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ダンジョンコア 間宮日向 Lv.4⑧

一ヶ月ぶりの更新となります。

『アーサー』と名付けたナイフ持ちゴブリンが運ばれていく。精神汚染の胞子が舞う部屋で、侵入者が使い捨てたナイフを持っているだけのゴブリンだったが、思いの外成長していたのかもしれない。

 進化すれば、ハウルに劣らない戦力になってくれるだろう。その時にはハウルがさらに進化して強くなってるかもしれんが。


 決闘も次で3戦目、つまり半分まで来たわけだ。

 3戦目のこちらのメンバーはホブゴブリンの『ハウル』ーー



 ーーと行きたかったんだが、どうも戦わせまいと後回しにされていると思ったらしい。

 ナズナが直談判してきた。俺の左腕を抱きしめるように押さえつけ、至近距離からサファイアの瞳が見つめてくる。地球では恋人ができたことはなかったが、もしいたらこんなことを日常的にされていたのだろうかという考えを頭を振って掻き消す。


「意地悪してるわけじゃないんだ」

「じゃあなんで私を戦わせてくれないのっ」

「順番だ」


 いや、本当に。

 俺とナズナは『ダンジョンコア』と『フェアリー』で、人間ではないが人型をしている。魔物というよりは、侵入者側に近い。

 だからこそ、まずは魔物VS魔物という構図の決闘を先に消化し……最後の2戦は人型VS魔物という構図にしようとしていた。

 なぜって言われると「なんとなく」が一番近いんだが……ほら、こう……わかるだろ?


「理由がないなら私が先に戦うっ!」

「理由は、ないけど……」


 助けを求めるようにハウルを見る。

 ハウルは俺の意図を読み取ったかのように、手に持っていたこん棒を手放した。

 木製の音が響く。


「……ハウルはまだ準備できてないみたいだから、先にナズナが戦ってくれるか?」

「うんっ わかった!」

「危なくなったら、命令してでも止めるからな」

「それでもいいよっ」


 よほど嬉しいのだろう。スキップして、鼻歌まじりに部屋の中央へと向かっていく。

 まるで恋人とのデートに向かう女の子のようで、生き物を殺しに行くようには見えなかった。

 本当に、これでいいのだろうか。


「私が戦えるんだってところ、見ててね」

「ああ、ナズナが戦うところ、見てるよ」




 ゴブリンCの前で、ナズナは立ち止まった。決闘の開始は俺の『命令』らしいから、お互いに準備する間、相手をよく観察しているのがわかる。

 ゴブリンは持っているこん棒を掲げながら、イヤらしい目でナズナを睨み付け。ナズナはとんとん、と靴を鳴らしたあと剣を構える。

 ナズナの構えは中段、日本の剣道に近い型をしているように思えた。


「ゴブリンCに『命令』する。ナズナを殺せ」


 俺がそう言うものの、二人は睨み合っては動きがない。


「先手は譲るよ、ゴブリンさん」

「ギャアアアア!!!」


 ナズナは指をくいくいっとさせて挑発した。

 その動作はゴブリンでも誘われてると思ったのだろう、雄叫びを上げて距離を詰める。その速度は遅い、しかしナズナは動かない。


 ナズナはゴブリンが十分に近づいてきてから、振りかぶられたこん棒を剣で受け流した。遅いとはいえ、振り下ろされるこん棒に自分の得物を添え、流れを反らすことが初心者にできるのだろうか?

 ナズナはそのまま下がって距離を開ける。


 再びゴブリンが距離を詰めた。ナズナは受け流すことなく、そのままステップで回避する。

 またもや攻撃することなく距離を開ける。


 三度、ゴブリンが距離を詰めこん棒を振るうが、ナズナが剣を振るとバターを切るかのように綺麗な断面でこん棒が両断された。

 切り落とされたこん棒の先っぽが、床を転がる。


「……ごめんね」


 ナズナは二回、剣を振るう。縦と横。首を切り落とす横凪ぎの一閃、その直後頭上から股下に抜ける縦割り。誰が見ても即死と判断できる、圧勝だった。

 ナズナは軽く剣を振るい、血糊を払う。

 そのまま膝をつき、殺したゴブリンへ向かって手を合わせた。それも一瞬のことで、すぐに立ち上がったナズナは俺のところへと戻ってきた。


「どうだったかなっ」

「あの受け流しとか、回避ってわざとか?」


 あの速度だから対処が間に合っただけで、恐怖で動けなくなっていたというならば戦闘には向かないだろう。


「きちんと動けるってところを見せたかったのっ すぐに倒しちゃったらわからないかなって」

「いや、それならいい。戦えるってことは十分わかったよ、お疲れ様」


 ナズナの表情はとても嘘を吐いているようには見えなかったし、生き物を殺したことへの罪悪感があるようには見えなかった。

 労いの言葉をかける彼女の髪を撫でると、ナズナは嬉しそうに微笑んで俺のとなりについた。その距離は少し近い。


 ……ゴブリン程度じゃ、ナズナには物足りなかったかな?





 続いて4回戦、ハウルVSゴブリンだ。

 ハウルはホブゴブリン……一度進化しているし、名前付き《ネームド》だ。アーサーほど苦戦はしないだろう。


 ハウルはこん棒をしっかりと構えた。それに倣ってゴブリンもこん棒を構える。

 ハウルの戦闘ってのは、何度か見たことはあるが、それでも何度か……数えられる程度だ。それに画面越しがほとんどだった。言っちゃ悪いが、ナズナの戦闘よりも興味があった。


「ハウル、全力だ。なんなら一撃で倒しても良いぞ」

「……ギャア」

「うるーーさくない?」


 ハウルはこちらを横目で見る程度で、特に何をするでもなく立っていた。その違和感に首をかしげながら、ゴブリンDへと『命令』を下し、戦闘を開始させる。

 ハウルは動かない。


 ゴブリンがバタバタと距離をつめる。ハウルはすぅ……と息を吸った。

 嫌な予感しかしなかった。


「ナズナ、耳塞いどけ」

「え? う、うん……」

「ーーーーァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!!!」


 大気が震えるほどの大声。俺が名付けた意味通り、ばかでかい声量を武器として使うようになったらしい。

 ゴブリンDは思わずといった様子で、こん棒を手放し、両耳を塞いでいた。

 ハウルは亜人走りで近づくと、そのまま無造作にゴブリンDの首を掴んだ。そのまま顔を近づけたハウルは、再び息を吸った。


「……うるせえ」

「すごい声だったね」


 ゴブリンDは気絶した。両耳から血が流れているが、鼓膜が破けるだけじゃなく、どっかが切れた可能性もあるな、あれ。

 そもそもゴブリンに鼓膜があるのかとか、あれ音魔法とかじゃないの? って疑問はあるけれど。それはそれとして。


 ハウルは倒す必要はないだろう、とでも言うようにゴブリンの首根っこを掴んではこちらに持ってきた。『命令』を撤回してから4階層に運ばせておく。目を覚まして、耳が治りきったら戦力として復帰するだろう。

 ゴブリンVSハウルの戦いは、たった二回叫んだだけでハウルの勝ちとなった。




 さて、決闘も最終戦。俺とゴブリンの戦いだ。

 眷族たちがみんな期待したような、バカを見るような目で見ている気がする。剣を持つ手が震え、すでに息は荒い。膝なんか震えすぎてきっと周りのやつからもわかるはずだ。


「それでも、俺はやるんだ」

「……ギャアア」


 一呼吸。剣を構える必要はない、自然体で、右手で持っただけの剣は、ただ手放さなければいい。

 一歩あるく、たった一歩足を動かすだけなのにそれがとても難しく感じる。それでも、転ばなければいい。

 生き物を殺すことへの忌避感がないわけではない、それでも俺は戦う。後で吐くでも泣きわめくでもなんでもすればいい。ただ今戦い、生き物を殺せればいい。


 向かい合うゴブリンが困惑したような目を向けてくる。ゴブリンEへと歩み寄りながら俺は試合開始の合図を告げる。


「ゴブリンEへ『命令』する。全力で俺を殺せ」

「ーーーー」


 ああ、これが殺気というやつなのだろう。

 台詞を口にした瞬間に目の前のゴブリンの雰囲気が変わったのがわかった。俺に向けられる悪意。叩きつけられる害意。

 足がすくんで動けなくなりそうだったので、無理矢理にでも俺から距離を詰める。人間の歩幅とゴブリンの歩幅は違うからか……俺が予想するより初撃は遅く訪れた。


 俺は下から掬い上げるように剣を振るうーーふりをした。フェイントのつもりだったが、ゴブリン相手には必要なかったかもしれない。


「ぐ……っ!」

「ギャアア!! ギャアアアア!!!」


 ゴブリンの攻撃は予想する数倍重かった。俺はこん棒に剣を添えるようにして、受け流しを狙う。ナズナがやっていたことの再現だ、一度見ているからこそ、できるはずだ。

 自分の体重移動、いつもより遅く感じる体感速度、ダンジョンから産まれた子供のような存在の思考を予測する。


 その全てがカチリと音をたてて噛み合った。


 受け流しが決まる。

 こん棒を外側へと反らしただけじゃない、ゴブリンの構えの内側へと潜り込めた。この狭いスペースでは剣を振るうことはできないが、ゴブリンのこん棒も当たることはない。剣先だけをゴブリンへと向け、皮膚へと埋める。

 肉を裂く感触と、手元まで飛び散った暖かい体液。


 ゴブリンが暴れ、こん棒を振りかぶるーーと思考を予測するーー体をそのまま腕に密着させて左へと移動する。攻撃対象が移動することで振りかぶるという動作を無駄にさせる。

 同時に刺さっていた剣を横へ動かすこととなり、皮膚へ埋まっていた穂先が脇腹から出てきた。また血がかかる。


「ギャアーーーーアアア!!」

「くっそ、順調だったのに」


 次いで、俺は左手での殴る攻撃を予想した。その攻撃を避けてからカウンターを狙おうとした。

 しかしゴブリンがとった行動は一度下がり、距離をあけて仕切り直すというものだった。


 一瞬の攻防だった。それでもゴブリンEも俺も、肩で息をしている。ゴブリンは腹から血を流し怒りの目を俺へと向けているが、対する俺は無傷だ。

 周りで見ている眷族たちも、信じられないといった視線を向けている気がする。

 ナズナなんか特に分かりやすい。危なくなったらすぐに助けるつもりだったのだろうか、それともすぐにゴブリンを『命令』で動けなくしてから倒すとでも思ったのだろうか。



 一息。呼吸を整える。再開だ。跳ねるように一歩進む。

 ゴブリンは咄嗟にこん棒を構え、無意識に一歩下がった。

 それでも歩幅の差で距離は縮まる。


 俺は落とさないように気を付けながら、剣を左手へと持ち変える。そして空いた右手をゴブリンへと向け、さらに一歩。

 ゴブリンEが困惑した様子のまま、少し距離をつめてくる。が、その視線は俺の右手を警戒しているのがわかる。周りの眷族たちも俺が何をするのかと注目している気がした。


 また一歩。剣の間合いより、更に一歩。そこに入った瞬間、俺は前へと向けていた右腕を、勢いよく体の外側に振るう。

 ゴブリンEの視線が僅かに右へと釣られ、左手で持つ剣へと警戒が薄れた。だからこそ慣れない左手での攻撃さえも当たる。


「ちぃっ!」

「ーーアアアア!!」


 が、ここにきて失敗した。

 ここは剣を振るうのではなく、突き刺すべきだったか。俺が振るった剣は、刃を当てることはできず、ただ側面で叩いただけだった。これで決着をつけるつもりだったから、次善策はない。アドリブで乗り切るしかない。


「バインド!」


 そう言いながら引き戻した右手で殴る。

 即席技、バインドパンチ。効果、斬るより殴る方が楽。

 バインドした理由は、少しでも回避や受け身を遅れさせてダメージにするためってのと、この後の戦闘でもデバフがあれば多少は楽になるからだが……効果があったのかはわからない。


 ……ああ、でも左手での攻撃の代償か、側頭部にこん棒の一撃を食らってしまった。直撃ではなかったとはいえ体力が2割近く削れてしまった。まあ、あと一発なら耐えれるだろう。

 そして魔力。決闘をやることなんか想定もしてなかったから今の一発でもう魔力切れだ。バインドしか使えなかったけれど、それを知っているのは俺だけだ。ブラフには使えるだろう。

 俺の体力は残り8割。ゴブリンはおよそ3割。



 さて、次はどう攻めよう……?

活動月報なるものを始めました。

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