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ダンジョンコア 間宮日向 Lv.4⑬

『『なにこれ』』


 リィルとテトちゃんの声がハモった。予想通りの反応だったとはいえ、この部屋を作った側としては、そのリアクションだけで勝ったと言えるだろう。

 誰も見てないことをこれ幸いと、小さくガッツポーズしてしまう。


 ……まるで、ドッキリ大成功のようだ。




 10分ほど前、リィルとテトちゃんの二人は短い休憩を終え、2階層へと進んだ。そして2階層へ着いた瞬間にあの反応だった。


 もう一度マップを見てみる。


 この2階層はほぼほぼ1本道の通路となっている。途中分かれ道はあるものの、20メートルもせずにすぐ合流する。そんな攻略されること前提のマップをしている。

 ……まあ、風景が代わり映えしなくて目を瞑って5回転でもしたらどっちが正規のルートかわからなくなりそうだけどな。

 そしてその通路だが、全て沼地フィールドに設定してある。足場は全て泥沼になっていて、湿気も多い。ただ突っ立っているだけでも不快に思うほどムシムシした気温は、鎧の類いを着ていれば尚更体力も精神力も奪い取るだろう。


 そしてそこに、スライムをこれでもかと配置している。その数およそ600匹。

 本当だったら虫型の魔物を配置したかったんだけどな、そっちの方が見た目のエグさが段違いだし、靴を履いてるとはいえ足を踏み入れたくない奴も多いだろうし。

 でも、虫系の魔物って一匹単位が高いんだよな。それに地球と比べてサイズがーー二回りどころじゃなく、軽く五回り以上ーー大きいからそんなに数も入らないし。俺も見てて気持ち悪いし。


 ま、無い物ねだりをしても仕方ない。

 スライム沼の効果のほどを見させてもらおうか。



『これはまた……すごい光景ですね……』

『スライムが沸くダンジョンか……流石に初めて見た』

『リィル様、魔法で焼き払うのはどうですか?』


 テトちゃんは、弓へと視線を向け、腰にある矢筒を叩いて本数を確認した。

 が、さすがに無理だと判断したらしい。リィルへと火魔法を使うことを提案している。

 ホブゴブリンさえも焦がす火力だ、一発でスライムを何匹焼けるのだろうか。何発で600匹を焼けるのだろうか。


『ごめん、それは流石に厳しいかな。この数を焼くには何十発も撃たなければ意味がないし、そもそも先にMPが尽きちゃうかな』

『ですが……』

『そうだね、早く通り抜けてしまおう。流石に長すぎるようなら引き返すことも視野に入れて、ね』

『……はい』


 リィルのMPは無尽蔵ではないし、ガス欠の未来が見え始めているらしい。朗報だ。

 それに、何故か予想以上に警戒されているスライム沼だが、見た目が気持ち悪いとはいえ、所詮はスライムだろう? 靴の中に入ったり、転んだりしなければさほど問題なく進めると思ったが……なんでテトちゃんはそんなに倒したがってるんだ?


 スライム恐怖症とか?

 ふむ、試してみよう。




「お前らを一時的にスライム1からスライム10と呼ぶ」


 適当なスライム10体へと声をかける。『命令』として発言すれば、スライム軍団の中にいる特定のスライムのみに指示を与えることも可能だ。


「天井へ登り、張り付け」


 もぞもぞと壁を登り始めるスライムたち。スピードこそ遅いものの、きちんと命令通り壁を登り、そのまま天井にぶら下がっている。パッと見天井に湿気で水が集まったようにしか見えない。

 そして、テトちゃんが真下に来たら俺が『命令』して落下させる。どこぞのエロスライムではないので服のみ溶かすことなんかはできなくとも、服の中に入ってくれれば大成功だ。


 地球にいた頃は悪友の背中に氷を入れて遊んだことがある、それと似たようなものだろう。変に気負う必要もなく、ただいたずらの延長として実行する。

 ……何故だか罪悪感がひどいが。



『足の踏み場もないですね……』

『踏み潰して進むのが一番だよ、きっと』

『そう、ですよね』


 彼女のたちが走り始める、まだ速度が乗りきらない内にスライム1を投下。

 目測を誤った。僅かだが位置がずれていたらしい。

 テトちゃんに掠りもせず、左肩付近を通過し、地面のスライム沼に埋もれる。


『ーーうん?』


 まずい、リィルが上を見上げた。

 スライム2から5投下。ワンテンポ遅れてスライム6から9も投下。

 計8体のスライムが降り注ぐ。その狙いは全てテトちゃんだ。


『テト、上だ!』

『ッ!』


 スライム1の落下から誤差を修正し、確実に当たる位置へと配置したスライム2。

 スライム2を避けることを想定し配置したスライム3とスライム4。


 まるで絨毯爆撃のような奇襲を、テトちゃんは避けることをしなかった。降ってくるスライムを空中で掴み、そのまま壁へと投げつける。

 水風船が割れるようにべチャリと壁が濡れる。



 ワンテンポ遅れさせた第二波。

 同じ位置から降るスライムもいれば、少し離れたところに降るスライムもいる。今回はわりかしランダムに落下させる。


 が、テトちゃんは軽いステップで回避をする。簡単に避けれるーーーーはずだった。

 彼女はきっと忘れていた。床が一面スライムで溢れていることを。スライムも液体で、踏んづければ当然滑るということを。


『ーーあっ』


 小さく悲鳴のような声を出し、テトちゃんは転んでしまう。

 彼女は弓こそ離さなかったものの、右膝を付き、片手も地面についてしまっている。大きく体勢が崩れ、受身を取ろうにも自らスライムに喰われに行くような状況だ。すぐに立ち上がることはできない。

 スライムが這い上がってくることに不快感を隠そうとしないまま、振り払い、なんとか立とうともがいている。


 遅れてスライム10へ落下の命令。9回の試行により、落下の位置は大体わかるようになった。狙いはテトちゃんの頭上、頭頂部だ。


『ファイア!』


 その綺麗な髪へ、スライムが入る瞬間。リィルの魔法がスライムを狙撃した。

 燃えたままスライムが地面へと落ちたため、その周囲だけスライムが避けてドーナツ型のような模様ができていた。


『くっーー弓は無事です!』

『装備は!?』

『損傷が少し、でもまだ使えます』


 テトちゃんがリィルの元へと駆け寄った。

 彼女は『損傷が少し』と言ったが、実際に彼女の右の靴は年季が入ったかのようにボロボロになっていた。さっきまで全然そんな古びた物ではなかったから、一気に時間が進んでしまったような不思議な感覚だ。


 彼女らがスライムを毛嫌いした理由はこれか?

 スライムは一匹では弱いし、攻撃の威力が低すぎて意味はないが、複数のスライムに群がられると、低い威力を数で補うことができる。

 首を切られても体力があれば生きてられる世界だ、『魔物の与えるダメージが最低でも1与える』と仮定するとしたら、優秀な1体の魔物よりも弱い軍団の魔物の方が強い世界ということになる。


 もしもこれを人間でやろうとしても上手くいかないんだろう。人間はどうしても体積がでかいから、味方が邪魔で攻撃できないという場面が多発する。

 しかしスライムは不定形だ。細長い針のような触手で攻撃すれば、味方の邪魔になることなく一斉に攻撃することができる。

 ……スライムにそんな知性があるのかはわからないが、おそらくその方法で攻撃したんだろう。




 パッと見だし、サンプルデータが1つしか無いが、おおむね2階層は実践レベルだろう。

 スライムを虫に変えるとか、バレない程度に傾斜をつけて足を滑らせたら一気に後退させられるとか。手を加えることはできそうだが、それはDPが貯まって落ち着いてからでいいだろう。


『もう一気に走り抜ける。魔法も武器も出し惜しみはなしだ』

『……はい』


 どうやらこのまま走り抜けるらしい、わざわざ教えてくれてありがとう。ここにも落とし穴作っておくべきかもしれない。スライムで床が見えにくいわけだし。

 だいぶ改良点が見つかったな。メモでも残しておこう。


『ーーファイア!』


 リィルが火を放つ。床の沼地に辺り、一部だけ乾燥した砂に戻すまでの間に、スライムが15体ほど焼かれた。けれどそれは1割にも満たない。

 テトちゃんも矢を構える。一度に5つの矢が床へと射られる。1矢に当たればスライムがHPを削りきられ死亡するものの、当たったのはたった5体。



 地面に刺さった矢は、周りのスライムに群がられて折れそうなほどボロボロになっている。回収したところで使い道はないだろう。

 魔力は回復するとはいえ、回復するまでにだいぶ時間はかかるし、回復魔法は彼らの生命線だ。生き延びるために自分達の首を絞めているようなもの。

 倒す敵、数に対して消耗がでかすぎる。向こうも同じ事を思ったらしい、出し惜しみはなしと言いながら、あまり攻撃することなく走り始めた。




 ……どうやら、走っている相手が足をついた一瞬で攻撃するというのは厳しいらしい。

 さっきのテトちゃんみたいに転んだり、もしくは足を止めたりしてくれれば攻撃できるらしいが。


『ーーきゃっ!?』

『テトッ! ファイア!』


 テトちゃんがスライムを踏みつけた拍子に、粘性に足を滑らせ転んだ。テトちゃんの足元付近に群がるスライムへと魔法が放たれ、体勢を立て直したテトちゃんがクラウチングスタートのようにすぐさま走り出す。




『うわっ!?』

『リィル様ッ!』

『気にするな! 走れ!』


 スライムがリィル目掛けて跳ねーー正確には味方スライムに跳ね上げられーー顔面へとクリーンヒットする。

 リィルは顔にへばりつくスライムを引き剥がすと、また走り始めたが、その間僅かに足が止まっていた。

 やっぱりスライムには知性があるようだ。彼らの足を止めるためにあの手この手と策を繰り出しては失敗し、時には今みたいに成功している。


 ここにいるスライムたちは知性があると思って良さそうだ。


『別れ道……?』

『……マッピングはしてない、できるだけ分岐は少なくしておきたいから、まっすぐいこう』

『わ、わかりました』


 彼らは遠回りするルートを選んだ。しかも別れ道に困惑し少しばかり足を止めていた。

 その時見てみたが、テトちゃんの靴が、意味をなさないくらいボロボロになっていた。脱いでしまった方がマシなのではないかと思うボロさだが、それに気づかないのかテトちゃんはそのまま走っている。


 2階層を抜けるまでには靴を完全に破壊しておきたい。スライムたちでは靴を壊すことはできても、靴に守られている足を攻撃することはできない。

 なんとかテトちゃんの機動力を削げれば、それだけで勝率が跳ね上がるはずーーーー





 ピロン。



 聞いたことのない音が響き、俺の目の前にウィンドウがポップされた。

 俺はこんなの設定してないぞ。


 どうやら何かのメッセージ……文章のようだ。

 差出人はーー『神様』と、書かれている……


次でまた変化が起きそうですね(サイコロを見ながら)


お気に入り、ポイント評価、感想などお待ちしております。これからも「チートのない異世界」をよろしくお願いします

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