旅人 白鳥 恵子 Lv.11①
遅れてすいません!
そして今回ちぃと短いです!ほんとごめんなさい!
でもお陰さまで文学フリマ用小説「それぞれの旅路」の執筆は終わりました!推敲が終わったら投稿するのでよろしくお願いします!
静寂と漆黒の闇が訪れる。
いつの間にか、周りで円を描くように集まっていたゴブリンたちがいなくなっている。
おそらく上位種(?)の羽リン──コルァがいなくなったから巣に戻ったんだと思う。
激しい戦闘により乱れた息を整える。
深呼吸して、ランスをポケットに仕舞いつつコルァのドロップアイテムに目を向ける。
落ちているのは3つ。
紅い三叉槍。
スカーレットカラーのコート。
銀貨6枚、大銅貨4枚、銅貨3枚で合計643ロト。
お金はそのままポケットに仕舞うとして……三叉槍とコートの能力が知りたいよね。
鑑定スキル、発動──!
『三叉槍(攻80+火)…耐久6/8』
『堕天使コート(防40)…耐久9/9』
おお……どっちも強い。
コートは今すぐにでも着てしまおう。前を閉じないでマントみたいな感じで……うん、ローブの白色とコートの綺麗な赤色。結構良いんじゃないかな?
防御力がこれで……ええと、146が固有スキルありの値だから……防具合わせると256?
うわぁ、もう並大抵の攻撃なら防げそう──って思ってたらコルァに殺されかけたんだよね。うん、意外と低いのかもしれない。
最初の頃のおおよそ5倍だけど低いのかもしれない。
「うぇえ……っ」
急に襲ってきた脱力感と力の抜ける気持ち悪さ。流浪が切れたんだと遅れて理解する。
というかそうだ!アイテム置きっぱなしだ!
三叉槍片手に走る。
記憶を頼りにアイテムを置いた場所に戻ってみると、戦闘の衝撃でなのか散らばっているものの、特になくなったものは無いみたいだ。良かった……。
ステータスを確認しようとして、やめた。微かにガサガサという音、それからゴブリンみたいな鳴き声が聞こえた。例え一撃で倒せるゴブリンだろうと魔物だ、倒しておこう。
持つのは弓……いや、せっかく手に入れたんだし三叉槍の初陣と行こうかな!
ポッケから取り出して手元でクルクル。手のひらには仄かな熱が伝わってくる。また、穂先から火の粉が散り、紅い軌道が綺麗に残る。……あ、これ楽しいかも。
「ギィ!」「ギギィ!」「ギャィ!」
スキル『三段突き』……一瞬で3度突くそのスキルにより断末魔を上げて3体のゴブリンが絶命。
三叉槍の先に青い光が宿っていて、それが床屋みたいなエフェクトを散らしながら舞う。
私目掛けて魔法を使ってきた無粋な杖持ちゴブリン……ゴブリンメイジかな?を石突き近くの柄を振り下ろして潰す。そのまま最後のゴブリンへと槍を下投げで投擲。
喉に槍を生やしたゴブリンがこん棒を手放して絶命する。
ゴブリンメイジ1体とゴブリン4体の討伐におよそ15秒もかからなかったことに少し楽しくなる。
地球にいたときは自分がこんなに激しい運動をすることになるとは思ってなかったなぁ。
ゴブリンメイジの死体が消えると宝箱が残った。
それを不審に思いつつも罠の確認を行う。……うーん、多分ないかな。
宝箱を開けて中身を見てみると、銀貨10枚と瓶に入った液体だった。
手に入れたものは
『こん棒(攻10)…耐久2/3』
『1162ロト』
『回復薬(体20)』
となった。
その回復薬をグイッと飲み干し、残った2つをポケットに入れてすぐに三叉槍を取り出す。
クルクル、ヒュンヒュンと回す。
「──ガウッ!」
その三叉槍の柄をその口へと押し込み、噛みつくためにと飛びかかってきた狼を押し返す。その狼は背後から忍び寄っていたようだけれど草むらが音をたてて教えてくれた。
睨み付けながら私に飛びかかるタイミングを計っているその狼に向けて、鑑定を発動させる──!
────────────
種族:ウルフ
体力:120/120
魔力:30/30
攻撃力:85
防御力:70
敏捷:100
精神力:50
幸運:15
スキル
爪牙術3
回避3
────────────
少しの抵抗感を感じたものの、なんとかステータスを覗き見することができた。
見えたのは種族名、能力値、スキル。
これだけ見れれば十分すぎるくらいだ。
ぱっと見負けてるのは敏捷くらいかな?それは余りあるスキルレベルで補おう。……余りあるって使い方違うかな?
「ガウ──ギャンッ」
「うん、対処できるね」
飛びかかってきた狼の横っ面を太刀打ちで思いっきり叩く。
車に轢かれた犬の様に吹き飛ばされたその姿に少しばかり同情するけれど、すぐにその迷いを打ち消す。
石にでもぶつけて切ったのか、血をダバダバと流して倒れている狼が力なくも私に向かって牙を見せる。
パクパクと口を開閉させて噛みつこうという意思だけは伝えてくる。──その横っ面を踏みつける。
少し体重をかけると口を半開きにさせたまま小さく唸るだけになった。その首に三叉槍を突き刺す。
「──ガァ……」
その狼は絶命したのか、光の粒になって消えていく。回復薬飲んだのに必要なかったかな。
死体が消えていくが、私の足にはいまだに何かを踏んでいる感覚が残っていた。足を上げて見てみると……狼の牙が残っていた。
心なしか、光ってる……?気になるし鑑定しておこう。
『上質な牙』
……う、うん?
どこが上質なのか分からないし、攻撃力もない素材って珍しい……?と、とりあえずダニエウさんにでも渡してみよう。売れるかもしれないし。
スライムか薬草を求めてさ迷う。どうやらけっこう奥の方へ来てしまったようだ。当然帰り道なんて分からない。
帰れたら良いなぁ、と思いつつふらふらと歩く。もう『直感』スキルに頼るしかないんだよ。
「……水の音?」
歩くこと十数分。
なんと運の良いことに一度森を抜けることが出来──入ってきた方向とは別で、ナチャーロの門が見えることはなかったけれど──、そのまま森へととんぼ返りをした。
そんなときにふと聞こえてきたのが水音だった。
ザアザアとかチョロチョロでもなく、ピチョンピチョンという良くて水溜まりだろうそこへ近づく。
するとスライムが2体いて、宝箱に登っては落ちる、登っては落ちるといった遊びをしていた。
スライムを掬って捕獲用の筒に流し込む。ぷにぷにしたスライムたちは多分抵抗してるんだろうけれどそのまま筒の底へと沈んでいった。
宝箱オープン!
中身は『回復薬(魔10)』が2つ、『回復薬(体20)』が1つ、『ナックルダスター(攻50)』だった。
ナックルダスターは……その、メリケンサックと何が違うのか分からないけど、とりあえずヤンキーが拳につけてる金属のアレだった。
その4つ全部をポケットにしまう。すると生き物の足音が聞こえてくる。この感じさっきも聞いた、あの狼かな?
「ガウッ」
「当たってたみたい」
槍を突く。その穂先は狼の目の前数センチを通りすぎ地面に刺さる。吠えた狼がその三叉槍を越えようとしたときに、救うようにして打ち上げる。
「ガウ、ガァッ──ギャンッ」
落下してきた狼の体目掛けて三叉槍を一閃。縦に弧を描いて狼の身体を吹き飛ばす。
そこそこ太めの木にぶつかった狼は肉片というのが最適な死体へと成り変わる。……流石にちょっと顔をしかめてしまう。
その後ろから2体の狼が走ってきているのが見えた。
今戦ってみた感じ、2対1でも戦えそうだね。……ペロリと口の端を舐める。
三叉槍を手元でクルクルと回しつつタイミングを測る。
2体の狼は同じ早さではなく少しズレがある。けれど2体目が意識的に送らせているようで、まさに連携が取れている光景だった。
なら、それを逆手に取ろうかな。……行けたら良いなぁ。
1手。先手の狼の鼻っ面へ太刀打ちをぶちかまし、地面と熱烈なキスを強要する。
2手。後手の狼の鼻っ面へ足をかけ、先手の狼の上に積み上げるようにして準備完了。私は少しの浮遊感を感じながら上手く行きそうなことに感動感すら覚えた。
3手。私の落下。
三叉槍の穂先は2体の狼の頭部を串刺しにし、地面と縫いつけた。
狼は何度か痙攣したあと力尽きたようだ。お金以外、特にアイテムを落とすわけでもなく光となって消えた狼たちの血を払うために三叉槍をクルクル。
「……入れ食いというか、敵が多いというか」
聞こえてきた鳴き声を脳内検索すると……あの魔法を使う悪魔だ。最後に会ったのはコルァから逃げて髪留めが壊れた時なはず。
あれから結構レベルも上がったし、対魔法使いも慣れてきたはずだけど……勝てるかな。いや、少なくとも善戦は出来るよね!
「ギ「──刺突!」」
──パァン!
と破裂音。一瞬穂先が音速でも越えたのかな?なんて思ったけれど、視界内にいた悪魔はもういない。
破裂して死んでしまった。
「悪魔も、一撃になっちゃったのかぁ……」
飛び散った血肉は光の粒となって消えていったけれど、地面には角のだけが消えずに残っていた。
鑑定しておこうかな。
『小悪魔の角』
そう表示された。名前程度しか分からないのは鑑定スキルがレベル低いからなのかなぁ?
まあ、これからばんばん使ってればレベルアップするよね。
飛びかかってきた狼を叩き潰し、魔法使いゴブリンへと槍を突き刺し殺す。
もはや一撃で殺しきれるくらいの能力差が生まれてしまっているから、ゲームのように、作業のように敵をほふっている。
ゴブリンを刺し殺したところの地面には幾つもの薬草が生えていたのでちょうど半分になるように回収する。6個採れた。
前に採ったのと合わせると7個なのでクエスト必要分の5個は越えたみたいだね。
「……くっそ、防御されると何もできねえ」
「ん?」
遠くから男の人の声が聞こえてきた。
三叉槍をくるりと回したあとにポケットへと仕舞う。鎧をつけて、マントを羽織ってはいるけれど、武器を持たぬ一人の少女の誕生。
……盗賊さんなら油断してくれると良いな。楽に殺せるから。
「ん?女?」
「……子供?」
声の方向への向かってみると。いたのは14歳くらいの少年。
彼は漆黒のマントを羽織っていて、それをバサリと翻しながら高らかに宣言した。
「我が名は『ああああ』!伝説の勇者だ!」
……その伝説の勇者様は、防御の姿勢をとるトロルに手こずっていた。




