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ダンジョンコア 間宮日向 Lv.4⑥

『残り時間3日13時間56分24秒』


「やることがねぇ……」


 ウィンドウ越しにハウルに妨害魔法を放つ。ハウルはまたか、という顔をするものの、対して気にした様子もなくロナを犯して遊んでいる。



 機械音声さんが、スキルは早くとって使い込んどけって助言をくれていたのを思い出して、特に実害がでないだろう今の余剰時間にハウルを相手に練習しておくことにした。


 MP的には、妨害魔法は3発放つことができ、4発目を放つとおそらく気絶する。だが、逆に3発までなら無駄撃ちできるということでもあった。

 この世界は寝れば早くMPを回復できるというだけで、起きていても緩やかに回復するらしい。だから回復し次第ハウルに魔法を放ち、回復したらまた放つという暇潰しをしていた。


 実践で使う前に効果を確かめておきたかったというのは確かだが、ここまで使い物にならないとは思ってなかった。

 どれくらいの効果かというと、50m走8秒00で走る奴にかけると8秒10になるくらいの差だ。つまり計測の誤差レベル。



 ハウルを表示していたウィンドウを消す。

 本当にやることがない。地球だったら暇な時間はスマホかゲームのどちらかをしていて、1秒たりとも暇な時間がないというほどだった。

 しかしこの世界にはスマホもゲームもないどころか、そもそも電気がない。




 どうやって暇を潰そうか……



 悩んだ末に開いたのは、四階層の牢屋……シャーなんとかと、シズクがいる牢屋だった。捕虜の監視でもしよう。


 彼女たちを一緒の廊下に入れてから、少なくとも会話が増え、顔色も多少良くはなった。

 短い鎖で拘束され、動けないシズクに代わり、シャーなんとかは甲斐甲斐しく世話をしていた。


 シャーなんとかはシズクのために生き、

 シズクはシャーなんとかを受け止めるために生きる。


 良い依存関係だと思う。シャーなんとかはまだしも、シズクに今死んでもらうわけにはいかないから。

 シズクのステータスを覗き見る。捕虜ならば、簡易的なステータスならば見ることができるらしい。



 ────────────

 名前:シズク

 年齢:24歳

 性別:女

 種族:人間

 職業:魔法使い(水)

 状態:妊娠 ゴブリンハーフ 10%

 ────────────



 こんな感じ。

 年齢とか職業とか、そんな感じのことしか書いてないけど、妊娠してる子供の種族、そして出産までの割合が見えている。

 つまりシズクは今妊娠1ヶ月か2ヶ月レベルということだ。そろそろ見た目にも変化が出てくる頃だろうか、といったあたり。


 シャーなんとかは置いておくとして、ダニィのステータスも見てみよう。



 ────────────

 名前:ダニエル

 年齢:20歳

 性別:男

 種族:人間

 職業:戦士

 状態:侵食 スライム 18%

 ────────────



 当時、ダニィ……ダニエルを切りつけて拷問した際に、そのまま出血死しないようにとスライムを体内に入れた。

 液体のスライムなら血液に混じって、内側から止血できるのではないかと考えた。塗る絆創膏の内側版のイメージで。


 しかし……異世界の傷の治る速度を舐めていたかもしれん。そろそろかさぶたでもできたかな、と思って見てみたらすでに傷は塞がっていて、スライムはダニエルの体内に取り残されたままだった。


 傷が塞がったのにスライムを取り出すためにまた傷を作るとか意味ないし、正直スライム1匹くらいどうということはない。

 だって今の2階層、どの階層よりも狭いのにスライムが630匹蠢いててえぐいことになってるしなぁ。

 沼地のはずがスライム床になってる。





 ウィンドウを全て閉じる。やはりというか、なんというか。

 ダンジョン防衛とは、侵入者あってのものだ。いくら捕虜からDPを採取できるとはいえ、やることが無さすぎる。


 暇だ。不能じゃなきゃハウルに混じっていたかもしれない。

 そんなことをすれば、ナズナに口聞いてもらえなくなりそうだけど。


 ああ、本格的に暇潰しになるものを考えないとな……こうしてようやくわかったが、ナズナは今までーー少なくとも2日間くらいーーの間、ずっと暇してたんだろう。

 だからこそキッチンをあれほど喜んでいたのだし。


「ひゅーうーがーくんっ」

「おう、開いてるぞ」


 コンコンとノックの音。噂をすれば、というやつか。

 ノックなんてしなくても変なことはしてないし、相手が誰かもわかってるだろうに、優しい子だ。真面目と言うのかもしれんが。


「えへへ、やることなくって……きちゃった」


 冗談とわかっていても、美人が部屋に訪ねてきてその台詞は……破壊力があるな。

 顔が赤くなってないか心配だが、できるだけ平常心を心がけてナズナを部屋に招き入れる。


「ちょうど俺も暇してたところでさ」

「いつもはお昼寝するんだけど……今日はなんか眠くなくって」


 俺はイスに座ろうかと思ったが、正直ベッドよりも椅子の方が座り心地が良い。俺はベッドに腰かけ、ナズナに椅子を勧めた。


「普段は、昼寝以外に何をしてたんだ?」

「うん?」

「いや、ほら。この1日か2日の間、暇なときは何して過ごしてた?」


 予想する答えは、『なにもしてなかった』だ。そう予想して、大体それが正解だとわかっていても俺は彼女に問いかけなければいけない。


 いざとなれば戦闘に駆り出すことになる彼女が、俺への不満を抱え込んでいて、裏切ることがないように。

 不満はきちんと聞いてやり、反省し、そして改善に努める。


 俺のひとつの信念だ。

 相手の思う不満に納得できるようならば、それを謝罪し、改善に努めること。

 ……謝るだけで何も変えようとしない、俺の嫌いな人種になりたくはない。自分で自分を嫌いになりたくないからやること。

 つまり俺のためだ。


「その質問は、答えなきゃダメ?」

「答えてほしい。命令じゃなくお願いだ。こうして何もない時間を過ごしてみて、やることがないからどうしたらいいかわからない。だから君がどう過ごしてきたのか、教えてくれ」


 ふい、と。ナズナが目をそらした。そのまま天井を見上げ、何かを数えるように指を振るう。


「お昼寝でしょ? そしてベスちゃんと遊んでー あ、オオバコ君の観察もしたよ? それからそれからーー」


 その先の言葉を待っても、ナズナは迷うばかりで何も答えられなかった。

 たったそれだけのことしかしてこなかったのだろう。できなかったのだろう。


「そう、か…… なら、何かしたいことはないか?」

「んー? 日向くんが暇だから参考にしたいんだよねー?」


 ナズナは意地悪な顔で聞いてきた。

 怒っているわけではない、と思う……俺は人の心を読むことができるわけではない。ただそうではないかと思い込んでるにすぎない。


「俺が暇で、ナズナも暇なんだ。なら二人で一緒にやれることを探した方がいい、その方がきっと楽しいだろ?」

「そぉ? 私に隠れて一人でダンジョン作ってるくせに」

「いや、それは……違う。ナズナに……その なんていうか」


 どうしたんだろうか。今日のナズナは意地悪だ。

 浮気がバレて問い詰められる夫のように、しどろもどろになりながら、言葉を探す。伝えたいことがあるのに、それを表現する言葉が見つけられないもどかしさに、頭を抱えたくなる。


 ふふっ、と。彼女の笑い声が聞こえた。


「日向君、娘に言い訳するお父さんみたい」

「……まだ子供がいるような年齢じゃない」


 椅子から立ち上がったナズナが、座ったままの俺の頭を……なでり、なでり。優しく撫でてくる。

 その表情は、とても優しい。



 お父さんみたい、か。声に出さず、復唱する。

 まるでそんな現場を見たことがあるような言い方だった。

 それとも、俺に父親代わりになってほしいとでも? ……流石にそれは深読みしすぎか。


「私はね、日向君?」


 なでり、なでり。

 彼女の指が、俺の髪に絡まることなく通りすぎていく。何度も、何度も。


 一度頷き、先を促す。


「キッチンを用意して、私の部屋も用意してくれただけでね、十分なの……もう十分」

「そう、か……?」


 一度、確かに頷かれる。

 その返答に、反論したくなるのは……どうしてだろう?


「私はもう沢山与えられた。けどまだ何も返せてない」

「ナ……ッ」


 話そうとした唇を塞がれる。

 俺の言いたいことを聞かず、彼女は言葉を紡いだ。


「私を使って、駒として。日向君を守るために、戦わせて。お願いします」


 そんなことしなくていい。


 その一言を言うことが、できなかった

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