ダンジョンコア 間宮日向 Lv.5⑨
遅れて申し訳ないです……
五時間程度の睡眠を終え、まず俺がしたことは侵入者の確認だった。
いないな? よし。
寝て起きたらすでに最下層まで攻略されてました~とか洒落にならん。侵入者が来たら爆音でアラートがなるように設定してあったものの、気づかなかった可能性はなくはない。
……そうだな、侵入者アラートは俺以外にも聞こえるようにしておこう。全眷族じゃなくても、名前持ち《ネームド》全員にしておけば、全員気づかないなんてことは無いだろう。
ぐっと伸びをして、身体を目覚めさせる。
地球にいた頃は5時間睡眠だと足りないと思っていたが、こっちでは十分に足りたようだ。
きっとある一定までの疲労や眠気は大丈夫なんだろうが、戦闘や慣れない防衛をしていると流石に限界を迎えて身体が休息を求めるんだろう。
言うなれば、日付が変わるタイミングでスタミナが50固定で回復する。しかし足りない分は睡眠しないといけないとかそういう感だろうか。
軽くストレッチをしながらミニマップを確認。
リビングには誰もいないようだ。集合時間を決めていたわけでもなければ、そもそも集合するように言っていたわけでもないし別に構わないんだが……
これから眷族ガチャを引くからにはある程度の頭数が欲しかった。一応ネームドの場所くらい確認するか、暇そうなら呼んでみよう。
まずはナズナ。
まだ部屋にいるようだ、寝ているんだろう。
ナズナは俺と違って、睡眠も食事も必要だ。昨日は戦闘で頑張ってくれたし、俺に見せないように隠しているだけで、無理もたくさんしてるだろう。気の済むまで寝させておいてあげよう。
ちなみにベスも一緒にいるらしい。
脳内で『触手姦』の文字が躍り狂うので、ちらっと。本当にチラ見の覗き見してみる。ふむ、単純に枕にしているらしい。衣服に乱れも無さそうだし、呼吸も安定している。
ナズナの頭に潰されてぷるぷるしているベスに心の中で謝る。ナズナにも謝る。バレたら土下座物だな……。
ハウルはーー爆睡中か。
3階層の森エリアで気持ち良さそうにイビキをかいている。その身体は血は止まっているものの傷だらけで、非常に痛々しい。
回復に専念しているのか、何も考えていないのかはわからないが、ハウルこそ寝かせておいてあげようじゃないか。起きたら何か美味いものでも食わせてやりたいところだ。
イグアナは牢屋で警戒中。
リィルもテトちゃんも気絶してるんだから、休めばいいものを……。そう思い、牢屋にはゴブリンを数体送り込み、イグアナをリビングへ呼ぶ。
もっと住居エリアに入り浸って良いんだぞ、と言うと申し訳なさそうに小さく唸る。その意味こそ理解できないが、少なくとも俺が言った言葉の意味くらいは理解している、気がした。
アーサーはオオバコと一緒に鍛練中。
どちらかというと精神的な鍛練がメインらしく、オオバコは吸うと精神汚染を引き起こす胞子を出しまくっていて、アーサーは口許をタオルで覆っただけの格好で素振りを続けている。
……アーサーの目が、狂気に染まっているように見えるのは俺だけか? それに何かしらの幻覚を切り裂くようにナイフを振るっているような気がするんだが。
そんな鍛練を見ていると、紫色のゲルが地面を這っていることに気づく。スライムだ。
地面に落ちた胞子を食べているらしいが、澄んだ青色がなんて禍々しい色に変わってしまったんだ……。
い、異常が見られないな。うん。今後この部屋に近寄る必要も無いほど異常はない。
ラジオ体操第二も終わり、ストレッチはいい加減終わりとする。
さて、本題のダンジョンの改築を始める前に、一晩寝かせた眷族ガチャを引こう。もし大型の魔物を引くことができれば、そいつをボスにして階層を作っても良い。
俺のガチャ結果は今のところレジェンド1体ーーナズナのことーーのみ、つまりレジェンド確率100%の状態だ。可能性は無限大で、夢は広がり続ける。
どうせ引けないんだろうという意見を黙殺して、気負わずに引いていこう。
今呼べるネームド眷族を全て呼んだ。といってもイグアナとヌリカベだけなわけだが。
今後もガチャをすることは度々あるだろう。その度に全員集合、というわけにもいかない。なら最初から呼べるやつだけ呼んで引く、って方式にしておいた方がいい。何も決めていないとしても、やってるうちに恒例というのは出来上がり、人間は例外を嫌うものだから。
ふぅ、と息を吐く。
眷族ガチャチケットを握りしめる。
10ptを犠牲に俺の要望を伝えたところ、ウィンドウのボタンを押すのではなく、物理的にチケットを破るとガチャを引いた扱いになるようにしてもらった。
こっちの方が引いた感覚があるし、押し間違えてガチャを引くってことが無くなるはずだ。
「召喚ッ!」
ーービリッ
チケットは二つに破かれると光を放つ。ただの紙切れがグネグネと丸くなり、膨張し、俺たちの目の前で結晶と化す。
その結晶が放つ光の色が変わる。白い光から青い光へと。
球体の結晶がぐねぐねと姿を変えていく。そのシルエットは人型ではなくーー魚型だった。
サイズは俺の手のひらよりも一回りでかいくらい、つまり体長20cmくらいの魚。
地面でびちびちする不様な姿を晒すことはなく、空中を悠々と泳いでいるその魚のヒレは鋭い、よく研がれた刃物のようだ。鱗の一枚一枚も彫刻刀のような刃物になっていて、ぶるりと身体を震わせると数枚の鱗が地面へと突き刺さる。
『ブレードフィッシュ(空中仕様)』
直訳すると刃魚。
見たまんまの種族らしいが、こいつは『飛行』というスキルを持っているため、空中を泳ぐなんて不可思議なことができているらしい。
そして嬉しいことに『ブレードフィッシュ』が俺の召喚可能欄に追加されている。ただし水中仕様の方のみ。
水中のフィールドを作るのもありかもしれねえなぁ、こうして水中対応の魔物もできたわけだし。鎧を着ているなら脱がないと溺死確定、足留めにもなるだろうし、持ち込むアイテムの制限も行える。
……あり、だな。むしろ普通に強い。
新階層は死体安置所を移動させたアンデッドスペースにでもしようかと考えていたが、アンデッドはまだ産まれていない。急いで隔離する必要も無いんじゃないか……?
問題があるとすれば……
ブレードフィッシュの召喚に必要なコストを調べてみる。予想通り他の眷族より格段に高い1500DP。血統種ともなると異様の15000DP。
一万越え!? バカなんじゃねえの!? と思うが、冷静に考えてみると産卵して育てばバカみたいに増えるだろうから、妥当なのかもな。
魚がどのくらい産卵するかとか、興味もなかったから知らないが、千個くらいだろうか。
それが無事に孵るのが8割とする。
ここには天敵がいないが侵入者がいる、それに食料不足になるだろうから成体まで生き残るのは3割とする。
生き残った魚の内、産卵するのが2割としよう。
ーーざっと40匹くらいか。
そうすれば二世代目が産む卵は2万個。
食料問題が解決すれば数は増えるだろうし、侵入者がくればその分討伐はされるだろう。だからあくまで予測値としても、たった二匹が二万匹に増える可能性があるとしたら……。
いや、3万DPをかけたにしては成果が出るのが遅いか、それに元手がないからやりようもない。
……やりようがない? ホントにそうか?
ハウルは血統種でもなんでもない召喚した眷族だ。だがアイツはシズクを孕ませ、子供を作った。心当たりは二つしかない。
最初の眷族だから、もしくは俺が名前を与えたから。
『名前をつければ血統種扱いになる』という後者の理論でいけば半額か、それ以下のコストで数が増やせるんじゃないか?
わからん。わからんが、とりあえず実験はしてみようじゃあないか。
「ブレードフィッシュ、お前に名前を与える。お前は今日から『トビウオ』だ」
イグアナもアーサーもヌリカベもトビウオもベスもオオバコも、さらに言うならペコちゃんも。全部地球由来の名前となってしまった。
そいつの特徴を捉えた、分かりやすい名前って思うとどうしてもこの世界よりあっちの世界にいた時間が長かった分、偏ってしまう。唯一違うのはハウルくらいだろうが、アイツもどっち付かずな感じでなんとも言えない。
まあ、いいだろう。ナズナも他の眷族も違和感や疑問を持っていないみたいだしな。
ん? 『ナズナ』も地球由来じゃね……?




