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ダンジョンコア 間宮日向 Lv.5④

『『ダンジョンが、揺れた……?』』


ハウルが大きな声で返事をしたせいで、戦闘が止まった。命令がきちんと伝わったかどうか不安だったが、あのタイミングで叫んだあたり伝わったのだろう。

現にマップ上で刺客へ向けて走り出したのが確認できた。……しかし、本気を出せば地震を起こすくらいの声量になったのか、アイツ。


そしてもうひとつのウィンドウを見る。刺客たちは攻撃を受けたと思ったのか、防御体制で身構えている。

テトちゃんは刺客から距離を取り、息を整えつつ、周囲の警戒をしている。

ナズナは……ダメだ、完全に混乱している。落ち着かせようにも俺は声を出すことができない。ナズナには命令してはいけない。

幸運なのは、ナズナに与えられた役割は既に終え、後はポーカーフェイスで立っているだけでいいから、混乱していてもこなせることか。


どうナズナを立ち直らせるか……と、悩んでいたところでイグアナが唸るように声をあげた。そして人質のリィルを強く締め上げる。

おいおい、殺すなよ? ただでさえ腕を切り落としたり、羽交い締めで取り押さえて体力が少ないだろうから、ここでどこかしらの骨でも折れば本気で死ぬぞ?

いや別に、殺すのは構わないんだ。というか刺客を倒したら殺すつもりだが、今のリィルの役割はテトちゃんを操る糸だ。なくなった瞬間に『テトちゃん+刺客VS俺ら』の構図が出来上がるのはやめてほしい。

勝てないから策を練ったのに、更に不利になるとかどうやってもひっくり返せる気がしない。


『……あ、あら。起きたのね』

『……』


リィルが、目を覚ましていた。

なるほど、今の揺れで目が覚めたか、はたまた気絶したふりをしていただけなのか。彼は無言で周りを見回すと、状況を理解したのか、そのままテトちゃんを睨むように見つめる。

別に変なことを口走る気配はない。それに自殺する気配も。

体力を削らないように気絶させるなんてこと、ハウルくらいしかできないが、ハウルには刺客を倒してもらわないと困る。


とりあえず放置しよう。

何かしらのアクションを起こせば拘束しているイグアナが、そうでなくてもナズナが気づいて対処してくれるはずだ。それにナズナも、冷静ではないものの、平静を保とうとしているから大きな問題は起きないだろう。


さあ ハウルの、ご到着だ。




ハウルは刺客Dへと襲いかかる。

3階層は仕切りなんかを取っ払った大きな長方形の部屋が一つしか存在しない。だからこそ、回り込んで真後ろからの奇襲なんかもかけやすい。

真後ろからの突然の攻撃は、回避行動さえさせることもなく命中する。ハウルの体重を乗せたショルダータックルが炸裂し、そのまま木へと叩きつけられた刺客D。

だが……ふわりと起き上がるその姿を見ると、あまりダメージがないように思える。


『えっ……?』

『増援、ってこと……』


違うぞテトちゃん。そいつは援軍さ、一時的に俺たちの駒となった君を守る騎士だぜ?

その異形の小鬼は、味方だ。



ハウルは、進化した。

『ホブゴブリン』というゴブリンの上位種から、『オッド・オーガ・ハーフ』というユニーク個体へ。


小鬼ゴブリンよりも大きくなったその姿は、それでもオーガというには小さすぎる。小肥りなその体型からしたらオークの方が近い気はするがそれはおいといて。

どっち付かずの、ゴブリンよりもオーガ寄りのシルエット。だからこそオーガ・ハーフなのだろう。オッドに関してはわからん。

身長よりも種族名よりも、もっと特徴的な物があった。


それは、口だ。


まるで口裂け女のように大きくなった口を開くと、歯が二層になって並んでいた。手前側は鋭く、噛み斬るためのもの。奥側は平らく、少し大きい、磨り潰すためのもの。

口が大きいからだろうか、目も鼻も耳も、少し小さくなってしまったように見える。それが錯覚なのか、本当に小さくなってしまったのかはわからないけれど。


ハウルは見せつけるように両手のひらを刺客へと向ける。

手のひらに刻まれた一本の皺、それがニチャァと開く。……皺なんかじゃない、これも、口だ。

両手にも小さな口が一個ずつあった。掴んだ相手をそのまま食えるように異常な進化を遂げていた。


ハウルはどんどん口や声に関連する部分が進化していく。

うるさいから、と名付けた名前がこんな異形へと導いたのだとしたら……俺はこいつにどうやって償えばいい……?



ハウルが叫ぶ。普通より大きい口が最大まで開き、大気を震わせる。再びダンジョンが揺れる。

その両手についている口も叫び声をあげている。そっちは俺が全力で叫んだくらいの声量しか出ていないが、それでも十分うるさい。


ーーウィンドウごしに目があった。


まるで『見ているのだろう?』とでも言いたげにニヤリと笑みを浮かべ、刺客Dへと飛びかかる。単純な突撃だからか、その手が捉えることは無かったが、目に見えて刺客A、B、Cの動きが鈍くなる。

鈍くなっただけではない、Bが振るった剣がテトちゃんを深追いしたCの側面を叩いた。誤射は初のことだった。


理由もわからないだろうに、テトちゃんはこれ幸いと刺客たちの陣形の内側に潜り込む。振りかざされる三本の剣撃を、這うようにしゃがみ、と思ったら宙に浮いていた。あきらかな無理な体勢から回避を許さぬゼロ距離で5本の矢を放つ。刺客Aはその全てを身体で受け止め、表面を欠けさせる。

刺客Bが攻撃しようとするものの、刺客Cの剣に当たってしまう。こうも簡単に誤射を誘発させるとは、一時的にでも味方につけてよかったとしか言いようがない。

……しかし、テトちゃんとて人間だ。いつまでもその体力と集中力が持つか。前半に追い詰められた時の傷で動きは鈍り、幾度か攻撃のチャンスを逃して回避に専念する場面が見受けられる。

今にも倒れそうな青い顔をしているのに、歯を食い縛り必死に死線を潜り抜け続けている。



一方、ハウルが刺客Dを相手にして、1対1の戦いを繰り広げている。

刺客Dは右手に反りを持った短刀ーーククリナイフというんだったかーーを持っている。左手には何も持っていないが、こいつは魔法を使うらしい。

放たれた水の玉がハウルの顔へと飛来するが、左手を犠牲にガードした。……いや、犠牲じゃないな。左手にある口で、その魔法を食べていた。


魔法とはいえ、作られたのはただの水。ナズナが作る水も飲めるのだから、口に含んでも問題はないと思うが……水風船を叩きつけられたような衝撃はあるはずだというのに、口の中で受け止めるとは危険なことをする。

……まあ、旨そうに咀嚼してるしいいか。


それよりも問題は、ハウルは進化したばかりで、まだ身体に慣れていないことだ。腕を振るうがリーチの差や体型が変わったために空振りになってしまったり、逆に内側に入り込まれてヒヤリとする場面もある。まあ、それでもだいぶ慣れてきたようだが。

十合、二十合と打ち合うと、奇襲しか当てられていなかった攻撃も次第に当たるようになり、手や腕で防いでいた防御も、今では回避へと切り替えている。

こちらは時間の問題。ハウルはこのまま勝てるだろう。問題は他に介入されないか、だが……まあ、そこは俺が何とかする。頼むぞ、ハウル。



……ナズナは、平静を装っているものの、まだ困惑して虚空を睨むように見ている。

そこに俺はいません、見てるけどな。


まあ、自分が知らない間にハウルが進化していたこともそうだし、ダンジョンマスターのふりをしていたのに命令していないことが起きているから怒りたくもなるか。

……すまんな。だが、ここのダンジョンマスターは俺なんだ。好きにやらせてもらうし、お前に無理させるつもりはない。


地面に伏したまま見つめるウィンドウの中、刺客Aが粉々に砕け散るのを確認した。やるじゃないかテトちゃん。

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