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ダンジョンコア 間宮日向 Lv.4⑫

 ホブゴブリンがリィルへと襲いかかる。

 よくあるバトル物のように吠えることなく、ただ足音だけを響かせて不意討ち(?)を仕掛ける。


 リィルはそれに反応するが反撃は間に合わない。ホブゴブリンが構えるーーその瞬間、テトちゃんが弓を構えていることに気づく。


「警戒!」


 避けろとも防げとも言わなかった。そこは本人の意思に任せた。

 ホブゴブリンも意図だけは伝わったらしく、攻撃をやめた……が、何に警戒するのか、どこに警戒すればいいのか、どう対処すればいいのかを悩んでしまった。

 その一瞬でテトちゃんは矢を放ち、即座に2射目へと移った。


 ホブゴブリンは胸元に飛来する矢を避けようとするが、完全には避けきれずに肩口に2本の矢が被弾する。

 ホブゴブリンはその崩れた体勢のままリィルへと肉薄する。


 ホブゴブリンがこん棒を振るい、リィルは間一髪でステップが間に合い避ける。その動きは思いの外機敏なものだった。

 テトちゃんがホブゴブリンを狙うものの、動き回る上に味方と距離が近いこともあり、矢をつがえたまま3射目を撃てずにいた。


 そのまま二度、三度とホブゴブリンはリィルへと攻撃をしかける。時には掠り、空振り、そして打撃を与える。

 ゴブリン以上の火力を持っているとはいえ、相手も回復持ち。バタバタと逃げ回りながら自分へと回復魔法を使い延命をしている。


 テトちゃんは遂に矢を放つことなく弓を右手へと持ち変えた。接近戦の構えだ。

 一瞬の隙、呼吸の合間を縫うようなタイミングでリィルとスイッチするように位置を入れ替えたテトちゃんは、ホブゴブリンの目の前で3本もの矢をつがえる。


 なぜ今つがえた? ……駆け引きか?

 ホブゴブリンは至近距離で矢を浴びせられては敵わないと、後ずさりしようとしたものの、回避よりも攻撃することを優先したらしい。

 がむしゃらに振るわれる木の棒。文面にすると弱々しいものの、実際に見ていると凄まじい暴力の嵐の中、テトちゃんは身軽に回避しそのまま弓を放った。

 3本の内2本は叩き落とされ、当たった1本も急所ではなく脇腹に刺さった程度。

 しかし、こちらが与えたダメージはなし、こちらが受けたダメージは結構デカい。

 ホブゴブリンが人数的にも、単体のスペック的にも不利か。


 ……いや、わかっていたことだ。

 リザードマンが勝率4割の相手だし、どこまで消耗させられるか、どこまで戦法を吐かせられるかを見たい。

 それだけのためにホブゴブリンを使い捨てるのは、少しばかり罪悪感があるが、ろくに対策せずにイグアナが負けたら俺たち全員が死ぬことになる。



 ホブゴブリンとテトちゃんが位置を変え攻守を変え、何度も得物をぶつけ合う。

 テトちゃんの弓は、それ自体で殴ることからわかるように、そうとうな強度があるらしい。ホブゴブリンのこん棒をまともに受け止めても壊れそうな素振りがない。

 ホブゴブリンは何度もこん棒を振り回し、時にはタイミングをずらすフェイントをかけ、噛みつきのような原始的な攻撃を織り混ぜる……ものの、その全てをテトちゃんは回避しきった。


「ッ! 右に飛べ、ホブゴブリン! 『バインド』!」

『ファイア!』


 テトちゃんの攻撃が途切れた瞬間だった。

 それは攻めあぐねたテトちゃんに疲れが見えた証拠だと思い込んでしまい、リィルが魔法の詠唱をしていたことに気づかなかった。

 それに気づいたのは、本当に魔法の発動間際。しかも運悪く、ホブゴブリンが攻撃を仕掛けようと走り始めた瞬間だった。

 俺は咄嗟に回復していたMPを使い、リィルへと妨害魔法を放つ。例え敏捷値を数パーセント落とす効果だとしても、部外者の介入を悟れば攻撃は鈍るはず。

 その予想に賭けた。


 しかしリィルは顔をしかめた程度で、そのまま魔法を発動させる。

 ホブゴブリンが俺の命令を果たすために足を踏み出そうとするがーーもう明らかに遅い。


 ジュボッ


 あの火力の強いライターーターボライター?ーーをつけたような音をたて、上半身を焦がす。ホブゴブリンは地面を転がり鎮火を試みる。

 もうその火が致死のものと判断したのだろうか、矢をつがえ、構えたまま放つことはなかった。




 火が消える頃には、ホブゴブリンはもうほとんど体力が残っていない様子だった。

 虫の息で、もはや立ち上がることもできず、トドメを刺されるまで睨み付けることしかできない。


 テトちゃんは弓を左手に持ち変えると、矢をつがえてキリリ……とホブゴブリンを狙う。

 その矢が放たれようともホブゴブリンは避けることができない。しかし死ぬとしても道連れにしたかったらしい、どこにそんな力が残っているのか不思議なほどの速さで、こん棒を投げつけた。


 さながら遠距離武器でのクロスカウンターだ。

 矢は眉間へ、こん棒は頬へと突き刺さる。

 どちらも木の棒といえば木の棒だが、矢には当然鉄製の鏃がついていて、こん棒は太いだけでただの木の棒だ。

 威力はどちらが高いかなんて言わなくてもわかる。それに射手のステータスも、テトちゃんの方が高い。


 テトちゃんは顔を反らすことで被害を最小に抑えたようだが、可愛い顔に似合わず鼻血がでている。ホブゴブリンはそのまま絶命したようだった。

 お疲れ様、次に会うことがあれば今度はきちんと育ててやる。ごめんな。



『大丈夫かい、テト?』

『……はい、不覚を取りましたが、掠り傷です』

『それならよかった。少し休憩したら奥に進もうか』

『はい』



 どうやら奥へと進んでくるらしい。教えてくれてありがとう。

 リィルがテトちゃんを回復すると、鼻血は止まり、受けたダメージや痛みは全て消えたようだった。所詮削ったのはリィルのMPだけだったか。


 しかしこんな小さな傷でも頻繁に回復するほどだ、よほどMPがあるのか、もしくは考えなしのバカか。

 できれば、後者であってほしいものだ

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