旅人 白鳥 恵子 Lv.10 ①
今回は短くなりそうだったので短編2つをくっつけました。
とっ散らかってる現状を片付ける。
弓を拾って、お金を拾って、種を拾って、不安そうにしてるクロノスを撫でて。それくらいかな?
それにしても片付けるって言って物を拾い続けるの、押し入れに詰め込むことを片付けって言うのに似てる気がする。
地球にもこの魔法のポケットがあったら良かったのにね?
さぁ、地下への階段を下る前にステータスを確認しておこう。随分と久しぶりに見る気がするし。
「ステータス」
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名前:白鳥 恵子
年齢:19歳
性別:女
種族:人間
職業:旅人
レベル:10/99
経験値:43/9431
体力:124/189
魔力:62/105
攻撃力:74
防御力:128(135)
敏捷:76
精神力:82
幸運:39
所持金:6068ロト
装備
右腕:スピアー(攻20)
左腕:魔導の弓(攻15+魔力の矢)
身体:ローブ(防10)
胸当て(防20)
アイテム
手斧(攻15)
短弓(攻20)
蠍の外殻
回復薬(魔10)
タンポポの種
ドリアードの種
スキル
槍術4
回避5
>見切り(魔力5消費するごとに回避成功値+10)
魔物語2
△(スキル1は非表示)
武技
刺突2
三段突き1
滅槍グングニル3
首折1
従魔
クロノス(疑似竜人)
固有スキル
流浪
歪な器
称号
頑丈
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やっと、レベル10に到達した。残り時間が10時間と、1回くらい寝ても余裕が残るほどにもなったけれど、必要経験値が1万近い。
無理なレベル上げは続けないといけないかな。それとも長時間かけて余裕に倒せる魔物を狙うべきかな……悩みどころだね。
能力値へと目を滑らせる。
体力、魔力は随分と無くなっている。少し寝たから回復してたはずなんだけど、あの怒濤の連撃は相当負荷をかけてしまったみたいだ。もしかしたら魔力だけじゃなくて体力も消費してたのかも?
ああ、やっぱり攻撃や敏捷に比べて、防御力が頭一つ飛び抜けてるなぁ。私盾持って前衛するべきだよね。弓持ってる意味ってあるのかな。
そしてお金。確か3000ロトほどだったはずなのに倍に増えている。そんなにお金を落とす魔物、いたっけ?
思い出したら積極的に倒すようにしようと決意して放置。
装備の欄、左腕に弓が登録されたけれど些細なことだね。それよりもアイテム欄だよ。
『ドリアードの種』
ドリアードって名前、確か、魔物だよね?敵キャラだったはず。というか最後の燃える花の名前がドリアードなのね。なるほどね、覚えれたらそう呼んであげることにしよう。
続いて私を何度も救ってくれたスキルたち。
大きな変更点は2つ。
1.スキルレベル1が纏められて表示されなくなったこと。
でも最小化?から展開すると全て見ることも出来る。『体術』『投擲』『隠密』『威圧』『直感』『看破』の他に、新出として『弓術』が追加されていた。
つまりあの数発の弓での攻撃はスキル認定されるほどの腕前だったということだね。才能あるのかも。
2.見切りが追加されていること。
これは一度使ったことがあるね。小悪魔の魔法を避けたときのブーストだと思う。どうやら魔力を消費すればするほど回避しやすくなるということらしい。
これどうやら回避スキルが5レベルになったから追加された機能らしい。つまりスキルもレベルが高いほど強くなるということ。
あ、追加された機能と言えば槍術が4レベルになったことで『武技』の三段突きが追加されたみたい。これも魔力を消費して手数を増やす技みたい。
クロノスの種族名が変わってる。
元々は『ベビーファイアドラゴン』だったはずなのに、今では『疑似竜人』だ。つまり竜人という種族があって、それは変身魔法なんかを使わずになれるということ。
変身魔法だとあくまで紛い物として扱われるみたい。そのせいで能力値半減とかいうデメリットがあるのかな。なんか納得。
……クロノスのステータスも後で見よう。
固有スキル、称号に変化はないね。
よし、地下へと進もう。私の記憶が正しければこれで最後なはず。うん。もう少しでゴールだね。
階段を降りる。
クロノスは手を繋ぐよりもおんぶされる方が好きみたいで、実際今もおんぶしている。蠍の外殻とほぼ同じ重さって、クロノスが軽いのか外殻が重いのか。
「ゆーきぃやこんっこんっあーられーやこんっこんっ♪」
今は6月だし君はドラゴンだよ、クロノス。
音の反響する階段を降りると、大きな両開きの扉へとたどり着いた。その扉には剣を持った男の人と赤い大きいドラゴンが戦う姿が描かれていて、『守護者の間』と文字が掘られていた。
というかこれ魔物語?少なくとも日本語じゃないよね、でもスキルの翻訳が発動してるあたり魔物語かぁ……。
扉にグッと力を込めるとゆっくりと、自動的に開いていく。
その中では──
「ゆ、ゆっくり!」
「……リクエスト」
「と、ドラゴンブレス!」
「ド・ラ・ゴ・ン・ブ・レ・ス。7文字ぴったりですかー。……ちなみにリーチって言いました?」
「……」
「ほらほら一枚追加ですよ!スラッシュ!上がりです!」
中ではワード○スケットが行われていた。
青年と言われても信じられる男の人は多分、ゴブリン。けれど私だと勝てないくらい強いと思う。
そして一抜けしたのが嬉しいのかピョンピョン跳ね回るのが私から髪留めを盗んだ土偶。……何してるんだか。
お手付きをしてカードが追加されたのはクロノスのお父さんと言われても信じられるほどカッコいい男の人。髪の色がクロノスと一緒で、バスローブみたいな布を羽織っているだけみたい。
というか、ここ、ホントに守護者の間?マ?
「あ、お嬢さん待ちくたびれたよー」
土偶がふよふよと近づいてくる。私が槍を構えると困ったように苦笑いした、ように見える。
土偶は表情が動いていないけれど、動きで大体の感情が分かるのは、何かのスキルの力だろうか?
あ、言葉が分かるのは魔物語スキルが頑張ってるみたい。
「お爺ちゃん!」
クロノスがぱたぱたーっと走って行く。お父さんっぽい見た目なのに、お爺ちゃんなんだ……。
ああ、なんかもう混乱する。
「初めまして、お嬢さん。私はこの守護者の間を任されているゴブリンロード。名前はラインハルト、以後よろしく」
「え、あ……ご丁寧にどうも」
私も名乗るべき?あ、クロノスのお爺ちゃんが急かすように見えるから言うべきかな。
「私は白鳥恵子って言います。私の髪留めを返してください」
そういうと土偶はクルクルと回り出した。
「僕の名前はレム、ノームっていう土精霊だよ!」
くるくる、くるくると回り続ける。そしてピタッと止まったかと思うと、土偶……レムの頭にはあの髪留めがあった。壊れていたはずなのに、直っている。
「どうどう?元通りでしょう?」
「レムはその髪留めを直すために盗人のようなことをしたのだ。その点については我から謝罪しよう」
クロノスを首にぶら下げたまま、お爺ちゃんが頭を下げる。
「ええと、あなたは……?」
「我は火竜の王、名をアラズという。この子を……クロノスの助けてくれたこと、礼を言う」
お爺ちゃん……アラズさんがもう一度頭を下げる。
一度落ち着いて状況を整理してみる。
ラインハルトさん。
種族はゴブリンロードで本来この守護者の間にいるボス。
土偶ことレム。
種族はノーム、土精霊。私の髪留めをいたずらで盗んだのではなく、直すためにここに持ってきたのだという。
そしてアラズさん。
種族は火竜の王。クロノスのお爺ちゃんにして、こんな所にいるのがおかしいくらいの強者。
う、うーん、なんかすごい面子だ。
「恵子さん、髪留めをどーぞ!」
「ありがとう、レムさん」
壊れる前に巻き戻したかのようなそれをつける。今まで髪を結えなかったから少し邪魔だったんだよね。
『想い出の髪留め(幸20+通信+自動修復)』
……ただの髪留めがレベルアップしていた。
「ダンジョンで直したことで魔道具化に成功!魔力をちょいと注げば壊れても修復できるようにしたよ!」
「この、通信っていうのは?」
「こういうことー!『ハローハロー!』」
頭のなかに響くのは目の前のレムさんが発した『ハロー』。つまり、念話みたいなものが出来るってこと?
髪留めに魔力を注ぐ感じで念じる。
『聞こえますか?』
『バッチリー!使い方はダイジョブそうだね!』
『これ、話し相手は選べるんですか?』
『もちろん!』
そういうと目の前にステータスの時のようなウィンドウが展開される。どうやら連絡先のようだ。
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クロノス(疑似竜人)
レム(土精霊)
ラインハルト(ゴブリンロード)
アラズ(火竜の王)
吉原 隆明(人間)
────────────
ッ!?
「こ、これ……っ」
「通信を送れるのはその髪留めに触ったことのある人限定!そして通信をかけるのは一方通行だけど会話は出来るよ!」
隆明くんに電話をかけようとして、やめた。
「異世界で生きてます」なんて、報告するのが怖かったっていうのもある。というかそれが大きな原因だけど、アラズさんやラインハルトさんもいるのに目の前で電話かけるのは失礼だよねって思ったの。
本当に。
「恵子、と言ったか……」
アラズさんの声を聞いて、少し姿勢を正す。なんとなくだけど、話が分かっていたから。
「はい」
「この子を従魔にし、名前をつけたことは聞いた──」
言いにくそうにしているみたいだし、私の方から先に言ってあげよう。
「クロノスとの従魔契約を、切ってほしいってことですよね」
「ご主人様!?」
クロノスを撫でたくなった。けれど、アラズさんに抱きついているから、私たちの間には数歩分の距離がある。
いいんだよ、これで。
「そこまでは言うつもりはない。ただ、クロノスを地上へと連れていかないでほしいのだ」
「……理由を、聞いても?」
クロノスが火竜の王様が気にかける存在だから、きっと人間の従魔というのがダメなんだと思ったけれど、違ったみたいだ。
それでも、クロノスと離れるという結果は変わらなさそうだけど。
「この子には才能がある。それに変身魔法という稀有な才能も持っている。そんな子を人間の街で守りきることが出来るか?」
「……いえ、厳しいと思います」
「すまぬな、これもクロノスのためなんだ」
私は頷いた。
なんとなく、クロノスとは一旦お別れになる気はしていた。
クロノスが泣きながら抱きついてきた。受け止める。
「お別れなんてやだ!行っちゃやだ!」
「クロノス、私がクロノスを守れるくらいに、強くなったら迎えに来るよ。……それまで待っていてくれる?」
クロノスは泣きじゃくる。本当の子供みたいに泣いていて、私も涙が出てくる。別に永遠の別れっていうわけではない。1日ほどしか一緒にいられなかったかもしれない。
でも、私たちは家族になれた。
「少しの間だけ、遠くへ行っちゃうけど。必ず迎えに来るから……!」
「待ってる、から……!」
首元に少しの湿り気。首へのキスは親愛の証だと、クロノスは言った。私もクロノスの首筋にキスをする。
いつかまた、一緒に冒険できるよね。
一週間以上、地下にいた気がするけれど、実際は丸1日程度だ。
私はやっと地上へと、戻ってきた。
行きは何度も死にかけたというのに、帰りはラインハルトさんの用意してくれた転移魔方陣を踏むだけだった。帰りは怖い、なんて嘘だったね。
帰り際、アラズさんとレムさんは何かの縁だ、と2つの贈り物をしてくれた。
『下級魔術(火)1』
『下級魔術(土)1』
その2つのスキル。使い方はなんとなく分かる。
魔力の流れなんて刺突スキルを使う度に感じていたし、最後の方は魔力を操ることも出来ていた気がする。
これからは魔術、弓、槍の3つを使っていこう。
『残り時間9時間57分42秒』
時間もたくさんある。空はすでに明るみ始めている。
さあ、次の目的地はここから一番近い街。通称、始まりの街『ナチャーロ』だ!
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~恵子と隆明の異世界間電話~
『プルルルル……プルルルルル……』
1日程度しか経っていないのに、随分と懐かしく感じられる電子音。こんなところまで再現してくれる髪留めの通信機能ってすごいなぁ。
うぅ、やっぱり第一声は怒るのかな?大学も休んじゃったし、連絡する暇も無かったからなぁ。ああ、でもこの隆明くんが電話に出るのを待ってる感じ、少し付き合いたての頃を思い出しちゃうなぁ。
『恵子!?お前、急にいなくなって心配したんだぞ!今どこにいるんだよ!』
ああ、懐かしい声だ。涙が出そうになるのを、唇を噛んで耐える。声が震えそうなので、一度深呼吸をしてから、応える。
「ごめんね、隆明くん。心配かけちゃって」
『謝るくらいなら心配させんなって。……ああ、でも良かった、無事で』
疲れを滲ませながら、彼は安堵の息を吐いた。一度夢?で見た隆明くんは私を探して駆け回っていたから、その疲れだろうか?
でも……異世界に拉致されるのは、無事なんだろうか?少なくとも、地球からこちらに来るとき殺されたから無事ではないか、うん。
「私ね、い……えっと、そっちは、何か変わったこととか無かった?」
『んにゃ、特にねえよ?あー、強いて言えば次回まで提出のレポート出たぞ』
異世界に来ていることを、伝えるのが怖い。だから話を逸らしたけれど、話題になるのはこの先けして私に関係のない話になる。
大学も、レポートも、サークルも、地球の情勢や両親の体調だって全く関係が無くなってしまうんだ。
だって、今の私には両親が倒れても駆けつける力が無いんだから。
……転移魔法とか、覚えたら地球に戻れないかな?
「……隆明くん」
『どした?』
「私ね、もうそっちには戻れないの」
自分を落ち着かせるように、少しずつ話していこう。納得してもらえるように、新しい人生を応援してもらえるように、しっかりと説明をしよう。私の両親への説明は、隆明くんに任せることになっちゃうけれど。
『……どういうことだよ』
唸るような低い声に、寒気がするし、泣きそうにもなる。下手なモンスターに睨まれるより怖いよ、隆明くん……。
「私は、もう地球にいないんだよ……っ」
『地球に……?』
「信じられないかもしれないけど、神様に拐われたの……」
『あー……そうか、やっぱり恵子も神隠しに合ったのか』
「……神隠し?」
隠された訳じゃないけれど、神様が原因ってところは合ってる。けれど、なんでそんなにすんなりと受け入れられたんだろう?
『最近な、10代20代が数十人単位で失踪してる事件があってな。
もうそろそろ100人超えたんじゃないか?それで、失踪してる奴らは特に前兆もなく、脈絡もない』
「それが、日本で?」
『ああ、少なくとも日本で数十件だな。うちの生徒会長の、恋人?も神隠しに会ったらしくてなぁ。生徒会長は絶賛入院中』
「学生自治会の会長さんね」
なぜか『生徒会長』と呼ばれる彼女が、入院ね。というかあの人彼氏いたんだ。
『……んで、恵子は地球にいなきゃどこにいるんだよ』
「異世界」
『へぇ、そりゃすごい。剣と魔法の世界で魔王討伐の最中か?』
「惜しいかな。私は槍を使ってて、ついさっき火と土の魔法が使えるようになったね。……魔王がいるのかは分からないけれど」
『羨ましいなぁ、異世界。なんて名前の世界なんだ?』
「確か、バベル、だったかな」
隆明くんは本当に羨ましいと思っているんだろう、ファンタジーが大好きな彼はゲームも専らRPGばかりをやってるから。
いつの間にか泣きそうだった気持ちが、隆明くんの声を聞く度に落ち着く。でも、落ち着いたら嫌な考えがよぎった。
異世界と地球での超遠距離恋愛なんて、出来っこないよね。
「ねえ、隆明くん。別れたい……?」
『そんなにつらそうな声するくらいなら聞くな、んなこと』
ぶっきらぼうな割には優しい声を出した隆明くんは、大抵こういうときに撫でてくれる。
『大方そっちで一人は心細いんだろ?それなのに自分から心の拠り所を潰そうとするな。……自分で言うのは恥ずかしいが、お前ってけっこう俺に依存?してるだろ』
「だって、好きなんだもん」
『ああ、俺も好きだぞ。……こうして好き合ってるのになんで別れる必要がある?』
「私、異世界にいるんだよ……?」
『なら俺もそっち行くよ、それで万事解決だ。行き方とか分かんないからいつになるかは分からんが、必ず行く。だから死ぬなよ?』
そんなの無茶苦茶だよ。……でも。
「ありがとね、隆明くん」
『おー、どういたしまして』
少しどころじゃなく、元気出た。人間なんて全員現金なもので、当然私も人間だったってだけで。
隆明くんが異世界に来るって言うなら、私はさっさとこの制限時間を取っ払う。隆明くんが来る前にレベル100になってみせる。絶対に死なない。生きてまた隆明くんと会うんだ。
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~クロノスの進化、未来への第一歩~
わんわんと泣き続けるクロノスを撫でる。恵子と名乗った人間はすでにラインハルトが用意した転移魔法により地上へと帰還した後だ。
クロノスは種族ゆえに知性こそ高いものの、まだ0歳だ。急な別れで泣いてしまうのは仕方ないことだろう。それに、クロノスを家族のように愛してくれた人間が泣いていたのも、恥ずかしいことだとは思っておらぬ。
「……たった1日、目を離しただけでこれほどなつくとはのぅ」
「確かに、従魔だからといって、これほどになるとは思いませんでした」
ラインハルトがクロノスを撫でる。しかし泣き止むことはなく、泣き疲れて寝るまでの間、我々はおろおろとする他無かった。
「相性が良かったのかもね~」
「下ネタか?下ネタか?おっ?」
ラインハルトに睨まれた。
恵子を呼び込んできたレム。種族は土精霊と、精霊自体が珍しいのに我々とゴブリンロードほどの強者など、この世界でどれほど存在するのだろうか。
そんな奇妙極まりない奴だからこそ、こうしてつるんでいるのだが。
……そういえば、クロノスに目をつけたのもレムだったか。ほんの数ヶ月前のことを思い出す。
「……よろしかったのですか?」
ラインハルトが聞いてきた。思考を打ち切って彼の顔を見ると……なんだその顔は、罪悪感に潰れそうな顔しおって。
「仕方なかろう。あの少女ではとてもクロノスと釣り合わん、これ以上依存が進む前に、距離を置かせるべきじゃろうて」
「しかし……」
「ラインハルト~?」
「……そうだな、これは私事だ。すまん」
ラインハルトは過去に魔物使いの人間と共にいた時期がある。
しかしなぜこうしてダンジョンの守護者をしているかというと、簡単に言って捨てられたから、だ。
ゴブリンというのはスライムと並んで魔物使いの最初に選ばれる従魔ランキングトップだろう。しかし、主人のレベルが上がるほど、周りの環境のレベルを上げるほど、最初の従魔は邪魔になると言うものだ。
そうしてラインハルトは捨てられた。ダンジョンで殿を努めさせられて、魔物使いの主人を逃がすための囮として、死にかけた。
我が偶然通りかからなければ、死んでいただろう。
私は死にかけのゴブリンに『ラインハルト』と名前を付け、ネームドモンスターにした後、ゴブリンロードまで育て上げた。
ネームドモンスターにしてもなお死の危機にあった彼がこうして生きているのは、一重に運だ。1つの対処があと数秒でも遅れていたら、彼は生きていない。
「……再開の約束をしたとて、別れさせるべきじゃなかったのでは」
ラインハルトは聞こえるかギリギリの声で呟いた。聞かせるつもりもないだろう声量にレムと我は知らぬふりをすることに決めた。ラインハルトは左手に刻まれたひび割れた契約魔方陣を眺めるばかりの置物と化した。
何かを考えるとき、ラインハルトは一切動かなくなる悪い癖があるからな、放っておこう。
今はクロノスの話だった。
この子……クロノスは同じドラゴンの中でも異色だ。
本来ドラゴンは自分の種族に合った1種類の魔術適性だけを持ち、他の魔術はその高い魔法技術で補うものだ。
しかしクロノスは3属性の魔術適性、それだけでなく0歳にして変身魔法を修得するとは……本当に才能の塊だ。
それ故なのか、はたまた別の理由なのかクロノスは虐められる。他の子供たちよりも能力値が低く、逃げることもままならなかった子が、たった1日で下位竜人種……リザードマンの成体並みの力を付けるとは。
これだから人間は怖いのだ。
「それにしても意外だな。レムは恵子に付いていくかと思ったが」
「それでも良かったんだけどね~……クロノスに悪いかなって」
レムなりの気の使い方だったのだろう。
「それに──」
レムが目を細め、クロノスを睨み付ける。
我が頭を撫でてやると、淡い光を灯し、その光が段々と強くなっていく。クロノスの形が次第に変わっていく。
「──これを見ないなんて、勿体ないよね」
進化。生物の限界突破。
未来の選択と言っても過言ではない。
魔物でも多くて5回程度の進化が最高で、人間など1回進化すれば良い方だと聞く。
ラインハルトは3回の進化、レムは6回、我でも5回の進化を経験している。この子は後何度進化するのだろう、と未来に思いを馳せる。
「……クァッ」
まだ甲高い鳴き声。しかし小鳥のような声では無くなっていた。
すでに人間形態ではなく、小竜へと戻ったその体皮は赤から赤黒く変化していた。体も一回りほど、大きくなっているだろうか。
黒く、クリクリしていた瞳は左目だけが真っ赤に輝いていた。
「……悪魔竜」
ラインハルトが、呟いたのは伝説を持つ種族名だった。
悪魔竜。
悪戯好きで誰かを守ることを決意した竜でもある。逸話では、クロノスのように、人間の少女に恋し、付き添った。
しかし、その少女は生け贄として国のために殺された。
竜は怒り狂った。
いまだ成体にならないのに、通常のドラゴンと互角の強さを誇るその力でもって、復讐を果たした。
悪魔竜とは復讐の象徴と言われるのと同じくらいに、悲劇の象徴でもある。
「厄介なことになりそうじゃのぅ……」
「クァァ~」
クロノスが分かっているのか怪しい声で鳴いた。
────────────
種族:悪魔竜
名前:クロノス
レベル:1/20(成長限界で進化)
経験値:0/100000
体力:571/517
魔力:338/338
攻撃力:433
防御力:549
敏捷:517
精神力:393
幸運:1
スキル
爪術3
回避4
体力自動回復3
魔力自動回復2
音楽3
隠密2
固有スキル
下級魔術(火)3
下級魔術(風)1
下級魔術(光)2
ドラゴンブレス5
裂壊2
変身魔法2
運命破壊 ※使用後消費
称号
従魔
虐げられし子
彼女だけの勇者
────────────
こういった、本編に短編をくっつけるのはどうでしょうか?
閑話のような完全に別の話は別として投稿しましたが、時間軸が同じで良いかな、と。
もし何か意見があれば感想欄、活動報告の方へと書き込みくださいな。




