表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/142

ダンジョンコア 間宮日向 Lv.5⑧

 ハウルとヌリカベとナズナと俺と。

 2人と1体と1個で住居エリアへと『転移』して帰ってきた。


 本来だったらptがもったいないから徒歩で帰ってくるはずだったんだが、囮を引き受けた俺を筆頭に、疲労困憊のナズナ、怪我が酷く歩きづらそうなハウルと……移動困難な奴が多かったから仕方ない。

 1個はもはや万全な状態でも移動できないし。


「ふぅ……」


 ため息ひとつ。

 疲れたつかれたとは思っていたが、安全地帯へ帰還してヌリカベを定位置に設置すると、疲れと眠気に膝を折られそうになる。

 本来なら眠りどころか食事も排泄も必要としない身体が睡眠を要求してるほどには無理をしたわけか……。

 この眠気が肉体的な物か、精神的な物かはわからないが、重い瞼を無理矢理開いて、ヌリカベへと向き合い、座る。

 寝るのは今回の収支を計算してから、だ。


 色々は役立つこともわかったことだし、忘れないうちにメモしておきたい。それに今のうちにメモしておいて、起きて見直してみたら抜け漏れが見つかるかもしれん。

 ーー人間を辞めたはずの肉体なのに、どうして忘れっぽい人間らしさは残ったままなんだろう?


 眠そうなのに隣に座ったナズナに頼んでペラ紙2枚を召喚。20DP

 ペンはあるから召喚しなくても良いな。一枚目のタイトルは『任務1、神の刺客』っと。こっちはあったことを時系列順に書きなぐっていくとして。

 二枚目は『任務1、収支計算』とつけて、ポイントや眷族の収支のみを記入する。




 っと、リィルとテトちゃんが侵入してから神の刺客の討伐まで、時系列順だとこんなものだろう。今度はその紙を見ながらまとめる作業に移ろう。


 まずは『失ったもの』。

「ゴブリン46体」

 内3体は解体されてグズグズにされていたため回収不可能。回収可能な43体の死体は死体安置所へと運ぶように手の空いてる眷族へ『命令』をする。


「ホブゴブリン1体」

 1階層のボスだったが、テトちゃんに殺された。ちなみにこっちも解体済みで回収不可能。

 ボスの補充は3階層で回遊していたホブゴブリンを使うことにする。DPが補充できたらホブゴブリンはまた召喚しておこう。

 っと、そうだ。回収できない肉片は3階層の血統スライム近くへと『転移』させておこう。きっと餌にはなる。


「スライム、およそ100体」

 正式な数値は不明。

 2階層のスライムたちだが、あの階層は放置で増えるから問題ない。余裕があれば通路を増やして複雑化したいが、そんな余裕はいつできるだろうか……


 そして一番メモらないといけないこと。

「捕虜2体」

 名前も忘れたゴブリンの苗床になっていた女、牢屋に入れていたシャーリィという名の女剣士、その二人。

 俺はあの時、ハウルを進化させるために、二人を食べるように『お願い』した。

 今まで人間を犯すことあれど、物理的に食べることはしたことがなかったため、困惑していたハウルだったが、俺のお願いを了承してくれた。

 血肉を残さず貪り、臓物や骨、髪の毛に至るまで、人間を構成する全てを飲み込んでいた。


 いくら『凍心』のスキルを使っていたとはいえ、あの光景は大分つらかった。

 それにシャーリィを連れ出すときのシズクの泣き叫ぶ声。反応もなく苗床として心が死んでいたはずの女の断末魔。聞いているこっちの心が壊れそうな泣き声が、耳にこびりついて今も聞こえる。


 今日は悪夢を見るだろう。それくらい覚悟しておこう。



 次に得たもの。

「レベルアップ」

 正直これを含んで良いものかわからないが、レベル5になったことは書いておこう。一応な。

 レベルアップ報酬は無いみたいだし、召喚できる眷族も増えない。まあ、上げてるうちに増えるだろう。今は数の暴力で何とかするしかねえ。


「捕虜2体」

 リィルとテトちゃん。ハウルに食わせた分をそのまま補充したような形になった。

 彼らは今後、DP電池として吸い尽くす予定だが、凍心中に俺は『人間牧場』なるものが出来ないか画策していた。

 家畜を育てるみたいに柵の中に人間を入れ、交配させて増やす。増えて成長した人間をまた掛け合わせて増やす。親も子も関係なく、ただ家畜の頭数として数える。増えすぎたら殺せばptになり、そうでなくてもただいるだけでDPになる。


 結果から言えばダンジョンの中で飼うことはできるが、成果が出るより先にレベル99になると機械音声さんは言っていた。

 子供が生まれるまでに一年、子供が育つまでに10年。その成長を早めることは不可能。

 人間を改造して眷族にすることは不可能。

 ただし人間を利用して眷族を改造することは可能……

 まあ、とりあえずはメモだけして先送りで。


「眷族ガチャ」

 目の前にウィンドウが現れ、『1回引く』のボタンが光っている。が、今は放置。

 これも寝て起きたら考える。



 っと、収支はそのくらいか。あとは数値だが……


 使ったptはレベルアップを含めて643pt。

 得たptは苗床、シャーリィの殺害分で390pt。

 DPの変動はなし。

 単純計算だと損しているが、レベルアップ分を含めないと245ptの収益。全体を通すと収入の方が多いという結果になった。

 眷族に関しても数多く殺されはしたが、起きたことを考えると被害は少なすぎるくらいだ。それに時間が経てば少ないDPで補充できることだし、問題はない。




 別ウィンドウへと目を向ける。

 どうやら少し前にゴブリンの死体が全て死体安置所へと運び込まれたようだった。

 部屋の中を見てみて……思わず顔をしかめてしまう。それくらいやばいぞこの部屋。

 ゴブリンの死体が100近く山積みになっていて、ちらほらとファンガスの死体が見える。7、8体……いや、もう少し少ないか?


 とにかく雰囲気がやばい。

 淀んでるってレベルじゃないし、瘴気なるものがあるのならば、確実にこの部屋にはあるだろう。

 なんか怖いし新階層作ったら階層まるごと死体安置所にしてやろう。アンデッドの階層ってのもありがちだが、良いものだ。俺は入りたくないけど。


 あ、ついでにゴブリン山の天辺にリィルの腕を差しておこう。回収したけど置き場がなくて困ってたんだ。

『勇敢な眷族、ここに眠る』

 ってな。はは、狂気じみた墓になったものだ。


「終わった?」

「とりあえずは、な。残りは明日起きたらやる」


 俺が作業の手を止め、ぐーっと伸びをしたことでナズナが話しかけてきた。

 彼女も初陣で疲れたのだろう。幾度か欠伸をしていたし、今も眠そうに目を擦っている。

 ……無理して付き合わなくても、先に寝てて良いって言ったのになぁ。


「ナズナも疲れただろ、今日はもう寝よう。……なんなら一緒に寝るか?」

「……っ」

「冗談だ。顔を赤くするな」


 俺が立ち上がり、ナズナへと手を差し出すと、ゆっくりとその手が握られる。そのまま引っ張り上げると腕を痛めるだろうか?

 俺はナズナを見て、アイコンタクト。

 差し出した手をほんのわずかに真上へ上げると、それに反発するかのように下へと押し返される。もちろん押し返してきたのはナズナだ。

 つまり彼女は反作用で体が少し浮き上がる。すかさずナズナの腰へと腕を回し、引き寄せるようにしてフォローする。この時手は握ったまま、お互いにバランスを取り合う。

 さりげなく腰に触れながら、立ち上がらせることはできたが、ナズナ以外の子がここまで上手く合わせてくれるかはわからん。


「ーー慣れてるね」

「そっちこそ」


 皮肉。もしくは信頼の裏の裏。

 俺とナズナは、近い距離のまま視線を交わらせる。疲れで眠くなっていたとしても、戦闘の余韻で気持ちは高ぶったままらしい。彼女の頬は先ほどの冗談以降、少し赤いまま。

 俺とてまだ高ぶっているらしい。ナズナを見ているとかわいくて、いとおしくて、そのまま押し倒して食ってしまいたくなる。


 ナズナも、彼女も……きっとそれを望んでいるんじゃないか?


「いつまでこうしてるのかなぁ」

「……ふ、ごめん」


 ため息に全ての感情を込める。

 息と一緒に劣情も愛情も、何もかも全てが吐き出され、まっさらになっていく気がした。

 俺は腰へと回していた手を離し、二人で手を繋いだまま歩き出す。俺は自分の部屋へ、ナズナはナズナの部屋へ。

 行き先は違うけれど、道は一緒。そこまではこうして手を繋ごう。

 この気持ちがなんなのか、はっきりと答えをつけるのはやめにして、この短いみじかい帰り道の間だけ、雰囲気に酔う。


 部屋に戻ったら忘れる。この感情は心の奥に仕舞う。

 ナズナもきっと理解してくれている、明日にはすべて元通り。彼女はなにかといって察しがいい。だからあともう少し。

 あと一歩だけーー


「何かあったら起こすし、起こしてくれ。ゆっくり寝て疲れをとってくれ」

「うんっ 明日も頑張ろうねっ」

「ああ、今日はありがとう。……おやすみ」


 手が解かれる。

 それを虚しく思うことはない。もう少しと願うこともしない。

 自室へと入り、後ろ手に扉を閉める。隣の扉も閉まった音が聞こえた。



 ふと、自分の手を見下ろす。

 血が止まっているその手のひらは、漂白されたように白い。けれど、さきほどまでナズナが触れていた部分だけが少し赤く、温かい。


 その赤さが血のようで。

 今まで殺してきた人間の返り血に見えて。

 拭っても消えないそれが、背負っている十字架を体現しているんじゃないかとさえ思ってしまって。


 嗚呼、俺、汚れちまったなぁ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ