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ダンジョンコア 間宮日向 Lv.4⑨

 どう攻める。それが問題だ。


 俺のやってることは基本的に騙し討ち、それから身内だからできる先読みだ。特にゴブリンはこのダンジョンを守る上で、一番扱い、一番戦いに出向かせ、そして一番死ぬのを見てきた。

 逆に言えば、どうやれば殺せるのか。どうやって殺されたのかを見てきた訳だ。


 それを、再現する。


 もちろん俺は剣を上手く扱える訳じゃない、突き刺しても浅く、すぐに脇に反れたり、骨に刺さって止まったりする。剣が肉に掴まり抜けなくなることもあるだろう。

 魔法もそうだ。俺が使えるのは『バインド』ただひとつ。

 炎を出すこともできなければ、水を打ち出すことも、風で吹き飛ばすこともできない。だが、俺はこの世界の人間ではない。


 人間は松明を使って火を持ち運ぶことができる、ライターで火を起こすこともできる。

 人間は水筒を用いて水を持ち運ぶことができる、水道とホースがあれば勢いよく打ち出すこともできる。

 そんな便利なものがないとしても、作れないとしても、そこで諦める理由にはならない。やり方は他にもある、それを俺は探して扱うだけだ。


「ギャアアア!!」

「と、言っても」


 もう魔力はない。バインド1発で打ち止めになったことで、俺は体術と剣術でゴブリンEを殺さなければいけない。

 あと二回の攻撃を当てるために、どうやって相手に隙を作る?


 イグアナは圧倒的な暴力で補った。

 アーサーは質のよい得物と、自身の被弾で補った。

 ナズナは見惚れるほどの技量で。

 ハウルは自身のルーツとも言える個性で。


 なら、俺は?



 再び右手を前へ突き出す。ゴブリンEは警戒しているものの、怯むことなくこちらへと距離を詰める。


「『召喚』スライム!」


 ーーまずは個性を。ダンジョンコアという種族を使う。

 ゴブリンEは突然足元に産まれたスライムを踏み、その粘性に足を取られてよろける。転びはしない。

 俺は両手で持った剣を振りかぶる、合わせるようにゴブリンもこん棒を振りかぶるが……体勢はめちゃくちゃ、軌道は大振り、そしてなにより、先読みしやすい。


「うーーらぁ!」

「ギャアア!?」


 ーー次は見よう見まねの技量で。

 受け流し、そのまま踏み込みから首を狙って剣を振るう。

 体感時間は遅い。

 今までの人生でしたことのないほど強い踏み込みは、どれほど剣に勢いを伝えられただろう。

 刃を当てるために両手で抑えた剣は、回ることなく手元に収まっているだろうか。

 間合いは、タイミングは、呼吸は……そして、覚悟は。


 血しぶきが舞う、ゴブリンの首から出た血が俺を汚す。

 が、浅い!

 俺の振るった剣は、ゴブリンの首を確かに切った、けれど、切り落とすには至らなかった。


「くっそ!」

「ーーーー」


 ヒューヒューと切れた喉から空気が漏れている。つまり、まだ生きている。

 ーーならば、人間としての体格差で、圧倒的な暴力で。


 ゴブリンEの胸を蹴りつける。俺も後ろへ押し返されるが、瀕死のゴブリンは耐えることができず、後ろに転ぶ。

 首半分でしか繋がっていないはずの頭は、落ちることなく双眸をこちらに向けている。その目はまだ殺意が残っている、戦意がある目だった。


「最後に、得物の差だァ!」


 剣を振りかぶる、この剣ならナズナのように、こん棒を切り落とすことができるはずだった。

 技量の差か、それこそ得物の差か。こん棒に刃を受け止められてしまっている。

 ……ごめん、アーサー。


 なんとか剣を取り返そうと、剣を引いてみるが抜けない。押してみても切れない。瀕死のゴブリンはこん棒を放さないようにするので必死で攻撃が飛んでこないのが不幸中の幸いか。

 こん棒は抜けない、ならばこう考えよう。抜けなくても良いじゃないかと。


 剣を手放し、倒れてるゴブリンの側面に回る。

 瀕死のゴブリンは剣を手放した理由がわからないらしく、数瞬の遅れのあとに立ち上がろうとしていた。

 が、そんなことはさせない。やることは簡単だ。

 ゴブリンの登頂部に生えている髪を踏むようにして左足を置く、添えるともいう。そして右足を後ろへと引きーー


「友達はボール!」


 ーー蹴り上げる。

 ブチィと嫌な音。胴体から離れた球体がコロコロと転がっていく。誰もいない方向に向けて蹴ったから、血を浴びたのは俺だけのようだ。


 ……勝った。どれだけ醜くて悲惨でも、返り血まみれで無粋なやり方だったとしても。勝ちは勝ち、俺を殺そうと全力で襲いかかってきたゴブリンを、返り討ちにできた。

 ゴブリンの死体を還元する。1DP程度しか回収できず、全然元が取れていないが、それ以上の収穫はあった。

 俺の経験値、戦闘訓練、そして……新スキル。


 剣術1

 その名の通り、剣を用いるためのスキルだ。今回の戦いで剣を必死に使ったからこそ、世界に認められたのだろう。純粋に認められるのは嬉しい。

 そしてSPを使うことなく獲得できたことも。



「お疲れ様、日向くんっ」

「ああ、ナズナ。こんなに血まみれだけど、なんとか勝てたよ」

「うん、見てた。びっくりしちゃった、ほんとに倒しちゃうんだもの」


 やっぱり俺が倒せるとは思わなかったらしい。ステータスも低く、剣の腕も素人だったのだから当たり前か。


「ダンジョンマスターとして、沢山の戦いを見てきたから、こう動くんじゃないかなって予想ができる。眷族なら、なおさら」

「うん、それが日向くんの戦い方なんだね?」


 他の眷族たちに集まってくれたことの感謝を伝えてから、解散の流れとなった。

 いつ侵入者がくるかわからない。今回みたいにみんなで集まって訓練ということはできることの方が少ないだろう。


 今後は、ハウルやアーサー相手に少しずつ剣術を鍛えていくことにしよう。

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