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旅人 白鳥 恵子 Lv.7

スマホ壊れても4日あれば、かけるんやなって。

ああ、これは夢だ。はっきりと理解できる。所詮『明晰夢』と呼ばれるやつなのだろうか。

ふわふわと浮かぶ身体は、まるで実体など無いかのようで。腕を動かそうとしても、横を向こうと首を捻ろうとしても動くことは無い。……でも、それを不安に思うことも無い。

その夢は三人称視点で紡がれる。

まず始めに見えたのは、隆昭くんの姿。大好きな、彼の姿に、涙が出てくる。一日会っていないだけなのに、なぜこんなにも懐かしく思えるのだろうか?

夢の中で、彼は走っていた。私の家や実家に訪れては探す、学校や友達に会ってはしどろもどろに私の行方を聞く。彼が走り回り、たくさんの人に声をかけ、その度に泣きそうになっているのを、私は空中に浮かび、見つめ続けている。

彼は遂に警察に捜索願を出した。「行方不明者が多発しており人員が足りない」そんな言葉を聞いても押し付けるようにして受理させていた、しかし見つかるはずもない。だって私は……私たち『神に拐われた人』は異世界にいるんだもの。


スマホで画像をスライドしたように、場面が切り替わる。

どれを見るかを選んでいるかのように10秒ほど夢が見えたらまた切り替わる。幾万もの夢が浮かび、視界に捉え、理解する前に沈んでいく。そんな、ことを数十回。いや、数百回かもしれない、数万回かもしれない。そんなに繰り返した頃、1つの……とても優しい夢があった。

私と隆昭くん、それとクロノスが一緒に暮らす夢。

これは未来の夢なのだろうか?私も隆昭くんも、若干成長して大人になった気がする。

赤ちゃんのため飛ぶことが出来ないクロノス──今とさほど変わったようには見えない──は、家のなかで羽をぱたぱたと動かしながらも走り回る。

時に隆昭くんの膝の上で丸くなり、可愛らしい寝顔を見せてたり、庭先で虫を突っついている姿が見えた。

私も何度も登場する。エプロンをつけた私がスーツを着ている隆昭くんにお弁当箱を渡し、どちらからともなくキスをする。クロノスが自身の羽で目元を隠しているのが笑えてしまう。大学を卒業したあと、結婚して隆昭くんは就職したのだろうと頭が勝手に辻褄を合わせ、その未来に見惚れる。

夢はまだ続く。

家の掃除、食器洗い、洗濯物……と家事を済ませた私はソファーでクロノスと一緒にテレビを眺めている。──あ、なるほどなんか違和感を感じると思ったらそういうことか。

この夢の私は、妊娠してる。

クロノスを撫でたあとにそっとお腹を撫でる仕草で納得がいった。階段を下りるときや掃除機をもって部屋を移動するとき、なぜか足並みが不自然だった。

……そっか、私も妊娠するんだね。

夢が終わっていく。──夢の私が微笑む、隆昭くんが微笑み返す。クロノスも翼を高々と上げて返事をする。その笛のような音色には、どんな思いが込められているのだろう?今の私にはスキルがない。

彼の意思をちっとも理解できない。



『残り時間5時間2分57秒』



私はどうやら、2時間ほど眠っていたらしい。私の無事な方の腕……右腕を枕にして眠っているのはクロノス。私は涙を拭こうとするけれど、クロノスを起こさないようにするとなると、出来ない。まだクロノスが起きないなら、もう少しだけ泣いちゃおう。いつか。……いつか、あんなに優しい夢のようになるのかな。

私は、幸せになれるのかな……。

クロノスを見る。ベビーファイアドラゴンの彼は、もうすでに赤ちゃんとして相応しくないほど強くなった。リザードマンを倒したとき──私が即死させたんだけど──クロノスはどこかふっきれた顔をしていた。けれど、思うにまだクロノスの過去は清算しきれてない。

私は私の目的(こわれたかみどめ)のために最下層を目指し、クロノスはクロノスの目的のために地下へと進む。お互いにレベルアップが必要で、目的もほぼほぼ一致しているのが現状なんだ。

「……クロノスは、どこまで私についてきてくれるかな」

返ってくるのは寝息だけ。

「ステータス」


────────────

名前:白鳥 恵子

年齢:19歳

性別:女

種族:人間

職業:旅人

レベル:7/99


体力:105/152(158/228)

魔力:65/71(98/107)

攻撃力:43(65)

防御力:95(151)

敏捷:56(84)

精神力:58(87)

幸運:30(45)

所持金:921ロト


装備

右腕:スピアー(攻20)

左腕:

身体:ローブ(防10)

   胸当て(防20)


アイテム

手斧(攻15)

短弓(攻20)


スキル

槍術3

体術1

回避3

刺突2

威圧1

投擲1

隠密1

滅槍グングニル2

魔物語1


従魔ペット

クロノス▽


固有スキル

流浪▽


称号

頑丈▽

歪な器▽

────────────


体力が結構減っている。寝ていた間に回復していたようだけれど、それでも6割程度かな?

ちらりと左腕に目をやる。ジュクジュクと嫌な音を立てながら腕が再生している、あと何時間で治るのだろうか……。これもステータスの恩恵だとしたらこれがこの世界の常識なんだ、慣れよう。……あ、でも腕動く。動かす度に鈍い痛みを感じるし、物を掴もうとすると力が入らない。

他の能力へと目を向ける。……防御力がほかに比べてほぼ2倍近く違うなぁ。この値に装備分が足ささるんだよね。リザードマンの一撃ってすごい攻撃力だったんだなー。この防御力で削ってなお私の体力を5割は持っていったんだよね?ああ、怖い。次にあったときは逃げるとしよう。

スキルで新しく増えたのは1つだけ。『体術』ね、リザードマンの腕に組み付いた時、かな。スキルレベルが上がるのだってまだどんな原理か理解できてないんだ。一定回数使うって可能性が一番高いけれど……まあ、街へでも行ったときに聞いてみよう。


そして最後。称号だけど……

『歪な器』……?

新しく追加されていたそれは、『頑丈』とは違う、灰色で書かれていた。まるで機能していないような?とりあえず名前の隣、折り畳まれた説明を開く。


『■■■■■■■■■。使用後消費。■■■■■■■■■■』


「……まだ非公開、ってこと?」

言ってて何となく違う気がした。そして、これを使ってはいけないという強い思いも。なんだろう、核爆弾のスイッチを握らされた気分だ。……まあ、でも。私が使うと言わない限り使われない、それが唯一の救いだろうか。

9文字と10文字?うん、当てられる気がしないね。

ため息を1つ。次はクロノスのステータスを見せてもらおう。


────────────

種族:ベビーファイアドラゴン

名前:クロノス

レベル:1/5(成長限界で進化)


体力:131/131(147/147)

魔力:106/106(114/114)

攻撃力:89(96)

防御力:96(106)

敏捷:131(137)

精神力:136(142)

幸運:1(4)


スキル

下級魔術(火・風・光)1

回避2

体力自動回復1

変身魔法1


固有スキル

ドラゴンブレス2

裂壊1


称号

従魔▽

虐げられし子▽

繰り返す者4

────────────


わぁすごい!レベル1のステータスじゃない!

……なんで6レベル差で私よりほとんど上回っているのか。種族の差か、贔屓か。

裂壊は良いとして、変身魔法だよね。人型になれたりするのかな?期待が高まるね!

『……ピィ?』

「おはよ、クロノス」

『ピ~』

頭をすりすりと擦り付けてくるので撫で回す。クロノスはもう嫌がることもなく受け入れてくれている。鱗がスベスベとザラザラで気持ちいい……。

『ピィーピッピ!』

やっぱり私の前にステータスは現れない。でもクロノスの前には現れているのだろう、虚空に目を滑らせて数秒。クロノスが階段を指した。

「ん、行こっか」

左腕が痛むけれど、2時間も寝てしまった以上はやくレベルアップしたい。もうこの世界に来て10時間ほどだろうか?




おおよそ3階部へと着いた。このダンジョンへ入ってからどのくらいの時間が経っただろう?1階部だったら空が見えたから良かったけれど、どうやらここは入り口のような洞窟スタイルらしい。

……ダンジョンの中ってどうなってるんだろうね。


洞窟の分かれ道を進む……クロノスが先導してくれているけれど、実際のところ道が分かってるわけではなさそう。

『ピィ……ピッ!』

また分かれ道だ。T字路があり右に宝箱、左からはカメレオンのような魔物が来ている。とりあえず魔物から倒そう……宝箱消えちゃったりしないよね?

『ガ、ギィィッ!』

クロノスがスキルを発動させ、敵に殴りかかる。今までと違うのは軌道上に自分の、そして敵の血が飛び散っていることだろうか。早すぎて見えないけれど、何度も何度も敵に一太刀浴びせては通り抜け、引き返してはまた一太刀。言うなればヒット&アウェイを一瞬で数十回繰り返すスキルが『裂壊』なのだろう。

カメレオンが悲鳴をあげながら後退し…体皮の色を洞窟の壁と同化させた。

姿が捉えられない……訳ではなく、流石に傷口や血の色まで変化させることが──あれ!?出来るの!?完全に消えたんだけど!?

と、とりあえず今までいた場所に槍で攻撃してみよう。石突で横殴りにするように……いない?

あ、でも若干先っぽが掠めた感覚があった。逃げてる最中だったのね。なら……

「クロノス!」

私は方向指定のために指差しで指示する。クロノスは私の指示をきちんと理解し、火を口元から漏れさせた。

『ガァァァ!』

出来上がったのはカメレオンの丸焼きでした。クロノスのおやつとして最適じゃないかな?というかクロノスってレベル詐欺だよねってくらいに強いね。なんでいまだに進化しようとしてないんだろう?

『……ピィ?』

「うん、食べても良いよ?」

『ピィィ』

クロノスがカメレオンにガツガツと食いかかったので目を反らして私は宝箱へ。……丸焼き死体も消えたりしないのかな?

宝箱オープン!

そこにあったのは1本のダイナマイト。流石に困ってしまう。

ポケットに入れて名称確認するけど……ポケットの中で爆発したりしないでね?

『ダイナマイト(攻100、消費)』

と書いてあった。つまり使うとなくなるけれど攻撃力100の武器……それ強くない?問題はアイテムが6個目ってことかな。

『ピィ?』

「おかえり、クロノス。美味しかった?」

『ピィ~』

クロノスの頭をなでなですると気持ち良さそうに目を閉じるのが可愛い。……クロノスは強いもんね、流浪に頼らなくても戦えるかもしれないもんね?それに駄目そうならダイナマイト投げれば流浪発動するし、持っていこうか。

「ぅ、く……っ」

そう決めたとたんに、体が重くなった感覚がある。流浪が切れたんだと思う。全能力値1.5倍が凄まじいということを理解させる身体のダルさを無視して歩を進める。



曲がり角を曲がった先、うねうねと茎をくねらせている植物が2本。それは黄色い花を咲かせるタンポポと白く染まったタンポポの綿毛だった。

「流浪が切れてて2体は厳しい、かな……?」

でもクロノスが植物は得意だし、最悪ダイナマイトで爆殺すればいい。私だってレベルアップしてるんだ。いける、いけるはず……!刺突全開で!決めさせて!

嫌な予感がするので綿毛の方を攻撃!蔓を地面から生やそうがそれを貫通して突き刺す!──ッ!?

慌ててローリング回避。ローブに土汚れが出来るけれどそんなことは気にしてられない。

「爆発……自爆したの?」

穂先が綿毛の一部を突き刺し、吹き飛ばしたのは分かった。そこでうなじがざわめいて、バチィという火花が見えたので回避した。その判断は正しかったようで……正直、それ以上のことは理解できてない。

『ピィッ!──ガァァァ!』

クロノスが追い打ちとばかりにブレスを浴びせかけるけれど、敵は2体いた、警戒しろって感じに声をかけられてしまっては主人として立つ瀬がない。

また爆発音。洞窟で火を使うなとか黒い煙で前が見えないとか!そういう文句はどこへ言えばいいの!?神様か!ここへ連れてきた神様かー!?

「おりゃぁ!」

黒煙から出てきたのは蔓。どっちのかは分からないけれどとりあえずの迎撃に槍の柄……太刀打ちのところでぶっ叩く。

クロノスにも蔓が襲いかかるが、そこはまだ赤ちゃん。それに攻撃されるのって何気初めてのクロノスは避けられない。強かに打ち付けられるが、正直ダメージが入った気がしないね。鱗で逆に蔓へダメージが入ってても納得できる。

……黒煙が晴れる。いったいどこへ消えたのかは分からないけれど、とりあえず洞窟の中で発生した煙が消えた。

タンポポの花咲いてる方はピンピンしてた。焦げ目も無いのでノーダメージなのかな?

一方綿毛の方は死んでるんじゃないかと言うほどにボロボロで、見る影もなく真っ黒だった。あ、でも生きてる。なんとか攻撃しようとしてきてるね。

そこで取り出すは短弓。装備するのははじめまして。どうぞよろしく。ところで、その……矢は、どちらでしょう……?


「使えないじゃない!?」

『ガァァ!』

何してんだとクロノスに呆れられながら、タンポポ綿毛の方がブレスに焼かれていくのを見守る。

というかそう、矢があっても片腕の痛みを感じながらだと当てられる気しないんだけど。もうこれ捨てちゃって良いかな?


『てーてれてってってってーっ』


ん、クロノスがレベルアップしたのね。まあ、今はステータスなんか見てる暇ないよね。

片腕で決まるかな?とりあえずやってみよう、殺意が足りないから出来る気はしないけれど……ッ!

「滅槍グングニル!」

ああ、やっぱり黒い靄は無いね。あれ確率発動って言ったけど私の殺意が一定値以上とかって言われても納得できそう。それにあのスキルを完全に理解できたのはなんなんだろうね。新出スキルって訳じゃなさそうだし……。

グングニルは真っ直ぐに飛び、タンポポの黄色を半分ほど消し飛ばした。可哀想と思うことなかれ、どうせ燃やす。

『ガァァ!!』

ほらね、燃えつきた。


『てーてれてってってってーっ』


ああ、やっぱりドラゴンって成長が早いね。それに強くなるのも段違いに速い。……クロノスがステータスリセットを行ってるから良いものの、使ってなければいったいどれほどの強さになっていたのか。いや、逆か。これで進化したらどれだけ強いドラゴンへと進化するのだろう?

クロノスと目が合う。……首をかしげているのが可愛い。

『ピィ?』

ん、またステータスは見ないつもりなのかな。まあ、見ても敵倒せばすぐに上がっちゃうもんね。関係ないか。

「さ、次いこう、クロノス?」

『ピ、ピィ?』

「うん、行こっか?」

『……ピィ!』

洞窟の奥からガリガリ、ザリザリと何かを引き摺るような音。敵、かな?ッ!!

「クロノス回避ッ!!」

『ピョィ!?』

クロノスに警戒を促した私は横っ飛びするけれどいきなり襲ってきた炎を避けきることが出来ず……クロノスはどっちに逃げればいいのか分からずあたふたして炎に呑まれる。

「……クロノス、無事?」

『ピィ……』

私はクロノスの方を見ないで質問する。目の前には2体の魔物。

天井から逆さまに生えている植物は見たこともない。花弁の落ちた向日葵のようなその顔を私たちに向けながら、バチ…バチィ…!と雷で音を立てて威嚇する。怖いよね静電気。

そして地面、さっき私たちに炎……いや、あの程度クロノスのブレスに申し訳なくなるようなライター並の威力もない火を吐いた一匹の蛇。見た目は茶色っぽい色に赤い線が……血管なのかな?それが脈動してる。

それにしても、こいつらさっきのリザードマン並みの強さがありそう。強くなったクロノスはいいけど、

私は流浪がないと厳しいかな?

向日葵が雷を私たちのほうへと飛ばしてきたけど、あれってどうやって操ってるんだろう?魔法なのは分かるけど。

私は右に、クロノスが左に横っ飛び。もう大分息を合わせられるようになってきた。そして、クロノスとアイコンタクト。クロノスが翼をパタパタさせながらバックステップを取る。

ポケットから取り出したのはダイナマイト。これが消えれば流浪も発動する!

──火は、どうやってつければいいのかな!?

身体から魔力を奪われる感覚、でもそれはちょっとだけだ。ダイナマイトに火がついた。私は慌てて投げつける。ヘビがクロノスの方向へと逃げ出したのは見えたけれど、今更どうしようもない。


轟音。


爆風の中に、ヘビはいない。

当たった方の向日葵も少し焦げているだけで、対してダメージを受けた様子も無い。そこに流浪の発動する感覚。腕力こうげきりょくも敏捷も上がった腕で槍を握りなおし、投擲する。そしていつもの詠唱。

「滅槍グングニルッ!」

黒い靄は出ていない。でも、それでいい。攻撃が当たったならそれでもいい。多分、私の予想通りなら、『グングニル』と『裂壊』は使わないほうが後々楽になるスキルだ……。

ヘビがクロノスに襲いかかる。お互いにブレスを吐き出す。クロノスの吐いた炎がヘビの炎を飲み込んでいく。

『ギ、ガルァ!!』

クロノスの姿が掻き消える。そのヘビが体中から血を噴き出しのたうち回る。姿を止めたクロノスも身体から血を流している。いったいどちらが攻撃をしかけたのか分からないじゃない。

おっと。向日葵の雷攻撃を避けて刺突を放つ。

向日葵の召喚した蔓を避けることもせず、その蔓ごと刺突で突き刺す。その一撃は、傷つけ続けてきた茎を捉え、確かにへし折った。

死体が光の粒となって消えていく。残ったのは少しのお金だけ。それでもゴブリンの量に比べたら大量だ。それだけの相手ってことだよね。

さて、クロノスの方はどうなってるかな?

クロノスは『裂壊』を使わずに自身の爪で攻撃している。ヘビも噛み付こうとして、回避しようとしている。なんというか、すごく……キャットファイト……。ヘビがブレスを吐く、遅れてクロノスもブレスを吐いた。クロノスの炎がヘビに押されて、互いに消滅する。

そろーり、そろーり……私は気配を消して──消した気になって?──ヘビの後ろへ回り込む。クロノスが驚いたような顔をして、ヘビが私のほうを向いた。

「刺突ッ!」

声を出せばどうせバレていた、それに攻撃範囲まで近づけた。避けようとしたヘビの体皮を掠めるようにして穂先が当たる。そのまま掬い上げるようにして洞窟の壁へとぶつける。とどめとは行かなかったようだけど、それでももうヘビは瀕死だ。

クロノスが口端から火を漏れさせて、攻撃態勢へと入った。火属性を炎で仕留めようとするその姿勢嫌いじゃないよ。

洞窟の天井から岩と呼べるほどの大きさが落下してきて、クロノスの背中にぶつかった。驚いたクロノスがそのままブレスを吐き出して……ヘビだけじゃなく私にも襲いかかって来た!?

「せぇいっ!」

扇風機のようにして槍をくるくると回し、炎を追い返す。咄嗟にやっちゃったけど、出来るかな……?

「おおっ、できた!」

炎が晴れていく……。そこにもうヘビはいなくて、残っていたのは数枚の銀貨だけだった。


『てーてれてってってってーっ』


リザードマンに一歩とどかない程度の魔物、だったのかな?そいつらを2体倒してやっとレベルアップするなんて……クロノスも必要経験値上がってる?いや、なんていうか、そういうことじゃなくてね……。

うーん、分からないしいいか。どうせ敵を倒しまくってたらレベルは上がるし。

次!次行こう!早く髪留め取り戻そう!

私たちは洞窟を進む。敵に会うことも無く、数分間、クロノスを胸に抱いて通じてるのか分からないお話を楽しみながら、それでも警戒は怠らず……進んでいた。

曲がり角を曲がる。曲がったとき、とても後悔した。

足元が光る。

眩しくてとても直視できない……魔法陣!?円形に何か文字のようなものが見えた、だとしたらこれはなんの魔法が発動するだろうか?爆発か、毒か、拘束か……ッ!

ふわりとした浮遊感。──転移!?

一瞬の浮遊感が終わるとすぐに回避行動を、だめだ、間に合わない。ダメージは無いものの、クロノスともども吹き飛ばされる。ワンバウンドして受身。クロノスは……うん、無事だね。すごい真面目な顔で敵たちを睨んでいる。真面目な顔をしたクロノスも可愛いなぁ。

はぁ……。

リザードマン2体とかありえないでしょ。しかも転移先で出待ちとか人間のすることじゃないね。相手は魔物か、●そ。刺突。

『GAAAAA!!!』

大きな刀で振り払われる。私の防御力を越えたことのある、叩き潰すようにして切るタイプの刀は、軽く振られただけでも体格差ではじき飛ばされる。……防御に頼るな、回避に専念して長期戦に持ち込むんだ。

『ピ。──ガァァッッ!!!』

クロノスがもう一体を引き受けてくれている。バックステップで放たれた広範囲のブレスがリザードマンBの方を完全に包み込み、全身を炙り尽くす。

『GYAAAAA!?』

嫌そうな、苦しそうな断末魔をあげながら大きな刀を振りかぶるリザードマンは勝ち目が薄いと察してるのか、大振りで確実に殺しに行こうとしている。でも、クロノスは小さく鳴いてスキルを発動させた。

『……ガギィィ』

クロノスの姿が掻き消えた。そして、一回瞬きするとリザードマンがピタリと止まり、全身から血を噴き出して絶命した。


『てーてれてってってってーっ』


すごいなぁ、クロノスは、赤ちゃんなのに、もう格上の魔物を圧倒できるほどに強くなっている。ドラゴンって、強いんだなぁと再確認させられる。

……そして、住む世界が違いすぎるのだということも。

4回打ち合った。。私が2発当てて、リザードマンが1発当てる。刺突にかけて攻撃していたけれど、穂先が皮膚を傷つけることが出来なかった。でも、それはリザードマンも同じこと。私を吹き飛ばせはするけれど、それだけ。

お互いにダメージが通らない。言うなれば『かたくなる』しか覚えてなくてとりあえずで技を繰り返しすぎたサナギかな。あの戦いは子供ながらに現実を勉強できたと思うよ?

「滅槍グングニル!」

リザードマンが黒い靄の出ていない槍を避ける。でもね、その避けさせるのが目的なの。

『ピィ!』

上手く懐へと潜り込んだクロノスがその小さいながらに鋭い爪でリザードマンの腹を切り裂く。

「GYAAA!!!!GAAAA!!!」

リザードマンの右腕……刀を持つ腕に赤い光が点る。スキルかな?少し警戒していると、3回素早く振り下ろしで攻撃を仕掛けてくる。振り下ろした後の返す軌道が見えないから……3回連続の攻撃スキルかな?っと。私に1発しか攻撃来なかったし、当てられないとスキルの意味無いんだよ?

「少し実験させてね!」

リザードマンがスキルの反動か、刀を振り下ろしたままで息を荒げるだけだったので私は走って接触。

この世界が地球の常識効かないとしても、急所はあるのかな?膝に足をかけて一気に頭に抱きつくようにして左手を後頭部へ、右手を顎へ。そしてガシッと掴んだリザードマンの顎を右耳の方向へと捻るようにしながら上げるッ!

──ゴリィン。

と若干嫌な音をさせながらリザードマンの首があらぬ方向へと曲がった。あ、でも生きてるみたい。すごいね、地球の生き物なら首の骨殺っても生きてるとかありえないよ。

リザードマンが自身の首を元の位置に戻そうとしているところでクロノスがリザードマンの首筋に爪を沿えた。南無三。


『てれてれててててん』


『てーてれてってってってーっ』


二人で同時にファンファーレなんて、いつ以来だろうか?あ、前にリザードマンを倒したときか。

転移のせいで、今何階か分からなくなってしまったけれど、進んではいるだろう。

……もう少し。もう少しであの土偶から髪留めを取り返せる。

取り返したからどうするってのは考えないようにする。一度止めた足は動かせないと学んだばかりだから。



『残り時間4時間6分56秒39……』



『現在のレベル8、次のレベルまで4191EXP』

『残り時間7時間59分59秒』

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