケットから黒マントと大きな布を取りだし、黒マントをアレスの目隠しにする。アレスは察したようで特に何を言うでもなく目隠しされ、布を広げて持つ置物へと進化した。
後は堕天使コートと布で隠れながら鎧を着るだけだ。
「……あー、すまん、言い忘れた」
ダニエウさんが頭をポリポリと掻きながら一方向を指差した。そっちには日本のお店でもよく見る簡易的な更衣室があった。
……アレスの目隠しを回収してから無言でそっちに行く。
「大丈夫そうだな。成功したようで良かった」
カーテンを開けるとダニエウさんがそう評価した。
成功もなにも装備しようとしたらその人の体格に合わせて自動で伸縮するよね?……なんて聞いてみたら
「失敗すると装備しても『最適化』されないんだよ」
という返答が来た。
つまり防具として認められる出来じゃないとアレスのナックルダスターやこの『蠍殻のチョッキ(防55+毒耐性)耐久8/8』みたいに伸縮しないらしい。
「んで、今回はそれだけか?」
「いくつか買い取りを頼みたいものが。後はアレスの防具を」
買い取りに
『鉄の剣(攻35)耐久3/5』
『こん棒(攻10)耐久2/3』
『鋼鉄の大剣(攻100、敏捷-20)耐久7/9』
を出すと1200ロトと400ロトと4000ロトになったのでそのまま売る。これで1万ロトは越えたね、アレスの武装が多くなれば安心して狩りが出来る。
「魔物のドロップアイテムなんですけど……」
何に使うのか分からないので最悪売ろうと思いつつ今までのアイテムを出してみる。タンポポの種は植えるんだろうなぁとは思うけど、狼の爪や牙とかは……武器の素材かな?
「嬢ちゃん、確か槍を使うよな?ちと出してくれ」
「強化に使えるとかですか?」
「まあそうなんだが……この槍見たことねえな。昨日売ったランスはどうした」
「持ってますよ?その三叉槍もドロップアイテムです」
ジト目されるが何も嘘を吐いていない。
それが分かったのかダニエウさんは溜め息を吐くと三叉槍をじっくり見回した。
「武器がほぼ完成されてるな。変に手を出すと逆効果になりかねんが……それでも強化を望むなら小悪魔の角を使うぞ」
「強化するとどうなるかって分かりますか?」
「詳しくは出来次第だが、大抵は攻撃が上がる。あと……火属性が強化されるかもしれんな」
リスクとリターンを考える。
攻撃が強化されるってのは魅力的だけど失敗するかもしれないし、ゲームみたいにすぐ出来るってわけはない。その間ランスで戦えば良いんだろうけれど刺突スキルを多用したくない理由が腕のなかにあるし……うん、今回は諦めよう。
「その角や牙で武器を作ることは出来ませんか?」
「出来なくはないが出来ても短刀くらいだぞ?」
ダニエウさんは親指と人指し指で角を挟み込む。その角は7、8センチほどだしそれくらいになるのは仕方ないのかもしれない。
けど、元々何ができるか分からない拾い物だった訳で。
「狼の牙や爪も合わせて1つの武器に出来ませんか?アレスの左手に着ける武器が欲しいんです」
「……。出来なくは、ない。が、どんなものになるか断言できねえ」
「作ってください」
良い賭けじゃない。
ベットは拾い物と端金。成功すれば強い武器、失敗すればゴミ。
私の損失としては少ない。──少なくとも、命よりは。
「……分かった。明日の昼、もっかい来てくれ」
「分かりました。それで次はアレスの防具を買います」
「ああ、選んでくれ。決まったら声をかけてくれよ」
そういうとダニエウさんは紙に何かを書き始めた。多分アレスの武器の設計図だと思う。まあ、それは専門家に任せるとして、アレスの防具だ。
マントやコートはいらないとして。
うーん……アレスはトロールでふくよかな体型をしてるからなぁ、もっと筋肉があって引き締まってたら武骨な戦士みたいでカッコ良かったんだけど。
いや、これからカッコ良くなるんだよね。……ね?
甲冑が目についたけれど、これ格部位に分かれてるんだね。今ならセットで2万ロト!足りない!!
とりあえずのTシャツ。200ロト。
アーミーヘルメット、防20。迷彩柄!2000ロト。
アーミーブーツ、防具20、蹴り強化。迷彩柄!3000ロト。
小盾、防具25。迷彩柄!2000ロト。
これで合計7200ロト。残り6503ロトかな。でも宿のお金って今日までだったはずだし、アレスの武器のお金がいくらになるか分からないからこのくらいにしておいた。
でもまさか自衛隊みたいな迷彩ヘルメットと編み上げブーツがあるとは思わなかったね。アレスってそもそも緑色で森だと保護色になるしその優位性を活かしただけであって、私がふざけたわけじゃないんだよ?ほんとだよ?
ああ、その小盾は左手で握ることも出来れば腕に固定しておいて別のものを持つこともできる。盾術はないけど頑張って慣れてもらおう。
大丈夫、素の防御力は高いから。
「ナックルの方の値段は……そうだな、大銀貨3枚でいい」
5000ロトくらいいくかと思ったけど、予想よりは低かったね。これならもう一個くらいアレスの防具を買っても良いかも?
「……」
「ん?どうしたのアレス?」
ローブの袖をくいくいっとされた。
昔クラスメイトの子が『これやると男子はすぐ落ちるから』とか言ってたのを思い出したけど他意はない。
「これで十分だ」
「え、ほんと?まだお金あるよ?」
「……貯めておこう」
なんか、アレスは無口だなぁ。
クロノスみたいにピュイピュイ鳴いてる方が可愛くて好きなんだけどね。
アレスがピュイピュイしてるのを想像したらなんか、微妙な顔になった。気分的には超マッチョのオカマさんを見てる気分。
「毎度あり。明日また来いよ」
「分かってますよ。……また、明日」
残り時間は7時間30分。ダニエウさんとの約束を果たすためには、また狩りに行かなければいけない。
魔物たちの命をたくさん奪わないといけない。
……今回はチコさんがいなかったな。買い物にでも行ってたんだろうか。明日来たら。来れたら。会えると良いな。
「ケーコさん?」
ギルドの前に着いたとき、声をかけられた。少しびっくりしつつもそっちを見ると、フェルさんだった。他の担当の冒険者の人がちょうど出ていったところだったみたい。
──ちらりと横目で冒険者たちの姿を確認する。
感覚的に分かるのは私よりも数段上の実力を持っていると言うこと。
それに装備だってそうだ。剣と盾、杖、弓、斧。4人パーティらしいその人たちの武器は羽リン──コアの三叉槍よりも強い武器なのだと分かる。
多分その武器に負けないくらいの実力と考えると……レベル25前後かな。それを4人。
私たちはレベル10弱が2人。勝てっこないか。
「依頼は終わったんですか?」
「一応、終わりましたよ」
「その、後ろのトロールは……?」
「従魔です」
昨日の今日で何をしてるんですか、とでも言いたげなフェルさんの流し目を笑って誤魔化す。
実際やっちゃったものは仕方ないし?起こられるとしたらアレスを従魔にしたことより帝くんを殺したことだろうし。
……あれ?今更だけど殺人罪とかで捕まったりしない、よね?
捕まるくらいなら大暴れして逃げちゃおう。切り札ではないけど、やばそうなスキルなら手元にあるし。
フェルさんに連れられてギルドの中へ。
案内されたのは受付カウンターではなく最初に案内されたような個室だった。
「まずは依頼ご苦労様でした」
「ええと、この部屋は?」
「長話になるので座れるように、と周りに聞かれないようにという2つの意図からです。……クエストのクリアなどについて手続きしますので、ギルドカード、薬草5束以上、スライム入りの筒を3つ。いただけますか?」
渡そうと思ってポケットへと手を突っ込んでから、固まる。
そういえばギルドカードって貰ったけどステータスのアイテム欄に乗ってなかったよね?私は確かにポケットに仕舞ったはず。
ポケットから手を出してみると、親指と人差し指に挟まれてギルドカードが引っ張り出せていた。
ステータスを確認してみると『冒険者ランク』の表示が消えている。……これがギルドカードだったんだね。
薬草を7束、スライム入りの筒はぴったり3本を机の上に並べる。
フェルさんは目で数を数えたあと頷いて回収した。
銀のトレーに乗せて呼びつけた別の受付の人へと渡してから、2、3言話して向き直った。
「ふぅ……それではお話ししましょう。従魔についてですが、どれくらい知っていますか?」
隣に座るアレスに目を向けるけれど、アレスが知ってるわけないよねぇ。
「いえ、特に?契約魔法で契約したりしなかったりするくらいですかね」
「……確かに契約魔法で従魔契約も出来ますけど、基本的にそれは奴隷契約です」
驚いてステータスを確認するけど従魔のところにアレスはいるし、アレスのステータスにも従魔とある。奴隷ではない、よね?
「その契約魔法をかけてくれた人は従魔契約を発動させたんでしょう。……今度からそういうことをする前に説明を聞きましょうね」
「は、はーい……」
どうやらフェルさんは私が契約魔法を使ったのではなく、誰かに頼んで使ってもらったと勘違いしたらしい。
まあ、そうだよね。帝くんを殺してなければ手に入らなかった魔法だし。
「はぁ……従魔を街に連れてくるのは問題ないですが、基本的に分かるような目印は外さないようにしてくださいね」
「目印……?」
「ええ、今回の場合は、そのヘルメットですかね」
頭にはてなマークを浮かべている私を見て、フェルさんは溜め息を吐いた後説明してくれた。
なんか、フェルさん禿げそうだね。
「……魔物は武器を装備できますが、防具を装備できません。その理由は分かっていませんが、例外は無いようです。そのトロールはヘルメットを装備しているので従魔だと認知されたのでしょう」
今朝は人目を引いてたのってそういう理由もあったのかな?でもみんなぎょっとして見てきた後に、すぐ興味をなくしたようにしたのは何でなんだろう?
……あ。そっか、左胸の魔方陣か。
上裸だったから丸見えだったもんね。さっきはそれが見えてなかったけどヘルメットがあったお陰で誰も見てこなかったんだね。ちゃんと服を着てるからだと思ってたけどそんな理由があったのかー。
「話を戻しますがケーコさん、そのトロールは──「アレスです」──アレスさんを、どこで見つけましたか?」
「近くの森で、薬草を探していたら見つけました」
種族名で呼ばれるとなんか、亜人差別的で嫌だったから割り込むように名前を教えると即座に言い直してくれてフェルさんに、心の中でお礼を言う。
フェルさんが、少し真剣な顔をしてるから、私も真剣に……それでも誤魔化すところは誤魔化して答える。
「近くの森……それは『始まりの森』ですね?」
「……多分、ですけど」
「はぁ……」
フェルさんはまた溜め息をついた。今度は呆れというよりも、諦めとか疲れとかな感じ。……そんなに地名を知らないのって酷いかな。酷いか。
「……ケーコさん」
「は、はい。これからきちんと勉強もするので──」
「──大討伐に、参加しませんか?」
そういったフェルさんが差し出す手には、黒ではなく橙色のカードが握られていた。




