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ダンジョンコア 間宮日向 Lv.4④

日常パートリベンジ!

「あー……布団の購入忘れてた」


 それがそもそもの目的だったはずなんだが、ちょっと住居エリアの拡張に力入れすぎた。

 DPもないからベッドも先送り、なんならリビングも先送りだな。


 再びベッドの上に戻ってくる。相変わらずベッドは固い。

 さきほどと同じような構図だが、部屋が明らかに広くなっている。

 そして――


「おかえりなさい」

「ナズナか、おはよう」


 隣を見ると、淡い黄色と金髪の中間のような色のショートカットを携えた美少女がサファイアのような青の瞳をこちらに向けていた。

 そのくりくりとした小動物のような可愛い瞳で、無垢な瞳で俺を見ていた。


「もう少し寝るか?」

「んーん、起きる。それよりもこの部屋の案内をしてほしいかなっ」


 ナズナは腕に抱いたスライム・レッドをぽよぽよと弄びながら上体を起こした。一時間ほどしか寝てないというのに、その表情は眠たそうには見えない。

 彼女が自分の髪を手櫛で整え、ぽんっ。

 一度髪を叩くと白い花の髪留めが現れた。ああ、確かにこれでこそナズナだ。


 にしても、寝るときもそのヒラヒラのドレスなのか。意味をなさない掛け布団を剥いだその下のドレスは皺一つさえついていなかった。


「ウィンドウ。さて、まずはどこから案内しようか?」

「わっ 広い……。えっと、まずはキッチンかなぁ」


 マップを見せると面白いように驚いてくれる。

 それじゃあ、ナズナの意見を聞きながら改良……はDPがないからできないので、改良案をメモっておこうか。

 紙はウィルについて書いた紙の裏を使うか。




「わ、すごい……」


 ナズナはキッチンをとてとて走り回る。

 シンクの台を撫で、収納棚の食器と調理器具を触り、火を起こすための場所を眺めていた。


「ここで火を使うんだよね?」

「らしいな。ちゃんと天井に換気用の穴があるし安心だな」

「えっと、この凹んでる場所は?」

「そこは流し。水を使う場所というか、水を流す場所だな」

「ふんふん……」


 この天井の穴はどこに続いているんだろう?

 飛行系の魔物を手に入れたら一度調べよう。できるだけ、早急に。


「これでお料理たくさんできるね!」

「ああ、楽しみにしてるよ」


 ナズナは笑顔でそんなことを言ってくれる。

 こんな地下でも、楽しみが増えるのは良いことだ。できる限り多めにDPを与えられるように蓄えないとな。




 リビングから、ドアをくぐり廊下へと出る。

 なんならリビングは絨毯とか敷きたかったし、廊下もフローリングとかにしたかったが、DPがなかったため断念。

 今のままのアメリカンスタイルも、結構慣れてきたところがあるからなぁ。


「この部屋は?」

「俺の私室だな、んで隣はナズナの私室。と言っても」


 私室というとナズナは目を輝かせたが、俺は残酷な台詞を言わざるを得ないだろう。

 俺の私室の扉をあける。


「まだ何も配置してないから、ただの部屋なんだ」

「んーん、自分の部屋をくれるだけで嬉しいのっ ありがとっ」


 俺の手を両手で包んでお礼を言うナズナの体温はとても温かい。それと同時に自分の体温の低さを思い出してしまい、少し悲しくなった。

 いや、今はナズナの嬉しそうな顔だけ見ておこう。美少女が喜んだ勢いで俺の手を握ってくることなんて日本じゃなかったから。



「さて、メインディッシュだ」


 トイレの場所を教えたから、残りは脱衣場とお風呂だけとなった。

 やはり異世界の人には浴槽という存在は異質に思われるだろうか? それとも純粋に喜んでくれるだろうか。


「ここは……えっと、洗面所?」

「洗うのは顔だけじゃないさ」


 木製のドアをスライドさせると、カラカラと心地のよい音が反響する。

 やはりここは何度見ても素晴らしい。

 色合い、そして石造りのタイル模様と木製のコンボ。それだけで俺の心が踊る。

 ふんわりと香る檜の匂いに包まれ、ぼんやりとした眠気に襲われる。


「わぁ……っ」

「先に謝っとく。これ作ったらDPが枯渇したから、私室とリビングは当分あのままだ」

「うん、これなら仕方ないよ。日向くんが欲しかったんでしょ?」


 なんて理解のあるいい子なんだ。本来であれば俺が入りたかったが、一番乗りはナズナに譲ることにしよう。

 ……そうだ、ナズナがいない間に捕虜にご飯を配ってこよう、汚いところに行くのは風呂の前がいい。


「風呂の使い方はわかるか? ここにシャンプーとかあるけど」

「う、うん? これが?」

「シャンプー、髪を洗うやつ」


 同じようにボディソープとコンディショナーの説明もする。

 ついでにお湯の入れ方も説明する。ウィンドウ呼び出してワンタッチ、すると浴槽の8分目くらいまでお湯が生成される。湯加減を確かめるために手を入れてみるが――

 はー……湯加減ぴったりすぎる……。熱すぎず、ぬるすぎない。


「それじゃあ何かあったら呼んでくれ、ごゆっくり」

「日向くん……っ」


 立ち去ろうとしたらナズナに呼び止められる。

 まだ何かわからないことがあっただろうか? 一通り説明したはずだが。


「一緒に、お風呂入らないの……?」

「……………………………………………………女の子が簡単に肌を晒しちゃダメだろ、遠慮しとくよ」


 めっちゃ迷った。けど俺の理性はなんとか保ってくれた。

 そりゃ、羞恥とは違う意味であんなに震えて、怯えられてるのに、受けられる訳ないだろ……ッ


 いやそもそも。

 俺不能だから混浴しても虚しくなるだけだろ……ッ!?


「……日向くん」

「どうした? 一緒に入るのは断っただろ」

「うんう、違うの。ばんざーいってしてくれる?」

「ん……? まあ、それくらいなら」


 ナズナが頬を赤らめたまま、笑顔でそんなことを言ってきた。服を脱がせるつもりかと思ったが、上を脱がされたら急いで逃げればいいか。

 要望通りに両腕を空へと掲げる。ナズナは俺の腰辺りに手を伸ばし――


「最初に私に隠すなとか言ったのに今さら何言ってるのーーーーッッ!」


 ――くすぐってきた。

 たまらずに逃げ出した





「死んでないか?」


 こつこつと音が反響していたから、俺が来たことには気づいているはずなのに、二人とも反応を返してくれなかった。


 俺はボロボロの布切れを身に纏っただけで、どこを見ているのかもわからない表情をしている女を見る。

 捕虜となり、ハウルの子を孕んだ女魔法使い。名前は、確かシズクだっけ?

 僅かに胸が浮き、呼気とともに沈んでいくところを見ると、生きているらしい。


 もう片方の牢屋に近づく。

 することがないからだろうか、ただ地面を見て、寝てるのか起きてるのかもわからないような状態だった。俺が鉄格子を軽く叩くと、ようやく気づいたかのように顔をこちらに向けた。

 女剣士の……シャーリィだったか、シャーレイだったか。とりあえずシャーなんとかちゃんだ。


「ご飯にしようと思ってるが、腹減ってるか?」

「……」


 彼女は小さく頷くだけだった。前に来たときよりもそうとう衰弱が激しいな……DP補充用の電池として、無くなるまで搾り取るつもりだったが、このまま死なれるのは困る。


「少し手伝ってくれないか? もちろん報酬は出す」

「……てつだい?」


 後ろの牢屋から殺気が溢れ出す。

 自分に何をされてももはや反応はないのに、仲間がたぶらかされそうになると即座に殺意をむけてくるとか……お腹の子が楽しみだ。


「簡単だよ、シズクにご飯を食べさせるのがめんどうだから、代わりにやってくれないかってだけだ。報酬は体を拭くためのお湯とタオルでどうだ?」

「っ なん、で……」


 なんで、と来たか。

 このまま死なれたら困るから、と素直に伝えていいものか、どうか。


「ダニィ、だっけ? あいつを解放するの、また少し時間かかりそうだから、そのお詫びって感じだな」

「……まだ、出してくれないんですか」

「まだって言ってもハウルを下げてから一日も経ってないぞ。それにアイツが反抗的な態度を取ってるからだ」


 洞窟の中でも、太陽の光が感じられないと、どうしても時間は長く感じてしまう。やることがなければなおさら。

 しかも他の人の泣き声なんかがあれば、精神的な負荷はそれだけで膨大なものになるだろう。


「ついでに、もう一個頼みたいことがある。シズクが逃げないように、見張ってほしい。悪巧みを止めるとかそういうこともしてほしい」

「それ、は……」

「もししてくれるっていうなら同じ牢屋に移してもいい、世話するのが楽になるよな?」


 思ったんだ。

 毎回ご飯を持ってきて、牢屋の中に入って無理やりご飯を口にねじ込むのは、めんどくさい。何度か指を噛まれそうになったし。

 それなら世話役を同じ牢屋に入れておけばいいじゃないか。

 壁から伸びる鎖の長さは変更できる。

 シズクは鎖を短く、シャーなんとかは鎖を長くしておけばいい。


 同じ牢屋に入れておけばすることがなくて衰弱、というのは少しは抑えられるはずだ。……牢屋から出さない限り衰弱はするんだろうけどな。


「やり、ます……」

「そっか、ありがとな。それじゃあ牢屋を移ろうか」


 鍵を開けてやる。

 しかしまず牢屋の中に入ったのは俺ではなく、ハウルだ。

 シャーなんとかが悲鳴をあげそうになったが、ハウルは鉄格子の近くから動く気配はない。

 そのまますぐに俺が入って、手首の鎖を外してやると、少しは落ち着いてくれたみたいだ。


「ああ、それと――」


 鎖を外しきり、立ち上がらせるために彼女の手をとった。

 そのときに耳元に近づき、囁く。


「――いつでも見てるぞ。約束を破れば、二人ともゴブリンの巣に送るからな」

「っっ ……貴方も、約束は守ってくださいね」


 おっと、脅されたのに、怯むことなく反撃してくるとは、少し意外だ。こいつが仲間だったら――――とか考えたが、すぐにその思考を掻き消す。

 こいつは捕虜、人だと思うな。道端に落ちてる石ころだと思うんだ。


「ああ、いい子にしてたらな」


 嘘を吐くことにも、慣れた。

 地球でも散々に嘘ばっかり話してきたが、ここまで心が痛む嘘を吐き続けたことはなかった。

 こうしてこいつらの環境をよくしてやってるのも、衰弱が酷いなんて言い訳して、罪滅ぼしでもしてるつもりなんだろうか?



 シャーなんとかをシズクと同じ牢屋に入れる。少し牢屋を弄って小さな牢屋2部屋を繋げる。

 シャーなんとかも両手首に腕輪をはめ、壁から生えた鎖で拘束するが……その鎖の長さはシズクと比べると十倍ほど長くなっている。

 持っていていたパン10個(20DP)をシャーなんとかに渡す。それが二人分だと伝える。


「あと、これが報酬のお湯とタオルだ」



 前に俺がぶっ倒れた時にナズナが召喚した桶と、タオルを牢屋の中に入れてやる。それからお湯(10DP)を入れる。

 何もない空中からお湯を取り出せるって便利だなぁ、金かかるけど。


「使い終わったら桶とタオルはその辺に置いといてくれ。後から回収するから、壊すなよ?」

「わかり、ました」


 シャーなんとかは約束が守られるとは思ってなかったのか、少しあっけに取られた顔でこちらを見ていた。

 俺はハウルを連れて牢屋を後にするが……このむわりとした性臭はなんとかならんもんかねぇ?


 ダンジョン内だから換気しようにもできそうもねえしなぁ。

 困った時は機械音声さんに頼んでみよう。あ、ついでにいつでも見てるとか言っちゃったし牢屋をウィンドウ越しに監視しておこう。


「ダンジョン内の換気を行いたい、どうにかしてくれ」

『換気設備……ですか』


 そういう要望が来るとは思ってなかったらしく、少しだけ考える時間が長い気がする。ここはゲームじゃないから、匂いなんかも気になってしまう。だが神様連中はゲームのように考えて、用意してなかったんだろう。

 あ、捕虜がお湯で体を拭き始めた。……やっぱり裸見ても何も感じないんだよなぁ。それがただただ、虚しい。


『20ptでダンジョン全体の換気設備を設置しますよ、変態』

「……それを、部屋ごとにオンオフ切り替えれるようにしたら、いくらになる?」

『そうですね……100ptです』

「流石に高いぞ……90ptとかに下げれないか」

『無理です。100pt、通話代も入れて120ptです』


 ダンジョン全体の換気は安い。しかし部屋ごとにオンオフを切り替えようとすると高い。

 しかし、圧倒的に後者の方が有利だ。なぜならファンガスの胞子まで換気されれば、麻痺させて捕獲ができなくなってしまう。

 くっそ、DPよりもptに余裕があるからってそっちで要求してくるあたりも狡猾だ。10ptだろうと値引きは受け付けないとかどれだけけちなんだ。


『どうしますか?』

「……わかった、120pt支払う。設置してくれ」

『わかりました』


 即座にウィンドウを開いて、牢屋と住居エリア以外の換気機能をオフにする。




 吐きそうだ。スキルを使わなかったとはいえ、意図的に良心を押し殺し、奴隷を扱うのは、慣れない。いや、まだ慣れないと言うのが正しいのか。


 はぁ、とりあえず帰ったら風呂に入ろう。

 ナズナももう上がっただろう。きっと。

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