旅人 白鳥 恵子 Lv.13
やることは多い。
私はとりあえず考えることを後回しにして目の前の状況と向き合う。帝くんは他の魔物と比べると長い時間をかけて光の粒になっている。
普通の魔物なら、もう消えてるはずなんだけど、帝くんはまだ透明度20%って感じ。これって地球人だからなのかな?
「ステータス」
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名前:白鳥 恵子
年齢:19歳
性別:女
種族:人間
職業:旅人
冒険者ランク:G
レベル:13/99
経験値:3400/32832
体力:229/261
魔力:119/143
攻撃力:107
防御力:166(175)
敏捷:110
精神力:117
幸運:51
所持金:2874ロト
装備
右腕:三叉槍(攻80+火)耐久6/8
左腕:魔導の弓(攻15+魔力の矢)耐久7/8
身体:ローブ(防10)
堕天使コート(防40)耐久9/9
胸当て(防20)耐久4/5
鉄のグリーブ(防御40)耐久5/6
想い出の髪留め(幸運20+通信+自動修復)耐久10/10
アイテム
(省略)
スキル
槍術4
弓術2
回避5
>見切り
魔物語2
直感2
契約魔法1
回復魔法1
(スキル1は省略)
武技
刺突
三段突き1
滅槍グングニル3
首折2
固有スキル
流浪▽
歪な器
称号
頑丈▽
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レベルが一気に2つ上がった。
その甲斐あって能力値はほとんど100を超え始めた。……けれどレベル1の時に見たヨコシマさんの武器は1つで400くらいの能力を持っていたはずだ。まだまだなんだろうなぁ。
下へとスクロールしていくと、スキル欄で目が止まる。新出の2つがあったからだ。
『契約魔法1』
『回復魔法1』
これきっと、帝くんが持ってたんだよね。倒したからスキルの一部を奪うことができた?
それならどんどん倒していけば獲得経験値も魔物より多いし、スキルも増えるし、もしかしたら固有スキルも奪えるかもしれないし──なるほど、これが呑まれるってことなのかな?
利益が大きいけれど、それを実行したら戦争になっちゃうし、どれだけの人に軽蔑されるか分からない。
まあ、大抵実行する人って軽蔑されることをいとわないんだけど、それで街とかに入れなくなるのは困るかな。
……うん、魔物を倒してコツコツとやっていこう。
「ゴアァ……ガア……」
トロルさんが何か声をかけてくるけれど、翻訳スキルが仕事を投げ出したから何を言ってるか分からない。
どうしよう、倒しちゃおうかな──これも呑まれてるのかな?分かんないや。
「……私の仲間になる気があるのなら、仰向けに寝転んでください」
「……」
トロルさんは、少しの間悩んでいたようだった。
それは言葉が通じないからとかじゃなく、仲間になるかどうかの選択を迫られて、答えに迷っている様だった。
そして、のそのそと動き、仰向けになった。
私の頭の中をぐるぐると巡るのは『今刺せば楽に殺せる』という狂暴中を思考と『仲間が増えた!』という楽観的な思考だった。
なんだろう、この気持ち悪さ。殺したいと思う気持ち半分、仲間にしたいという気持ち半分って……私、異常者みたいだ……。
んうん、この子は!仲間にする!絶対に死なせない!今決めたそう決めた!
私はトロルのその傷ついた右足に両手を向ける。使うのは覚えたての回復魔法だ。
『癒しの力よ、彼の者を癒したまえ』
意図せず出るのは短文詠唱。
その自分の声で紡がれる言葉を聞きながら、両手へと魔力を注ぐ。ただでさえ魔力消費の多い回復魔法だけれど、腱を直すとなったら上位の魔法が必要になるのは鉄則だ。
けれどこの世界での魔法は意外と融通が効く。魔力を多く注げばそれだけ大きな効果を返してくれる。
魔力の持っていかれる感覚。でも1割程度なものだ。
「ガ、ゴァァ……」
トロルが鳴いた。それは痛みなのか、肉が蠢いて傷を塞いでいるのが分かったからなのか。
30秒ほどの処置で、傷は無くなった。よくよく見るとうっすらと痕があるのは分かるものの、それでも現代日本だと考えられない治り方だった。
「次は目を治しますね」
そう言って膝立ちのまま移動する。トロルは動くことなくじっと待機している。……いや、右足の指先が握ったり開いたり動いてるからじっとではないかな。
『癒しの力よ、彼の者を癒したまえ』
短文詠唱。左目へと魔力を流していくと、無くなっていたはずの眼球が再生されていく。時間を巻き戻すというより、1から作り直すという方が正しいかもしれない。
……この世界に来て結構グロテスクな映像にも慣れてきたけれど、これはこれでキツいかも。吐くほどじゃないけどね。
ゆっくり5分くらいの時間をかけて眼球は復活した。
けれど私のイメージが黒目だったせいか、オッドアイトロルが完成した瞬間でもあった。
や、その……琥珀色とオニキス色って似合うと思うよ?
そして私はトロルの左胸──心臓の辺り──に手を置く。
また使うのは新出魔法の『契約魔法』だ。……今度またダンジョンに潜ってクロノスにも契約魔法を使わないと。
私の従魔だよ、って証なんだから。他の誰にも渡したりなんかしないんだから。
『彼の者を従魔とし、我が友へ。名を──アレス、と』
トロル……アレスと名付けた私の従魔が呻くような声をあげるが、それも一瞬のことだ。
『軍神アレス』
……クロノスがギリシャ神話の神様だから、それくらい強くなってほしいという願いを込めて同じギリシャ神話から名前を借りた。
そもそもトロル、トロールの元ネタは地球のノルウェーにいる妖精さんで、毛むくじゃらの巨人の姿をしているものなんだ。
トロールは巨体に怪力、腕をくっつけられるほどの再生能力を持つ凶暴、粗暴で大雑把な厄介者として扱われている。
……この異世界『バベル』では毛むくじゃらって訳ではないけれど森では保護色になりそうな薄緑の体皮を持つ巨体。
身長は2メートルも無いだろうけれど、太ももが私のウェストくらいの太さをしている。……一緒にダイエットして痩せようね。
話が逸れた。
軍神アレスっていうのは厄介者として扱われている。
軍神というとアテネの方が名が知れているだろうけれど、あっちは守護女神、戦略を司る神様でアレスは殺戮や流血といった物騒なものを担当している。
他に知名度が低い理由として、カッコいいエピソードが存在しないことがあげられる。
戦争中に槍で刺されては父神ゼウスのところに泣いて帰ったり、負けて瀕死の重傷を負ったり、約1年間捕まっては壺に幽閉されていたり……。
そして彼は『恐怖』『敗走』『不和』『殺戮』の4柱の神々と共に戦場に赴くようになるため、行く先々に災厄をもたらす神とされている。
……これ、隆昭君が『妖精学』というと本を買って勉強していたから興味本意で借りてみたら覚えちゃったこと。
うちの従魔のアレスは『軍神アレス』のようにはしないように育ててあげるからね。
「……ア、レス」
「そうだよ、今日から貴方はアレス。私の従魔になったんだよ、よろしくね?」
口の動き方と発音が違っているから翻訳スキルでも働いたのかな?
とりあえずアレスがゆっくりと立ち上がり右足の調子を確かめているようだ。ついでに周りを見回して左目の様子も確かめているみたい。
私は改めて、アレスの能力値を見るためにステータスを開く──
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名前:白鳥 恵子
年齢:19歳
性別:女
種族:人間
職業:旅人
冒険者ランク:G
レベル:13/99
経験値:3400/32832
残り時間12時間51分12秒
体力:229/261流浪(344/392)
魔力:74/143流浪(179/215)
攻撃力:107流浪(161)
防御力:166頑丈(175)流浪(262)
敏捷:110流浪(165)
精神力:117流浪(176)
幸運:51流浪(77)
所持金:2874ロト
装備
右腕:三叉槍(攻80+火)耐久6/8
左腕:魔導の弓(攻15+魔力の矢)耐久7/8
身体:ローブ(防10)
堕天使コート(防40)耐久9/9
胸当て(防20)耐久4/5
鉄のグリーブ(防御40)耐久5/6
想い出の髪留め(幸運20+通信+自動修復)耐久10/10
アイテム
スピアー(攻20)
ランス(攻55+刺突強化)耐久6/8
(蠍の外殻)→鍛冶師に預け中
タンポポの種
ドリアードの種
鉄の剣(攻35)耐久3/5
魔石(小)
水筒
ムコロジ(洗剤の実)の粉×5
歯ブラシセット×2
大きな布×2
カンテラ耐久2/3
予備の油
こん棒(攻10)…耐久2/3
スライム入りの筒×3《クエストアイテム》
薬草×7《クエストアイテム》
上質な狼の牙
小悪魔の角
回復薬(魔10)×2
回復薬(体20)
ナックルダスター(攻50)
スキル
槍術4
弓術2
体術1
投擲1
回避5
>見切り
看破1
鑑定1
隠密1
威圧1
魔物語2
直感2
魔術・魔法
下級魔術(火)1
下級魔術(土)1
下級魔術(水)1
下級魔術(風)1
契約魔法1
回復魔法1
武技
刺突2……(ダメージ増幅)
三段突き1……(3回攻撃)
滅槍グングニル3……(投擲。即死1%)
首折2……(防御力無視)
従魔
クロノス(悪魔竜)
アレス(トロール)
固有スキル
流浪……(装備品を含むアイテムの個数が5個以下でステータス1.5倍切り上げ)
歪な器
称号
頑丈……(常時防御力5%上昇)
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名前:アレス
種族:トロール(巨妖精)
レベル:1/10(成長限界で進化)
経験値:4816/10000
体力:200/200(227/227)
魔力:61/100(76/115)
攻撃力:120(131)
防御力:150(167)
敏捷:110(121)
精神力:125(137)
幸運:35(41)
スキル
体術4
棒術4
回避3
下級魔術(風)3
固有スキル
鉄壁の守り……(ダメージ軽減)
称号
従魔(主のステータス1割分を上乗せする)
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