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ダンジョンコア 間宮日向 Lv.5⑥

 戦況としては、ようやく3vs2……いや、リィルはもう動けないから実質2vs2な訳で頭数としては対等だ。

 だが多数を相手にすることを得意とするテトちゃんが、サシになったときも、変わらず敵を圧倒できるのかは未知数だ。


 刺客B、刺客Cを見てみると、表面が欠けるくらいの軽傷しか与えられていない。

 なのに、こちらはハウルが重症二歩手前の軽傷。テトちゃんに関しては完全な重症で、病院送りものだ。




 ハウルが走る。ミニマップも見ていたからこそ気づけたが、少しでも余所見してたなら走り出しを見逃すほどには足音が小さく、ヒタヒタヒタヒタと迫ってくる光景は、さながらホラー映像だ。


 神の刺客たちはハウルに気づけなかったらしく、そのままWラリアットを食らう。

 刺客Bはその場で地面へと叩きつけられ、後頭部(?)が少し欠ける。刺客Cに関しては、ハウルがホールドしたまま走り、少し離れた木の幹へと叩きつけた。

 一瞬で分断することができた喜びより、異世界の、それも魔物がラリアットしたことに驚きを隠せない。そんな話初めて見たんだが……



 ふわりと刺客Bが浮かび上がり、テトちゃんへと距離を詰める。彼女は剣先が見えないほど早くても、余裕で回避行動を行っていた。

 避けれたとは言ってないけど。


 お前さぁ……

 なんでサシになった瞬間、真正面からの横凪ぎをモロに食らってハラワタ晒してるんだ……

 というかリィルはなんで避ける指示を出さないーーって気絶してんじゃねえか!?



 イグアナに『命令』! 『リィルを捉えて下がれ!』

 テトちゃんは……片膝ついて今にも死にかけだが、まだ意識はある。リィルの2回分の回復魔法がなければそのまま死んでいただろう。

 ほら、やっぱりナズナが正しかった。なんて考えは今は黙殺する。やばいぞこの状況……!


 助けるかそのまま頑張ってもらうか、ナズナに判断を委ねよう。俺はハウルの方を監視しよう。ハウルの援護だけは譲りたくないし。


「ナズ、ナ…… ごほっ」


 よし、だいぶ声も出るようになってきたな。まだ身体は動かないから床に寝そべったままだが。


『ーー日向君?』

「テ、トを……まかせ、る」

『……う、うん』

「たのん、だ……」


 俺の言葉を聞いて、ナズナが剣を抜いて走り出す。

 ふわりふわりとボールが跳ねて進む様子を連想させる動きで走り、スカートが空気を吸って膨らんで俺を魅了する。目が離せなくなりそうだが、気合いで引き剥がす。

 テトちゃんを背に庇ったナズナは、刺客Bの振りかぶる剣を、真正面から受け止める。


 ……助ける方を選んだか。なるほどわかった。

 ゴブリン11から20に『命令』する。「テトとリィルを牢屋へ運べ」

 3階層と4階層のどちらの牢屋に運ぶか迷ったが、諸事情で4階層の牢屋は封鎖中だ。あっちの事後処理もしとかないといけないな……。



 ゴブリンたちへの命令も「3階層の牢屋へ運べ、丁重にな」と言い直す。イグアナがリィルをそのまま抱え、テトちゃんはナズナの後ろで気絶していたので、抵抗することなくゴブリンたちに運ばれていく。

 イグアナ、牢屋で止血の方も頼む。終わり次第俺も向かう。





 状況はだいぶ変わったが、人数は変わらず2対2。

 刺客BVSハウル。刺客CVSナズナという盤面だが、こっちには眷族たちの支援がーーゴブリン程度で肉盾にしかならないだろうがーー残っている。

 侵入者は捕縛できて、刺客の数は半数まで減らすことができた。それもこちらの幹部眷族ネームドモンスターには被害なく。


 考えうる以上の成果だ。


 だからこそ気を抜かず、このまま勝ちたい。

 ここからハウルもナズナも失うことなく刺客を倒す。作戦は無い、いまから考える。


 頭を回せ。

 死ぬ気で考えろ。


 誰か失う前に……!



『ハァッ!』


 ナズナが切りかかる。

 刺客はギリギリで反応し盾を構える。俺の目には完全に防げないと思ったが、盾の端に引っ掛かるような形で受け止められてしまい、カウンターの横凪ぎがナズナを襲う。

 慌てずにバックステップで大きく避けるが、ナズナは遠距離武器を持っていない。再び突撃するものの、盾を構えられて攻めづらそうにしている。



 俺がやったみたいに魔法を使いながら剣で攻撃すれば……って思わなくはないものの、ナズナはあの模擬戦以降、魔法を使いながら近接戦闘をする方法を聞いてきた。


 俺は最初からできたものの、ナズナは『魔法は後衛が、止まって使うもの』という思い込みがあるらしく、魔法を使いながら歩くことさえ難しそうにしていた。

 無意識にストッパーがかかっているような状態らしく、凝り固まった思考をなんとかしようとしてはいるらしい。

 とはいえ3歩程度なら移動もできていたし、まだまだ実践には使えないものの、いつかは近接戦闘しながら魔法を使うこともできるはずだ。



 ……意識がそれた。どうも集中力を欠いてきてる。


 盤面は若干優勢に感じられた。それはナズナが強いというわけではなく、刺客Bは本来複数人で連携して戦うことを想定して作られた(?)からか、攻めも弱ければ守りも甘いからだった。

 もし、こいつが3体……少なくとももう1体でも、いて連携をとられていたならば押されていたのは俺らの方だっただろう。


 ならなぜ1vs1になったナズナが手こずっているかというと、単純に得物の差だった。

 片手剣を持ちながら盾を構えてカウンターを狙う刺客Bに対し、ナズナはレイピアのような剣が1つだけ。

 いくらナズナが攻撃しても盾で防がれ、体制が崩れれば剣で攻撃される。その不利をナズナは回避や先読みでなんとか巻き返している状態だ。


 ナズナには無理せず足止めしておいてもらって、ハウルが刺客Cを倒したら2vs1にして数の有利で倒す感じにするか。

 だが……なんか、嫌な予感がする。

 副案を考えておこう。




 ハウルの様子を見てみる。

 相手の刺客Cも、Bと同じ装備をしているが、ハウルはそもそも得物なんか持っていない。ハウルは大振りでパンチをくり出すが、盾に防がれては剣を振るわれて回避を行う……ってこっちも同じような状態かよ!?


「ハウル  切り くずせ」

『ーーーァァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!』


 ナズナと違って、ハウルは遠距離武器も持ってるんだぜ。それならまだ戦いやすいだろう。やはりハウルには早急に倒してもらって、ナズナを援護してもらおう。


 砲声が効いたのか、刺客Cは硬直する。その隙にハウルは飛びかかり、盾の内側へと潜り込んだ。


 ゴリゴリ……バリバリ……


 ハウルが手首にあたる部分を食べ始めた。盾がうざいなら腕ごと排除してしまおうというそのスタンスは嫌いじゃない。

 両手にある口で、両側から食べることで、通常の二倍の速度で噛み砕いているようだが、そもそも手にある口は小さいから普通に頭の口で噛みついた方が早いんじゃないか……?




 石の身体には痛覚が無いのか、刺客Cは騒ぐこともなくナイフを振るう。ハウルの肩に突き刺さり、血が吹き出す。

 ーーが、ハウルは両手を離すことはしない。

 そのままガリガリと食べ進めている。その表情は痛そうなものの、とても美味しそうに食べている。まるで……汗噴き出しながらも笑顔で激辛ラーメンを食べるおっさんのようで……

 あ、想像しちまった……なんか……その、すまん……



 ハウルの肩にナイフが刺さること3度。肩からは相当な量の血が流れているものの、相手の腕を食い千切ることに成功していた。

 ゴトリと音を立てて手首と盾が落下する。

 そのままハウルは刺客Cを蹴り飛ばして……刺客Bに合流させていた。ナズナも乱入者に驚いて、ハウルの方を見てその出欠量にまた驚いていた。



『……だい、じょうぶ?』

『ギャアアア!』


 ハウルは親指を立て、問題ないぜ! と言わんばかりのサムズアップをする。

 喋れないだけで意思疏通がはかれるようになったってすごく便利だ。


『ふふっ 日向くんならっ うるせぇ! って言ったのかなっ』

『ギャアアア……ーーゴアアアアア!!!!!』


 嬉しそうに口許を緩めながら、ハウルはその場に両手をついて、小さく踞った。やっぱりダメージが蓄積していて、つらいのかと心配したら……

 クラウチングスタートのように地面に手を着いた状態から、一気に加速して体当たり。いきなり刺客たちへタックルをかましやがった。


 さすがに予測もできないその動きを回避することはできなかったようで、刺客二体はまとめて吹き飛ばされた。

 というかよくよく見たら、ハウルの足の裏にも口がある。それも両足に。さっきの加速は足の裏にある口から叫び声を出して、少しでも加速したんだろう、けど、そんなことできるのか……?


 こんなにばかでかいダンジョンが揺れるくらいの声量だし、ありうるのかもしれないが……それにしても非常識すぎる。



『ハウル君、無理しないでっ』

『ゴアアア……』


 左肩にもナイフが刺さっていて、ハウルはそれをめんどくさそうに抜いて、食べ始めた。

 刺客Bが、体当たりされる瞬間、ナイフを前に突き出していたらしい。ナイフを手放すつもりはなかったかもしれんが、手放したあげくにハウルが食べちまった時点でほぼ勝ちは決まったようなものだった。



 刺客二体はふわりと浮かび直すと、ナズナへ向かって突撃してきた。

 刺客Bは盾しか持っていない。刺客Cは剣しか持っていない。それでも諦めるということを知らないらしく、ただ純粋に剣を振るい、盾で殴り、殺意をたぎらせていた。


「ゴブリンを送る 剣持ちから倒せ」


 咳き込みながら、なんとか伝える。ナズナはこくり、と頷くと刺客Cへと突撃した。




 刺客Bがナズナを止めるべく前に出るが、ハウルがそれを邪魔する。やはり、腕を持ち上げるのはつらいのか、蹴りを主体にした戦いかたに切り替えている。

 相手の盾を蹴って少し下がらせたらハウルが数歩詰め、体制を立て直したら再び蹴っては詰める。三再蹴って、と繰り返していた。


 ゴブリン10体ほどが到着したら、時間稼ぎをしていたハウルは刺客Cへと向かっていく。刺客Bはハウルを逃がすまいと追いかけるが……ゴブリンが持っているこん棒で刺客Bを殴り付け始めると防御の姿勢に入った。

 たいして威力もなく、無視してもいいはずなのに、全ての攻撃を防ごうと盾を世話しなく動かしている。


 最初もゴブリンの投石を防ごうと立ち止まっていた辺りからできると予想していたが、こうも簡単に決まるとなんか納得がいかない。



 十数秒後、刺客Cの首が切り飛ばされる。

 ナズナはクソ真面目に剣を切り結び、打ち払ってから切りつけるという安全策を取っていたが。ハウルが横槍を入れた瞬間の隙をついて突き、横凪ぎ、三歩引いて水魔法……と連打を決めた。


 ハウルはまだ蹴りを主体にして戦っているが、数の有利のせいか、傷を負うこともなく表面を食い散らかしている。

 トドメはナズナがさした。身体ごと独楽のように回転させ、勢いをつけた剣で、首にあたる部分を切り飛ばした。

 刺客Cの死体が重力に引かれて落ちる。もう勝負は決まったようなものだろう。





『グギャ!?』『ゴーー』『ガャァァ……』


 ……何が起きた?


 刺客Bに群がっていたはずのゴブリンたちが、10体同時に死亡した。即死の奴もいれば、断末魔をあげてから死ぬ奴もいる。だが、生き延びることができたやつは1体もいない。


 ウィンドウの向こう側。盾しか持っていなかったはずの刺客Bの両腕が、異形に変形していた。


 先端の尖った触手。


 そう形容するのが最も近いと思われるものが、2本ずつ、計4本。

 うねうねと、一本々々が意識を持っていると思わせるほど動き回り、ゴブリンの身体を、頭を貫いていく。

 自身の持っていた盾さえ貫通しているあたり、攻撃力の高さが伺える。


 最後1体になったから、いわゆる発狂モードになったってことか……?

 こんなの予想できねえし副案なんてまだ思い付いてねえし、時間稼ぎのゴブリンも無意味そうだ。

 やべえな。どうするか……

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