ダンジョンコア 間宮日向 Lv.5①
スキル【凍心】を使用した。
焦る気持ちも、泣き出したい気持ちも、理不尽を嘆く心も、今まで考えていた生ぬるい気持ちも全てが全て、凍ってしまう。
そしたら残るのは効率を求めた単純な思考だ。
私情を抜きにして、犠牲を払ってでも勝つための作戦を考える頭だけが残る。
不思議だ、前回スキルを使ったときよりもーー気持ち程度ーー頭の回転が良い気がする。
理不尽から逃げるため、つらいことを後回しにするために使うのではなく、立ち向かうために……仲間を切り捨ててでも勝つという覚悟があるからだろうか?
「……余計なことは考えるな」
そう、余計なことを考えている暇はない。
まずは現状を振り返って、問題点をまとめてみよう。
まずは神様から送られてきたミッション……拒否権のない遊びの誘いの内容確認だ。
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差出人 :神様
件名 :任務1
内容 :天からの刺客4体の討伐
報酬 :眷族ガチャ券1枚
制限時間:残り58分
補足 :刺客はパーティを組み侵入してくる。
刺客は休憩、撤退をしない。
刺客を倒しても経験値、DP、およびptは発生しない。
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地道とはいえ順調に生存できているから焦って介入でもしてきたのか?
上からいこう、『任務1』という書き方……今後もこういう突発的な任務が送り込まれてくるんだろう。来たらその時考えれば良い。
内容。『天からの刺客4体の討伐』その見た目はわからないけれど、とりあえず侵入者を全部殺せば解決する。問題はテト、リィルの二人を相手にしながら刺客を相手にするのが厳しいってところか。
いち早くテトをなんとか処理して、余った戦力を刺客へと回す。しかし分断してからネームド送り込んで総力戦でなんとか勝てるんじゃないかって予想の相手を、戦力を温存しながら戦わないといけないとか無理ゲーだろ。やるけど。
報酬。これもきてから考える。
制限時間。これがクセモノだ。後約1時間で倒さなければいけない。普通に戦う分には問題なく時間が余るはずだ。
少し飛ばして補足を見てみようか。
『刺客はパーティを組み侵入してくる』……バラバラで来てくれればありがたかったが、まあそれは仕方がない。なんとか分断できるように頑張って考えよう。
『刺客を倒しても経験値、DP、およびptは発生しない』……報酬が出るからそれ以上はあげられないってか? ふざけんな、せめて出費分は返せ。まあ、そこも重要じゃない。
『刺客は休憩、撤退をしない』
この一行と、制限時間が組み合わさると最悪の想定ができる。
撤退ーーダンジョンから出ないという意味だろう、DP入手基準的にーーはしないがひたすら逃げるし、小一時間守りに徹する可能性もあるわけだ。
俺はダンジョンを守るだけではなく、ダンジョン内で攻めることも考えないといけないかもしれない。
侵入者だ、ちょうど四人組。こいつらが刺客だろう。
入り口のウィンドウを表示ーーああ、確かにわかりやすい。こいつらは天から送られてきたんだろう。
まずそいつらは人間じゃない。そもそも生き物ですらなかった。
乳白色をした石像だった。
頭部を模した球体が宙に浮かんでいる。目に当たるところには、2対の青白く光る窪みがあるだけで、鼻も口も耳も頬も見当たらない。
その下にはスカートのような三角錐の胴体が、これまた浮かんでいる。足はなく、2本の腕が追従するように浮いているばかりで、他の機能は見当たらない。
得物も特に細工があるようには見えない。全てが左手に盾を持ち、右手に剣を持っている。
そして申し訳程度に、頭上に天使の輪が浮いている。
……まるで動くチェスの駒。それが4体、並んで入り口に浮いていた。
「……ナズナ、侵入者を見てどう思う。答えろ」
『う…… え、えっと……』
ナズナの歯切れが悪い。少しばかり返答を待ってみるが、もごもごとするばかりで何も有益な情報は帰ってこない。
……ああ、そういえばナズナは『凍心』を使うと避けるんだったか。それならそれで、今回はただの駒として……参謀としては期待しないでおこう。
「ナズナはそこで待機、追って指示を出す」
『わ、わかり、ました……』
安堵したような声。
……ほんとうに、嫌われたな
作戦立案の前に真っ先にすること。それはptを消費してレベルを上げることだった。
次のレベルは5。ある程度の節目であるから召喚できる魔物が増えたり、機能が追加されたりするかもしれない。レベル10ごとにキャラガチャが引けるっていうから、もしかしたら何も起こらないかもしれない。
けれど、今あるptは679ptで、レベルアップに必要なのは398pt。250くらいのお釣りが来るくらい余っていて、ptの使い道はEXPかDPに変換するしかない。確かそうだったはずだ。
捕虜を殺せば即座にptを獲得できる、その全てをDPに変換したとしよう。それでも1500DPくらいにしかならないんだろう。
それならば、そのうちの400ptを使ってレベルアップをする。そして得られるかもしれないレベル5ボーナスに期待する。
ptを消費する。レベルが上がり、対して差し迫っていたわけでもない制限時間が巻き戻る。
ーーしかし、それだけだ。
一番望み薄の可能性であったキャラガチャは引くことができず、召喚できる魔物が増えた訳でもない。
召喚できる物は確かに増えた。増えたが、戦闘に使えるものではなく、生活が少し便利になる程度の物。
ムキになってレベルを上げたくなるが、グッと我慢する。レベルアップして召喚できる魔物が増えたところで、召喚するためのDPがなければ意味はない。つまり今回のレベルアップで無理だったなら諦めるべきだ。
「じゃあ改めて。作戦を伝える」
意味のなかったことをしてる間に、いくつか思い付いた策がある。普段なら思い付いても実行に移さないようなもの。それを俺は実行しよう。
即席の作戦は、どうしてもボロが出るものだからそれを付きっきりでフォローしてやれば、もしかして生き延びることができるかもしれない。
「今回の作戦の要は……ナズナだ、頼むぞ」
返事はない。それでもいい、理解してくれれば。
彼女を選んだ理由。眷族の中で唯一、言葉を扱える上に知性も高い。今回は殺すのではなく交渉をする予定だが、彼女が自己判断を噛ませれば作戦が崩れる可能性がある。
わかってるよな、間宮日向……彼女が自己判断をして俺の意図せぬことをしたならば、それにはきちんと理由がある。
ナズナを上手く使えよ?
ハウルに予備の作戦を伝えつつ、ゴブリンを3体選出する。
とりあえずは、いつも通りに敵の戦力を確認しよう。
刺客の人数よりも1体少ない数のゴブリンを相手に、連携をとって戦うのか、もしくは一体だけ足を止めずにそのまま奥へと向かうのか……見せてもらおう。
1階層、入り口に程近いところにいたゴブリンは『命令』を聞いて移動を開始した。その間も刺客たちは奥へと向かって移動している。
両者が小部屋に到着し、その姿を認める。三呼吸ほどの空白時間の後、彼らは接敵した。
『ギュンッ』という効果音が聞こえてきそうなほど、刺客Aが加速する。と言っても見えないほどではない、目で追うのがギリギリ間に合わない程度の速度でゴブリンに斬りかかる。
ゴブリンもあまり見えてはいないのだろう、それでも向かってくる凶刃に対し、こん棒を盾にすることで身を守ろうとしてーー半分成功した。
こん棒を叩ききった刃は止まることなく、ゴブリンを切り裂く。けれどもこん棒のせいか、速度のせいか、急所は外れている。
一命をとりとめたゴブリンAにそのまま攻撃命令を出す。
斬られたこん棒を投げつけろ。
両手が動く限り殴り、引っ掻き続けろ。
足があるなら蹴り続け、踏み続けろ。
口があるなら噛みつけ。頭があるなら叩きつけろ。
命あるかぎり、足掻け。
俺はただ無慈悲と思われるほどに『命令』を下す。ゴブリンの目はすでに生を諦めていたとしても腕が振るわれる。腰が逃げようとしていても足は敵へと進む。
そんなちぐはぐは動きでもゴブリンは死ぬまでに二度の攻撃を当てた。表面にうっすらと傷ができた程度でもいい。今回の目的は様子見なのだから。
刺客AとゴブリンAが戦闘中。刺客Bと刺客Cが連携してゴブリン2体を相手にしている。
どちらも横並びで対面する。駆け引きのつもりか、相手の出方を伺う刺客たちに対し、『命令』により突撃しかできないゴブリンが先制攻撃を仕掛ける形となった。
刺客Bと刺客Cは互いに守りあうように、堅実な攻撃を仕掛けてきた。言葉も介さず連携し、刺客Aが戻ってくるまで時間稼ぎのように盾で守り、大きな隙にのみ攻撃を放つだけだった。
……連携力はあっても判断力と練度は低めに感じた。少し離れさせて投石させると小さな盾で身を守ろうと固まるだけで距離を詰めてこようとしなかったのだから。
まあ、投石させてたら刺客Aに突撃されて斬り殺されたあたり、こっちも判断力は低いとしか言いようがない結果だったが。
少しまとめよう。
刺客A。猪突猛進の攻撃特化タイプ。真っ先に攻撃を仕掛けるし、盾は身を守るものではなく敵を殴りつけるものだと思っている節がある。
被弾も多いが状況をひっくり返るとしたらこいつの攻撃を止めれなかった時だろうか。
刺客B、刺客C。二人で連携をとるタイプのようだ。基本的には守りの行動が多く、遠距離からの攻撃に対し、距離を詰めるのではなく身を守るという行動をとった。
しかしまるで同じ人間が同時に操っているかのような錯覚を覚えるほどに連携に隙はなく、行動もピタリと一致させてくる。
そして刺客D。こいつは一度も戦闘に参加しなかった。一番後ろでふわふわと浮かんでいるだけで何もしない。後ろからの強襲を警戒している可能性はあったが、敵ながらに助けてやれよと思うシーンも多々あった。
もしかしたら攻撃しても反撃してこない可能性まであるが、攻撃した瞬間にブチギレる可能性もある。
不確定要素は残したくなかったが、ゴブリン3体では刺客3体の壁を越えることができない戦力差だったので仕方ない。
様子見だけでリソースを使いきる訳にもいかないし、そろそろ本命の作戦を実行するとしよう。




